サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年04月27日

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

2018年第10節 川崎フロンターレ戦のレビューです。

鳥栖はスンヒョンの出場停止というのも影響したのか、ここ2試合で採用した3バックシステムではなく、フラットな4-4-2でこの試合に臨みました。ドイスボランチを高橋秀、原川で組み、サイドハーフには福田と義希が入ります。川崎は守備時には4-4-2(序盤は4-3-3)の形でしたが、攻撃時にはエドゥアルド・ネットが引いて3人で最終ラインで組み立てを行い、エウシーニョと車屋のポジションを押し上げて3-4-3(3-4-2-1)のような形で攻撃を仕掛けてきました。

鳥栖は前半から積極的にボールを奪いに前にでます。4人のセントラルハーフで左右のスペースを圧縮し、フォワードの2人のプレスによって、ボールのサイドを限定させて前線に繋がる前にミスを誘ってショートカウンターに繋げていました。特に前半の小野の守備に対する貢献と言うのは素晴らしく、川崎が3人でボールを回すのに対して鳥栖は田川と小野の2名が前線で守備する役目だったのですが、小野は数的不利を感じさせない程、2度追い、3度追いも厭わず走り回って、川崎が中央から縦パスを入れられない状態を作っていました。ただ、その頑張りが攻撃面に影響がでて、スルーパスに走り込む事ができないというような疲労を生んでしまったのは、考え処であるかなと言う所です。

また、川崎も高い位置でボールを奪いたいという意欲が見え、4-3-3のような形で前線からプレスに入っていました。鳥栖がプレスをかわしてボールをサイドに回し、そこに川崎が圧縮した時にボランチの脇にスペースができておりまして、ここに鳥栖のセントラルハーフが入り込んでボールを受けた時はチャンスになっていました。福田も高橋秀も原川もいい形でそのスペースでボールを受ける事が出来ていたので、鳥栖にとってはリズムの良い立ち上がりでありまして、その流れに乗って田川、義希とチャンスがありましたが決めきれず。序盤のうちに川崎が鳥栖の出足と出方に慣れきっていないタイミングで仕留める事が出来ていればと悔やまれますが、なかなかそう甘くはありませんでしたね。

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

さて、鳥栖の守備ですが、右サイドと左サイドで守り方が異なっていたのは、見ていてちょっと面白いところでした。

左サイドの吉田と福田は人に対して強い意識を持った守備でややマンマークに近い守備で構えていました。マンマークの利点としては、必ず人に付くのでフリーとなる選手を作らずに守備を構える事が出来ます。ただし、弱点としては、攻撃側の動きに守備側の選手が連動するので、ポジショニングに関するイニシアチブを攻撃側に奪われがちになるところです。川崎は中央から攻めようとしてなかなか突破口を作れなかったのですが、左サイドの守備のクセ(福田の動き)を見抜いてからエウシーニョがやや高い位置にポジショニングを取り、福田を押し下げる動きを見せだしました。この動きによって、川崎が鳥栖の左サイドでの崩しが活発になってきます。

図で示すように、エウシーニョについてくる福田をコントロールすることによって、川崎がドリブルできるスペースづくりや、パスを受け取ることのできるスペースづくりなど、攻撃のバリエーションを見せてきます。特に、福田がエウシーニョについて、吉田が家長についてと、双方共がひっぱられてしまった時は、有効なスペースを川崎に与えてしまっていました。福田と吉田は非常にアジリティに優れているので、そうやって相手にコントロールされてスペースを利用されてもスピードと体力でカバーリングできるのですが、これが後半に入ってくると体力の低下から、カバーが追い付かない部分が出てくることになってしまいます。

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

それに対して、右サイドの義希と小林に関してはゾーンとスペースケアの意識が強く、互いの連係も良くて相互のカバーリングもできていました。図では、中盤でボールを拾っているシーンですが、流れの中で小林がサイドハーフの位置にポジショニングし、義希がサイドバックの位置にポジショニングしています。バランスを取って互いにポジショニングできていたことにより、小林がセカンドボールを拾う事ができました。

また、義希は車屋のポジショニングにひっぱられすぎずに、中央のスペースを消しながら車屋をケアするポジショニングを取っていました。アウトサイドの幅取り要員に気を取られて引っ張られてしまうと最終ラインの前のスペースを空けてしまって中村憲に利用されます。車屋を完全無視してしまうとサイドに展開されてあっという間にサイドバックとの1対1を作られてしまいます。図でもありますように、義希は中央にポジションしながら、車屋にボールが出たらいつでも間に合うよ、いつでもスライドするよ、というアクションを見せており、川崎のパス回しを牽制しながら制していたのは見ていて素晴らしいなと思いました。まさにゾーン守備ですよね。また、そこに追従してラインを上げてスペースをケアする小林との連動も非常に良かったと思います。

