サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2019年03月08日

2019 ルヴァン第1節 : サガン鳥栖 VS ベガルタ仙台

2019シーズン YBCルヴァンカップ1節、ベガルタ仙台戦のレビューです。

スカパー入っていないので、試合映像を見れず、ハイライトを見て思い出しながらの簡易レビューです。

鳥栖のセットアップは、ボール保持時4-3-3でした。安在と島屋がサイドの高いところにポジションを取り、仙台のウイングバックを自分たちでコントロールしようという構えです。義希が中央で展開役を行い、松岡が右サイド、樋口が左サイドのやや前目でゲームメイクを行います。ボール非保持時はプレッシング4-3-3から、展開を許すと4-4-2に変え、押し込まれると撤退して5-4-1と変化していく陣形でした。

■鳥栖の守備
名古屋戦、神戸戦に比べると、この仙台戦は、ブロック一辺倒ではなく、 相手が保持している時は自由を許さないように積極的にプレッシングをしかけ、プレッシングの網を抜けられた時には、素早くリトリートしてブロックによるスペース圧縮を行うという、ボールポジションに応じてシステムも対応も変えるというコンセプトでした。

(1)プレッシング
仙台ストッパーに対して安在と島屋がでていきプレッシングをかけます。この時、外側から追い込むことによって、仙台のウイングへのパスコースを消しながらのプレッシングをしかけます。仙台ボランチに対しては、松岡と樋口がついており、このエリアでボールを奪おうとする動きが見えました。アウトサイドのケアに対しては、原とブルシッチを押し上げてウイングまでプレッシングにいく形もありましたが、後ろを空けたくないときはあえてそのプレッシャーは捨てて、ボールが回ると島屋と安在の二度追いに頼る形もありました。

全体が、島屋と安在の動きに合わせて、松岡、義希、樋口がポジションをコントロールしていて、ストッパー、ボランチ、ウイングに対するプレッシングで穴が出来ないように対応していました。そこの連動はある程度形になっていたのかなと。仙台が窒息してたまらなくなってロングボールを蹴ることも多かったですし、ハマった時には、概ね狙った守備の形はできていたように思えます。

(2)ブロッキング
ブロックで構えた時には、プレッシングの時と変わってウイングを意識した守りとなります。ベースは4-4-2で守りたかったのでしょうが、押し込まれたときには、安在、島屋がウイングのスペースを消すようにリトリートして最終ラインまで下がり、そのときはサイドバックがやや絞ってストッパーのような役割を果たします。島屋と安在はボールがある側の選手が最終ラインまでさがり、逆サイドの選手は中央にスライドしてスペース圧縮の役割。形的には6-3-1にはならないように気を付けながら、中盤の脇を使われないように、5-4-1を保とうとし、相手がラインを下げた場合には島屋と安在が出て行って、4-4-2 ⇒ 4-3-3と形を変えていく守備を見せていました。島屋と安在に対する要求が多く、彼らのポジションの取り方はすごく難しかったかなと思います。

(3)問題点
ブロック守備時にスライドが発生した際の選手と選手の距離が最大の問題でした。相手が使えるスペースを与えてしまっていたという事ですね。サイドチェンジやドリブルによるしかけを受けた場合、スペースをケアするならば、全体が距離を保って動かなければなりません。そこの連動が、誰がどこを絞る、どちらの方向へ絞る、というところの連係が崩れた時にピンチを迎えていました。どのようにしてポジションを変化させてプレッシングにいくのか、(良い悪いは別として)どこのエリアを捨て、どこに向かって圧迫をかけていくのかという、具体的に誰がどう動くかというところがまだまだ確立されていませんでしたね。

もうひとつ気になるのは、おそらくゾーンとマンツーマンの併用かとは思いますが、そのバランスです。開幕戦におけるカレーラス監督の「最終ラインでの数的優位を意識」というのが、ジョーに対するケアの意味だったのかという気がしないでもないですが、それにしては、この試合でも、人に付きすぎてスペースを空けることが多く発生しています。そして、個人の質で負けてゴールを決められるというシーンもありました。

仙台が活路を見出したのは、レーンを飛ばしたパス。ボランチには人がついているので、トップやセカンドトップに対する直接のパスや、ストッパーから逆サイドのウイングに目がけて中距離のパスを蹴らせてもらえた時は、鳥栖のプレッシングをほどくことに成功し、よいチャンスになっていました。

確か、鳥栖の最初の失点も、プレッシングを仕掛けたものの左サイドから右サイドのウイングへ、レーンを飛ばすパスでプレスの網を掻い潜られた事によって、ボールの前進を許したのではなかったかなと。3失点目も、楔を入れるパスかと思いきや、そこを飛ばして(スルーされて)裏に飛び出す阿部が受け取りました。

