サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年04月05日

2018 第5節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

日本代表ウィークを終え、久しぶりにベアスタに帰ってきた我らのサガン鳥栖。2018シーズン第5節は、風間監督の攻撃的な戦術で注目を浴びている名古屋グランパスとの戦いです。

個人的には、風間さんはサンフレッチェ広島のイメージ。Jリーグ創設期は九州から一番近いJリーグチームは広島ということで、漠然とサンフレッチェを応援しました。風間さんはドイツから戻ってきてサンフレッチェを支えた中盤の司令塔でした。そういえば名古屋グランパスも当時のチーム名は名古屋グランパスエイトでしたね。あの頃から考えると創設期に10チームだったJリーグが今や3部リーグまであり、そのチーム数もすでに54。Jリーグの発展の歴史を見守ることができたのは非常に幸せなことです。

この試合、注目するべきはまずは名古屋のビルドアップでしょう。登録は4-3-3でしたが、ビルドアップでは小林が下がって最後方は3人。両サイドバックが前方に張りだし、中央はインサイドハーフが2人でつなぎ役をこなして、トップはジョーを頂点として、秋山とシャビエルが時にはウイング、時にはセカンドトップとして自由に動きまわる形でした。見た目には3-4-2-1というところ。

鳥栖のスターティングセットアップとしては、小野がトップ下のポジションを任されて4-3-1-2という形が多く、今節も同じ形でのスタートでした。鳥栖が4-3-1-2でスタートする意図としては、2通り考えられます。

▼ パターン1
ハイプレスからのボール奪取の仕組みを作り、小野の動きによって相手をハメに行くタイミングを作ること。ビルドアップに3人が並ぶチームに対してそこから奪う仕組みを作るトリガーとして小野がその役目を果たす。トップの3人が誘導する方向に向けてインサイドハーフとアンカーが追随することによって、相手のミスを誘って高い位置でボールを奪う。ビルドアップが不安定なチーム(ボールを運ぶメソッドが確立されていないチーム)であれば、一気呵成に優位に立つ。

▼ パターン2
中央にプレイメイカーがいる場合に、その選手へのつなぎに備えて小野が中央を固める。フォワードはミドルプレスでパスコースを制限するにとどまり、誘導の成功に伴って全体を前に押し上げる。プレスのトリガーはインサイドハーフが担う。ビルドアップが安定しているチーム(ボールを運ぶメソッドが確立されているチーム)に対して、後手を踏まないように慎重にスタートする。

今回の鳥栖のスターティングのスタイルはパターン2でした。筆者としては思ったよりも慎重にスタートしたなという印象です。もっと小林に対して小野がプレッシャーをかけるかと思っていたのですが、小野はどちらかというとつなぎ先である長谷川を意識したポジショニング。リスタート(ゴールキック等)からは、最終ラインがボールを持つことを嫌って前に人を配置するのですが、いざ最終ラインがボールを持ってしまうと、ツートップ+小野はパスコースを防ぐにとどまり、プレスに飛び込んでかわされて芋づる式に抜かれてしまうというリスクを回避。名古屋のビルドアップをリスペクトした試合の入り方でした。

そうは言うものの、できれば高い位置でボールを奪いたい鳥栖は、機を狙って前からのプレスに行きたいところです。ただ、そこは小林裕がうまくビルドアップをコントロールしてボールロストを防いでいました。鳥栖のツートップが前に出てきたときは最終ラインに下がって数的優位を作り、鳥栖がブロックを作る構えを見せた時には、やや高めにポジションを取り、長谷川、青木に並んで中央でのつなぎ役を果たす。小野の役割としては中央を割らせないという役割を与えられていており、開始当初は長谷川をしっかりと抑える動きを見せていました。鳥栖が中央を固めていたため、脇のスペースに気付いた名古屋が上手にそのエリアを使いだすと、鳥栖は中におびき寄せられて外を使われるという形を作られてしまいます。鳥栖のインサイドハーフとしては、アウトサイドを気にするとアンカーとの空いたスペースを利用され、アンカー脇のスペースをケアするとサイドバックにボールを通されてサイドの数的不利を生んでしまうという、序盤からなかなか難しい選択を強いられることになりました。図で表すと下のようになります。

