2019年04月03日
2019 第5節 : 横浜F・マリノス VS サガン鳥栖
2019シーズン第5節、横浜F・マリノス戦のレビューです。
サガン鳥栖のスタメンは、今節出場停止の祐治に替わってブルシッチがセンターバックに入り、出場停止明けの秀人がボランチに入りました。前節怪我で途中交代したトーレスは今節欠場。豊田が久しぶりのスタメンに入ります。セットアップは3ラインをフラットに並べた4-4-2です。
好調の横浜FMもスタメンを変更し、怪我から復帰の松原が右サイドバックに入り、広瀬が左サイドバックに回ります。ゴールキーパーはJ1リーグ戦初出場の朴が入りました。セットアップは4-1-2-3です。
■ 鳥栖のゲームプラン
記憶にも新しい、2018シーズンホーム最終戦のマリノスとの戦い。あの試合は、セントラルハーフも前線にあげてプレッシングに参加させるという積極的な守備で横浜FMのビルドアップを窒息させ、横浜FMが狙うボール保持を徹底的に阻止する守備組織作りに成功。先制点を許したものの、試合のイニシアチブを握りながら試合を進めていった結果、トーレスの逆転ゴールという劇的な勝利をつかみ、残留を大きく引き寄せた試合となりました。
横浜FMは昨シーズンと戦術的な方向性は変わらないということで、鳥栖が前年の試合と比較してどのような戦術で試合に臨むのか…というのはカレーラス監督のサッカーを把握する良いポイントだと捉え、以下の点に着目してみました。サガン鳥栖サポーターはハードワークをモチーフとした前線からの全力守備が好きですから、特に①に関しては大いに気になるところではありました(笑)
① チームとしてどの位置でプレッシングをかけるのか(セントラルハーフはどの時点で高い位置へ出ていくのか)
② 鳥栖は最終ラインにどの程度の人数をかけるのか。(相手に合わせて人数をそろえるのか、ゾーンでスペースをコントロールするのか)
③ 攻撃のプランニングはどのような形を取るのか。カウンターやロングボールで早い攻撃を仕掛けるのか、ボールを保持してショートパスで崩すのか
ゲームプランとしては、
「横浜FMの組織構造の変化(ビルドアップ時のシステムの変化)によって生まれるスペースを攻撃時に活用するべく、ミドルサードで守備の網にかけてボールを奪うと同時にサイドのスペースに飛び出してカウンターをしかける」
というものでした。
ポゼション率だけを見ると横浜FMがイニシアチブを握っているように見えますが、鳥栖にとってはボールを渡すことと引き換えに自分たちの狙いたいスペースを作るということもあり、ある程度は想定していた展開ではありました。大袈裟に言えば、昨年のワールドカップでドイツ代表を破ったメキシコ代表のような戦い方ですね。
相手がミドルサードからディフェンシブサードに入ってくる際に、後ろを重くして構えるのではなく、中盤と最終ラインをコンパクトにしてスライドしながらボール付近のスペースを圧縮する守備を選択しました。これには、ポジトラ時に両サイドハーフの原川と義希がサイドのスペースに飛び込んでいく事を想定し、可能な限り前線に出ていくための距離を短いものにしようとする意図が見えました。
後半からは少し前からプレッシングを始めるような変化も感じられました。昨年の試合のように、センターバックからボールを受け取る選手(主に中央に絞ったサイドバック)に対してセントラルハーフが前にでていってプレッシャーをかけ、セカンドトップに入ってくるボールをインサイドハーフでかっさらうという形も見えだしました。前半に拮抗状態を作った上で、後半にしかけるというプランは最初からあったのかもしれません。
原川から松岡への選手交代は、体力の低下という所もあるでしょうが、サイドハーフのタスクを前線からのプレッシングとボール奪取に変化してきたこともあったのでしょう。ただし、この形を取ってしまうと、中央にスライドするサイドバックに対してサイドハーフが着くため、横浜FMのウイングへのパスコースが空くことになり、終盤はそのあたりで少し苦労しました。終盤、遠藤、マルコスがしかけるシーンが増えてきたのは、このあたりの影響もあるでしょう。
前半のスライド守備、そして後半の更に前への圧力をかけていく守備という、体力を使ったツケは必ずやってくるものでありまして、コンパクトを維持していた中盤も徐々に出足が遅れ始め、最後は横浜FMに押し込まれる展開となりましたが、大久保の好セーブなどもありなんとか無失点を保つことができました。
■ カレーラス監督の選択
