サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年04月19日

2018 Jリーグカップ4節 : サガン鳥栖 VS 湘南ベルマーレ

Jリーグ杯4節の湘南戦のレビューです。現地観戦のみで映像がないので記憶を頼りに。

鳥栖のセットアップは4-4-2。スタメンには新鮮な顔ぶれがずらりと並びました。注目するべきは伊藤と加藤。二人ともホームでは初お目見えという事でその動きが気になるところです。

試合は一進一退のペースで進みます。湘南がある程度前からプレスに来ており、サイドに対するプレッシャーもあったのですが、その分両ウイングバックの裏のスペースが空いていたために、鳥栖は長いボールを効果的に送りこんでいました。前線の4人(伊藤、河野、水野、ヨンウ)がロングボールに反応してダッシュを繰り返し、基点をサイドの裏に作ることによって攻撃を構築することができていました。また、ショートカウンターの場面では、ドリブルの出来る水野やアンヨンウが積極的に個人での打開を図ってシュートまで持ち込むというシーンも作れていました。

ただし、湘南もサイドの裏のスペースを狙われていることは段々と理解してくるので、ウイングバックを押し上げた前線からのプレスを抑え、ミドルプレスに移行してきます。コンパクトなブロックを組んで迫ってくる湘南の守備陣に対してコンビネーションでの打開が難しかったのか、段々とサイドバックを経由して長いボールを蹴っ飛ばすという形になってきます。

そうなると、長いボールを納めたり先にヘッドで競り勝ってセカンドボール合戦にシフトさせたりするフォワードが必要なのですが、当然のことながらそのプレイは伊藤の戦場ではなく。伊藤は足元で前を向いて勝負したかったでしょうが、飛んでくるボールは自分の頭の上ばかりで苦労していた印象です。せめてスペースにボールが出てきてくれたらそこで納めて勝負ができたかもしれませんが、湘南のセンターバックとウイングバックがその戦場に持ち込ませるのを許してくれませんでした。こういう展開になると、長いボールにしっかりと絡んでくれる池田圭先生のありがたみというのをしみじみと感じます。伊藤はもう少し別の状況でプレイを見てみたいですね。

ドイスボランチはどうだったかと言うと、湘南のセカンドトップが鳥栖のドイツボランチのポジションにハマっていたので、義希と加藤で打開するのはちょっときついエリアでした。湘南のワントップのプレス(二度追い)だけで高橋祐と藤田が裁ききれずに、時折キーパーに戻さざるをえなくなっていたのは、ビルドアップ面で考えるとちょっときつかったです。キーパーに戻した時にビルドアップをやり直すという選択はなく、ファーストチョイスは「蹴っ飛ばす」でしたし。

ロングボールの応酬でボールが落ち着かない時に、加藤が最終ラインまで下がって湘南のプレスを回避するべくフォローに入ったシーンは、試合全体の流れを掌握したプレイができているなと感じたものの、そこから相手の急所を突くようなパス出しとまではいかず。「ひとまずボール保持だけはできるよ」という時間を作ってくれるに留まっていました。

では、「ボール保持は出来るよ」の時間を作るためにドイスボランチが引いた時に、その位置に水野やアンヨンウが下がって次の引き出しに備えてくれるかというとそうでもなく、湘南のディフェンスラインの裏を伺って「ここに蹴ってくれ」アピールが至る所であっている状態。そのあたりは控え選手中心のメンバーと言う所で攻撃の意思疎通が難しかったでしょうね。加藤が高橋祐の脇のスペースに下がって数的優位を確保してプレスを回避したシーンは少し攻撃方法の転換を見せてくれるかなと思ったのですが、前線が「こっちー!」ってボールを呼んでいる状態でもあり、ボールを持って辺りを伺うと湘南のプレスも段々と強まってしまうので、結局は蹴ってしまう感じでした。

