サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2019年02月26日

2019 第1節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

2019シーズン開幕戦。名古屋グランパス戦のレビューです。

アビスパとのトレーニングマッチにおいて、今期のメインセットアップだと思われた4-3-3システムにおけるプレッシングがうまくはまらなかった我らがサガン鳥栖。この開幕戦のセットアップは3-5-2システムを採用してきました。トレマに出場していたクエンカ、三丸、福田の名前がスタメンはおろかベンチにもなく、イバルボや小野も欠くという開幕からベストメンバーを組めない状態下での選択だったかもしれません。名古屋もネットの怪我などもありましたが、新戦力のシミッチ、米本を中盤の底においた4-4-2システムで臨みます。

◼️鳥栖の守備
この試合の入り方として鳥栖が選択したのはスペースを圧縮し、ミドルサードを守備の基準としたブロック守備。ウイングバックを最終ラインに下げ、3センターの脇を使われるのを阻止するべく金崎が中盤のスペースを埋めて5-4-1のブロックを組み、攻撃はカウンターが中心となるものでした。

名古屋にプレッシングをしかけて高い位置でボールを奪いに行く選択をした場合、数的同数を前線で作らなければならないため、最終ラインでジョーに対する守備が手薄(数的同数)になります。名古屋の攻撃として、ジョーに対して直接ボールを送りこむプレイもいとわない(そのようなパスが出せる選手がいる)ため、前から出ていく事を得策とせず、ブロックを組んでゴール前やサイドの局面で数的不利を作らないという選択をしました。名古屋のビルドアップ技術が非常に高いレベルにあるため、プレッシングに行ってもはがされてしまうというリスクを考慮したのかもしれません。

また、鳥栖は、トーレスに対する守備タスクも最小限に抑えていました。彼のタスクは、センターバックから縦パスが直接フォワードに入るコースを防ぐことと機を見たプレスバックによるボール奪取のみ。攻撃に対する体力を残すことが最優先になった模様です。

◼️名古屋の攻撃
これによって、最終ラインで苦労せずにボールを握ることができた名古屋は、シミッチを中心としてミドルサードまでは難なくボールを運ぶこととなります。そこからゴール前に向けてボールを前進させる攻撃のパターンとしては大きく3つ。

① 中盤にひいてくるフォワードに対するポストプレイ
② ハーフスペースに入り込むサイドハーフに対する縦パス
③ 裏抜けするサイドバック(サイドハーフ)に対する浮き球のパス

狙いはこの3点で、シミッチがこれらの展開を担うことになります。

2019 第1節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

鳥栖として誤算だったのは、シミッチという強烈な司令塔が存在していた事。
シミッチは視野が広く、ボールを保持しながら自らパスコースを作ることが可能で、ドリブルで鳥栖の選手を引き寄せて数的不利を解消しながら、縦にパスを送り込んでいました。分かり易いのは8:25のシーンで、中央の低い位置でボールを受けたシミッチは、左サイドにボールを運びながらセントラルハーフ2人を引き付けて、角度をつけた上でサイドハーフへパスを送り込みます。23:36も、左サイドでボールを受けて保持しつつ、中央のスペースに引いてくるフォワードへ早い楔のパス。無論、1失点目、2失点目、3失点目の起点となるパスは言わずもがな。彼が斜めにボールを運んで角度をつけ、ボールを前線に送り込むプレイを見た時は、世界にはホント素晴らしいプレイヤーがいるのだなと感心させられました。

鳥栖としては、5-4ブロックで横のスライドに苦労しない陣形であったため、前半の体力があるうちは、縦パスがはいってもすぐに密集することができ、シミッチから縦のボールが入っては来るものの、そこに対する迎撃態勢は整っていました。ただし、①、②、③のパスの成否に関わらず、このパスを何度も企画されること自体で鳥栖が守備アクションを取らざるを得ず、じわりじわりと体力を奪われることになります。

◼️鳥栖の攻撃
さて、鳥栖の攻撃ですが、守備に人数を割いたブロック守備であったために、ボールを奪う位置が低く、カウンター攻撃の手数としては、

① トーレスに預けてキープからの展開
② サイドのスペースに流れる金崎の単騎突破

の2点にほぼ集約しており、トーレス、金崎の個人の質に頼る偶発的なチャンスでしかシュートまで結びつけることはできませんでした。ただ、偶発的とは言えども、能力の高い2人ですので、金崎の単騎突破やトーレスにボールを預けてからのシュートは非常に心強く、原のロングスローや原川の一発のパスからのトーレスのシュート、ガロヴィッチのオーバーラップを活用した金崎の左サイド突破からのクロスは可能性を感じました。

