サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年03月15日

2018 第3節 : 横浜Fマリノス VS サガン鳥栖

今シーズンのリーグ3試合目は横浜FMとの戦い。両チームともシーズン開幕から想定よりもエンジンのかかりが遅く、長いシーズンの為にも少しでも早く初勝利を挙げたいところでありましたが、序盤から積極的な戦いを挑んだサガン鳥栖に軍配があがりました。

今回のサガン鳥栖は、ルヴァンカップ湘南戦の終了後にそのまま神奈川に滞在するという選択をしました。移動の負担も軽減され、また、移動の時間を戦術理解や休息に使えるということが功を奏したのかもしれません。普段見るアウェーでの戦い(やや様子見からのスタート)とは若干異なり、かなり積極的な戦いを挑んできました。

試合は序盤からその成果を見ることができます。マリノスはサイドバックを駆使して変則的なビルドアップを試みる(後述)のですが、鳥栖はそのパターンにはまってしまう前に相手陣地から積極的にプレスをかけ、思うようなボール運びをさせないという選択をしました。デゲネクと中澤に対しては、チョドンゴン、イバルボのツートップが面倒を見ることになるのですが、そのプレスに対して、マリノスは扇原がセンターバック間におりて回避を試みます。そうすると、鳥栖は小野が積極的に扇原に付く動きを見せ、扇原を起点として自由に供給させないようにプレスをしかけました。その動きに連動して、山中、松原への供給に対しても福田、原川が運動量を駆使して対応し、そこから縦の位置にいる遠藤、ユンへの配球も小林、吉田が上手に阻止していました。

このように、鳥栖の前線の3人が流動的に動いてマリノスのポジションチェンジにフレキシブルに対応すると共に、前線の3人の動きに合わせてセントラルハーフ、サイドバックが効果的に連動して常に前からのアクションをかけ、これによって試合の主導権を握ることに成功しました。プレスを交わされて中町、天野あたりに繋げられると簡単に失点しそうな入り方だったのですが、圧力をかけ続ける事で相手のミスを誘うことに成功し、チーム全体でよく頑張ったと思います。ミスを誘発することによって、前線からボールを奪って何度かショートカウンターでシュートのチャンスを迎える事ができていましたし、マリノスにとっては、自分たちの形作りをしようと模索しているなかでの鳥栖の奇襲攻撃に合ったような心境だったでしょう。

2018 第3節 : 横浜Fマリノス VS サガン鳥栖

また、この試合で良かったのは、前からアクションをかける場合と、リトリートしてブロックを構える場合を上手に使い分けていたところです。特に、後半になって疲れが見える時間帯は、なかなか前からプレッシャーをかける事ができなくなったのですが、その場合は素早く4-4-2のブロックにシフトして、無用にスペースを与えない守備ができていました。マリノスは両サイドからという攻撃が明確だったので、ゴール前でのターゲットとなるウーゴヴィエイラをミンヒョクとスンヒョンの2人で見ることができたというのも鳥栖にとっては良かったですね。

そうはいっても、マリノスも攻撃(ビルドアップ)に関しては戦術的な狙いというものがはっきりしておりまして、見ていてなかなかおもしろいものでありました。扇原が中央に降りてきて3人でビルドアップを開始し、サイドバックは、ボールと遠いサイドのサイドバックがセントラルハーフの位置まで絞ってきます。(時には、2人のサイドバックがボランチの位置で並ぶことがありました。)マリノスのセントラルハーフとウイングの選手が流動的にポジションを変えておりまして、それぞれがスペースを作る動きに対して補完するべくローテーションのような動きを見せていました。当然、フィニッシュに備えてウーゴヴィエイラは中央に待ち構えている状態です。ざっくり図で表すと下のような感じになります。

2018 第3節 : 横浜Fマリノス VS サガン鳥栖

この動きの中で、マリノスの崩しで良いなと思ったのを2点紹介します。

一つ目は前半のシーン。最終ラインの3人でボールを回しつつ、前へのパスを伺います。サイドバックの松原が中央に絞ってきたことによって、フリーの状態を作り出せたので中澤はひとつ前へ展開。そこからサイドに張っている中町に渡すものの、原川のアクションが早くてマリノスは最終ラインに一度撤退します。

そこから組み立て直しの中でユンと中町が動き直しをしておりまして、ユンが元々中町がいたエリアにリトリートし、そして鳥栖の2列目と3列目のライン間に(原川も吉田も動けない位置に)するすると中町が入ってきており、松原を経由して中町にボールが入った瞬間は、鳥栖はセンターバックの2人がいるだけでした。あとは、中町がウーゴヴィエイラにどうフィニッシュしてもらうかというプレイの選択という場面だったのですが、(鳥栖にとっては幸運にも)トラップをミスしてしまいまして、原川がリトリートして詰めることができる時間ができました。この、松原が中央に入ってくる動きを見ながら、ライン間にポジションを取る中町も意識しなければならないという状態は、鳥栖のセントラルハーフにとっては非常に頭を使う対応を強いられていました。