2018 第5節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス


鳥栖としては、4-3-1-2の時に、中央は割らせない事には成功したけどもサイドでの数的不利を上手に使われてしまったという事で、結果的にその仕組みを解決できないままシャビエルにPKを与えてしまいました。PKは権田がナイスストップ。ただし、そのあとのセットプレイで失点を喫してしまいました。では、PKのシーンと失点シーンに着目します。

PKのシーンは、ビルドアップのスタートとしては全体にバランスよく選手が散っています。そこから、ボールを持ちながら(前に運びながら)狙えるスペースができるのを待ち構えます。4-3-1-2で良くなかったのは、相手の両サイドバックが大きく張り出してそのスペースを利用できる準備ができているにも関わらず、鳥栖はインサイドハーフが行くか、サイドバックが行くか、いずれにしてもアプローチが遅れていました。数的には常に不利な状況でサイドの守備を強いられており、そのエリアに対してアプローチで全体のスライドが取れなかったときに、シャビエルがしっかりそこを使うと。PKのシーンはその典型的な崩し方でした。

2018 第5節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

2018 第5節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

2018 第5節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

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次に失点シーンですが、フリーキックの跳ね返りがシャビエルの足元に落ち着きます。その際、鳥栖のディフェンスラインはカオス状態からラインを整える動きを見せ、シャビエルには福田がつきます。ここでスンヒョンの選択が肝なのですが、ラインを離れてシャビエルと並ぶ名古屋の選手のマークのためにポジションを上げました。結果的に、これがシャビエルの使えるスペースを与えることになってしまいました。

ただ、鳥栖にダブルのミスがあったとはいえ、シャビエルの右に行くと見せかけて左足のアウトサイドではたいて中央に入ってきたプレイは見事。福田は良い勉強になったでしょう。

2018 第5節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

2018 第5節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

ちなみに、後半にミンヒョクのクリアが空振りとなってしまって2失点目を喫してしまいましたが、これはポジショニングの問題やプレーチョイスの問題ではなく、また、戦術的な改善が必要なものでもなく、若干足元も滑ってしまったということもあるので、不運だったということで収めましょう。こういうプレイはシーズンを過ごしていれば発生するものです。ミンヒョクはミスを補ってあまりあるほど、スルーパスのカットや味方のカバーリングをこの試合で何回も果たしています。84分にスンヒョンが抜かれたシーンをカバーリングしたプレイは、2失点目のミスを帳消ししたビッグプレイです。筆者としてはこの失点のミスは、彼の確固たるレギュラーの座を脅かすものではないと考えます。

サイドに対する数的不利を解消するために、鳥栖は小野を動かしてシステムを4-4-2にします。序盤の4-3-1-2がハマらなかった場合は、スペース管理が安定している4-4-2になるのはいつも通りの展開です(笑)これによって、中央の人数が減ることになりますので、名古屋のビルドアップ隊に対するフォワードがかけるプレッシャーを必要最低限にし、プレスバックによって中央をケアするという形をとりました。

名古屋のビルドアップで感心したのは、ツートップの脇のスペースをチーム全体が上手に利用するところです。鳥栖はハイプレスをあきらめていたので、ツートップはセンターライン(長谷川⇒ジョー)を割らせないことを意識した守備になります。名古屋はそれを逆に利用して、センターバック、インサイドハーフ、アンカー(小林裕)そして時にはセカンドトップ(シャビエル)が下がって、ツートップ脇のスペースをビルドアップスペースとし活用していました。このスペースを活用することによって、鳥栖をサイドによせて降りてくジョーにドスンと縦パスを当てるという大胆なパスもありました。スペースを利用する、また、自分が動いた場所が新たなスペースになるという選手間の意識の共有がなされた攻撃で、高いレベルでの意識共有ができていました。また、名古屋の常にラストパス(中央へのスルーパス)を意識した攻撃とそれを察知してギリギリのところでカットする鳥栖の最終ラインの攻防は、試合の最初から最後まで、驚嘆と安堵で興奮のスパイラルに陥ってました。

2018 第5節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

鳥栖の攻撃は、この試合で決定的な違いを見せてきたのは低い位置からでもクロスを上げてきたこと。これはマッシモ監督に代わってからあまり見られなかった現象で非常に驚きました。今年で言うとマリノスや鹿島の試合では、中央が固いという事もあるのか、(終盤のパワープレイを除いて)センターバックの高さにぶつける勝負を挑むよりはパスをつないで相手を崩すことに専念しておりました。しかしながら、今節では少しゴールから遠い位置からでも早めのクロスでセンターバックへ勝負を挑むプレイが見えました。原川がペナルティエリアの手前から左足でクロスを上げたり、小野や吉田が角度さえできれば遠い位置からでもゴール前に放り込んだり、何よりもサイドバックのタスクとしては優先度が低いという小林からも崩し切る前に何本もクロスがあがっていました。これは間違いなく監督のオーダーでしょう。

