サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2017年12月26日

2017 第34節 : コンサドーレ札幌 VS  サガン鳥栖

ついに迎えてしまった2017年度シーズンの最終戦。北の大地での最終戦は、札幌という観光にも適した場所での開催ということもあり、九州をはじめ日本全国から多数のサガン鳥栖サポーターが訪れ、札幌ドームの一角をサガンブルーで染めることができました。鳥栖サポーターの大きな声援で選手たちにも大きな励みとなったでしょうが、残念ながら声援むなしく敗戦でシーズン終了となってしまいました。

さて、試合ですが、ちょっと期間が立ってしまったので記憶も薄れつつあり、失点シーンを中心に簡単に振り返ります。

今シーズンの3センターを担った原川、福田が出場できないという事もあり、鳥栖のシステムは4-4-2の構成。中盤はフラットで、サイドハーフに河野と吉田、インサイドハーフに小野と義希という起用になりました。
守備面において、このシステム自体が「機能する」「機能しない」という着眼点があるのですが、相手がボールを持っているときに、どの位置に追い込んで、どの位置で奪いにいくのかというところをチームで共有し、ボールの流れ(味方の動き)に応じてチーム全体が自然と動けることは、「機能する」という評価のひとつのポイントとなります。

当然、守り方というのは、相手のプレイスタイルによって合わせなければならない所もあり、今回の札幌のように割と早めにボールを放すスタイル(長いボールを早めに当ててくるスタイル)だと、前線からのハメ方というよりは、ディフェンスラインをどの位置におくのか、ファーストディフェンスをどのラインに置くのか(そして誰がどの位置でプレスをはじめるのか)セカンドボールを拾うためにどこのエリアに重点的に選手を配置するのかというところが、重要になります。

前半の入りとしては、これらのポイントがチーム全体として定まらないところが見受けられました。吉田と河野は両センターバックへのつなぎを狙って前目にポジショニングを取るケースが多く、しかしながらその狙いが、札幌のセンターバック3人のところなのか、それともウイングバックのところなのか、また、そのためにイバルボと田川にどの位置で、どこまで、どの方向に向けてプレッシャーをかけさせるのか、先制点の所では、試合開始からの整理が終える前にやられてしまったかなという印象です。

札幌的にはジェイと都倉というストロングポイントを使いたいので、サイドへのつなぎよりも当てられるタイミングがあれば長いボールを積極的に活用してきます。そうすると、つなぎに備えて鳥栖のハーフが札幌のウイングバックやセンターバックにプレスに入ろうとして前目にポジションを取る事自体が、ボールが彼らの頭を超えてしまっていくことになってしまいます。特に、札幌のウイングバックが高い位置を取っている時は、彼らが動けるようなスペースを与えないように、サイドハーフとサイドバックの位置関係が重要でありました。

また、FootBall LABが分析したデータによると、札幌の相手ゴール陣地での空中戦の勝率はJ1の中でも群を抜いて高いです。当然、そのストロングポイントをついてくる攻撃をしてくるわけでありまして、鳥栖としてはいかにしてその状況を生み出させないようにするか(長所を発揮させないようにするか)というところは考慮するべき所でありました。

2017 第34節 : コンサドーレ札幌 VS  サガン鳥栖

1失点目に関しては、(札幌がセットプレイから長いボールを蹴らずに最終ラインでつないだというところも影響あるでしょうが)、センターバックが余裕を持ってボールを持っている状態で、そこで長いボールの落下地点がペナルティエリア内まではいってきてしまったことが悔やまれます。セカンドボールの位置がペナルティアーク近くのシュートゾーンであったために、ジェイのスーパーゴールが生まれてしまいました。フィード役への圧力がかかったり、最終ラインの位置を調整できてボールの落下点を少しでも前に出来たりしていたら、(セカンドボールの地点があと2~3m後ろでいたら)ジェイもシュートという選択はなかったかもしれませんし、仮にシュートを打たれたとしても、その2~3mの距離ができることによって権田のセービング範囲になってくれたでしょう。

ロングボールを蹴られる時の状況を見ても、前線は、センターバックに対してプレスをかけずに構えている状態で、アウトサイドハーフは札幌のセンターバックに対するつなぎへの圧力を狙っている状態。最終ラインは長いボールに備えて引いている状態という、守備のポイントが明確にならないまま全体がやや間延びした状態になっています。

また、都倉が競ったボールがサイドにこぼれたとしても、図のように、札幌のウイングバックが前方にポジショニングを取っており、札幌の選手たちがセカンドボールを拾える確率が高いポジショニングとなっています。河野と吉田が前を狙っていたのですが、その頭を超えるボールを蹴られてしまっているので、鳥栖のポイントではなかったということです。

チームとして全体がどこで対応するのか曖昧な状況で、フォワードのプレッシャーが相手最終ラインにかからず、長くて質の良いボールを「ペナルティエリア内」に出された事が決定的でした。

