サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2019年05月24日

2019 ルヴァン第6節 : サガン鳥栖 VS FC東京

2019シーズン ルヴァンカップ予選リーグ第6節、FC東京戦の雑感です。

■ 雑感
FC東京としては引き分けで予選リーグ突破となる試合。リスクをかけず、まずはしっかりとした守備を果たしつつ、機を見て攻撃に出てくるような態勢で試合に臨んできました。

前半、FC東京のビルドアップ場面では、鳥栖も体力がある状態でプレッシングに人数をかけたので、FC東京が最終ラインと前線との間でつなぐ役割のメンバーにボールを渡せず、最終的にはボールを蹴らせるような展開を強いていました。FC東京は前線でロングボールを競る要員がユインスだったので、鳥栖にとっては脅威とは言い難く、ハイボールの処理に関しては祐治が全勝だったのではないでしょうか。プレッシングをかける ⇒ 詰まらせて蹴らせる ⇒ ユインスに競り勝って回収 という展開に持ち込めたことにより、鳥栖がイニシアチブを持つことができ、FC東京に攻撃そのものの機会をほとんど与えませんでした。

そういう展開だったので、FC東京としては、体力的なセーブという意識もあったのか、前半30分頃から、鳥栖にボールを持たせる展開へとシフトしてきます。鳥栖は前半からロングボールを用いた攻撃を仕掛けていましたが、FC東京がミドルサード付近からブロックを組む守備へとシフトしてきたので、鳥栖もビルドアップからの攻撃にシフトしました。ビルドアップに関しては後述に。

鳥栖にとってはある程度想定したプラン通りの展開だったでしょうが、好事魔多しとでも言いましょうか、思いがけない形で失点してしまい、試合の展開としては、2点を取らなければリーグを突破できないという、厳しい状況に追い込まれてしまいました。

後半に入ると矢島がトップの位置に投入されます。長谷川監督の修正力ですよね。ボールを蹴らされてユインスのところで競り負けて回収されるという、悪循環に対して矢島ひとりを入れることで、ロングボールの競り合いに対して、フィフティフィフティ(かそれ以上)の状況まで持ってきました。

FC東京にとっては、貴重な得点が入ったことによって、ゲームプランとしてさらに明確になったわけでありまして、ブロックを組んで守備しながら、折を見てカウンター攻撃をしかけるという、チーム全体としてわかりやすい構図を作ることができます。両サイドを高い位置をとる鳥栖に対して、ボールを奪うと素早くサイドのスペースにボールを送り込み、あわや2点目というシーンを何回か作ることができました。それにしてもナ サンホのスピードは早かったですね。

攻撃のギアをシフトアップしなければならない鳥栖は、後半8分に樋口、アンヨンウに代えて原川、クエンカを投入し、さらにその6分後に金崎を入れて圧力を与えようとします。ところが、前半に飛ばしすぎた影響からか、ほとんどのロングボールで競り勝っていたトーレスは良いポジションを取れずに徐々に競り勝てなくなり、前半裏への飛び出しで多くのチャンスを作ってくれた本田は少しずつ裏へ抜けるスプリントの回数が減ってきました。チーム全体のボールの循環も動きもなくなってきたので、ビルドアップからの攻撃も手詰まりとなり、個人技のある選手に頑張ってもらう状況となり、段々と運頼みの攻撃へと変化してきました。

終盤には、義希を最終ラインに落として3-4-3のような形で攻撃をしかけ、さらに最終盤には祐治をトップの位置に上げてパワープレイをしかけますが、得点をあげることができず。残念ながら今シーズンのルヴァンカップは予選リーグで敗退という結果に終わってしまいました。

■ ビルドアップについて
前半30分頃からは、鳥栖がボールを保持してビルドアップを仕掛ける時間帯が生まれますが、FC東京のブロック、そしてボールの出先に応じたプレッシングに非常に苦労していました。

2019 ルヴァン第6節 : サガン鳥栖 VS FC東京

前半の序盤は、FC東京の4枚のセントラルハーフが並んでブロックを組む形であったので、ツートップ間でボールを受ける樋口に対してプレッシングがかからず、樋口が長短のパスを駆使して前線に簡単にボールを配球していました。そういった状態で、前半15分までに何本かシュートを打てるチャンスを作ったのですが、FC東京の対応策として、ツートップ間に立つ樋口に対して、明確にシルバ(もしくは岡崎)がつかまえに行くようにしました。(図1)

