サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2019年09月20日

2019 天皇杯ベスト16 サガン鳥栖 VS セレッソ大阪

2019シーズン 天皇杯ベスト16 セレッソ大阪戦の所感です。

記憶を頼りに所感をつらつらと。

前半に風上に立ったサガン鳥栖が、その風の勢いをそのままに攻勢にでました。面白かったのは、ビルドアップの局面で、いつもは相手のツートップの脇のエリアに立ってセンターバックからのビルドアップの出口として立ち回る原川が、相手のセンターバックとサイドバックの間という高い位置に立っていたことでしょうか。左サイドハーフのポジションだったので、時折、長いボールを競るようなシーンもあり、配置の違いで役割が異なるというのがよくわかるシーンでした。競り合いにはそんなに勝ってはいませんでしたが(笑)
長いボールも豊田一辺倒ではなく、意外とハイボールに強い小野、そして上記のように原川と満遍なくボールを散らしていたこともセレッソとしては絞りにくかったかもしれません。豊田も中央に張って待ち受けるというよりは、サイドに張って片山とのマッチアップを選択するなど、長いボールの有効活用策をいろいろと張り巡らせていました。

今回は、ジョンスがボランチだったのですが、最近の鳥栖にはいないタイプのスタイルで勝利に貢献していました。一番の肝は、常に守備を意識したポジショニングを取って「安定・確実」なプレイを選択していたこと。彼から中央を切り裂くようなスルーパスはでませんが、ビルドアップするセンターバックが出しどころに困っていたときは、ディフェンスの間にポジションを移し、しっかりと顔を出してボールを引き出す動きをみせていました。この動きをしっかりと取ることで、フリーで受けさせたくないセレッソの守備を引き出せるので、そこで彼にボールが出てこなかったとしても、セレッソの守備をずらしてからの次の展開につなげることができます。無理をして前にチャレンジするのではなく、まずは安定的にボールを保持するために「水を運ぶ」役割を着実にこなしていました。長いボールを配球するのは秀人。攻撃を加速させる役割は原川、松岡。1対1を作って勝負を仕掛けるのはヨンウ。ジョンスは彼らが少しでも優位な状況でボールをさばけるような舞台づくりをこなし、まさにこれが役割分担ですよね。

守備面での貢献も非常に大きくて、中央の与えてはいけないスペースをしっかりと掌握しており、プレッシングにでるところとリトリートしてスペースを守る所の判断がよかったかなと思います。ソウザからのラストプレイ(ミドルシュート、ラストパス)の機会を与えなかったのも、ジョンスと松岡の二人が中央をしっかりと閉めていたところが大きいかったです。大型ボランチであるので、中盤に蹴りこまれたボールや、跳ね返したセカンドボールの空中戦になった時に競り勝てる可能性が高かったのも大きかったですね。この辺りは、松岡、福田、義希が中央にいるのとは異なる存在感を見せていました。

前半だったでしょうか。鳥栖がセンターサークル付近でボールを奪われ、相手がドリブルで突進してきた時に、無理につっかけてプレッシングに行かず、最終ラインとの距離を保ち、パスコースを制限しながら相手の攻撃を急がせない対応を取ったプレイは非常に秀逸でした。無理にボールを奪いに行くと、そこからパスが出て、しかも中央のスペースを空けるという最悪の展開が待ち構えているのですが、しっかりとスペースを消す対応を取れました。2列目と3列目の間にパスを通されても、しっかりとプレスバックしてゴール前でつなごうとするセレッソの自由を奪う対応をこなしていました。

セレッソの攻撃がなかなか機能しなかったのは、ビルドアップのために、ボランチを下げて後ろで数的優位を作っても、鳥栖がツートップでプレッシングを行うと簡単にボールを蹴ってしまうプレイになってしまっていたこと。全体を下げてつなごうというシフトの中でボールを蹴っても前線に人はおらず、セレッソの得意となる攻撃ではないことも相まって、機能性が損なわれていました。特に、蹴った先のターゲットがブルーノメンデスならばまだしも、鈴木となるケースが多く、鳥栖のセンターバック相手に簡単に競り負けてボールロストしていました。ボランチが藤田ではなく、ソウザであったことも、セカンドボールへの意識という点(長いボールに対するポジショニングの取り直しを素早くできるかという点)で、鳥栖の方がセカンドボール争いで優位となった要因のひとつであるでしょう。