カレーラスサガンは、開幕から試合に応じて戦術を変えており、そのすべてが異なるゲームプランでの戦い方となっています。
金崎をリトリートさせて5-4-1ブロックで最終ラインの数的優位を作って守備重視で構えた名古屋戦。
4-4-1-1で、イニエスタをドイスボランチで見させ、プレッシングのトリガーという大事なタスクをトップ下の松岡に与えた神戸戦。
4-4-2によるミラーゲームで膠着試合に持ち込み、終盤のクエンカの途中投入によって攻撃のスイッチを入れてしかけようとしたFC東京戦。
4-4-2から、ビルドアップで福田を最終ラインのフォローとして活用して左サイドからの崩しを重視した攻撃と、相手ボランチの位置でボールを奪う守備の仕組みづくりを確立した磐田戦。
そして、ボール保持を許しながらも相手のシステム逆手に利用するべく、攻撃も守備もスペースコントロールを重視した横浜FM戦。
結果は伴わずとも、相手チームを分析し、自チームの選手の状態を把握し、配置と動き方で優位に立つべく戦術を組み立て、何としても勝ち点を取ろうとする戦いは見ていてなかなか面白いです。もう一度言いますが、結果は伴わずとも(笑)
サッカーは相手あってのことですから、相手に応じた戦い方を選択するのは大事です。ただし、戦術を相手の戦い方に合わせるだけだと相手の出方に左右されてしまう(相手が準備してきた事と異なるサッカーをするとその試合のプランニングが崩れてしまう)ので、それだけは気を付けなければなりません。そのためにも、早く、ベストメンバーがそろって、サガン鳥栖としての新しいサッカーを確立してほしいですね。退場してからが本番!みたいなサッカーは是非とも勘弁してほしいですが(笑)
イバルボ、小野、クエンカ、トーレスなどなど、主たる選手たちが戻ってきたら、本来自分たちがやりたかった4-3-3システムでの試合に切り替えるのかもしれません。そこは、カレーラスさんがどういうプランを描いているかというところでしょうが、まだそのあたりは見えてきませんね。ポジショナルプレーをやりたいという記事も見ましたが、5レーンを意識したポジショニングはいまのところまだまだ発展途上のようです。むしろ、マッシモさんの時代のほうがその配置は見えてたような(笑)
とにかく、自分たちのやりたいサッカーを確立するためには、例えリアクションサッカーになったとしても、早めにある程度の勝ち点を獲得したい所ですよね。残留という最低限の結果は確保しなければなりませんから。
■ 鳥栖の守備

鳥栖は、横浜のビルドアップに対して慎重なポジショニングを見せながらも、しかしながらアグレッシブに相手を追い込もうとする守備組織でこの試合に臨みました。
センターバック2名に対しては、豊田と金崎がプレッシャーをかけますが、相手陣地までどこまでも追いかけて奪おうとするプレッシングではなく、ミドルサード付近で構えていておいて、アンカーの喜田へのパスコースを抑えながら、相手センターバックが持ち出したときにサイドに誘導する形の動きを見せていました。マリノスの配給の肝は喜田ということで、彼へのパスコースを遮断し、スペースを圧縮しながらアウトサイドに追いやろうとするプレッシングです。
マリノスがむやみやたらにロングボールを蹴らないということが分かっているので、低い位置だったらセンターバックに自由を与えても問題ないという意図もあったかと。喜田の位置を気にするため、必然的に金崎、豊田が中央に位置することになり、その脇のスペースを使われやすい状況下にありましたが、豊田も金崎も横パスに対して連携し、しっかりとスライドしてプレッシングを仕掛けていました。
中盤は4人をフラットに並べてコンパクトな陣形を取ります。セントラルハーフが見張るのは、中央に絞ってくるサイドバック2人と、セカンドトップの2人。縦横無尽に動くマリノスのセントラルに対して、なるべくサイドに開いていく人に引っ張られず、スペースを意識して4人が連係して網にかける動きを見せていました。マリノスがポジションチェンジを繰り返す中で、人の動きとボールの動きの双方を見ながら対応しなければならなかったため、非常に難しい対応を迫られましたが、しっかりと対応できていました。
横浜FMのビルドアップ隊が金崎、豊田の網を掻い潜ってドリブルで上がってきたとしても、セントラルハーフが焦って突っかかる事はせず、そこに突っかかることによって、喜田や天野、三好、更には仲川やマルコスにパスが渡るスペースを空けてしまうくらいならば、むしろ放っておくという選択が見えました。網に入ってくるまでの我慢の時間ですね。
