サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年03月23日

2018 第4節 : サガン鳥栖 VS 鹿島アントラーズ

今シーズンの初勝利をアウェーであげ、ホームでの連勝を狙う2018シーズンの第4節でしたが、試合開始早々に鹿島に先制を許し、そのビハインドを取り戻すことができないままタイムアップとなってしまいました。試合は負けてしまいましたが、攻める気持ち、勝ちたいという戦いっぷりはスタンドまで十分伝わってきましたし、鳥栖の選手のみならず鹿島の選手も含め、中盤でルーズボールになった際の互いに迫力のある奪い合いはサッカーの面白さを十分に感じることができました。

残念ながら、鹿島の先制点は、今年のサガン鳥栖の失点パターンにもろに当てはまるものでした。

「ビルドアップを試みるもそのボールが上手く収まらずに相手に奪われ、ショートカウンターで出されたボールに対してセンターバックがチャレンジするもボールを奪えずに相手のコントロール配下となる。そして、センターバックが空けたスペースを利用してシュートチャンスを作られる。」

今回は、鈴木がポジショニングしているエリアはミンヒョクのエリア内ではあるのですが、失点のシーンではスンヒョンがプレスに入りました。これにより、ミンヒョクとスンヒョンが交差するような形のポジションとなり、ミンヒョクのカバーが少し遅れ、金崎がスペースに入ってシュートを打てる時間を作ってしまいました。守備ラインが整っているときは、このようなセンターバックのプレスに対しても、サイドバックである吉田がカバーリング出来る余裕があります。しかしながら、ショートカウンターのような場面で、ブロックがしっかり作りきれていない場面では、センターバックのスペースをカバーすることができていません。(図を参照)

2018 第4節 : サガン鳥栖  VS 鹿島アントラーズ

2018 第4節 : サガン鳥栖  VS 鹿島アントラーズ

2018 第4節 : サガン鳥栖  VS 鹿島アントラーズ

ここ数試合を見るかぎり、ミンヒョクとスンヒョンの両センターバックがチャレンジする際のリスクコントロールは今年の課題となりそうです。ミンヒョクもスンヒョンもスピードがあり、対人にも強く鋭いダッシュでボールを奪いきる能力を兼ね備えています。センターバックとしての最大のタスクはボールを奪う事ではなく、シュートを打たせない事なのですが、彼らに能力があるからこそ、その優先順位が逆転してしまい、リスクが顕在化するケースが度々出てきています。プレスとリトリートは一瞬で判断しなければならず、非常に難しい選択を迫られるとはいえ、今シーズンはボールを奪いに行くチャレンジに失敗してスペースを与えて失点してしまうというプレーが多く見られるのが非常に気になります。

鳥栖のミスもあったのですが、とにかく、この試合の金崎は非常に良い動きで攻撃の起点となっていました。スペースを察知する動きそしてそのスペースを利用する動きが鳥栖のディフェンス陣をことごとく苦しめました。セントラルハーフとディフェンスラインのライン間に現れたかと思えば、サイドバックの裏のスペースに現れることもあり、また、ハーフウェーラインでボールを受けた時は猛然と縦にドリブルを仕掛けたりとピッチを縦横無尽に駆け巡っていました。

2018 第4節 : サガン鳥栖  VS 鹿島アントラーズ

鳥栖は金崎の動きを単独で止めることに苦労していました。ディフェンスラインとセントラルハーフの複数人で対応しなければならない状況が多く、金崎の動きを止める事に人数を割くことが、スムーズにカウンターに移行できないことにもつながっていました。サイドのスペース奥深くに入られ、そこにセントラルハーフがサポートに行った場合、そのスペースケアにフォワードが戻らなければならなくなります。フォワードのリトリートは、カウンター攻撃の配置としては低いポジショニングとなってしまい、ボールを奪って縦に送ってもそこが永木、三竿の餌食となるエリアとなってしまいます。これによってトランジションの場面でイバルボがよくつぶされていました。プレーをいったん止めることによって鹿島は悠々と守備ブロックを作る準備ができ、効果的なカウンターをなかなか許してくれませんでした。鹿島は攻撃をしかけている中であっても、ネガティブトランジションの設計が非常に整備されていました。