また、名古屋が思いのほかハイプレスで来たこともあり、ビルドアップに窮屈になった鳥栖は長いボールを蹴ることになります。プレスで鳥栖に長いボールを蹴らせ、本来は成功であったはずの名古屋のディフェンスだったのですが、その長いボールに対してセンターバックが競り負け、また、前から奪うために高い位置を取ったハーフ陣がセカンドボールを拾えず、思いもよらずに長いボールが鳥栖のチャンスメイクに大きく寄与していました。イバルボとチョドンゴンは、試合を重ねるごとにヘディングによってボールをフリックするエリアの意思疎通ができてきた印象です。

鳥栖の本来の攻撃パターンとしては、サイドからの崩しをモットーとするので、長いボールもサイドバックを狙うケース(小野・イバルボをサイドバックにぶつける)が多いのですが、前半から相手センターバックに対しても長いボールで十分に勝負できたため、ビルドアップを省略して早めに中央でフォワードに当てるボールを蹴り、てきめんにチャンスにつなげていました。

名古屋としては…

前からプレスに行く 
⇒ はずされて長いボールを蹴られる 
⇒ 競り負けて裏のスペースにフリックされる 
⇒ ダッシュでリトリートする

のコンボを食らうことになり、ミドルプレスで様子見のスタートとなった鳥栖とは対照的に体力を削られていく守り方(守らされ方)になってしまいました。守備による疲労が影響を生んだのか、距離感を保ってビルドアップを行ってきた名古屋が、後半に時間がたつにつれ、段々と味方との距離が遠くなり、思うようにパスがつながらなくなってしまいました。「自分たちを見失ってしまった」という名古屋側のインタビューがありましたが、名古屋がやりたかったことを果たせなかった要因のひとつは試合のペースによる体力の消耗でしょう。選手間の距離が離れてしまうことにより、また、ビハインドを負っている鳥栖のプレスが後半に強くなってくるにつれ、ボールを蹴らなければならない状況が少しずつ増えてきました。当然、体力の低下は守備にもあらわれ、埋められるはずのスペースが埋められず、固めなければならない状況でリトリートできずという状態になってきます。

また、ホーシャの怪我で、後半から入った押谷がセカンドトップ(ウイング?)になり、櫛引を左センターバックに寄せ、秋山がポジションを下げて左サイドバック、シャビエルはインサイドハーフに入りました。名古屋はこの交代によって、シャビエルがゴール前からやや遠い位置にポジションを取らなければならなくなり、また、シャビエルに守備のタスクが増えたことはチーム全体としては攻守に大きな影響を与えました。

後半も終盤になると、いつも通りサイドに流れるイバルボとのマッチアップによって名古屋のサイドバックを完全に押し込みました。小野もサイドの高い位置にポジショニングをとることになり、サイドバック、インサイドハーフとの縦の連携は、最後の最後でいつものサガン鳥栖の攻撃のスタイルとなってきました。イバルボがアバウトなボールでも収めることができるのは鳥栖の大きな強みですが、小野もロングボールに強くて、相手サイドバックと競り合う際にはイバルボよりもむしろ小野の方が強いですよね。同点ゴールも小野が競り勝って生まれたチャンスでした。

田川は試合に出てから自分の居場所をいろいろと探していたのですが、最終的にはイバルボの衛星になることによって、名古屋のお株をうばうような細かいパスで左サイドを崩し切り、決勝ゴールを挙げることができました。裏を抜ける強みもありますが、イバルボの衛星となって細かいタッチで崩し切るのは今後の鳥栖の戦術の幅になりそうですね。

鳥栖は、劇的な逆転ゴールで幕を閉じ、貴重な勝ち点3を得ました。勝利のために選手たちのあきらめないという気迫も必要なのですが、サッカーは90分間というスパンの中でどのように体力を使うか、どこでアクセントをもつかというのが改めて大事だとわかりました。

<画像引用元:DAZN>



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Posted by オオタニ at 19:06 │Match Impression (2018)