サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2017年08月15日

2017 第22節 : 横浜F・マリノス VS サガン鳥栖

柏レイソルとの激闘を何とかスコアレスドローで終え、中3日でアウェーの地での連戦となった横浜F・マリノス戦。試合開始早々からカウンターによる手痛い先制点を食らい、その後は手を尽くして攻め立てるもののなかなかゴールを奪えず、途中、何度もマリノスのカウンターの餌食になりそうになりながらも、権田を中心とした守りで何とか追加点を防ぎ、同点、逆転への望みをつなぐものの、最後までゴールを奪えずにタイムアップ。近いようで遠い1点が奪えず、残念ながら上位を伺う勝ち点3を得ることは出来ませんでした。

まず、失点シーンですが、川崎戦でやられた状況と同じことを繰り返してしまいました。複数人で前から奪いに行くものの交わされてしまい、広大なスペースを利用されてサイドを独走され、最後は相手のフィニッシュ時の対応のまずさによって失点。どこかで見た光景による失点を再び見なければならなくなってしまったのは、決してうれしいものではありませんね。

ネガティブトランジションで積極的に奪いに行くことは決して悪いことではなく、切り替え時で相手が整っていない時こそ奪い返すチャンスであるとも捉えられますし、もしそこで奪えれば得点のビッグチャンスです。ただし、そのプレッシングにはリスクが生じるということを考えておく必要があり、そのリスクを冒してまで取りに行くべき状況であったかどうか、(そもそも奪える状況であったのか)ということを常にチームで意思統一する必要があります。(これこそがオーガナイズされた守備と言うものです。)

ただ、今回は結果的にこの前からのプレスが失点に繋がるプレイになってしまいました。ワンツーで裏抜けしようとしている選手がいる中、ワンツーの壁となる選手(最初のパスが出た相手)に対するケアが遅れているにも関わらず、複数人がそのボールに引きずられてアタックすることによって背後に広大なスペースを与えてしまうのは、そのスペースを使いたい山中の動きを考えると決して論理的な対処ではありませんでした。

もし、そこを前から行くのであれば、チョン・スンヒョンがスペースをケアするべく少し前目にポジショニングする必要がありましたし、山中と1VS1になってからアタックできずにリトリートのみの動きとなってしまい、最終的にシュートを打たれてしまった対応もミスと言っていいでしょう。開始早々のこのミスによる失点は痛かったですね。組織としての守備をモットーとしている両チームですので、得点の機会というのはなかなか得られないのですが、それをミスによって相手に与えてしまったのは痛恨でした。

2017 第22節 :  横浜F・マリノス VS  サガン鳥栖

守備のセットアップそのものは監督の準備の下に成り立っているのを感じました。センターバック2名に対してはイバルボ1人がついて、扇原、喜田の動きはチョドンゴン、田川がけん制し、マルティネス、斎藤(+サイドバック)に対してはサイドハーフとサイドバックの2名で対応する。そこにできたスペースを義希がケア。完全マンマークは無理なので天野の動きを注視しつつ、中央の3人でスペースケアと両立させるという所でしょうか。形としては、セカンドトップが引いて4-4-2や4-5-1という感じでした。3トップの3人の役割(タスク)がしっかりとしていたので、ブロックを組んでいる状態で不意にスペースを空けてしまってあっさりと崩されるということはなく、それだけに、ミスから発生したカウンターによる失点と言うのは悔やまれるものでした。

攻撃面ですが、イバルボを1トップに配置し、田川とチョドンゴンをセカンドトップ気味に起用。前線の3人が、最終ラインと中盤の間に上手くポジショニングしながらボールを引き出していました。中盤から後ろの動きとしては、ビルドアップ時にサイドハーフが下りてきて、センターバックと3人の隊列を作ります。サイドハーフの動きに連動し、同時にサイドバックが高い位置を保ちつつマリノスが形成するブロックの外側で待機します。形としては、3-4-3の形でしょうか。

この動きによって、センターバックとのパス交換で(時折下がってきた義希を活用して)でウーゴ・ビエイラと天野を無効化し、また、センターバックを経由したサイドチェンジがスムーズに行われていたので、逆サイドに展開してマリノスボランチのカバーリングの遅れが生じたところで、数的有利な状態を保ちつつサイドからの崩しをトライしていました。

マリノスとしても中央を割られたくないので、マリノスのサイドハーフは鳥栖のサイドハーフまで容易には出てきません。(出てきてしまうと芋づる式にスペースを空けてしまう)。ボールを外に追いやりたいマリノスの思惑通りであるという見方もありますが、苦労せずにボールをサイドから縦に持ちだせる形を作ったのは、鳥栖としては準備した通りの展開だったのではないでしょうか。

当然、ここまでは簡単にボールを持ちだせるので、そこから先をどう攻めるかというのが重要でして、例えば左サイドでは、パスの起点は原川であり、彼がボールを持って前を向いたところで田川が動き出しを始めます。サイドの局面で数的有利を作った後は、