そんなこんなで、後半になっても全体的にビルドアップよりもロングボールを蹴ってセカンドボールに対するリアクション(もっと言うならば運やミス待ち)に頼るところが大きかったです。サイドからの攻撃もありましたが、なかなか再現性を確保するとまでは行かず、アンヨンウ、水野、河野のセンスに頼ってそこにサイドバックのフォローがハマったら前進できたという所でした。田川が入ってからはロングボールでも競り勝ち、スペースに入るスピードも上がったので長いボールをマイボールにできる確率が上がったのですが、残念ながら最後まで得点とまでは至りませんでした。

守備面では、何といっても今回の試合で特筆すべきは無失点というところです。無失点を生んだ要因は義希と加藤のドイスボランチの活躍でしょう。互いにボールの動きに対する察知、そして味方が作るスペースのケアに優れていおり、そしてなおかつチームの為にサボらずに走るという鳥栖らしいプレイヤーで、無失点という結果に大きく貢献しました。二人ともにセンターバック、サイドバックが持場を離れた事によって空けたスペースを埋めるという所をそつなくこなしており、このドイスボランチは、二人で組み合わせることによって相乗効果を生んでいました。

加藤は初見でしたが、味方選手との距離感を保つためにラインコントロールの中でポジションを取っている中で、湘南の最終ラインからボールがでるタイミングでそのパスの出所を察知して敵にいち早く寄せ、ボールを刈れずとも前を向かせずにビルドアップのやり直しを相手が選択せざるを得なくさせていくプレイは非常に素晴らしいと感じました。常に周囲を確認して味方とのバランス取りを意識しながらポジショニングを考えており、かといってスペースを守るだけの消極的なプレイで終始するのではなく、時折見せる積極的なプレス(リスクを追ってでも前に出るプレイ)はショートカウンターを繰り出すためには必要なプレイでした。

後半に、ドリブルで運ぶ選手をフリーにしてパスの受け手の方に引っ張られて中央のスペースを空けて侵入を許してしまったシーンがありましたが、加藤のイメージの中(読みの中)で先に動きすぎて当てが外れて逆を取られるという事のないよう、チーム全体が彼の所でボールを奪うという仕組みづくりができればリーグの中でも活躍できるのではないかと感じました。

私の記憶の中では、福岡や鳥栖に在籍したホベルトが初めて試合に出た時のような印象でした。攻撃面では大きな成果は出せませんでしたが、守備面でチームのほころびを未然に防ぐための目に見えない役割を着実にこなせるという感じですね。こういった選手は生かすも殺すもチーム次第(好き好みは監督次第)なのでしょうが、個人的には加藤は大きく飛躍してくれる可能性のある選手だと思いますし、今後に期待したいです。

ただし、インサイドハーフの役割は守備だけではなく、敵をかわしながらボールを運ぶスキルや長短のパスやボール保持で攻撃を構築するスキルも必要でありまして、そのあたりは原川、福田の方が優れているというところではあります。そのあたりをマッシモさんがどう評価するかでしょうね。

さて、センターバックに藤田が入っていたのですが、意外にもしっかりと役割を果たしてセンスの高さが伺えました。ロングボール、ハイボールの競り合いを高橋祐に任せて、藤田はカバーリングに入るという役割分担も試合の中で整理されており、相手に裏を取られるような大きなミスもなく、彼もまた無失点試合に大きく貢献してくれた一人ですね。何となく、どちらかというと、終盤に本職であるはずの右サイドバックに入った時の方がやや不安だったような気がしたのですけど気のせいですかね(笑)

この試合は、守備を堅くするためには最終ラインの人数を増やす事が大事なのではなく、前線から守備を構築することが大事であるということがよく分かった試合でした。守備ブロックだけに固執するのではなく、時折、河野や水野が守備のスイッチを入れて前から圧力をかけるのも良かったですね。そのスイッチに義希、加藤、そして最終ラインの選手たちが頑張ってついてきていました。

鳥栖も湘南もレギュラーというわけではありませんでしたので、戦術的に洗練されたレベルの高い試合というわけではありませんでしたが、なかなか試合に出られない選手たちのアピールの場ということもあり、全員が良く走って積極的にボールに絡んでいくという、見ていて気持ちの良い試合でした。引き分けは残念でしたが、良い試合を見させて頂きました。


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Posted by オオタニ at 19:37 │Match Impression (2018)