ボールを保持しているときの鳥栖は、ウイングバック(原、ブルシッチ)が横幅を作り、3センターがライン間にポジションを取り、3バックがボールを保持しつつビルドアップの出口を探る展開でした。この3バックに対して名古屋は、横幅を作るウイングバックにはサイドバックを当てて、3バックに対してサイドハーフを高く上げることによって、およそ4-2-4の形でプレッシャーをかける守備を行います。

2019 第1節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

鳥栖にとってはこの名古屋の配置に非常に手を焼いておりまして、3センターに対する出口を封鎖されたことによってじわりじわりと追い込まれてビルドアップの出口を見失います。3バックがプレッシングをはがせるドリブルもなく、3センターがパスコースを作ることもできずという状況。セントラルハーフが中央で縦に受けるパスを受けても前を向くことができず、最終ラインにさがってボールを受けてもパスコースが一つ減ってしまって出口を見つける事ができずというジリ貧状態。個人の質で打開できないならば、選手の配置を変えてポジショニングで優位をつくれたら良いのですが、なかなかその形を作れずに、最終的に逆サイドを中心とした長いボールに頼らざるを得ない攻撃となってしまいました。

◼️鳥栖のチャンスメイク
そのような中でも、鳥栖が配置を替えたことによってチャンスを作り出した展開もありまして、それがトーレスのシュートがポストを叩いたシーンです。原川が名古屋の4-2プレッシングのサイドのスペースにポジションを移して前を向くことに成功します。また、原がよいランニングで吉田を引き連れて後ろに引き下げ、原川がボールを運ぶスペースを作ることに成功します。(※)
原川が前を向いてボールを握ったことによって、トーレスのセンターバックとの駆け引きが始まり、これまで幾度も世界の大舞台で見ることのできた、スピードに乗った裏ぬけからの強烈なシュートというシーンを見ることができました。サイドバック(ウイングバック)を押し上げて、セントラルハーフがセンターバック脇に下がり、サイドのスペースからビルドアップを試みるという、皮肉にもマッシモの遺産によるビルドアップ手法が成果を上げた形でした。

※ 実は、この原のランニングが良くて、吉田を押し下げる事によって原川が前に運ぶスペースと原川に最適な選択をさせる時間を作りました。前半に原川と原のポジションが逆のパターンがあったのですが、原川が止まって足元でボールを欲しがったことによって、名古屋の守備陣形が整い、数的優位をチャラにしてしまうシーンがありました。原川がシミッチのように足元で受けてボールロストせずに自らパスコースを作れる選手を目指すのか、相手を動かして味方のスペースを作るという動きを身に着けるのか。彼がどのようなプレイヤーになりたいのか、成長のターニングポイントではないでしょうか。

2019 第1節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

ただし、鳥栖は、この4-2ブロックのアウトサイドエリアをビルドアップの出口とするという成功体験をなかなか再現することのできないまま、再びロングボールによる攻撃が中心となります。特にシャビエルの単騎プレッシングの裏はけっこうおいしいスペースではあったのですが、時折金崎や秀人がそのスペースに入り込んでも、ガロヴィッチやブルシッチの選択がセーフティなつなぎしかないために、ボールの前進そのものが停滞していました。特にブルシッチに至っては、サイドの高い位置で単騎突破のチャンスがありながらもなかなかチャレンジに挑まず、攻撃に関してはまだ疑問符が付く状態です。ビルドアップ不全に陥った状態での頼みのロングボールの攻撃は、不運にも後半は風下にたったことによって、思うようにロングキックによる飛距離を稼ぐことができず、セカンドボールが発生する地点が鳥栖の陣地内という事で、じわりじわりと名古屋の押し込みを受けることになります。

◼️ターニングポイント
鳥栖にとってのターニングポイントは、金崎の体力が奪われていって運動量が減った時間帯でした。攻撃では相手のサイドのスペースに入り込んでの単騎突破。守備では5-4ブロックを担うピースとして中盤のスペースをケア。彼の貢献は非常に大きいものでしたが、体力の低下からか、はたまたスコアレスを打開するべく攻撃に少しシフトして高い位置をキープする指示がでたのか、徐々に守備に戻らない時間帯が増えてきていました。金崎が担っていたエリアを秀人、義希がケアしなければならず、(気持ちの問題ですが)彼らが0.2列前に出る事によって、徐々にセントラルハーフも最終ラインのスペースケアというタスクを務める事ができなくなってきました。

◼️名古屋の選手交替
そうするうちに、名古屋が選手交代によって、攻撃のベクトルに変化をつけてきます。高い位置を取るアウトサイドの選手に対して鳥栖のウイングバックが横幅のケアに出てきたセンターバックとの間のスペースを、交代した杉森、相馬、和泉に狙わせる攻撃へとシフトしてきました。ここで、前半になかった

