サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2017年07月13日

2017 第18節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

後半戦の初戦となったホームでの川崎戦。前半はほぼ理想的な戦いで2点を先制しますが、後半に入って投入された中村の活躍により、「2点差は危険なスコア」を地で行くような戦いを鳥栖が演じてしまい、残念ながら2-3での敗退となってしまいました。1万人を超える観衆を集めただけに、そして課題であった2点目も取り切れただけにしっかりと勝利に繋げたかったのですが、Jリーグの優勝を争い、そしてACLでも勝ち抜いている川崎の底力に屈してしまいました。

前半から、鳥栖はなかなか守備の形がはまらない状況でした。鳥栖の守備は4-3-3で入りましたが、エドゥアルドネットがディフェンスラインに降りた形のビルドアップへの対応と川崎の両サイドの横幅を取る選手たちの対応(スライド)に中央の3人が手をこまねきだします。そして、押し込まれると徐々に小野が自然と2列目に吸収される形で徐々に4-4-2で対応するようになっていきます。小野は義希と福田の間に入ってケアしますが、当然、ボール状況に応じて川崎のディフェンスを押し込めたときには4-3-3の形でハメに行ったりもしていましたので、前線がやや中途半端につっこんでいく時間帯もありました。

前半の中盤を過ぎる頃、それまでも監督と小野が何度かベンチ前でコミュニケーションを取っていましたが、最終的には監督からの指示もあり、小野がアウトサイドに引いて4-4-2の形で収まりました。福田をインサイドによせることで、サイドチェンジされたときの川崎の選手たちへのケア(スライド)が明確になり、鳥栖の守備が安定しだします。

守備のセットアップを変えたことによる副産物も生まれまして、小野が下がって組み立てることによって、少しずつ小林と吉田が上がっていけるスペースとタイミングができてきました。4-3-3の時は、フォワードとサイドハーフの組み立てに対してサイドバックがなかなか追い越しを仕掛けられない状況でしたが、富山とチョドンゴンがより明確に相手のセンターバック付近にポジショニングし、サイドハーフとサイドバックによってアウトサイドを攻略するという構図が出来たことにより、吉田のドリブルからのPK奪取も生まれましたし、小林のドリブル突破による前進からのスローイン⇒福田のスーパークロス⇒チョドンゴンのヘッドという得点も生まれました。鳥栖にとっては、いかにサイドバックに攻撃参加させるかという所はこれまでの戦い方を見ても大事なポイントですよね。

ひとまず、前半は、川崎のやり方に対して押される時間がありながら、いろいろと模索しつつ何とか選手たちが対応して、結果的に2得点も奪いきるという理想的な戦いでした。

2017 第18節 : サガン鳥栖 VS  川崎フロンターレ

2017 第18節 : サガン鳥栖 VS  川崎フロンターレ

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2017 第18節 : サガン鳥栖 VS  川崎フロンターレ

2017 第18節 : サガン鳥栖 VS  川崎フロンターレ


さて、問題の後半。
後半の劣勢の1番の要因は当然のことながら中村の活躍に依るものなのですが、川崎の選手のポジション取りが前半と大きく異なっていたことへの対処が遅れました。前半は三好と家永が横幅要員として基本的にはワイドに構えていてそこから小林も使って中盤に降りてきながらのボールの繋ぎだったのですが、後半は横幅要員を減らし(横幅要員はサイドバックに任せる=サイドバックを高い位置に置く)前線の選手たちは中央のスペース(最終ラインと中盤との間)に積極的にポジショニングを取り、明らかに攻撃に人数をかけてきていました。

一番目立ったのは、川崎がボールを持っているサイドに鳥栖の選手が集中したのを見計らって、逆側のスペース(セントラルハーフとインサイドハーフのギャップ)に中村が入り込んできた事です。前半の中央に寄せておいて最後はサイドに展開と言う形から、サイドに寄せておいて中央から崩すという形にシフトしてきました。

後半に入ってからこのような状況でしたので、鳥栖としては、川崎(特に中村)に自由を与えないために
① スペースを埋める対処(セントラルハーフとインサイドハーフのギャップ、中盤と最終ラインのギャップ)
② スペースを使われる前にボールを奪いきる対処
のいずれかが必要でした。