マリノスのサイドバックも中央に絞るだけではなく、時折横幅を取ってウイングとの縦関係を築いて鳥栖の守備に揺さぶりをかけていたのですが、鳥栖としてもどこまでサイドに寄せていくかというのを全体で調整しながらポジションをコントロールしていました。この寄せ方を間違えると、セカンドトップにいい形でボールが入ってしまうので、ポジショニングにはホント神経を使ったと思います。
マリノスとしては、ラストパスを送り込む局面としては、仲川やマルコスがサイドの局面で相手と1VS1を迎えるシーンを作り、デュエルで打ち勝って中央へしかける形を作りたかったでしょうが、鳥栖はマリノスウイングについては必ずサイドバックが見張り番としてついており、三丸、原が、仲川、マルコスを抑え込むという、与えれたタスクをしっかりとこなしてくれました。
■ マリノスのチャンスメイク

2018年の伝説(←勝手に伝説にしている(笑))のマリノス戦では、ビルドアップでは中央にポジションを取っていた松原が、ゴール前ではウイングの仲川のアウトサイドをオーバーラップすることによって、鳥栖の守備の軸をずらしました。その動きで空いたスペースにセカンドトップの大津が飛び込み、クロスを折り返し、失点を喫しました。
この試合でも、松原、広瀬、三好、天野のポジションチェンジによって鳥栖の守備陣に数多くの問題を提起していました。サイドバックの松原、広瀬は中央への絞り込み一辺倒ではなく、サイドハーフを動かすためにアウトサイドにポジションを取る動きをとりましたし、天野、三好も引いてボールを引き出す動きで鳥栖の中盤を動かそうとしていました。
図は、三好の動きによってマーキングをずらされてしまい、ちょうどセンターバック、サイドハーフ、サイドバックの間のスペースを狙われてしまったシーンなのですが、ここは大久保の好セーブとディフェンス陣の戻りによって何とか失点を防ぐことができました。サイドバックとサイドハーフが出て行ったときに、このスペースを誰が埋めるのかというのは今後の課題でしょう。セオリーで行くとセンターバックがスライドするべきであるのでしょうが、カレーラスさんは強いセンターフォワードに対しては数的優位で抑え込む(開幕戦のジョーへの対処のように)というフィロソフィーがあるかもしれないので、もしかしたらボランチのタスクだったのかもしれませんし、そもそもサイドハーフが出て行ってはいけなかったシーンなのかもしれません。チームオーダーをしっかりと共有しなければならないですね。
■ 鳥栖の攻撃

パスネットワーク図を見ても分かるように、磐田戦に比べるとパスの成功本数そのものがかなり少ないです。ターゲットとなる豊田や空いたスペースを見つけたらそのスペースめがけて素早いボールの送り出しによる攻撃を仕掛けていたので、パスそのものの成功確率もショートパスを繰り返すよりは下がっています。
横浜FMが、前線3枚+セカンドトップ1枚を利用した高い位置からのプレッシングを仕掛けてくる点、鳥栖がボランチを1枚下げたとしても、もうひとりのセカンドトップがプレッシングに行けるのでマーキングされやすい点より、不用意にボールを失うよりは、豊田というストロングポイント目がけてボールを蹴り込むというスタイルを取りました。実際、最終ライン間のパスもゴールキーパーを利用したパスも、磐田戦に比べると格段と低い数値となっており、ビルドアップによる攻撃は指向していなかったことが分かります。
鳥栖の守備として、前線から追いまわすのではなく、ある程度マリノスがビルドアップの形を作るまでプレッシングを待ち合わせたのは、ポジションを中央に絞ってくる両サイドバックの裏のスペースを活用したいため、相手がその形を作るための時間を確保したからでありました。
ボールを奪ってからのターゲットは、基本的には中央にポジションを取る豊田と金崎。彼らにボールを預ける事によって、まずはセンターバック2人のポジションを中央に引き寄せます。その隙に、両サイドハーフがサイドのスペースめがけてランニングを始めます。中央でボールを受けたフォワードが、サイドハーフが入るスペースめがけてボールを送り込むと、マリノス陣地の奥深くまで入り込むことができるという算段でした。
プレッシング後のポジションなどによって、サイドのスペースに金崎、豊田が入ってくることはありましたが、基本的には中央にポジションをとっていました。豊田がサイドに開いてボールを受けたとしても、サイドハーフが上がってくるスペースをつぶすことにもなり、豊田はボールを受けてからカットインしてシュートや、縦に入ってクロスなどのプレイをする選手ではなく、その後の展開を考えても出来るだけ中央に待ち構えていた方が良いという判断でしょう。金崎に関しては、その時々に応じてプレイしておりましたが、中央を抜けかけたシーンがあったように、金崎もカウンターのメインポジションは中央でした。