2017 第34節 : コンサドーレ札幌 VS  サガン鳥栖

2017 第34節 : コンサドーレ札幌 VS  サガン鳥栖

さらに、選手の特徴を考えると、試合開始でのセットアップでインサイドハーフ(ボランチに近い位置)に小野がポジションを取るという所が適所ではなかったのかなと感じます。インサイドハーフとなると、どうしてもスペースを埋める、ボールを刈り取るというタスクが発生してきます。その労力で小野の体力も削られますし、いざという所でゴールに近い位置でプレイできないというのは彼の力を発揮できる場所ではありません。

2失点目は、その小野の所がひとつポイントとなっていまして、鳥栖がサイドでの縦パスに失敗して札幌がボールを奪ったのですが、都倉への縦パスをスンヒョンが奪って攻撃に転じたところで、すぐに都倉がボールを奪いに来るという、いわゆる、ポジティブトランジションとネガティブトランジションが短い間隔で発生している局面です。

ここで、再び都倉へのパスが出た時に、スンヒョンが前に出ていたところを埋める形で小野が入っていたのですが、都倉へのプレスを小野がかわされる形となり、都倉のゴールに向けたドリブルがはじまってしまいました。その後、ミンヒョクも権田も都倉のシュートを止められなかったことも問題ではあるのですが、都倉がスピードに乗る前の小野の対応で、ボールを奪うか、もしくは奪えなくても前進を妨げるプレイがあればという所です。

中盤でボールが激しく展開するときには、インサイドハーフに求められる守備対応というのは特に重要となります。そして、このポジションこそ、鳥栖のチームとして選手層が薄い所かなというのは感じます。そういう意味では、吉田が後半からボランチに入ったのですが、彼はボールを刈り取ることもできますし、前進を妨げることも出来るプレイヤーです。サイドハーフの時はポジショニングに苦労していましたが、ボランチに入った時の方が彼のスキルを生かせるポジションだったかと感じました。

2017 第34節 : コンサドーレ札幌 VS  サガン鳥栖

早々に2失点してしまった鳥栖ですが、前半から河野に変えて池田を入れ、システムも途中から4-3-3に変えてきますが、これによって札幌の3センターに対する圧力を作り出すことができ、前から押し込める状態を作ることができました。ロングボールも低い位置から蹴られるようになったので、前半のジェイのようなシーンを作ることもなくなりました。そうなってくると札幌は両ワイドの選手にボールを繋ごうとするのですが、ここをセンターハーフとサイドバックがケアしてボールを奪いにいくという構図もできるようになりました。

守備は前半に比べるとシステム変更によってかなり落ち着いたかと思います。マッシモさんの池田を入れるという早々の決断は非常に良い采配でした。

攻撃面ですが、札幌の5-2-3によるセットアップで得られるスペースとしては、ボランチの脇のスペースになります。このスペースをどう活用してボールを前進させるかというのはひとつのキーポイントです。札幌の守備としては、そのエリアにボールが入ったときに、ボランチが寄せるのではなく、ウイングバックの上下によって対応してきます。三丸が大きく前にせり出したり、吉田が引いてボランチの脇で受けるような動きを見せていましたが、前線との連係も少なく、なかなか思うようにボールを前線まで持って行くことができませんでした。

そこで、池田を入れてからシステムを変えることによって、より明確に両サイドに攻撃の起点を作れるようになってきました。特に小野が右サイドに張ってボールを引き出してキープしてくれるのは、鳥栖としても全体で押し込める要素になりました。(ウイングバックを押し下げるという副次的要素も生まれました。)

1点返したシーンでも、長いボールをトラップして、ボールを運んでからディフェンスラインの裏に入り込む池田へ素晴らしいクロスを送りました。小野はボールを運べる選手です。吉田や田川のように、スピードで前進することも大事ですが、小野のようにボールを保持しながら前進することによって、相手のポジションを押し下げる事もできますし、味方の押し上げ(動き出し)を待つことができます。やはり、小野はゴールに近いポジションで使った方が彼の特徴を生かせますよね。

今シーズンの最終戦でしたが、ベストメンバーも組めず、これまで取り組んできたシステムも利用できず、総決算というにはやや物足りない試合内容となってしまいました。ただ、アウェーの地で2点ビハインドをなんとか同点まで追い付けたことは、鳥栖の選手のポテンシャルを発揮できたところかなとも思います。

今シーズンは物足りない順位で終わってしまいましたが、来年こそは「頂」を目指して是非とも大きな目標を達成してほしいなと思います。

シーズンオフは、時間ができれば、2017シーズンをデータで振り返ってみようかなと思います。

<画像引用元:DAZN>
<画像引用元:Football LAB>


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Posted by オオタニ at 20:08 │Match Impression (2017)