サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2019年08月30日

2019 第24節 : サガン鳥栖 VS ヴィッセル神戸

2019シーズン第24節、ヴィッセル神戸戦のレビューです。

■ システム
2019 第24節 : サガン鳥栖 VS ヴィッセル神戸

偉大なるサッカー選手、フェルナンド・トーレスの引退試合でした。引退が決まってからは、ちょうどこの神戸戦が累積警告で出られなくなるのではという、変な不安も若干ありましたが、湘南戦の出場を控えるなどの調整もあって、この日を迎える事となりました。
スタメンは、金崎に代わってそのトーレスが出場。湘南戦で負傷した原、原川に代わって、小林、義希が入りました。

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■ 感想
プレッシングも、ブロックも、相手にミスを誘うためにしかける罠です。プレッシングだから積極的、ブロックだから消極的ということはありません。どちらもチームとして(組織として)能動的に対応できていれば、あとはその選択が是だったのか非だったのかというのは、結果が示してくれます。

サガン鳥栖は、神戸のミスを誘発するべく、前線からのプレッシングも、中盤でのブロッキングも、神戸を意識して準備してきたものを出しました。しかしながら、鳥栖が思うようには神戸がミスをしてくれなかった。これに尽きるのかなと思います。神戸に数少ないミスが発生したとしても、今度は鳥栖がお付き合いしてミスをしてしまいましたし、特に2失点目は、神戸のビルドアップミスでボールを奪った鳥栖は得点できず、鳥栖のビルドアップミスは神戸がしっかりと得点してくるという、この試合における格差が垣間見えてしまったなと。

神戸の選手たちの個々の能力もさることながら、鳥栖の守備組織網に対応する組織としてのポジショニングが、鳥栖の準備してきた罠の一歩上を行っていました。長短のパスを駆使して、守備網を掻い潜る攻撃を何度も繰り広げられるのは、見ていてなかなかつらいものがありました。
「先にリードを奪われる(鳥栖は追いかける展開になり、リスクを負ってでも攻める)」という状況も、神戸が楽に攻撃を仕掛けることができる要因となり、カウンターなどを交えて6失点を喫しての大敗となってしまいました。

トーレスの引退試合ということが、この試合に影響を及ぼしたのか?
トーレスもチームを構成する11人中の1人でありますので、当然、この結果に影響は与えているでしょう。
でも、それは、トーレスののみならず、他の10人と一様だと思います。
酷な言い方ですが、トーレスの引退試合でなかったら、チーム全体として、ビルドアップのボールキープが洗練されたり、サイドでのプレッシングによるボール奪取率が増加したり、ゴール前でのフリーのシュートが入ったりしていたわけではないですよね。
試合の大勢は、ゲームモデル(選手配置、戦い方)、そして個人能力の発揮に因る所であり、この試合では、神戸の方が1枚も2枚も上手で十分に実力を発揮していました。

トーレス引退試合ということで、選手たちの意気込み(メンタル)がいつもと異なっていたかもしれません。
でも、それは、勝った時には「トーレスに捧げる気持ちの勝利」となり、負けた時には「トーレスを送り出そうとする意気込みが空回り」という、結果論でしか語れないものと思っています。
なぜならば、意気込みで試合に勝てるならば、この試合は10対0で勝っていたでしょう。それだけ、スタジアムの雰囲気も良く、選手たちの気迫も勝ちに対する執念として大きく見せてくれていたからです。
それなのに結果がでなかったのは、残念で仕方ありませんが、これもサッカーという事ですよね。

ひとつだけ言えるのは、若いころのトーレスならば決めてきたであろうシュートが入らなかったような気がします。
ひのき舞台でしっかりと決めきれるのが、偉大なるスーパースターの証ですが、この試合ではそれがかなわなかった。
おそらく、彼がイメージ通りのプレイができていたのならば、まだまだ引退はしていないでしょう。
寂しいですが、この結果が、引退を決めたことの現れだったのかなと思っています。

■ 戦術問題
備忘録みたいな感じになりますが、この試合の問題点を。

<問題1:配置上サンペールを見る選手がいない>
2019 第24節 : サガン鳥栖 VS ヴィッセル神戸
鳥栖は、ツートップ+サイドハーフの4人が前線にあがってプレッシングとブロックを構築しておりました。ところが、神戸が、飯倉を積極的にビルドアップでつかってくるために、3バック+飯倉で4対4の状況となってしまいます。また、鳥栖の4人の先には、中央にサンペール、サイドに西、酒井が配置されており、ブロックを組むディフェンスの間にポジションをとられると、プレッシャーのかからない位置でボールを受ける事ができます。鳥栖は1列目の守備に4人を費やしたものの、ボールの前進を思うように防ぐことができていませんでした。

1列目を突破されて慌てて守備ブロックを組むためにリトリートしても、前進できないと判断すると、今度は神戸が余裕をもって最終ラインにボールを戻して回すので守備のやり直しが発生します。配置上の問題でボールを奪えるポイントをうまく作れず、精神的に疲労感のでるランニングを強いられていました。積極的に行きたいので、なるべく高い位置を保とうしますが、そのことによって、ディフェンスラインの裏のスペースを空けてしまい、精度の高いボールをゴールキーパーとの間に送られてしまうという悪循環にはまっていました。

