サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2019年10月11日

2019 第28節 : サガン鳥栖 VS FC東京

2019シーズン第28節、FC東京戦のレビューです。

■ システム

2019 第28節 : サガン鳥栖 VS FC東京

特筆すべきは、ボランチにジョンス、右サイドハーフに福田が入ったところでしょうか。失点が収まる気配がないので、まずは試合を堅く進めていってスコアレスの状態を継続し、後半までスコアレスであれば、小野、金森、ヨンウなどの投入で勝負をかけるという意図だったかと察します。無論、小野、金森、ヨンウを投入しなくても良い展開になる方が望ましいのですが。

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■試合

前半開始から目についたのは、ネガティブトランジション時(攻から守への切り替え時)やロングボールを跳ね返した後における、鳥栖の出足の鋭さ。東京のボールキープに対して、金崎、豊田がアグレッシブにボールに対してプレッシャーをかけ、長いボールを蹴らせるように仕向けていました。FC東京は、攻撃時に、まずは前線のディエゴに当ててポイントを作ってからという形を見せますが、豊田、金崎のプレッシャーが強いので、ディエゴに送るボールに乱れを生じさせ、さらにディエゴの動きに合わせて秀人がマンマーク気味に対応し、自由に前を向かせないようにしっかりと対応していたので、序盤は攻撃の形をほとんど作らせませんでした。

更に、今回は、ボランチにジョンスが入っていたので、ゴールキーパーからのディエゴに向かって蹴られるロングボールを、ジョンスが競れたというのは大きなポイントでした。中盤でのハイボールの競り合いを互角以上に跳ね返すことができたのはジョンスが入った大きなメリットです。ディエゴに足元に納められるとキープ力抜群で厄介なので、足元に納められる前に長いボールを蹴らせて、フィフティの状態で競り合うという仕組みは良かったですね。

鳥栖もビルドアップからの攻撃を仕掛けようとしますが、東京もボール保持者に対して積極的にアプローチを仕掛けていました。鳥栖の2センターバックに対してツートップを当てて、センターバック間で顔を見せてくるジョンスに対してはボランチを1枚付けて中央のルートを封鎖。ツートップ脇のスペースに下りる原川に対してもサイドハーフを付けてゲームメイクさせないように仕向けました。4-4-2同士なので、わずかなポジションのずらし程度であればマッチアップが取りやすいという所はありますよね。そういうことで、秀人からのボールが、前線に向けた長いボールか、大外の三丸に向けた展開かという形に絞られてきます。
2019 第28節 : サガン鳥栖 VS FC東京

三丸に出されたボールからクエンカとの連係で崩したいところでしたが、クエンカに対するマークが厳しいこともあり、三丸は比較的早めにクロスボールを上げる選択をしていました。これがピンポイントで豊田に合えば得点のチャンスも生まれるのですが、今シーズンはなかなかこの浅い位置からのクロスがうまく合わず。豊田というブランドに対して相手も警戒心を強めますし、早めのクロスはしっかりと対応されてしまって、なかなかシュートチャンスは作れませんでした。

20分頃から、鳥栖の圧力も少しずつ弱まり、トランジションの応酬のような展開になったことから、少しずつ中盤にスペースができてきます。そのスペースを見つけるのはやはりディエゴは得意でありまして、前線に構えておくだけでなく、中盤に引いてパスを受けれる場所を見つけてボールをさばき、サイドに展開してからゴール前に顔を出すという形を模索しはじめました。それと同時に鳥栖の守備の強度を把握したのか、自らつぶれて永井を生かす形を作ったり、相手のプレッシングをそのままファウルとして受けるというシーンも見えました。

ビルドアップでは、橋本がやや下がって、豊田・金崎のプレッシングをまともに受ける森重と渡辺をフォローしつつ、サイドに大きく開いたオジェソクまでボールを展開する道筋を作るようになりました。ポジション取りがうまかったのは、鳥栖のSB、CB、SH、IHで作れる四角形の中に高萩、東、三田などが侵入して、鳥栖のサイドハーフが出ていきづらい状況を作ったこと。これによって、プレッシング強度が低くなった豊田と金崎の脇のスペースを東京の最終ラインが持ち上がった時に、鳥栖が4-4ブロックのまま「動けない」状況を作り出しました。これで、東京にとってはパスコースが複数見えるようになり、鳥栖は、パスの出元をつぶす守備からパスの出先にボールが入ってからプレッシングで囲むという、前半序盤の「自分たちが動いてスペースを支配する守備」から「相手が入れるボールの場所によってスペースを圧縮する守備」へと変化していきます。

そういう形になって活躍の場が増えるのはやはり福田でありまして、センターバックからボールが入ってくるぎりぎりの状況を見極め、ボールの動きに合わせてあっという間に相手との間を詰める守備を慣行していました。局面としては、見えるパスコースが2つある状況を守り切るには福田しかいなかったでしょう。逆に左サイドでは、クエンカはどちらかというとパスコースを遮りながら前に出ていく傾向にありまして、それを利用されて間を抜かれると三丸が出ていかざるを得ない状況を生み出されるのですが、東京は思いのほか、ビルドアップでクエンカの裏を使ってこなかったなという印象を受けました。