■ 鳥栖のチャンスメイク

図は、秀人が良い形でボールを奪ってから、金崎に預けてそのタイミングで義希と原川がサイドのスペースに上がっていったシーンです。このシーンでは、金崎からボールを受けた原川が左サイドで起点を作って中央にカットインし、中央で時間を作ってくれたおかげで原がオーバーラップすることができ、逆サイドへの展開を見せてくれました。原のクロスは惜しくもシュートに結び付きませんでしたが、この試合の狙い通りの攻撃だったかと思います。惜しいシーンはたくさん作っていました。
ただし、いかんせん、義希も原川もウイングタイプの選手でないだけに、サイドでの1VS1をかわし切ってクロスというところまではなかなか到達できず。図の後のシーンのように、三丸や原のオーバーラップという援護があってこその攻撃だったので、サイドバックが上がってくる頃には、マリノスもしっかりと戻ってきて最終ラインを固めていました。古き時代のオランダ代表のように、オフェルマウスに預けておけば、彼がぶち抜いてクロスを上げ、そしてクロスの先はクライファートがいるという、どうしようもない程に個の質を生かせる攻撃も見てみたいのですが、そうなってくるとサイドの守備をどうするのかという問題がでてきます。ただ、クエンカやイバルボがサイドをぶち抜いて、中央にトーレスや豊田がいるというのは、夢はありますよね。個の質を持ち合わせているというのは、ホント夢があります(笑)
マリノスは、ツートップを残す豊田と金崎のコンビネーションや、攻撃の布陣によって与えてしまうスペースを狙われていたのですが、失点しそうなシーンまでには至らず、大きなピンチを迎えそうなシーンであっても、最終的にはセンターバック2人で守り切ったような形となりました。早くて、高くて、強いセンターバック(それに加えて畠中はビルドアップもうまい)がいるというのはチームとしてのかなりの強みでありまして、人数を確保しなくても守りきるだけの力があるというのは、それだけ攻撃に人数をかける事が出来るという事でもあります。古き時代のオランダ代表が、全体が攻撃に上がりきってしまってもセンターバックのスタム、F・デブール、そしてゴールキーパーのファンデルサールだけで守り切ってしまうという恐ろしく守備範囲の広い姿が印象に残っていますが、チアゴ・マルチンスが金崎に追い付いてボールをカットしたシーンはまさにそのような姿を彷彿とさせていました。
■ まとめ
狙っているサッカー、思い描いたサッカーができたとしてもそれが結果に伴わないこともあります。狙っていないサッカー、自分たちの思いとは異なるサッカーでも、思いがけず勝ち点を取れることもあります。そして、サポーターのみなさまも、サガン鳥栖にはこういったサッカーをしてほしいという想いをひとりひとり持っていらっしゃる事でしょう。ただ、共通したみんなの願いは、勝ち点3を積み重ねて、年末に笑顔でシーズン報告会を迎えることですよね。
今回の試合がみんなの想いにマッチした試合なのかはどうかは皆様の胸の中で考えていただくとして、結果として勝ち点1をとれたことは、監督、選手のメンタル的にも非常に良かったのではないでしょうか。個人の質の部分がでてしまう部分は仕方ないとして、組織として準備してきたことを試合という本番の中で発揮できた事は、今後のチームの成熟につながっていきますし、監督・コーチへの信頼にもつながります。戦術を遂行しても結果が出なかったときに生じる、監督・コーチへの不信感が一番怖いですしね。
■ 余談
別に、例えるのはこの時代のオランダでなくても良かったのです。アザールが抜いてルカクでも、C・ロナウドが抜いてベンゼマでも、一人で守るのはセルヒオ・ラモスでも、ゴディンでも、誰でも良かったのですが、ただ、この時代近辺のオランダが好きってだけでそうなっちゃいました(笑)
■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
サガン鳥栖のスタメンは、今節出場停止の祐治に替わってブルシッチがセンターバックに入り、出場停止明けの秀人がボランチに入りました。前節怪我で途中交代したトーレスは今節欠場。豊田が久しぶりのスタメンに入ります。セットアップは3ラインをフラットに並べた4-4-2です。