◼️1失点目の問題点
仙台のセカンドトップが左サイドから中央へドリブルを開始した時に、鳥栖の3センターが密集してきます。ここから、谷口とブルシッチの間を突かれて失点するのですが、問題点としては3つあります。

2019 ルヴァン第1節 : サガン鳥栖 VS ベガルタ仙台

<問題①> 安在のポジショニング
単純なのですが、鳥栖の守備ブロックが4-3ブロックになっています。中盤3枚ということは、中盤が動かされたときにはスペースが空きやすいということです。安在が攻撃に出て行ったあとだったからかもしれせんが、ポジションを高い位置にとったまま、4-3ブロックになってしまったことが、インサイドハーフの脇のエリアにいる選手をフリーにして更に縦パスのコースを作ってしまう要因となりました。安在は戻るそぶりがなかったので、彼が高い位置を取っておくことがもしかしたら監督の指示だったかもしれませんし、ミドルサードを超えると基本は撤退守備だったので、単なる安在のサボり(攻撃にでてたのでスタミナ切れ)だったのかもしれません。

全体的に、島屋に比べると、安在のポジションがやや不安定だった感は否めませんでした。島屋は積極的に前後の動きを果たしていたのですが、安在は前残りで浮遊しているシーンがあり。監督のオーダーなのか個人の判断なのかが気になるところです。

<問題②> 最終ラインのスライド
石原が左サイドから中央にドリブルで入り、ボールの位置が(鳥栖から見て)右サイドから左サイドに動いているのですが、谷口がジャーメインのマークについたまま動かずに、ブルシッチとの間に大きなスペースを空けています。仙台はこのスペースを見逃さずに縦パスでスペースに侵入してシュートまで繋げました。縦パスが入るまで、秀人と谷口がジャーメインを挟むようにしてマークしていたのですが、果たしてスペースを与えてまで2人がジャーメインにマークにつく必要があったのか。

トップの選手に対する数的優位(マーキング)を作ることが監督のオーダーかもしれないので、単純に谷口のミスとは言えないのですが、スライドできなかった事によってこのスペースを使われたのは事実です。今年の傾向として、ボールが動いても、人が動かなかったら守備が動かないんですよね。パスを出されてから動いているので、間に合わなかったらシュートまで持って行かれます。

<問題③> セントラルハーフ3人の寄せ
中央に3人が寄っていますが、3人行ってしまった割にはボールを刈り取ることも出来ずに、展開のパスを許しています。このあたりのグループ守備ですよね。3人寄せたならば、ボールを刈り取るか、後ろを向かせるかしないと、普通に展開を許してしまったら人数をかけた意味がなくなってしまいます。

意識的には、中央をしぼって外に追い出すことでヨシだったのかもしれませんが、外に追い出しても安在がいないので、インサイドハーフの脇を仙台に上手く使われました。もしかしたら、樋口は、外に追い出したらそこにいるはずの安在がいなくて、思てたんと違う状態だったかもしれません。

そして、パスを出したあとに石原が裏に抜けていくのですが、この3人のうち、誰一人としてついていくことができていません。3失点目の問題でも現れるのですが、バイタルエリアで捕まえていた選手が裏に抜ける時にどうするかというのが固まっていないのかなと思います。

◼️3失点目の問題点
この頃には、選手交代もあって、前半のようなコンセプトの元による守備ができていなかった時間帯です。トーレス、金崎が投入され、攻めたい気持ちが先走って、チームとしての動きの統一性に欠けていました。そう考えると、前半の選手たちの方が、同じ方向を向いて攻守できていたような気がします。カレーラス監督の問題点は、選手交代によってチームを改善させることができていない所ですね。戦術が浸透していないというところは多分にあるでしょうが、今は、個の強い選手たちが入ることによって、その個を生かそうとしてチームが停滞しまっているような状態です。

3失点目ですが、失点のメカニズムとしては同じです。スペースケアのミス、立ち位置のミス、連携のミス。

2019 ルヴァン第1節 : サガン鳥栖 VS ベガルタ仙台

縦パスのシーンですが、原がウイングをマークするために外に開いています。ゾーンで守るのであれば、谷口がそれに連鎖して横にスライドしなければなりません。それと同時に、秀人、ブルシッチ、安在も中央へスライドが必要。マンマークならばスライドは不要ですが。

個人的には、原がウイングを気にしすぎてワイドに開きすぎたことがミスだと思っています。相手にひきづられて中央を空けてしまった事(門を空けてしまった事)によって、縦パスを通されました。このあたりは、小林がポジション取りが上手で、ワイドの選手に対する取捨選択をコントロールし、門を開けないようにポジショニングする選手です。原と小林との経験の差なのか、戦術的ポジショニングの差なのか。

縦パスが入るときのマーカーの縦位置も、サイドへの展開を気にしすぎていて中央のパスコースを空けてしまっています。原がマーキングにあがっているので、むしろサイドに追いやった方がよかったのですが。