少しずつスペースはできてくるものの、最後の局面では全体を下げて人海戦術でゴール前に鍵をかける両チーム。前半はビッグチャンスを作ることもなく、スコアレスで終了。鳥栖は前半、試合を殺しに来た形でしたね。福田とジョンスが入ったのはそういう意図だったのでしょう。攻撃の場面であっても、祐治、秀人、ジョンスが3人後ろに残ってディエゴと永井を監視しており、金井もビルドアップには参画するものの中盤を追い越す動きがなかったので、前にかけるパワーを削った代わりに無失点という勲章を得たという感じでしょうか。

うまく行った前半だったのですが、与えたくなかった先制点を後半開始直後に奪われてしまいます。いつも言う言葉なのですが、やっぱり困ったときのセットプレイ。三田が蹴ったコーナーキックがインスイングでそのままゴールに。ストーンで立っていた豊田とマンマークで入ってきた祐治、秀人も交錯したでしょうか。高丘の対処も問題はあったでしょうが、あの位置にあのスピードで蹴ることのできた三田が素晴らしかったです。

ビハインドとなった鳥栖は、攻撃のスイッチをいれたいのですが、なかなか一気呵成にという状況をつくれません。ビルドアップから崩したいという意図は伝わってきて、金井を寄せて中央に原川(もしくはジョンス)を置いて3-1ビルドアップでベースを作りたいのですが、高萩が上手にポジションを上げてパスコースを制し、サイドに促すと三田と東が迫ってくるという守備組織に操られ、パス交換だけでボールを前進することがなかなかできません。前半と同様に、サイドから早い段階でクロスを入れるか、ファールをもらって起点を作るかという形で膠着してしまいます。

ボールを保持していても活路が見いだせない場合は、どうしても無理筋のボールが増えてくるわけでありまして、そうなってくると自ずとビルドアップでのパスミスも増えてくることになり、東京のカウンターの餌食となってしまいます。いくつか危ない場面はありましたが、東京も最後のところまでは決めきれず。ここ最近勝てていない理由はここにあるのだろうなというのを少しずつ匂わせては来ていました。

鳥栖は後半12分、右サイドにテコ入れをします。守備の場面では弁慶のように立ちふさがりますが、攻撃の場面になるとオジェソクに睨まれてしまって太刀打ちができなかった福田に代えてヨンウを投入。交代して直後、クエンカのキープから右サイドに展開後、金井が裏に抜ける動きで相手をひとり引き連れてヨンウに1対1の場面を提供し、ヨンウはわずかなスペースを活用してカットインからのシュートを1発。これで、いつものサガン鳥栖の「クエンカでキープしてヨンウが仕掛ける」の構図が整いました。

FC東京はこれを見てさらに守備への意識が強くなります。カウンターのシーンでは、3人~4人での攻めを徹底し、トランジション合戦にならないように後方には常に守備の人数不足が発生しないように待機させます。特にサイドバックは、ボール保持したタイミングでないと前に出てきてはいませんでした。鳥栖が早めに前線に送り込もうとするオープンな展開へのお付き合いはしないぞという意思ですよね。

鳥栖は、クエンカ、ヨンウが大外のポジションでボールを持てるため、彼らに対してアクションをかけるサイドバックが動くスペースを鳥栖はサイドバックが狙いだします。左右は非対称になっていて、三丸はクエンカよりもさらに大外の位置にポジションを取り、金井はハーフスペースの位置にポジションを取ります。サイドバックを意識した侵入を試みることによって、クエンカ、ヨンウの選択肢はもちろん、クエンカ、ヨンウをおとりとして、ビルドアップ出口のひとつ(ビルドアップのパスコースの選択肢のひとつ)を作り上げることにも寄与していました。

ヨンウが入ってからの攻撃は右サイドが中心。右サイドは原川が攻撃のタクトを握っており、ヨンウ、金井の2つのパスコースのうち、より状態の良い方へしっかりと配球していました。63分には外に幅を取るヨンウのひとつインサイドのハーフスペースに入った金井へ原川が絶妙なパス、金井のパスを受けた金崎のシュートは大きく枠をはずしましたが、ゴールエリア付近でシュートを打てるチャンスが徐々にできてきました。

ここで鳥栖は原川に代わって小野を投入。小野は原川とサイドを変えて、左サイドからのビルドアップを試みました。小野は東京のツートップの脇のスペースを主戦場とし、センターバックからのボールを引き出して、そこからはブロックの外側にポジションを取るクエンカ、三丸を活用したパスを繰り出します。小野を投入して直後、三丸からのクロスが連続で上がりましたが、決定的なチャンスとまでは至らず。