セレッソは右サイドの守備も苦労していました。片山と水沼のポジショニングの問題なのかもしれませんが、ハーフスペースに入ってくる原川の対処に苦労していました。原川のボールキープからの、小野と三丸という2つの選択肢を消すことができず、サイドからのクロスや前進をなかなか止められないでいました。片山と三丸がマッチアップして、五分五分の戦いだったことも(時折かわされてクロスを上げられていたのも)両センターバックは苦しかったでしょう。しかし、守備がうまくいってなかったセレッソの右サイドですが、その右サイドバックの片山のロングスローが、セレッソの2得点に大きく影響を与えたというのも面白いですよね。あの直線的でスピードもあり、かつ飛距離も出るロングスローはかなり脅威でした。

プレッシングというのは、ただボールを奪うだけで終わりではなく、奪った後にどうやって早い攻撃につなげるのか、そのあたりのイメージの共有が必要ですよね。この試合では、前線がチェイスして、セレッソが無理にボランチや前線につないだ時に、セントラルハーフのところで奪うことができるシーンが作れると、小野と豊田はポジトラでの動き出しが早いので、セレッソの守備が固まる前の攻撃につなげることができていました。

鳥栖の2点目が典型的な例で、豊田と小野がプレッシングをしてヨンウに奪う機会を与えたことによって、ヨンウがボールを持つと同時に、小野と豊田がディフェンスラインの裏に走りこむ動きを見せたことによって、セレッソディフェンスを押し下げることができました。左サイドからは原川も走りこんでいましたね。この動きによって、少し下がったセレッソのディフェンスラインとヨンウとの間にスペースと時間ができ、冷静にゴールに流し込むことができました。豊田や小野が奪ってすぐにディフェンスと1対1を迎えるよりは、彼らが生かされる状況下でボールを奪う仕組みを作る方が、シュートチャンスは生まれますよね。

交代で入った金崎と福田も良い仕事をしてくれました。福田はヨンウのように攻撃時の1対1という局面で競り勝てる選手ではありませんが、前へのプレッシングで見せる鋭い出足と、そこでインパクトを与えてから素早く撤退するリトリートへの切り替え。まさに、ボクシングムーブメントを実現してくれる選手で、守備面から引き締めてくれた動きは見事でした。攻撃時にも労を惜しまずに縦に入る動きを見せ、3点目につながる逆サイドからファーサイドにはいってからのヘディングでの折り返しは見事でした。G大阪戦で枠を捉えられなかった金崎もしっかりと決めてくれましたね。枠の上のぎりぎりだったのはご愛敬でしたが、ゴールに近いところからだったので打ち上げ花火にならずに決めてくれてホッとしました(笑)

気になるのは、クエンカの存在でしょうか。クエンカのようにためて時間を作って、ボールキープできるプレイヤーは紛れもなく必要な存在ですし、大きな力となってくれる稀有な存在です。しかしながら、戦局の中で常に輝いていられるかというと必ずしもそうではない。戦術、味方との関係、相手との関係によっては、彼のスタイルが輝かない事もありえますし、守備面でのウィークポイントとなってしまう事もあり得ます。クエンカがいると彼中心のゲームメイクになり、この試合は彼がいないところでシンプルな形で得点がとれたことをどう評価するかですね。

豊田という武器をどう利用するかという事にも繋がりますよね。例えば、足元でつないでワンツーで抜け出してという攻撃を主体とするのであれば、金森、金崎、クエンカが絡む攻撃は非常に脅威です。ただ、豊田を最大限利用するならば、ゴール前に密集して足元勝負で挑むよりは、サイドからのクロスでも、裏へのスルーパスでも、例えアバウトなボールになったとしても、敵が密集する前に早めにボールを供給したほうが相手との勝負に勝てる見込みは高く、1点目はまさにニアサイドに上がったボールに豊田が反応した素晴らしいゴールでしたね。

クエンカと豊田は共存できるとは思います。ただし、彼らの強烈なストロングポイントを相殺しないような組み合わせ、戦術、そのあたりが監督の腕の見せ所なのでしょうね。

セレッソ主体で考えると、前線でも中盤でもバランスを取れて、ブルーノメンデスをうまくフォローできる奥埜、中盤でのボールのつなぎとセカンドボールを考えたポジショニングが取れる藤田、上下の動きとマッチアップでの無頼の強さを誇る松田陸、サイドから中央に入ってくる動き、そして味方を存分に生かすスルーパスを出せる清武、そのあたりの選手がいなかったところがそのまま、セレッソがうまくいかなかったポイントになったのかなと思います。

去年に引き続き、天皇杯は2年連続のベスト8進出となったサガン鳥栖。
去年もベスト8に進出していましたが、残留争いで忙しかったので忘れていた人もいるかもしれません(笑)
トーナメント戦での強さを発揮し、是非とも元日での新しい国立競技場のこけら落としのステージに立ちたいですね。


■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事



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Posted by オオタニ at 12:47 │Match Impression (2019)