好調の横浜FMもスタメンを変更し、怪我から復帰の松原が右サイドバックに入り、広瀬が左サイドバックに回ります。ゴールキーパーはJ1リーグ戦初出場の朴が入りました。セットアップは4-1-2-3です。
■ 鳥栖のゲームプラン
記憶にも新しい、2018シーズンホーム最終戦のマリノスとの戦い。あの試合は、セントラルハーフも前線にあげてプレッシングに参加させるという積極的な守備で横浜FMのビルドアップを窒息させ、横浜FMが狙うボール保持を徹底的に阻止する守備組織作りに成功。先制点を許したものの、試合のイニシアチブを握りながら試合を進めていった結果、トーレスの逆転ゴールという劇的な勝利をつかみ、残留を大きく引き寄せた試合となりました。
横浜FMは昨シーズンと戦術的な方向性は変わらないということで、鳥栖が前年の試合と比較してどのような戦術で試合に臨むのか…というのはカレーラス監督のサッカーを把握する良いポイントだと捉え、以下の点に着目してみました。サガン鳥栖サポーターはハードワークをモチーフとした前線からの全力守備が好きですから、特に①に関しては大いに気になるところではありました(笑)
① チームとしてどの位置でプレッシングをかけるのか(セントラルハーフはどの時点で高い位置へ出ていくのか)
② 鳥栖は最終ラインにどの程度の人数をかけるのか。(相手に合わせて人数をそろえるのか、ゾーンでスペースをコントロールするのか)
③ 攻撃のプランニングはどのような形を取るのか。カウンターやロングボールで早い攻撃を仕掛けるのか、ボールを保持してショートパスで崩すのか
ゲームプランとしては、
「横浜FMの組織構造の変化(ビルドアップ時のシステムの変化)によって生まれるスペースを攻撃時に活用するべく、ミドルサードで守備の網にかけてボールを奪うと同時にサイドのスペースに飛び出してカウンターをしかける」
というものでした。
ポゼション率だけを見ると横浜FMがイニシアチブを握っているように見えますが、鳥栖にとってはボールを渡すことと引き換えに自分たちの狙いたいスペースを作るということもあり、ある程度は想定していた展開ではありました。大袈裟に言えば、昨年のワールドカップでドイツ代表を破ったメキシコ代表のような戦い方ですね。
相手がミドルサードからディフェンシブサードに入ってくる際に、後ろを重くして構えるのではなく、中盤と最終ラインをコンパクトにしてスライドしながらボール付近のスペースを圧縮する守備を選択しました。これには、ポジトラ時に両サイドハーフの原川と義希がサイドのスペースに飛び込んでいく事を想定し、可能な限り前線に出ていくための距離を短いものにしようとする意図が見えました。
後半からは少し前からプレッシングを始めるような変化も感じられました。昨年の試合のように、センターバックからボールを受け取る選手(主に中央に絞ったサイドバック)に対してセントラルハーフが前にでていってプレッシャーをかけ、セカンドトップに入ってくるボールをインサイドハーフでかっさらうという形も見えだしました。前半に拮抗状態を作った上で、後半にしかけるというプランは最初からあったのかもしれません。
原川から松岡への選手交代は、体力の低下という所もあるでしょうが、サイドハーフのタスクを前線からのプレッシングとボール奪取に変化してきたこともあったのでしょう。ただし、この形を取ってしまうと、中央にスライドするサイドバックに対してサイドハーフが着くため、横浜FMのウイングへのパスコースが空くことになり、終盤はそのあたりで少し苦労しました。終盤、遠藤、マルコスがしかけるシーンが増えてきたのは、このあたりの影響もあるでしょう。
前半のスライド守備、そして後半の更に前への圧力をかけていく守備という、体力を使ったツケは必ずやってくるものでありまして、コンパクトを維持していた中盤も徐々に出足が遅れ始め、最後は横浜FMに押し込まれる展開となりましたが、大久保の好セーブなどもありなんとか無失点を保つことができました。
■ カレーラス監督の選択
カレーラスサガンは、開幕から試合に応じて戦術を変えており、そのすべてが異なるゲームプランでの戦い方となっています。
金崎をリトリートさせて5-4-1ブロックで最終ラインの数的優位を作って守備重視で構えた名古屋戦。
4-4-1-1で、イニエスタをドイスボランチで見させ、プレッシングのトリガーという大事なタスクをトップ下の松岡に与えた神戸戦。
4-4-2によるミラーゲームで膠着試合に持ち込み、終盤のクエンカの途中投入によって攻撃のスイッチを入れてしかけようとしたFC東京戦。