<問題2:ツートップの脇のスペースにプレッシャーがかからない>
2019 第24節 : サガン鳥栖 VS ヴィッセル神戸
鳥栖は、前線からのプレッシャーを抜けられた時には、ブロック守備に移行して神戸が前線にボールを入れるのを待ち構える策をとりました。4-4-2ブロックを組んでいるのですが、2トップの脇のスペースに対するケアよりも、パスの出先に対するケアを優先していたため、そのスペースに入ってくるイニエスタ、フェルマーレンという、高い精度のパスを提供する選手をフリーにしてしまいました。そのため、精度の高いボールをディフェンスラインの裏や逆サイドに送られるシーンが何度も発生していました。これによって、守備のスライドによる体力の消耗もありますし、守備ブロックのずれが生じると相手がラストパスを送り込む隙を見せることになります。神戸は両サイドに西と酒井が配置されており、スピードで強さを発揮できたり、ワンタッチで局面を変えたりする能力があるため、守備のスライドが追い付かない状況は、彼らの力をいかんなく発揮できる場を提供してしまうこととなりました。

問題1、問題2に共通して、セントラルハーフの山口、イニエスタ、サンペールがポジションを移してもそこははっきりと、スペースとともにつぶせるような仕組みを取れていればよかったのでしょうが、どうしても飯倉が邪魔になって、トーレス、金森のうちの1枚がでていかなければならなかったので、彼らの脇のエリアが空いたり、数的不利でプレッシングがかからない相手が出てきたりと、とにかく「ハマって」いませんでした。

大分戦のように4-1-4-1に変えて、飯倉と大崎のボール所持は、どちらかのサイドに誘導するにとどめ、最終ラインのボールの出所(右サイドにボールが行ったらダンクレー、左サイドにボールが行ったらフェルマーレン)と神戸の中盤の3人を必ず捕まえるようにする形の方がよかったのかもしれません。

そうなってくると、西、酒井を個で止めることのできるサイドバックが必要となりますが、後半に福田をいれてテコ入れを図りましたが、酒井にスピードでぶちぬかれてしまい、4失点目を喫してしまいました。これは、もう、相手の個の能力に、脱帽するしかないでしょう。福田のランニングでも追いつかないあのトップスピードでドリブルを仕掛けられて、そしてダイレクトのクロスを古橋がこれまたダイレクトで合わせる事が出来るという。

この失点のきっかけは、義希が前線でつぶされてしまってからのカウンターでしたよね。本来ならば、ゴール前のスペース埋めの役割を得意とする義希が、相手のゴール前でラストパスを送り手としての役割をこなそうとしたばかりに、守備の局面で戻ることができませんでした。
得点を取ろうとするためのリスクのかけ方が非効率だった気がします。前半にもあのような、義希を攻撃に参画させてノッキングする場面はありましたので、その役割で使うならば彼の得意とする持ち場ではありません。小野に代えてから、攻撃面ではスムーズにボールが回るようになりましたし、そのあたりの選手配置が今回はちぐはぐだったのかなと思いました。義希がスタメンに起用されたということは、イニエスタ、もしくはサンペールに対するマンマークを活用するのかなと思いましたが、そうでもなかったですしね。

あとは、個人の精度の問題もありますよね。フリーで飛び出して受けてもアイデアが出ずに攻撃がノッキングしてしまったり、ゴールキーパーと1対1(ゴールキーパー不在)の状況でもシュートを打ち上げてしまったり、そもそも枠に飛ばなかったり。チャンスは多く作っていいたのですが、なかなか決まりませんでした。この試合は、そのあたりのシュートがちゃんと決まっていたら5点はとれていたと思います。あと1点足りませんけどね(笑)

■ おわりに
トーレスがサガン鳥栖に来てくれて約1年、サガン鳥栖を取り巻く環境も随分と変わり、これまではJ1に居続けながらも、全国区では見向きもされなかった地方都市のチームが、全国の場での露出が格段に増えました。では、トーレスが去ってからこのチームは次のステップとして何を目指すのか、トーレスが去った後にこのチームに何が残るのか。ひとときの狂騒曲で終わらせてしまっては、何のためにトーレスに来てもらったのかという事にもなりかねません。

トーレスが来てくれたことによって得られたものは多々あると思いますので、それを今後のチームコンセプトの明確化なのか、チーム戦術の成熟なのか、試合運用の改善なのか、メディア対応やファンサービス対応の向上なのか、何かしらの糧としたいですよね。一過性のものとしては終わらせたくないです。

引退のセレモニーは、余計な演出もなく、シンプルにトーレスを引き立てて非常に素晴らしかったと思います。このセレモニーを迎えることができたのは、様々な方のご尽力、ご支援の賜物であり、非常にありがたく思います。チームがなくなるやら、選手が社長になるやら毎年揉めていたサガン鳥栖が、二十数年の時を経てこのような式典をできるようなチームになったのは、感慨深いものがあります。

ひとまず、トーレスの引退というひとつの区切りを終えることができました。今シーズンがどのような形で終わるのかは分かりませんが、トーレスが悲しい表情をみせるような結果では終わりたくないですよね。彼が笑顔でシーズン報告会にサプライズで登場してくれることを願い、今シーズンを何とか残留で終えましょう。

そのためにも、この試合は大敗しましたが、気持ちを切り替えて次の試合に臨むしかありません。前節16位の鳥栖は前節15位の神戸とのシックスポインターだったのですが、くしくも、今節も16位の鳥栖は前節の結果15位となった仙台とのシックスポインターを迎える事となりました。江戸の敵を長崎で討つではありませんが、神戸の敵を仙台で討つべく、最高の戦いをホームで見せてほしいですね。


■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事



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Posted by オオタニ at 14:13 │Match Impression (2019)