サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年07月20日

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

ワールドカップ中断明けのアウェー湘南戦は1-1のドローで終わりました。試合展開としては、どちらもイニシアチブを握れていない中で先制点を与えてしまって嫌な展開ではありましたが、終盤まで運動量が衰えずに湘南のカウンターをしのぎながら追い付いたドローですので、勝ち点1とはいえ非常に価値のある試合だったかと思います。

鳥栖のセットアップは、4-3-2-1ではありましたが、今回の試合ではセットアップポジションは試合を語る上で大きな要素ではなく、前からプレッシャーをかけたい状況では小野や義希が前線までポジションを上げ4-3-3のような形になって3センターバックにプレッシャーをかけたり、また、押し込まれたときにはインサイドハーフの福田や原川が最終ラインにポジションを落として5-3-2の形になって湘南のウイングバックを迎撃したり、システムのミスマッチがあったので難しい局面もありましたが、選手たちがボールや味方の状況に合わせて柔軟な対応を取っていました。さしずめ、義希は前線のリベロみたいな活用で前からプレッシャーをかける事もあれば、最終ラインに下がってインサイドハーフのカバーリングを行う対応もあり、なるほどこのような活用方法もあるのかという起用でした。

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

試合は序盤から、つぶし合いの様相でありまして、両チームともにバランスよく前からのプレッシャーとリトリートしてからの守備ブロックを使い分けていました。特に前半は互いにプレッシャーが強かったのでロングボールを蹴るシーンが多くなりますが、双方ともにセカンドボールへの意識が強くて一進一退の攻防となりました。また、ゴール前に迫られた時には、鳥栖はインサイドハーフを下げる事により、湘南はウイングバックを下げる事によって双方ともに最終ラインを5枚で固めるという形で非常に堅固な守備となっていたので、いかにして相手のブロックがそろう前に攻撃をするか、また、いかにして相手のブロックを前に引き出すことができるのかというのがポイントでした。

その中で、今回の鳥栖の攻撃のコンセプトが3つ見られたので、そちらを紹介します。

1.ウイングバックの裏を狙ったビルドアップ
鳥栖のサイドにボールが入った際には必ずウイングバックが上がってプレッシャーをかけます。その動きを利用して、空いたスペースに池田、小野、義希が飛び込んでいくというプレーを見せていました。サイドバックを張らせておいて囮につかい、センターバックから直接裏に送り込むという形もできていましたし、これはチームとして意思統一された動きだと思われます。

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2.縦に付けるパスの受け手との縦の関係を築く
今回、鳥栖のパス回しが小気味よかったのは、ボール保持をしている中で、直接裏へのスルーパスやミドルシュートを狙うのではなく、相手を背負ってボールを受けるプレイヤーへ一旦ボールを預け、そこから縦関係のパス交換を通じて相手のディフェンス陣を動かした後に、ボールを受けたプレイヤーがシュートなりラストパスなりをチャレンジするという攻撃構築ができていました。原川や福田のミドルシュートが多かったのはそういった攻撃構築による影響もありました。

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

3.ペナルティエリアより手前からでも早めのクロスを上げる。
鳥栖の前半戦の問題点としては、サイドで基点を作ってもなかなかゴール前に人がいない、クロスが入らないということでシュートに繋がらないケースが多かった事です。今回は、ウイングバックの裏に基点を作ったら、縦の関係でパスを受けてから早めのクロスというシーンを多く選択していました。クロスが上がることが分かっているから、フォワードもセントラルハーフ(原川、福田、高橋秀)もゴール前に飛び込むことが出来ていました。福田が左サイドから上がって来たボールをファーサイドで折り返しましたが、ボールが上がってくることが分かるからこその飛び出しでもあり、コンセプトの共有を感じる事ができました。次節からトーレスや豊田が入ってくるでしょうから、クロスによる攻撃は、更に迫力のあるものになりそうですね。

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

この3つのポイントを踏まえて、惜しかったシーンを2つほど紹介します。

シーン1
2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

シーン2
2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

このように反復性・再現性のある攻撃構築が出来ており、湘南に先に得点を取られたものの非常によいリズムで戦っていたので、チャンスを迎えた時には必ず仕留めてほしいところではありました。原川のスルーパスに逆サイドの福田が飛び出してゴールキーパーと1対1を迎えたシーンや、田川が縦に突破してゴール前中央に折り返したシーン(飛び込んでくる選手がいなかった)は確実に決めなければならないシーンでした。逆に言うと、そういうシーンで決めてくれるのがストライカーの仕事であり、そこはトーレス、豊田に期待したい所ではあります。

ただ、このように明らかに見えたチャンスもあれば、表に出ないけど大チャンスを迎える可能性のあったシーンもありまして。例えば前半21分のシーンなのですが、吉田が前を向いてボールを抑える事が出来たタイミングで、湘南のディフェンスラインの裏に広大なスペースがあり、フォワードも伺っていたのですが、吉田の気づきが遅れてそのエリアにパスを送り込むことができず、原川へのつなぎのパスを選択し、湘南からプレッシャーを受けてチャンスを逸してしまいました。湘南のディフェンスラインがそろっていないタイミング、更に、チームとしてこのウイングバックの裏のエリアを狙うという共通意識があっただけに、ここは思い切って吉田には裏に出してほしかったところです。

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

失点シーンですが、実は鳥栖が行っていた攻撃と同じような形でして、ゴール前に人数をそろえてサイドに展開してからの早めのクロスと言う形でやられてしまいました。クロスを上げるシーンで、オーバーラップしてきた坂に対して原川がマークに付くのですが、更にその大外から齋藤が追い越していく動きを見せました。これによって原川がボール保持者である坂を離して齋藤についていくという動きを見せ、坂に対してはカバーリングに来た義希がマークにつこうとしていたのですが、その受け渡しが不完全で坂にフリーの状態でクロスを上げさせてしまいました。当然、クロスを上げた坂も決めた高橋も素晴らしいプレイだったのですが、ほんの少しの隙が失点を生んでしまうという反省はありますよね。

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

2018 第16節 : 湘南ベルマーレ VS サガン鳥栖

守備面では、今節は吉田のポジショニングが少し変わってきたのかなと思いました。不要にスペースを空けて前に出る回数が少なくなり、また、カウンターを受ける場面でも我慢してリトリートして中央を埋めるいう動きを取って未然に中央へのラストパスを防いでサイドに展開させるという動きもみせてくれました。もしかしたら中断期間中のトレーニングやミーティングの成果なのかもしれません。

一つだけ気になるのは、押し込まれたときにペナルティアーク付近のスペースをあけてしまいがちなところです。クリアボールを拾われてダイレクトシュートを打たれたシーンが何回かありました。シュート精度の高いプレイヤーでありましたらしっかりと枠に入れてくるエリアでありますので、押し込まれてクロスを上げられた際に、ペナルティアーク付近を不用意に空けるのは避けてほしいところではあります。(松田浩さんはペナルティーアーク付近をDの位置という名称を付け、守るべき重要なエリアと定義しておりました。)

試合はドローでしたが、中断期間中の練習の成果はある程度現れていたと思います。後は、これを結果として勝点3に繋げるだけです。豊田、トーレスが入ってどのような戦いに変わるのか。全国的な注目度も高いでしょうから、是非とも良い結果を出してほしいですね。

<画像引用元:DAZN>


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Posted by オオタニ at 13:27 │Match Impression (2018)