4-4-2から、ビルドアップで福田を最終ラインのフォローとして活用して左サイドからの崩しを重視した攻撃と、相手ボランチの位置でボールを奪う守備の仕組みづくりを確立した磐田戦。
そして、ボール保持を許しながらも相手のシステム逆手に利用するべく、攻撃も守備もスペースコントロールを重視した横浜FM戦。
結果は伴わずとも、相手チームを分析し、自チームの選手の状態を把握し、配置と動き方で優位に立つべく戦術を組み立て、何としても勝ち点を取ろうとする戦いは見ていてなかなか面白いです。もう一度言いますが、結果は伴わずとも(笑)
サッカーは相手あってのことですから、相手に応じた戦い方を選択するのは大事です。ただし、戦術を相手の戦い方に合わせるだけだと相手の出方に左右されてしまう(相手が準備してきた事と異なるサッカーをするとその試合のプランニングが崩れてしまう)ので、それだけは気を付けなければなりません。そのためにも、早く、ベストメンバーがそろって、サガン鳥栖としての新しいサッカーを確立してほしいですね。退場してからが本番!みたいなサッカーは是非とも勘弁してほしいですが(笑)
イバルボ、小野、クエンカ、トーレスなどなど、主たる選手たちが戻ってきたら、本来自分たちがやりたかった4-3-3システムでの試合に切り替えるのかもしれません。そこは、カレーラスさんがどういうプランを描いているかというところでしょうが、まだそのあたりは見えてきませんね。ポジショナルプレーをやりたいという記事も見ましたが、5レーンを意識したポジショニングはいまのところまだまだ発展途上のようです。むしろ、マッシモさんの時代のほうがその配置は見えてたような(笑)
とにかく、自分たちのやりたいサッカーを確立するためには、例えリアクションサッカーになったとしても、早めにある程度の勝ち点を獲得したい所ですよね。残留という最低限の結果は確保しなければなりませんから。
■ 鳥栖の守備

鳥栖は、横浜のビルドアップに対して慎重なポジショニングを見せながらも、しかしながらアグレッシブに相手を追い込もうとする守備組織でこの試合に臨みました。
センターバック2名に対しては、豊田と金崎がプレッシャーをかけますが、相手陣地までどこまでも追いかけて奪おうとするプレッシングではなく、ミドルサード付近で構えていておいて、アンカーの喜田へのパスコースを抑えながら、相手センターバックが持ち出したときにサイドに誘導する形の動きを見せていました。マリノスの配給の肝は喜田ということで、彼へのパスコースを遮断し、スペースを圧縮しながらアウトサイドに追いやろうとするプレッシングです。
マリノスがむやみやたらにロングボールを蹴らないということが分かっているので、低い位置だったらセンターバックに自由を与えても問題ないという意図もあったかと。喜田の位置を気にするため、必然的に金崎、豊田が中央に位置することになり、その脇のスペースを使われやすい状況下にありましたが、豊田も金崎も横パスに対して連携し、しっかりとスライドしてプレッシングを仕掛けていました。
中盤は4人をフラットに並べてコンパクトな陣形を取ります。セントラルハーフが見張るのは、中央に絞ってくるサイドバック2人と、セカンドトップの2人。縦横無尽に動くマリノスのセントラルに対して、なるべくサイドに開いていく人に引っ張られず、スペースを意識して4人が連係して網にかける動きを見せていました。マリノスがポジションチェンジを繰り返す中で、人の動きとボールの動きの双方を見ながら対応しなければならなかったため、非常に難しい対応を迫られましたが、しっかりと対応できていました。
横浜FMのビルドアップ隊が金崎、豊田の網を掻い潜ってドリブルで上がってきたとしても、セントラルハーフが焦って突っかかる事はせず、そこに突っかかることによって、喜田や天野、三好、更には仲川やマルコスにパスが渡るスペースを空けてしまうくらいならば、むしろ放っておくという選択が見えました。網に入ってくるまでの我慢の時間ですね。
マリノスのサイドバックも中央に絞るだけではなく、時折横幅を取ってウイングとの縦関係を築いて鳥栖の守備に揺さぶりをかけていたのですが、鳥栖としてもどこまでサイドに寄せていくかというのを全体で調整しながらポジションをコントロールしていました。この寄せ方を間違えると、セカンドトップにいい形でボールが入ってしまうので、ポジショニングにはホント神経を使ったと思います。
