サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年11月08日

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

2018年第31節、V・ファーレン長崎戦のレビューです。もう少し掘り下げたかったのですが、時間が足りなかったのでポイントだけ振り返ります。(それでも十分長くなりましたけど(笑))

鳥栖のセットアップは4-4-2。戦前から別メニューとなっている選手の情報がネットニュースに上がっていましたが、その情報が正しかったみたいで、金崎、小野、豊田がベンチ外でした。ツートップはチョドンゴンとトーレス、中盤は原川、秀人、義希、福田のラインナップ。最終ラインは変更ありません。

一方の長崎はいつもの3-4-1-2システムではなく、4-4-2システムによる序盤の戦いとなりました。狙いとしてはミラーゲームにすることによってマーキングを明確にすること。3-4-2-1システムでは、鳥栖2センターバックに対して前線はファンマ一人になるので、前から行くためにはセカンドトップのうちの一人がプレスに入らなければなりません。最終ラインに自由な時間を与えないように、また、マーキングの乱れによるスペースを使われないように、予め明確にプレッシングの相手を決めてしまおうという事だと思われます。その戦術に呼応するように、前線から平松とファンマが運動量激しく最終ラインに対してプレッシングを行い、鳥栖の自由に繋ぐプレイを阻害し、単純にボールを蹴らざるをえない状況を作り出していました。

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

対する長崎はファンマを狙うというコンセプトが統一されていました。鳥栖も比較的高い位置からプレッシングに来ており、トランジションの場面においてボランチ経由でつなごうとすると、積極的に秀人と義希がつぶしに来ていたので、ドイスボランチのプレッシングをかわすために早めにボールを蹴ってしまう方が得策という形になります。この試合の秀人と義希のトランジションでのプレスは非常に素晴らしく、長崎が攻撃に入ろうとしたところで素早くチェックしてショートカウンターに繋げる場面が多くありました。長崎としては、それを防ぐ手立てとしての早めのロングボールというのは悪い選択ではなかったかと思います。鳥栖としては、秀人と義希が前から行くものの彼らの頭上を超えるボールをファンマに送られることによって、セカンドボールに対するアクションが少し遅れるという状況を生み、また、長崎の前半20分過頃のシステム変更によって明確にセカンドトップとドイスボランチがこぼれ球を拾う形を作り出し、徐々に長崎がセカンドボールを奪取できるという状況につながりました。

このように、前半から互いに守備アクションが激しく、繋ぐ余裕を与えてもらえなかったので、トランジションの応酬(ロングボールの応酬)というやや落ち着かない形での序盤となりました。つぶし合いの状況は一つのミスによって大きなピンチを生み出すことになります。一時も気を抜けないという状況が、更にチャージが激しくなる戦いを演出しました。退場者が出てもおかしくなかった状況ですが、木村主審はスタジアムの雰囲気に圧倒されることなく冷静に笛を吹いていたと思います。イエローカード乱発で荒れはててもおかしくない試合をぎりぎりのコントロールで対応して頂けたのではないかなという感想です。

さて、トランジション合戦も少し落ち着きを見せると、鳥栖が少しずつビルドアップを試みるようになりました。特徴的なのは福田のポジショニングでありまして、ボールを保持するとポジションを非常に高い位置にとって相手のサイドバック(ウイングバック)が前に出てきづらい状況を作っていました。福田がサイドバック(ウイングバック)を引き連れてスペースを作ってフォワードが入ってくるきっかけを作ったり、福田が引いて空けたスペースにトーレスやチョドンゴンが入ってボールを受ける形を作ったり、時折、福田自身が小林から縦パスを受けてサイドでのポストプレイを行ったり、いろいろな工夫を見せてボールを前進する仕組みを試みていました。ロングボールもツートップ一辺倒ではなく、逆サイドの高い位置にポジションを取る福田に対しても送られていましたし、ある意味4-3-3の3トップの一角のような働きを見せてくれました。

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

福田のポジショニングに呼応するように、チョドンゴンは両サイドのスペースに入ってボールを受け、トーレスは中央をベースとしてポストプレイ、そしてフィニッシュの役割をこなしていました。特にトーレスはビルドアップの場面やカウンターの場面で、いち早く顔を見せて縦へのボールを引きだすプレイをチョイスしていました。彼からのサイドチェンジも何回かあり、チョドンゴンがサイドに流れて、中央で待ちかまえるトーレスにクロスという形も複数回トライできていました。互いの役割が整理されていた証拠だと思います。

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎


長崎にとってはミラーシステムで相手の良さを消すと同時に、当然、その形だと反対にボール保持時は鳥栖のプレッシングを受ける事になるので、攻撃面ではあまりメリットがありません。序盤から激しく見せたプレッシングも体力の低下と共に少しずつ鳥栖にスペースを使われる事にもなってきました。このままつぶし合いで試合が終わってしまうのは勝ち点3が欲しい長崎としても得策ではないということ、また、序盤に鳥栖にイニシアチブを持たれないという目的は果たしたという事でいつもの3-4-2-1に戻したのではないかと思われます。