鳥栖はボランチにジョンスを入れていたため、ゲームメイクという観点では決してストロングではなく、小野の投入と同時に右サイドからの攻撃はやや停滞。ゲームメイカーの小野が左サイドに陣取るこの時間帯は、左サイド一辺倒の攻撃となっていました。久しぶりにヨンウが突破を試みる機会ができたのは76分でしたが、これも小野が中央までドリブルでボールを運んでから右サイドに展開して生まれたチャンス。鳥栖は完全に小野のゲームコントロールの下での戦いとなり、彼が1対1を誰にしかけさせるかという判断での攻撃となっていました。

左サイド一辺倒の攻撃でも得点が取れなかった鳥栖は、ゲームメイクに苦慮していた右サイドにテコ入れするべく、ジョンスに代えて金森を投入。

金森の配置が気になるところでしたが、祐治をトップの位置に上げてパワープレイをしかける準備として、そのセカンドボールを拾うフォロー役としてセカンドトップの位置にいれました。

パワープレイの効果がでたのは早速84分。ゴールキーパーからのキックを競った豊田のボールを祐治が拾ってゴール前へ。そこから右サイドに展開してからのヨンウのクロスを祐治がドンピシャヘッドでしたが林の正面。小野のゲームメイクプランから一転したパワープレイによる攻撃で早速チャンスを作ります。

同点ゴールはその直後。小野からの長いボールの配球を豊田が競って右サイドのヨンウへ。ヨンウが1対1を制してクロスを供給し、金崎が落としたこぼれ球を豊田が左足でねじ込みました。東京にとっては、パワープレイに対する準備が不足していた面は否めないかと。祐治が上がって鳥栖が5人を前線に並べ、小野が最終ラインに落ちてる状態で、長いボールを蹴るしかないシチュエーションであるのですが、東京の両サイドハーフが高い位置にポジションを取っており、小野がボールを蹴ってもリトリートが遅れたため、ヨンウがオジェソクと1対1となる状況を作ってしまいました。鳥栖にとっては願ってもない状況を作り出すことができ、しっかりとゴールを決めてくれました。

同点になってからはややオープンな展開での攻撃となりました。逆転ゴールのきっかけは、同じ過ちは繰り返さないとばかりに三田のコーナーキックのボールをしっかりとキャッチした高丘からの素早い展開。後半開始早々にやられてしまったリベンジを見せるかのごとく、しっかりとキャッチしてスプリントを始める金崎へ送り込みます。金崎は左サイドをあがるクエンカにパスを送り、クエンカがファウルを受けてフリーキックを獲得。このフリーキックからの攻撃が決勝点となりました。小野のフリーキックの前に、ポジショニングの話なのか、キックで狙う位置の確認なのかは分かりませんが、ベンチと綿密な話が行われていました。選手たちのみならず、ベンチもともに魂を込めた決勝ゴールでした。

■おわりに
鳥栖としては、ホームでの戦いにしては珍しく硬直状態を辞さずという選手配置でした。首位を走る東京相手に慎重になったのか、ここのところ失点してから追う展開という苦しい戦いが続いているので、まずは無失点を狙っての起用だったのでしょう。
その構想がちょっと崩れて先制点を奪われたものの、そこから追加点を与えなかったのが最後の逆転まで結びつきました。何回かチャンスのあったディエゴのシュートが決まっていたら、この試合は終わっていたでしょうが、なんとか耐えきりました。

鳥栖は現在確固たるレギュラーが11人そろっているという状態ではありません。攻撃の特徴のある選手、守備に特徴のある選手、それぞれのシチュエーションで輝ける選手をベンチの采配で工夫しながら勝ち点を拾いに行くサッカーをしています。
逆に言うと、ストロングポイントを持っている選手は多数いるので、ベンチの采配次第では、11人が固定化されているチームよりも、いろいろな戦い方を見ることができてある意味面白いサッカーをしているのかもしれません。
豊田、祐治、金崎の3トップでのパワープレイで同点ゴールを取りきれたのは一つのオプションとして今後も活用されるでしょう。このシチュエーションは負けている状況であることが想定され、あまり見たいシーンではありませんが(笑)

今節終わって、名古屋、仙台、湘南と1試合で逆転できる勝ち点差まで持ってくることができました。得失点差で不利のある鳥栖は、勝ち点によって上回る必要がありますので、1試合で逆転できるところに持ってこれたのは非常に大きいですね。次節は最下位のジュビロとの対戦。これから残留に向けた山場の試合があるでしょうが、おそらく最初の山場はこの試合じゃないでしょうか。次節は名古屋と仙台が戦って勝ち点を奪い合うので、鳥栖は勝てば無条件で降格圏内を脱出できます。山場の試合を勝って久しぶりの残留圏内にジャンプアップしたいですね。

■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事



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Posted by オオタニ at 18:24 │Match Impression (2019)