①に関しては、「逆サイドを捨ててインサイドハーフを中央に寄せる」「フォワードを1人降ろして中央を5枚にする」など、まあ、やり方はいろいろとありましたし、どこかのタイミングでその対処をするのかなと思っていたのですが、実際のところ、マッシモさんの選手交代のカードが田川だったので、前線の活動量を上げて前から奪いに行く②で対応したかったようです。残念ながら、この②で行こうというメッセージがでてしまったことによって、2失点目、3失点目に繋がってしまったのですが。

私的には、原川が横幅要員にかなり引っ張られていたので、特に後半は、逆サイドのカバーを捨ててしまってでも中央にしぼるべきだと考えていました。中央に位置する中村や谷口をフリーにしてしまうという現象が発生していたのでより危険なエリアをケアするという観点です。もしくは、システムを変えて、4-5-1や5-4-1の体制を取るかですね。とにかく、中村に中央でゲームメイクされてしまったことが押し込まれてしまった要因となりました。

その後の藤田が投入されたのはある意味①の対応でありまして、ウイングバックの上下動によって5人でスペースを埋めることができ、これ以上の失点を喫することはなくなったのですが、既に川崎がリードしてしまった後でしたので、当然のことながら彼らも積極的な攻撃はしかけてこず、そして、鳥栖もウイングバックを活用する攻撃の練習が習熟されているとは言い難く、試合が膠着するような状態を作り出してしまいました。

2017 第18節 : サガン鳥栖 VS  川崎フロンターレ

2017 第18節 : サガン鳥栖 VS  川崎フロンターレ

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まあ、冗談なのですが、前半で2点リードするというような状況に慣れていないので、慣れない状況に戦い方の意思が統一されていないのではないかと勘繰りたくなるような展開でした。結果論ではあるのですが、川崎の攻勢を考えるとがっつりと引いてしまった方がよかったですね。どうしても前から奪いたい選手たち、後ろでブロックを作りたい選手たち、その時々のチョイスが統一されていなくて、不用意にスペースを作り出してしまったのですが、そのスペースを逃さない川崎の選手たちはホント素晴らしかったです。

後は、横幅要員に対する対処ですよね。両サイドの横幅全体をケアするわけにはいきませんから、どこかのエリアを捨てなければなりません。そこで中央のエリアを捨ててしまっているかのような体形になっていたのは、相手にとって非常に好都合だったでしょう。オフサイドなどによって得点にはなりませんでしたが、前半には見られなかった、中央からのスルーパスが出されるようになったのは鳥栖の守備として問題ありでしょう。

あとは、選手たちのこの試合にかけるメンタル面の差が、後半の勢いの差を生んだのかもしれません。マネジメント論の領域になるのですが、『直近に見える目標』というのは本当に大事で、目に見えない目標よりも、目に見える目標がある方がモチベーションは高まります。目に見える目標達成を積み重ねることによって、最終的な目的にたどり着くことができます。

この試合が終わったらという所では、鳥栖より川崎の方が「優勝」「ACL」の圏内が見えているので、目的と目標が近しい場所にあるのです。鳥栖は「優勝」「ACL」は遥か遠い位置にありますし、かといって負けたら即「降格圏」という風に火がついている訳でもない。目的を達成するための目標を定めづらいのです。

これに加えて、 「エース」「司令塔」「大型助っ人」の離脱というエクスキューズもあります。どこかで、○○がいたらと言う気持ちがあれば、それは次の一歩を鈍らせる原因になります。川崎は中2日という事前情報もあり、いつか体力的に落ちてくるだろうという思いもあったかもしれません。

無論、それは無意識の心理状態の中であって、鳥栖の選手も全力で戦っている訳なのですが、深層心理の状況では、川崎の方がある意味苦境だったのではないかと思います。これが、鳥栖が『負けたら降格』だったら、当然戦い方は変わっていますよね。当然、 常日頃から毎日毎試合全力投球だと選手はつぶれるので、モチベーションコントロールとフィジカルコントロールをしなければなりませんが、これこそ監督の大事なお仕事です。

鳥栖としては、順位的に目の前の目標設定が難しい位置に来ているのかなと言うところで、こういう状況でのマネジメントって難しいですけど選手たちのモチベーションを高めていくのも監督の仕事なので頑張って欲しい所です。

ボヤボヤしてたらすぐ目の前が降格圏だという風には決してならないように、願うばかりです。

<画像引用元:DAZN>




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Posted by オオタニ at 19:39 │Match Impression (2017)