4-4-2で固める鹿島に対して、4-3-3の形でビルドアップを挑んだ鳥栖でしたが、序盤はやや前から奪いに来る鹿島を回避するために長いボールを使った攻撃を多用しました。長いボールも外に蹴るのではなくて中央を利用し、ヘディングが強い選手(おもに小野)を三竿にぶつけて空中戦で優位に立ち、セカンドボールをツートップが回収というシーンを作っていました。リスタートでもボールをつなぐ選択をせず、あえて権田からの長いボールを選択していたのも三竿には勝てるという意図があったのでしょう。実際、セカンドボールを拾ってからサイドへ展開というシーンを作ることが出来ていました。

鹿島は、鳥栖の長いボールに対する対策としてロングボールの競り合いにセンターバックをぶつけるという選択肢もあったでしょうが、あくまでも中央は空けないというコンセプトを維持し、ブロックを構えてセカンドボールに対するケアを優先しました。そして、徐々に、鹿島のフォワードのプレッシャーがボールを奪うためのものではなく、中央へのパスを通さないコースカットのための動きが多くなってきました。鳥栖としては、鹿島がブロックを構えるのである程度ボールを持つことができ、長いボールを蹴る必要もなく、自然とショートパスをつなぐビルドアップ重視の戦い方へと変化していきました。

2018 第4節 : サガン鳥栖  VS 鹿島アントラーズ

2018 第4節 : サガン鳥栖  VS 鹿島アントラーズ

ビルドアップの場面では、鳥栖の2センターバックに対しては、鹿島の2トップが迫ってきます。これを回避するために原川が引いてボールを受ける役割を果たしました。鹿島はブロックを崩したくないので、原川に対してインサイドハーフが出ていくまでのプレス体系は作らず、原川が引いた位置ではある程度ボールを保持することができました。そこから前に運ぶところで本当は中央でイバルボが持つ形を作ったほうがゴールに近い位置でプレイできるのですが、三竿と永木が決してイバルボを自由にしてくれないため、イバルボもボールを自由に持つために自然とサイドにポジションを移す形になっていきました。

そうなってくると、チームとして中央はあきらめて最初から外を使いましょうということで、システムを4-4-2に変えたサガン鳥栖。互いのインサイドハーフ、サイドバックがマッチアップするのですが、原川が引いて受けても更にアウトサイドに福田が構える形を作り、更にフォワードが一人サイドに加担することで数的優位な状態を作ることができ、サイドバックから縦にボールが入りやすい形になりました。

当然、縦一本槍ではなく、サイドバックから縦に入ってきたフォワードに入れてその平行にインサイドハーフがポジションを取ったり、時にはフォワード2人を寄せてサイドから中への道筋を作ろうとしていたのですが、ちょっとでも中に入ると永木と三竿の容赦ないプレスがかかるためなかなか中央を割れません。かといって、縦に入って外からクロスをあげても、中には強固なセンターバックの跳ね返しが待っているということで、最終的には外で受ける吉田が相手を一人はがしてクロスを上げるなり、イバルボが一人はがしてシュートを打つなりというところが頼みの綱になっていました。

後半に入るとサイドを使う動きはより顕著になり、セントラルハーフを3人寄せて攻撃の起点を左サイドに求めるようになります。高橋秀が深い位置に入ってきてボールキープに加担したのは、リスクを負ってでも点と取るという意思の現れでした。ただし、高橋の場合はサイドでフリーで受けたところでそこで何かを起こせる選手ではありません。吉田や福田がサイドで受けて相手のサイドバックと1VS1で対峙するのとは次へのアクションが異なります。高橋に関しては、ビルドアップに加担するよりは、クロスを待ち構える要員としてゴール前に張ったほうが良かったのではないかと。センターバックに対して高さのある高橋秀をぶつけることにより、クロスに対する脅威も増しますし、それによって裏から入ってくる福田がフリーで生きる形を作れれば昨年のゴールの再来が見られたかもという期待はあったのですが。

執拗にサイドからの攻撃を続けるサガン鳥栖は、原川がインサイドレーンでボールを保持し、大外の吉田と福田を使うという形が効果的でありまして、もしかしたら、中央を空けたくない鹿島としては鳥栖がサイドに人を寄せてきても最終的には捨ててもOKなゾーンだと割り切ったかもしれません。