中盤も、マンマークのようにアンカーの選手が阿部についていますが、阿部が飛び出していくとマークを放します。1失点目とまったく同じですよね。どこまでがマンマークで、どこからが受け渡しなのか、4-1-4-1でアンカーがマンマークに付くことはあるのですが、そういう戦術だった場合は最後までマークにつくべきでしょう。このシーンではあっさりと放してしまっています。

問題の本質は、人に対しての意識が強すぎて守るべきスペースを空けてしまうこと。そのあたりは、昨年はオマリを筆頭に、小林、三丸とポジションを上手にコントロールできる選手たちでしたので、スペースの管理が徹底されていました。今年は最終ラインが様変わりしてしまって、そのあたりのバランスを保てる選手がいないのでしょう。

ただし、すべてはゾーン守備での前提です。カレーラス監督がマンマーク志向であれば、原の動きは監督の指示を忠実に守ったという事になりますし、監督のインタビューで口から出てくる「それぞれが責任を果たす」という意味合いの言葉も分かるような気がします。個人がついた選手をうまく抑えきれていないということですよね。そうなってくると選手の質に頼る割合が大きくなりますが、はたしてサガン鳥栖の最終ラインにそのようなメンバーがそろっているのか。

■鳥栖の攻撃
前半は、攻撃面では非常に面白い連携を見せていました。4-3-3ビルドアップだったので、もしかしたらキャンプで練習した形なのかもしれません。

最終ラインからのビルドアップも、ガロヴィッチ、祐治と違って、秀人、谷口はボールを持ててある程度前進してからパスを出すことが出来ていたので、原が前を向いてパスを受け取ることができていました。また、谷口は左サイドに追いやられても左足で強いボールを前線に送り込むことができるので、窮屈な状態からのパスミスがガロヴィッチ、祐治よりは減っていました。そのあたりは、最終ラインが変わったことによる効果が少し見えていましたね。

さて、鳥栖の崩しですが、右サイドの方が面白かったので、そちらを紹介します。立ち位置としては、島屋が相手のウイングバックの位置にたって、仙台のディフェンスを押し込めます。その状態から、島屋が動き出してから、鳥栖の崩しが始まります。島屋、松岡は、相手の守備を動かそうとする動きで守備側に対して選択を迫る動きを見せます。その動きに呼応する仙台ディフェンス、そしてその動きを把握してスペースを狙うチョドンゴン、松岡の動きも見どころありました。

① 原のボール保持時
動き出した島屋に対してウイングバックがついてきたならば、セカンドトップにいる松岡がそのスペースに入っていき、原が縦パスを送ります。島屋にマークがつかなかったら、ハーフスペースで島屋が受け取り、次の展開を狙います。また、飛び出していく松岡に対して仙台のボランチがついて行ったならば、中央のスペースを狙ってチョドンゴンが楔のパスを受け取ります。楔を受けたチョドンゴンがダイレクトで島屋や松岡に落とす(レイオフ)プレイも面白かったですね。

2019 ルヴァン第1節 : サガン鳥栖 VS ベガルタ仙台

② 松岡のボール保持時
動き出した島屋に対してウイングバックがついてきたならば、サイドバックの原がそのスペースに入っていき、松岡がパスを送り込みます。島屋にマークがつかなかったら、ハーフスペースで島屋が受け取り、次の展開を狙います。

2019 ルヴァン第1節 : サガン鳥栖 VS ベガルタ仙台

前半の右サイドは、ポジションチェンジを繰り返して結構いい形を作れていたのですが、惜しむらくはフリーでスペースに入ってくる選手に、なかなかボールが出てこなかった事。特に、松岡は、島屋の動きに合わせて良い状態でスペースに入り込んでいたのですが、秀人、義希、原からなかなかパスが出てきませんでした。ボールの預け先のファーストチョイスが島屋というルールがあったのかどうかは分かりませんが、ここで縦に付ける事ができていたら、もっともっとチャンスメイクができていたでしょう。

■おわりに
前半は良いサッカーをしていたと思います。プレッシングの所、ブロックの所、攻撃では前線のコンビネーションを表現しようとしていました。島屋のラストパスが捕まってしまうシーンが多かったのですが、ラストパスを企画しようとするところまで攻撃はしかけられていました。

ところが、これまでも失点、選手交代と、試合が進むにつれてポジションがバラバラになっていってしまう傾向にありましたが、仙台戦でも結局はそうなってしまいました。トーレス、金崎が入って個の強さが増しても、彼らに至るまでのプロセスが改善されないために、結局は個人頼みの攻撃になってしまいました。

何はともかく先制点ですよね。ラッキーパンチでも何でもいいので、ひとつゴールが入って先制点を取ったときにどのようなサッカーを見せる事ができるのか。ここまで3試合はすべて先に失点してしまったので、FC東京戦はなんとか先制点が欲しいですね。


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Posted by オオタニ at 13:27 │Match Impression (2019)