④ センターバックとウイングバックの間の(裏の)スペースに対する飛び込み

という名古屋に新たな攻撃ベクトルが発生します。このスペースを作るために、サイドバック、サイドハーフ、セカンドトップの誰かがウイングをピン止めするポジションをとり、残りのメンバーでスペースを狙うという形も出来てきました。前述の通り、前半の鳥栖は、このスペースをセントラルハーフのカバーリングによって埋めることができていましたが、セントラルハーフの体力の低下、そして、選手の意思が攻撃に向いてしまったこともあり、見事にこのスペースを蹂躙されてしまうことになりました。

2019 第1節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

◼️失点シーン
ジョーの先制点に関しては、彼のトラップからのゴールも秀逸でしたが、前半は密集して消す事の出来ていたゴール前正面の位置で、横パスを展開されるくらいにプレッシングが追いつかなくなったことが要因でしょう。あのポジションでシミッチから丸山への横展開という、センターバックとボランチにバイタルエリアという高いポジションを与えてしまったのは完全に押し込まれている証ですよね。

2失点目に関しても、上図のように、前半から散々シミッチからサイドの裏のスペースへのパスを企画されていましたが、シミッチというパスの出所をつぶすことのできないまま、ついに吉田への好パスを通されてしまいました。ゴール前の祐治のポジショニングも問題提起の部分でありまして、マイナスにポジションを取っていた相馬にひきつけられて、ゴール前のスペースを埋める選択を放棄してしまいました。そのスペースに対して見事にジョーが飛び込んできたというわけですが、果たしてこのポジショニングが適切だったのか。

3失点目は、交代選手のねらい目であるセンターバックとウイングバックの間のスペースを突いたスルーパス。これも角度をつけて縦パスを送り込む事の出来るシミッチに対するプレッシャーの甘さと、前半はこのスペースを埋めることのできていたセントラルハーフ(絞る事のできていたウイングバック)のポジショニングが起因します。

4失点目は、攻撃にでていた右サイドの遅れも要因の一つで、ゴールを決めた和泉よりも原、島屋の方がカウンター開始時点のポジションは後ろでした。あのスペースを消さなければならないという意識があったかはともかく、体力の低下によって戻れなかったという所はあると思います。また、ジョーと和泉のダイアゴナルランに対して、最終ラインが完全に翻弄されてしまい、右サイドを空けてしまったことによって原と島屋が戻れなかったスペースを上手に和泉に使われてしまいました。

◼️鳥栖の選手交替
2失点目以降の戦い方に関しては、メンタルの問題というよりは、体力、技術、戦術の問題でしょう。特に戦術面の問題を感じたのは、交代選手の選択。金崎に代えてチョドンゴンをピッチに送り込んだのですが、彼に与えたタスクは金崎が担っていたものとほぼ変わらず、左アウトサイドの5-4ブロックにも入りましたし、左サイドにおいて単騎でボールを受けてのキープ(ドリブル突破)の役割を務めていました。これは彼の得意とするプレイではないですよね。攻撃のアクセントを加えなければならないのに、チョドンゴンの長所を生かす使い方ではなく、体力の切れた金崎の代替でしかなく、しかも金崎よりもプレイの質が劣るという発展性のない交替。サイドのスペースケアからの飛び出し、そしてドリブルでの単騎突破を担わせるのならば安在の一択だったのではないでしょうか。

また、藤田に代えて豊田を入れたのも悪手。ロングボールで発生するセカンドボールを拾う事ができずに攻撃の組み立てに苦労していた状態で、さらにロングボールの受け手を作ったところで2列目より後ろの層が薄くなるだけで解決策にはつながりませんでした。豊田にボールを当てて、トーレスとチョドンゴンが回収するという攻撃が一体どのような効果を生むのか。3点、4点と大量リードされることのゲームプランがなかったのかもしれませんが、センターバックを減らして長身のフォワードを入れるというのが最善の策だったのかというのはぜひチームとして検証して欲しい所です。結果的に、豊田のボールロストによって名古屋のカウンターを生み出し、3人で守っていた中央が藤田の交替で2人に減ってしまったことにより、4失点目のきっかけを作ってしまいました。果たして失点のリスクを負ってでも発動しなければならない交替だったのかという所ですよね。

◼️終わりに
失点するまでの戦いをチャンスメイクもできて良かったと見るべきなのか、失点後のゲームプランの稚拙さを危惧するべきなのか、それはチームの中で検証してもらうとして、少なくとも間違いなく厳しい船出となった開幕戦でした。ただ、クエンカ、イバルボ、小野、福田、三丸、小林、安在、アンヨンウなどなど才能のある選手は山ほど控えています。彼らの登場によって戦術にハマり、チームががらりと変わる要素は十分に秘めています。まだ開幕戦であるので、これから数試合かかるかもしれませんが、是非とも戦術と選手をマッチングさせて、より良いチーム作りをしていただきたいと思います。


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Posted by オオタニ at 15:13 │Match Impression (2019)