鳥栖としては、OKなゾーンだと割り切ってもらったバーターとしてボールの前進は許してもらえるのですが、残念ながらシュートをどこで打ちましょうかという問題が最後まで解決しませんでした。前半にことごとくクロスを跳ね返されたのがトラウマになったのか、後半になるとサイド深く入ってもクロスも上げるようなシーンもなかなか作れず。人数を多くかけてボールを保持できていたのでより深い位置からの崩し(マイナスの折り返し)を狙ったのかもしれませんが、4-4でしっかりとブロックを作る鹿島ディフェンスの中央をこじ開けるまでは至らずにペナルティエリア付近で停滞。打開を図ろうとボールを右サイドへ展開しても小林が孤立した状態になると右サイドはほぼノーチャンス。先制点を奪われて攻撃しなければならない状況だと右サイドは個で打開できる選手が欲しい所ですが、鹿島のカウンターをさばくには小林は最適なサイドバックでありますので、やはり、先制点を奪われた事自体が試合を難しくしてしまいました。

2018 第4節 : サガン鳥栖  VS 鹿島アントラーズ

2018 第4節 : サガン鳥栖  VS 鹿島アントラーズ

2018 第4節 : サガン鳥栖  VS 鹿島アントラーズ

攻め込んでいるようで効果的なシュートシーンが作れない状況の中だと、当然、ボール回しの中でミスも発生します。トランジションでの動きが明確である鹿島は、金崎・鈴木を起点としたカウンターが炸裂するので鳥栖のディフェンスラインは一時も気が抜けませんでした。鹿島のカウンターで、原川が全速力で自陣に戻ってプレスバックをかけるという昨年から比べると守備の意識が明らかに向上しているシーンを見れたのは、筆者にとってはある意味この試合最大の収穫でした(笑)しかし、カウンター攻撃で鹿島は金崎、鳥栖はイバルボという、預ける味方が明確であるというのは大きな武器です。

後半も15分くらいになると、段々と前線の動きが少なくなってきたので、活性化の為に田川を入れた鳥栖ですが、彼が入ったことによって明確に攻撃方法が変わるわけではありませんでした。田川を左サイドに張らせて小野を中央に置いた方がクロスに対するチャンスがあったような気がしないでもないですが、田川のポジション取りとしてはチョドンゴンとほぼ変わらず。皮肉にもパワープレイをしかけるべくスンヒョンが中央で張ることになり、田川が押し出されて左サイドに入った方が彼の持ち味が生きて縦に入ることができていたような気もします。

最後まで中央を空けきれない鳥栖でしたが、対比すると面白いシーンがありまして、クロスに対して鹿島はほとんどが植田、昌子が弾き返すというセンターバックが中央を固める守備でしたが、鳥栖は吉田、小林と、サイドバックが絞ることによってクリアするというシーンがよく見られました。当然、どちらが良い、悪いという話ではないのですが、鳥栖としては鹿島のセンターバックが強いので、そこを外すような仕組みづくりが欲しかったですね。鹿島のサイドバックがゴール前で守らなければならないようなシーンが作れれば、ゴールに一歩近づけたかもしれません。

ボールを保持して前進できていただけに最初の失点があったことが本当に惜しかったですし、ほんのわずかなミスを逃さない鹿島はさすがというべきでしょう。鹿島の出足の鋭さ(ネガティブトランジションでの守備スピード)は鳥栖を上回るものでありました。何よりも、1点リードで単に後ろを重たくするのではなく、プレスとリトリートをうまく使い分けて、ボールを保持しつつ守るという事が出来るのは鹿島の強みですね。鳥栖は1点リードの終盤は5バックにして後ろが重たくなって我慢できずに失点というシーンがあります。守り切れるならばそれでも良いのですが、結果的に追いつかれることもままあり、今回の鹿島の攻めも守りも一体となってトランジションにつながっているという試合運びは見習うべきところが多々あるところです。

余談ですが、試合前にベアスタグルメの喫茶ジェイさんと、「鹿島との試合はいつも固くなるから、たまには4-3みたいなバカ試合を見たいね」と話していましたが、やっぱり固い試合になり、望んだようなバカ試合にはなりませんでした(笑)

次は名古屋戦です。鹿島よりはスペースができて攻撃できる隙はあるでしょう。ただし、鹿島以上にボール保持されて鳥栖が作るスペースにピンポイントで入ってくる選手が多くなってきます。鳥栖として、前から奪いに行くのか、後ろでスペースを消すのか、ジョーへの対処は、シャビエルへの対処は、など、マッシモがどのような戦いを挑んでくるのか非常に楽しみであります。第5節はスタートダッシュにおける一区切りですので、ぜひとも勝利をあげて勝ち越しのスタートを切りたいところですね。

<画像引用元:DAZN>


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