長崎がいつもの形に戻したことによって、セカンドボールの奪取とサイドからの攻撃が明確になります。まずはトップのファンマに当てて、セカンドトップがボールを受け、鳥栖を中央に密集(義希と秀人を中央に集めさせる)させたタイミングで素早くサイドの翁長や飯尾に展開してチャンスを作ります。飯尾も翁長がサイドでボールを受けると一人はがしてクロスを上げる事ができるので、鳥栖はサイドからのクロスで何度かピンチを迎えていました。飯尾や翁長がサイドバックのマークを受けて動けなくなった時には、セカンドトップの2人がウイングバックの裏のスペースに入り込んでいましたし、そのあたりは長崎の攻撃がこの一年で洗練されているなというのを感じました。

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

鳥栖も、プレッシングにずれが生じる事によって、ビルドアップの工夫ができるようになります。原川がサイドバックとセンターバックの間のスペースにポジションを取り、そこに義希が絡むことによって数的優位を作る攻撃を見せていました。そこでボールキープができると三丸が裏へのスペースにオーバーラップする出番もできますし、三丸が引き付けることによって、原川がハーフスペースでボールを受けたり、相手のウイングバックの裏でボールを受けることもできます。

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

長崎の4-4-2システムでのスタートは互いにつぶしあう形でトランジション合戦を生み出し、長崎が3-4-1-2システムに変更することによって、ミスマッチによって生まれるスペースを利用したビルドアップ攻撃を生み出すという、試合展開のキーは長崎が握っていたという展開でした。

どちらが得点してもおかしくないという状況のなか、後半になって長崎の運動量が落ち、プレッシングの強度が低くなってきたところで鳥栖がボールを保持できる状況を生みます。得点は、押し込んでボールキープしてからの崩しによるものでした。福田がハーフスペースの高い位置へ入ってウイングバックを引き寄せている状況ですが、ボールを左右に回しながらチョドンゴンとトーレスが中央で基点を作ると、自らが空けたスペースを利用するべくややワイドにポジションを構えます。トーレスからの展開を受けると中央に入ってくるチョドンゴンにピンポイントクロス。クロスが上がるときには逆サイドハーフの原川がしっかりとペナルティエリアに入っています。トーレスのポストプレイ、福田の動きとクロスの質、チョドンゴンのシュート精度、原川のポジショニング、それらがしっかりとかみ合ったナイスゴールでした。

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

鳥栖が先制したことによって、長崎が攻勢に出ます。鳥栖としてはその分裏のスペースもあるわけでありまして、カウンター攻撃をしかけますが、なかなかよい形を作れません。時間が過ぎていき長崎がセンターバックの一角を攻撃参加に出すシーンも多くなってきた頃に明輝監督が動きます。小林を吉田に代えて5-4-1システムに変更します。長崎の3フォワード+両ウイングバックが前線にポジションを取るので彼らに対するマークを明確にする事、そしてドイスボランチとセンターバックのオーバーラップを中盤の4人で見る事というタスクが与えられました。

5-4-1システムはマッシモ時代にもあまり記憶がありません。そのあたりは明輝監督の色が出たとも言えるでしょう。システム変更時には、チョドンゴンに代えてトップの位置に入っていた田川を右サイドハーフに据えました。このあたりは考え処ですよね。カウンターの場面でトーレスに預けるボールを送り込むよりは、裏に蹴っ飛ばすことが多くなったので、田川をトップに置いて右サイドハーフは安在という選択肢もあったかなとは思います。ただし、ボールキープに関してはトーレスの方が何枚も上なので、5-4-1にした上でボール奪ってから彼に預けるという形を作りたかったのかもしれません。どのような形で時間を進めるかという所の意思統一が必要ですよね。そのあたりはこれからまだまだ成熟が必要な所でしょう。監督が変わったばっかりなので、これからですね。

さて、システムを5-4-1にしてからすぐにこの試合最大のピンチを迎えるのですが、チャンスの後にピンチありとでも言いましょうか、原川のクロスが相手にカットされてからのカウンター攻撃によるものでした。中央でボールを受けた中村慶が鳥栖の左サイドに向かってドリブルで前進します。その時にマークについていた吉田が中村慶に着いていく決断をして逆サイドまで引っ張られます。これによって、鳥栖の右サイドに大きなスペースをあけることになるので、ボランチの位置に入った吉田と入れ替わりで秀人が右ウイングの位置に入ります。中村慶は、秀人が戻りきる前にスペースに入ってくる選手に対してパスを送り込みました。ここからがポイントなのですが、吉田は中村慶がパスを送った後に、右ウイングバックのポジションに戻ろうとします。本来、秀人がボランチの位置にポジションをとっていたならば中央へのクロスに備えて中央のスペースを守る動きをしていたはずなのですが、ポジションチェンジした吉田は秀人が右ウイングのポジションをカバーリングしているにも関わらず、右ウイングの位置に戻ろうとしてしまいました。これによって中央が薄くなり、サイドに展開した中村慶にクロスが入ってボレーシュートを放たれてしまいました。権田のスーパーセーブによって救われたのですが、5-4-1システムにおけるポジショニングはもう少し習熟が必要かもしれません。

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎

大事な大事なシックスポイントマッチを勝点3という最高の結果で終える事ができました。これによって、鳥栖は、残り試合を3連勝することによって自動で降格圏を脱出できるという権利を得る事ができました。(マリノスと勝ち点差2なので上回ることが出来ます)
最大の目標である残留まであと一息ですね。予断を許さない状況ですが、チーム全体で一丸となって残留を勝ち取りたいですね。

<画像引用元:DAZN>


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Posted by オオタニ at 12:25 │Match Impression (2018)