2018 第3節 : 横浜Fマリノス VS サガン鳥栖

2018 第3節 : 横浜Fマリノス VS サガン鳥栖

二つ目は後半のシーン。こちらは鳥栖にすこし疲れがでてきておりまして、前半のような前からの敢然たるプレスができずにややブロック守備が多くなってきた状態です。マリノスは右サイドで構築しようとするのですが、鳥栖のブロックの隙がなくて左サイドに展開。例によってサイドバックの山中が中央に入ったことによって、テゲネクが持ってあがるスペースが出来ます。

デゲネグは少しボールを運んだ後に、素早くサイドに張る遠藤に展開。これによってマリノスの連動のスイッチが入ります。ウイングの選手を自由にさせないというタスクをしっかりと守る小林が遠藤に対してプレスをしかけます。ボールが入ったのを見越して、天野がフォローで近寄ってくるのですが、当然中央のエリアを見る高橋も天野についてきます。ここでポイントなのですが、サイドにボールが入ったことによって、福田が挟み撃ちをしようと遠藤に圧力をかけ、鳥栖は3人でボールを奪おうという動きを見せました。結果的にボールは奪えなかったのですが、この連動も前半から続けてきた動きであり、これはこれでよかったと思います。ただ、ボールを奪えなかったという結果だったという事ですね(笑)

さて、天野にプレスをかけたところで、山中は、鳥栖がサイドの遠藤に食いついて空けた裏のスペースに向けてランニングを始めます。もし、サイドバックの位置からのランニングであれば、福田がそれに気づいてフォローできていたかもしれません。山中が中央に絞り込んでからのランニングなので、サイドに詰める鳥栖のハーフの背後の中で起きている事象であり、なかなか福田がつけないような状況を生みました。こういう所もこのポジショニングの利点ですね。また、天野も遠藤にボールが入った瞬間のフォローから縦へ抜ける山中に対して絶妙なパスを送りました。テゲネクのパスをスイッチに、3人の動きが連動したマリノスの素晴らしい攻撃でした。

2018 第3節 : 横浜Fマリノス VS サガン鳥栖

2018 第3節 : 横浜Fマリノス VS サガン鳥栖

2018 第3節 : 横浜Fマリノス VS サガン鳥栖

………いかん、マリノス応援ブログみたいになってしまっていますね(笑)

では、鳥栖の攻撃に関してはどうだったのでしょうか。前から奪えていた時は当然ショートカウンターだったのですが、ブロックを構えてからボールを奪った時の起点をどうするかと言うと、やはりイバルボの存在は欠かせないものでした。

前述のように、マリノスはサイドバックを中央に寄せるのでどうしてもネガティブトランジションでは、サイドにスペースを生み出すことになります。そのスペースに対してイバルボが入っていくことによって、カウンター攻撃の起点作りを果たすことができていました。何度か権田からの素早いフィードを受けて前進するシーンがありましたが、そのポジション取りもマッシモから指示されていたのではないかと思われます。

また、サイドでイバルボが起点作りをしてくれるため、チョドンゴンが中央でラストパスを待つ形作りができたのが良かったです。この試合のチョドンゴンは、中澤、デゲネクから逃げることなく肉弾戦を選択し、怯むことなく体を張ってロングボールに挑んでいました。その副産物だったのですが、中央でロングボールを受ける用意をしていたからこそ、先制点は一度中澤に弾かれたものの、天野のバックパスミスをチョドンゴンが中央で奪ってそのままゴールに流し込むことができました。長崎戦のように、サイドに流れて基点づくりをしている状況ではあのゴールは生まれなかったということです。

そういう意味では、イバルボが中央で中澤たちとロングボールを競り合うよりは、サイドのスペースをついてボールを運ぶ方が当然のことながら彼の長所を生かせるわけでありまして、イバルボが復帰して彼がサイドで起点を作ってくれるのは鳥栖にとって大きなアドバンテージとなりました。イバルボとチョドンゴンの配置は今後もこの形で行きそうな気がします。あとは、イバルボにボールが入ってからの周りのフォローですね。彼がつぶれてくれたときに、それを活用して前進できるスペースを生かすことができれば、もっともっと攻撃の幅が広がるでしょうね。

しかし、マリノスの新たな試み(攻撃の形作り)が完成したらどのようなチームになるのかというのは楽しみですね。鳥栖にとっては、早めに当たって良かったかもしれません。今回は、まだまだマリノスが未完成な状況であったので鳥栖の方に軍配が上がりましたが、彼らのサッカーがより完成に近づいた時に、さて、マッシモはどのようにして対処する方法を考えるのか、またそういう戦術の応酬も楽しみなところであります。

第3節は、イバルボの復帰と共に、何とか今シーズンの初勝利をあげることができました。次のホーム鹿島戦は、早くも今シーズンの浮沈のカギを握る試合となりそうです。非常に楽しみですね。

<画像引用元:DAZN>


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Posted by オオタニ at 18:34 │Match Impression (2018)