・原川から田川に当てて、田川が引き付けた後にサイドの三丸に展開
・原川から田川に当てて、ポストプレイからの展開
・原川から三丸に当てて、三丸は引いてきた田川とのワンツーで抜け出し
・原川から三丸に当てて、プレスに入るサイドバックが空けたスペースに田川が抜けだし

という動きが求められ、実際にシュートチャンスを得たのは原川からの縦のボールが入ってからの展開でした。
当然、それは右サイドでも同じように構築されており、福田が引いて藤田をサイドから前に押し出し、チョドンゴンが上下動を繰り返してボールの引き出しを図るというのは左サイドの崩しと変わらないものでした。

また、そこにアクセントとして効いていたのがイバルボの奔放な動きです。中央の高い位置でボールを受けることもあれば、自ら引いてきて起点となることもあれば、サイドへの加勢に入ってより数的有利な状況を作り出すという動きによって、マリノスの守備の集中するエリアの分散を生み出し、鳥栖のボールの引き出し(攻撃のリズム)を作り出していました。イバルボが中央から出ていくことによって、マリノスのセンターバックを引き連れていくこともあり、中澤・デゲネクの高さのうちの1枚を引き出すことが出来ていたのはこの試合での重要なポイントでした。

藤田・三丸・福田(3バック時のアウトサイド)が自由に外でボールを持たせてもらっていたので、そこから単純にクロスを上げる攻撃も悪くないのですが、そのためには、中澤・デゲネクというセンターバックをすり抜けるピンポイントのボールを上げなければなりません。そのピンポイントのクロスにかけるよりは、3トップ(イバルボ・田川・チョドンゴン)の動きによって、中澤・デゲネクを引き出すシーンも作れていたので、そのパターンを繰り返す方がゴールの確率は高かった気がしました。後半、キーパーが飛び出した状態で単純にクロスをあげてセンターバックに跳ね返されていましたが、あれがこの試合の象徴的なシーンなのかなと。単純なクロスでは、中澤・デゲネクの壁は越えられません。

2017 第22節 :  横浜F・マリノス VS  サガン鳥栖

2017 第22節 :  横浜F・マリノス VS  サガン鳥栖

後半の選手交代は、私は決して得策ではないように感じました。システムの変更ではあったのですが、攻撃面では試合開始当初から4-4-3の状態から両サイドバックを押し出して3-4-3の形を作っていたので、それならば最初からその形を作っておこうというものなのですが、守勢に入ったときが、5-3-2の形になってしまうので、前に出ていくスピードに若干遅れが生じてしまいました。

また、豊田が入った余波により、イバルボが右サイドにポジショニングを行いましたが、これによってセンターバックが、豊田によって中央にピン止めされてしまい、これまで以上に中澤・デゲネクが中央にしっかりとポジションを取ることになったのは、得点の確率を下げる動きとなってしまいました。(豊田が中澤・デゲネクを凌駕するプレイヤーであればよいのですが、これまでの戦いからも抑えられてきていたので。)

池田に関しては、上下動を繰り返し、時折サイドに顔を出してボールの引き出しを狙っていたのですが、チームが最初から準備していたものではなく、個人の動きに期待して突発的なスペースづくりを狙うものであったため、味方との連動性に乏しく、引いてスペースケアをしながら構えるマリノス相手ではなかなか通用しない攻撃となってしまいました。池田の見せ場はアディショナルタイムに権田が蹴ったキックがゴール前まで行ったのに反応してシュートを狙ったシーンでした。このような突発的なチャンスが発生した時こそ、彼の持ち味として決めてほしかったのですが、わずかに足が届かず残念でした。

もうひとつ、選手交代によって、田川の役割(原川・三丸との連係)を担う選手がいなくなったので、左サイドからの攻撃が息を潜めてしまいました。前半から三丸が良い形でボールを持てていて、もう少しの工夫で崩し切れるというところだったのでそれを継続してほしかったなという気持ちはありましたが、マッシモさんとしては、やり方を少し変えて閉塞感を打破しようという意図だったのでしょう。豊田・池田の二人の息の合ったコンビネーションに期待していたのでしょうが、残念ながら実を結びませんでした。

攻撃の組み立て方そのものは悪くなかったので、人を変えることによって引き出し方を変えるという意味では、セカンドトップの位置に水野・石川を入れて、組み立ては変えずにボールが入ってからスピードによる突破を狙うという形もひとつの選択肢だったのかなという所です。彼らに田川・チョドンゴンの役割を担わせ、高さはなくなるものの、疲れが出てきた最終ラインに対して高さではなくスピードをぶつけて欲しかったですね。

この試合、マリノスへの対応としては、攻撃も守備もある程度仕込んできたのかなというのは感じました。監督のインタビューからもそれが伺えます。選手が大幅に入れ替わって戦い方を確立できていない状況で、やりたい事をやれたとしてもそれがなかなか結果として結びつかない状況ですが、千里の道も一歩からということで、試合を重ねていくことによって、ブラッシュアップしていくしかないですね。


<画像引用元:DAZN>


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Posted by オオタニ at 14:00 │Match Impression (2017)