これで、結構、鳥栖としてはビルドアップに苦労するようになりました。高丘を逃げ道として作っているので、ボールロストすることはありませんでしたが、ボランチが中央でボールを受け、前を向いてボールを配球するというところでどうしてもパスコースを見つけられませんでした。FC東京のボランチが、中央に立つ樋口に対して前に出てくることはわかっているので、そのスペースは確実に存在するわけなので、なんとか効率的に使いたかったのですけどね。なかなかその動きも取れませんでした。

動きがなかったのかというと、そういうことはなく、トーレスは盛んに引く動きで縦パスを引き出そうとしていましたし、チョドンゴンは盛んに裏に抜ける動きで相手のDFを引き連れて中盤にスペースを作ろうとする動きを見せていました。ところが、トーレスが引いてくるパスコースに対して、義希の立ち位置が相手のMFを引き連れてくるようなポジショニングをとったり、チョドンゴンが空けたスペースに対してトーレスもヨンウも入ってくる動きがなかったり、単発でみんな頑張るのですが、FC東京の守備の間隙を縫うようなパスを引き出せるような形になかなか繋がりませんでした。

ミョンヒさん(樋口と義希のアイデアかもしれませんが)も立ち位置の工夫はしていまして、ツートップ間の中央に樋口ではなく義希を置いたり、ツートップの脇のスペースを当初は右サイドの脇にポジションをとっていたのを左サイドの脇に変更したり、ボランチを少しフォワードに近い位置に立たせて深さを作ったりなど、いろいろと試したりしていましたが、FC東京のゾーンに入ってきた際のマーキング守備が洗練されていて、ビルドアップの再現性を確立するまでにはいきませんでした。

そのような状態でも、辛抱強く回していくことによって、ビルドアップの抜け道を作れたシーンが2つほどありました。この形を作れたのは今後のヒントになるのではないかなと思います。

パターンの1つ目としてはセンターバックが持ち上がる仕組み。ボランチを逆サイドのツートップ脇のスペースにおいて、相手の目をそちらにむけ、空いているスペースの方をセンターバックが持ち上がる形です。

2019 ルヴァン第6節 : サガン鳥栖 VS FC東京

パターンの2つ目としては、ツートップ脇のスペースに立つボランチを経由してサイドへ配球する形です。

2019 ルヴァン第6節 : サガン鳥栖 VS FC東京

いずれも、トップやサイドハーフの動きと連動したことによって、前のスペースに対するアクションが取れています。そして、1つ目のパターンは本田が裏のスペースに抜けることによってガロヴィッチからのパスを引き出し、2つめのパターンは本田が引く動きによって相手のディフェンスを引き連れて安在をフリーにしています。本田の前を向いてパスをだすことのできる動きも良かったのですが、ビルドアップの抜け道を引き出すための動きの方が私としては印象的でした。

最後に。ビルドアップの際の義希の立ち位置でちょっと気になることがあって、樋口がツートップ間に入ったときに、義希がツートップの脇のスペースを立ち位置として構え、色々とポジションチェンジを試していたのですが、2センターバックや樋口からの逃げ道として、ボールを受け取ることのできるポジションへの意識が強かったのか、それが故に引いて受けるトーレスやライン間に入ってくる本田、ヨンウのパスコースを消してしまうケースもありました。

義希の役割がボールのつなぎなのか、それともダイレクトで前線に当てるためのスペースづくりなのか、そのあたりの役割の与え方ですよね。高丘やセンターバックから直接縦につけるパスを送ることも選択肢のひとつとして考えると、義希の立ち位置にも変化があり、閉塞していたビルドアップも工夫ができたのではないかなと思いました。今回のビルドアップのほとんどが、ボランチを経由したパスになっていましたからね。

リスクはあるかもしれませんが、ダイレクトに縦に飛ばすパスを送るのもFC東京の守備の基準をずらすひとつの要素となりえたかもしれません。ひとつそのパスを送るだけでFC東京側が警戒してきますからね。そうすると、ボランチが自由にボールを受けとることができる回数も増えてくるようになるのかなと。ボールは持てるようになってきたので、パスコースの作り方、どこを経由して前線にボールを持っていきたいのか、そのあたりのチームとしての意識の共通化がこれからの課題ですね。ブロックの固い守備を攻略するのは難しいですが、そういったことも考えられるようになったのは、チームとしてひとつの前進なのかなとは思います。そういう意味では、高丘にそういった形を要求できるようになったこと自体がチームとして非常に大きいですね。

※ わかりやすいように上記の立ち位置の話を義希と書いていますが、意味的には義希個人の話ではなく、「ドイスボランチのうち、ツートップ間に入らない方のボランチの役割」と読み替えてください。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事


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Posted by オオタニ at 17:54 │Match Impression (2019)