マリノスとしては、ラストパスを送り込む局面としては、仲川やマルコスがサイドの局面で相手と1VS1を迎えるシーンを作り、デュエルで打ち勝って中央へしかける形を作りたかったでしょうが、鳥栖はマリノスウイングについては必ずサイドバックが見張り番としてついており、三丸、原が、仲川、マルコスを抑え込むという、与えれたタスクをしっかりとこなしてくれました。
■ マリノスのチャンスメイク

2018年の伝説(←勝手に伝説にしている(笑))のマリノス戦では、ビルドアップでは中央にポジションを取っていた松原が、ゴール前ではウイングの仲川のアウトサイドをオーバーラップすることによって、鳥栖の守備の軸をずらしました。その動きで空いたスペースにセカンドトップの大津が飛び込み、クロスを折り返し、失点を喫しました。
この試合でも、松原、広瀬、三好、天野のポジションチェンジによって鳥栖の守備陣に数多くの問題を提起していました。サイドバックの松原、広瀬は中央への絞り込み一辺倒ではなく、サイドハーフを動かすためにアウトサイドにポジションを取る動きをとりましたし、天野、三好も引いてボールを引き出す動きで鳥栖の中盤を動かそうとしていました。
図は、三好の動きによってマーキングをずらされてしまい、ちょうどセンターバック、サイドハーフ、サイドバックの間のスペースを狙われてしまったシーンなのですが、ここは大久保の好セーブとディフェンス陣の戻りによって何とか失点を防ぐことができました。サイドバックとサイドハーフが出て行ったときに、このスペースを誰が埋めるのかというのは今後の課題でしょう。セオリーで行くとセンターバックがスライドするべきであるのでしょうが、カレーラスさんは強いセンターフォワードに対しては数的優位で抑え込む(開幕戦のジョーへの対処のように)というフィロソフィーがあるかもしれないので、もしかしたらボランチのタスクだったのかもしれませんし、そもそもサイドハーフが出て行ってはいけなかったシーンなのかもしれません。チームオーダーをしっかりと共有しなければならないですね。
■ 鳥栖の攻撃

パスネットワーク図を見ても分かるように、磐田戦に比べるとパスの成功本数そのものがかなり少ないです。ターゲットとなる豊田や空いたスペースを見つけたらそのスペースめがけて素早いボールの送り出しによる攻撃を仕掛けていたので、パスそのものの成功確率もショートパスを繰り返すよりは下がっています。
横浜FMが、前線3枚+セカンドトップ1枚を利用した高い位置からのプレッシングを仕掛けてくる点、鳥栖がボランチを1枚下げたとしても、もうひとりのセカンドトップがプレッシングに行けるのでマーキングされやすい点より、不用意にボールを失うよりは、豊田というストロングポイント目がけてボールを蹴り込むというスタイルを取りました。実際、最終ライン間のパスもゴールキーパーを利用したパスも、磐田戦に比べると格段と低い数値となっており、ビルドアップによる攻撃は指向していなかったことが分かります。
鳥栖の守備として、前線から追いまわすのではなく、ある程度マリノスがビルドアップの形を作るまでプレッシングを待ち合わせたのは、ポジションを中央に絞ってくる両サイドバックの裏のスペースを活用したいため、相手がその形を作るための時間を確保したからでありました。
ボールを奪ってからのターゲットは、基本的には中央にポジションを取る豊田と金崎。彼らにボールを預ける事によって、まずはセンターバック2人のポジションを中央に引き寄せます。その隙に、両サイドハーフがサイドのスペースめがけてランニングを始めます。中央でボールを受けたフォワードが、サイドハーフが入るスペースめがけてボールを送り込むと、マリノス陣地の奥深くまで入り込むことができるという算段でした。
プレッシング後のポジションなどによって、サイドのスペースに金崎、豊田が入ってくることはありましたが、基本的には中央にポジションをとっていました。豊田がサイドに開いてボールを受けたとしても、サイドハーフが上がってくるスペースをつぶすことにもなり、豊田はボールを受けてからカットインしてシュートや、縦に入ってクロスなどのプレイをする選手ではなく、その後の展開を考えても出来るだけ中央に待ち構えていた方が良いという判断でしょう。金崎に関しては、その時々に応じてプレイしておりましたが、中央を抜けかけたシーンがあったように、金崎もカウンターのメインポジションは中央でした。
■ 鳥栖のチャンスメイク

