サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年05月01日

2018 第11節 : ガンバ大阪 VS サガン鳥栖

2018年第11節 ガンバ大阪戦のレビューです。

鳥栖はシステムを3バックに戻しましたが、押し込まれる時間帯が続き実質的に5-3-2という形での戦いとなりました。対して、ガンバですが、最終ラインは4バックでドイスボランチに遠藤とマテウス。攻撃的中盤に米倉、藤本、倉田が並び、トップでファンウィージョという形でこの試合に臨みました。

2018 第11節 : ガンバ大阪 VS サガン鳥栖

システムの組み合わせ図で黄色くかこったところがこの試合のポイントとなったエリアなのですが、両ウイングバックが押し込まれて下がってしまったことによって、セントラルハーフの脇のスペースがガンバに良いように使われるスペースとなってしまいます。セントラルハーフが中に絞ったり外をケアしたりしますが、その動きに連動してフォワードがパスコースを限定することができず、どうしてもガンバのビルドアップを防ぐための解決策を作ることが出来ませんでした。結果として、今回の3バック(5バック)システムでの対応は人数をゴール前に集めて粘りを発揮するというだけで、前線からの積極的な守備が実行出来ず、試合全体としてはあまり機能していなかった印象です。

守備の機能性に関しては特に鳥栖の左サイドに問題を感じました。ガンバがスペースを狙って基点を作りますが、その基点づくりをどうやって回避するかという解決策が最後まで導き出せませんでした。下にいくつかの例を出しますが、原川が中央に絞ると外側のスペースが空いて吉田が前に出ざるを得ず、原川が外をカバーすると高橋秀とのスペースが空きすぎてガンバが縦パスを送るエリアとなってスンヒョンが出ざるを得なくなるという状態です。フォワードもカウンターのロングボールを追うのに体力を使い切ってしまって、ボールを左右に回されていくうちにパスコースを限定するような対応が取れなくなり、攻守ともに精彩を欠いてしまうようになってしまいました。

2018 第11節 : ガンバ大阪 VS サガン鳥栖

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押し込まれる時間が続くと、中盤のスペースをケアするためには小野がリトリートして埋めることになります。そうなると、前線に選手がいなくなるので、ポジティブトランジションの場面になった時にボールの出しどころがひとつなくなってしまいます。ガンバからすればボールを奪われてもパスが出てくるところが決まっているので、そこに一人つけておくだけでカウンターのピンチを回避することができていました。ボールを奪っても田川、小野に出したところでまた奪われてというピンチが何回もあり、鳥栖としてはカウンター攻撃を構築することがほとんど出来ませんでした。

2018 第11節 : ガンバ大阪 VS サガン鳥栖

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そうなると、鳥栖の選手もフォワードに出してもすぐに奪われて攻撃にさらされることになるので、足元に付けるよりは裏を狙って田川を走らせようという事になります。そうやって、鳥栖がボールを支配することが出来ずに、奪ったらすぐに蹴るという単調な攻撃となってしまいました。リードしているチームの後半のような戦いで、奪われるリスクを回避しているようで、結果的にボール保持できず、自分たちの時間を作れず、押し込まれて体力が削られて自分たちを苦しめてしまう戦いでした。完全に負のスパイラルに落ちいっています。ガンバのプレッシャーも強く、ボールがアウトしない限りはビルドアップという形に持って行けずに、体力的にも非常にきつかったと思います。

また、この試合は苦しくてアップアップとなり、我慢できずに前に出たい、得点を取りたいという意識が強くでてしまったのか、選手たちの守備に対する意識がいつもより希薄であるように見えました。後ろで耐える時間が多く、チャンスがあれば前から奪いたいという事だったのでしょうが、ボールを奪いに行くにしても連動性がないため、ガンバにあっさりかわされてピンチを迎えるというのがすごく多かったです。ここの所、ゾーンディフェンスよりもマンマークの意識が強いような守備を見せるようになっていましたが、この試合ではそのどちらとも言えないような中途半端なシーンが多く、ここ最近始めた3バックの守備の影響がもろに出ていたと思われます。守備のコンセプトは変わらないというものの、選手配置が変わると守備のトリガーも変わるわけでありまして、選手たちとしては非常に難しかったのではないかと。

2018 第11節 : ガンバ大阪 VS サガン鳥栖

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前半のこのシーンは是非とも紹介したいのですが、セットプレイのこぼれ球をガンバに拾われてからの義希の動きに注目して欲しいです。

遠藤がボールを拾うのですが、義希はその遠藤のボール奪取に目もくれずにまっすぐにゴール前に向かってダッシュを始めます。カウンター攻撃を防ぐ手立てとしてゴール前のスペースをケアすることは一番重要な要素です。義希はそれを理解し、セットプレイ崩れで味方センターバックがいない事を察知して一目散にダッシュでリトリートしています。この動きこそが一番危険なゾーン(守るべきスペース)を守るという基本になります。ガンバはそのスペースを狙いたいために米倉が走り、ボールを送り込むのですが、義希がしっかりとスペースケアをして失点を防ぐことができました。