しかしながら、幅取り要員を捕まえて人をフリーにさせない左サイドと、幅取り要員に左右されずにスペースを守る右サイドという対照的な守備は、マッシモさんの意図通りだったのかと言うのは気になるところですね。どちらも要求通りだったのでしょうか。福田のコメントを見るとあまり下がりたくなかったかのように語っていましたけどね。

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

さて、失点シーンですが、いずれの失点も川崎のワンタッチのダイレクトプレーによって鳥栖のプレッシャーが追い付かず、自由にボールをコントロールされる状況になってしまいました。ゾーン守備は相手がゾーンに入ってきてから捕まえに行くという形ですので、マンマークに比べると若干のタイムロスがあります。よって、ワンタッチで完璧にコントロールされると相手に後れを取ってしまうことになります。

1失点目はディフェンスライン的にも2列目的にもプレスに行ける態勢は整っており、トラップという間ができればすぐにでも囲い込んでボールを自由にさせない事が出来るコンパクトネスだったのですが、残念ながらここからワンタッチプレイの連続で崩されてしまいました。シュートの場面は、少しボールが遊んでしまって、ディフェンスとキーパーの連係でなんとかなったような気がしないでもないですが、阿部の足の方が少しだけ早かったですね。この川崎の一連の動きは非常に素晴らしく、なかなか防ぎようのないゴールでした。

2失点目は1失点目よりは対処のしようがあったかなと思うのですが、1失点目と同じく中央のバイタルエリアで基点を作られてしまいます。スローインからの流れなのですが、6人がディフェンスラインに並んでしまい、バイタルのケアが薄い状態で家長にうまく利用されてしまいます。そこからダイレクトで裏のスペースへボールを送り込まれてしまい、そして折り返しのボールを蹴られてしまいます。ここで、原川とミンヒョクはゴール前のスペースを埋めていますが、吉田は戻りきれていません。残念ながらちょうどそのスペースを小林に使われてしまいました。吉田がミンヒョク、原川に追従してゴール前のスペースを埋める事ができていればあるいは…というところですね。

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

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2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

敗戦は悔やまれますが、ディテールの部分を良く見ると川崎は前半から非常に良いサッカーをしておりました。特に、鳥栖の左サイドの守備をコントロールしながらの攻撃は見ていて唸る部分が多く、後半になって小林、大島と役者が登場してからはエンジンがかかってあっという間に得点を重ねました。その中でも中村憲というのはやっぱり優れたプレイヤーで、そのポジショニングとパスのセンスは、さすが優勝するチームをけん引する司令塔であるなと感じました。前述のエウシーニョを活用したスペース利用も見事だったのですが、囲まれて後ろ向きであるにも関わらず、前を向いて縦にパスを送るプレイは見ていてしびれました。まさに、この隙を突いた縦パスこそが、今の鳥栖のプレイヤーではなかなか実現できないプレイであり、得点力の原点となりえるプレイですよね。鳥栖は後半に攻勢に出ても、なかなかこの縦パスが入れられなくてシュートチャンスを作る事すら苦労していました。

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

川崎の得点はワンタッチプレイの連続から挙げたものでありますが、鳥栖もワンタッチによる攻撃を仕掛けようとする場面は時折見られました。残念ながら味方と呼吸が合わなかったり、パスがミスになったりしてチャンスに繋げることが出来なかったのですが、このダイレクトプレイを活用しないと引いて守る守備ブロックはなかなか崩せません。ミスを恐れずに今後もチャレンジしてほしいところではあります。ただ、この試合の中でのパスの精度、トラップの精度に関しては、川崎との力の差をまざまざと見せつけられた試合でもありました。そういえば、田川のトラップが決まっていれば…というシーンも多くありましたね。

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

2018 第10節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

今シーズン好調の広島、昨年度優勝の川崎と、強豪が続いての連敗はまだ致し方ないと思える部分もありますが、次節の鳥栖と同じく今シーズン調子が上がってこないガンバ大阪との戦いは、前半の試金石となる試合になりそうです。ここで連敗が止まらない(引き分けにもならない)ようであれば、何らかのカンフル剤を求める声も大きくなってくるでしょう。非常に重要な試合なので、是非とも結果と言う形で応えて欲しいですね。


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Posted by オオタニ at 18:41 │Match Impression (2018)