図は、秀人が良い形でボールを奪ってから、金崎に預けてそのタイミングで義希と原川がサイドのスペースに上がっていったシーンです。このシーンでは、金崎からボールを受けた原川が左サイドで起点を作って中央にカットインし、中央で時間を作ってくれたおかげで原がオーバーラップすることができ、逆サイドへの展開を見せてくれました。原のクロスは惜しくもシュートに結び付きませんでしたが、この試合の狙い通りの攻撃だったかと思います。惜しいシーンはたくさん作っていました。
ただし、いかんせん、義希も原川もウイングタイプの選手でないだけに、サイドでの1VS1をかわし切ってクロスというところまではなかなか到達できず。図の後のシーンのように、三丸や原のオーバーラップという援護があってこその攻撃だったので、サイドバックが上がってくる頃には、マリノスもしっかりと戻ってきて最終ラインを固めていました。古き時代のオランダ代表のように、オフェルマウスに預けておけば、彼がぶち抜いてクロスを上げ、そしてクロスの先はクライファートがいるという、どうしようもない程に個の質を生かせる攻撃も見てみたいのですが、そうなってくるとサイドの守備をどうするのかという問題がでてきます。ただ、クエンカやイバルボがサイドをぶち抜いて、中央にトーレスや豊田がいるというのは、夢はありますよね。個の質を持ち合わせているというのは、ホント夢があります(笑)
マリノスは、ツートップを残す豊田と金崎のコンビネーションや、攻撃の布陣によって与えてしまうスペースを狙われていたのですが、失点しそうなシーンまでには至らず、大きなピンチを迎えそうなシーンであっても、最終的にはセンターバック2人で守り切ったような形となりました。早くて、高くて、強いセンターバック(それに加えて畠中はビルドアップもうまい)がいるというのはチームとしてのかなりの強みでありまして、人数を確保しなくても守りきるだけの力があるというのは、それだけ攻撃に人数をかける事が出来るという事でもあります。古き時代のオランダ代表が、全体が攻撃に上がりきってしまってもセンターバックのスタム、F・デブール、そしてゴールキーパーのファンデルサールだけで守り切ってしまうという恐ろしく守備範囲の広い姿が印象に残っていますが、チアゴ・マルチンスが金崎に追い付いてボールをカットしたシーンはまさにそのような姿を彷彿とさせていました。
■ まとめ
狙っているサッカー、思い描いたサッカーができたとしてもそれが結果に伴わないこともあります。狙っていないサッカー、自分たちの思いとは異なるサッカーでも、思いがけず勝ち点を取れることもあります。そして、サポーターのみなさまも、サガン鳥栖にはこういったサッカーをしてほしいという想いをひとりひとり持っていらっしゃる事でしょう。ただ、共通したみんなの願いは、勝ち点3を積み重ねて、年末に笑顔でシーズン報告会を迎えることですよね。
今回の試合がみんなの想いにマッチした試合なのかはどうかは皆様の胸の中で考えていただくとして、結果として勝ち点1をとれたことは、監督、選手のメンタル的にも非常に良かったのではないでしょうか。個人の質の部分がでてしまう部分は仕方ないとして、組織として準備してきたことを試合という本番の中で発揮できた事は、今後のチームの成熟につながっていきますし、監督・コーチへの信頼にもつながります。戦術を遂行しても結果が出なかったときに生じる、監督・コーチへの不信感が一番怖いですしね。
■ 余談
別に、例えるのはこの時代のオランダでなくても良かったのです。アザールが抜いてルカクでも、C・ロナウドが抜いてベンゼマでも、一人で守るのはセルヒオ・ラモスでも、ゴディンでも、誰でも良かったのですが、ただ、この時代近辺のオランダが好きってだけでそうなっちゃいました(笑)
■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
2019 第33節 : サガン鳥栖 VS コンサドーレ札幌
2019 第32節 : 名古屋グランパス VS サガン鳥栖
2019 第31節 : サガン鳥栖 VS 松本山雅
2019 第30節 : サガン鳥栖 VS 横浜F・マリノス
2019 第29節 : ジュビロ磐田 VS サガン鳥栖
2019 第28節 : サガン鳥栖 VS FC東京
2019 第32節 : 名古屋グランパス VS サガン鳥栖
2019 第31節 : サガン鳥栖 VS 松本山雅
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Posted by オオタニ at 17:16
│Match Impression (2019)