この時、義希がダッシュを開始した時点で同じような位置にいた原川はジョグで戻っている状態で、スペースをケアしなければならないという意識があったのか疑問に思います。昨年のガンバ戦で、ゴール前でボールを奪われてから、三浦にオーバーラップを許して右からのクロスで失点してしまったシーンがありましたが、原川がジョグで戻ったことによって守備の人数が足らずにガンバへのスペースを与えてしまったという事がひとつの要因でした。今回はたまたま義希が戻ったために失点にならなかったのですが、原川はこの試合でも昨年のアウェーガンバ戦と同じような対応を取ってしまっています。このカウンター攻撃に対するリスクマネジメントの意識をチームに植え付けさせることが出来なかったとしたら、それはマッシモさんの責任でしょう。守備を重んじるチームがこのような動きを見せていたのでは、失点は時間の問題であるというのを非常に強く感じましたし、実際、2失点目は同じような形で失点してしまいました。

2018 第11節 : ガンバ大阪 VS サガン鳥栖

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2失点目ですが、セットプレイをクリアされて吉田がヘッドで繋ごうとしますが福田がうまくボールをキープできずにガンバボールとなってしまいます。ここからの動きが問題のシーンです。自陣には吉田、藤田しかスペースを守る選手がおらず、しかもガンバの選手が4人もそのスペースを狙ってダッシュを始めたにも関わらず、福田と原川がボールウォッチャーとなって動きません。福田と原川が守るべきスペースはこのセンターサークルエリア付近ではなく、味方センターバックが不在となっている自陣ゴール前であるべきはずなのに、戻る動きを見せずに足を止めてしまっています。

また、スンヒョンも彼がまず行うべきはゴール前に戻る事であり、このシーンで一人プレスに行ったところでボールを奪える状況でないのですが、ボールに向かって歩を進めてしまっています。スンヒョンがプレスをしかけた事によって、逆にガンバの選手がボールを素早く前に出したために攻撃のスピードがあがってしまいました。このシーンの守備対応としては、鳥栖の選手全員が全力で戻ることによって、ボール保持者がパスを出そうとする意識からドリブルで運ぼうという意識に持って行く方が攻撃のスピードとしては遅くなったはずです。

こうやって、福田、原川、スンヒョンが中途半端な対応を取ってしまったことによって、ガンバに広大なスペースを与えてしまい、最後はファンウィージョが藤田とのマッチアップを制してゴールを決められてしまいました。味方が多く戻っていれば、吉田もファンウィージョにプレスに行けたかもしれないですし、藤田も相手の選択肢が多くある中での対応よりはファンウィージョだけを見ておけばよい対応の方がシュートブロックの成功確率も高くなります。前半の同じような場面では義希が全力でリトリートしたために事なきを得ましたが、この場面ではチームが攻撃にシフトするための選手交代を行っていた為に守備意識の高い義希がおらず(ゴール前を全力で守るという意思を持った選手がおらず)ガンバに2失点目を喫する事となってしまいました。

2018 第11節 : ガンバ大阪 VS サガン鳥栖

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3失点目に関しては、下図のような形だったのですが、チョドンゴンの不慮の事故があった上に、スンヒョンを上げてパワープレイをしていたために、そもそもの守備の人数が不足しておりました。スンヒョンは前線に上がってからボールを追いまわす役目も与えられ、守備の際には中盤のスペースをケアする役目も与えられて非常につらい状態でした。彼を責めるのは酷でしょう。チョドンゴンがピッチを去った段階でチーム的には死に体となってしまっていたので、システム(やり方)を変更した方がよかったのかもしれません。3失点目は得失点差を考えると非常にもったいなかったです。

2018 第11節 : ガンバ大阪 VS サガン鳥栖

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突然ですが、マッシモ監督のサッカーの魅力とは何でしょうか。

少なくとも、サガン鳥栖として歴代築き上げてきたものは、手を抜かないハードワークと最後まであきらめない気持ちの見える戦い、そしてそれを具現化するのが堅固な守備(無失点試合)だと思っています。ここ最近の試合では、失点を繰り返してその築き上げてきたサガン鳥栖らしい試合とは程遠い結果となってしまっています。筆者的には、この試合のように、選手たちの守備意識が段々と希薄になって、組織的に戦えていない状況に危機感を覚えます。

マッシモ監督のサッカーの魅力は、守備意識を選手たちにしっかりと植え付け、それを戦術として具現化できるところだと思っています。徹底的にボールを保持してスペクタクルな攻撃を展開するようなサッカーだとは思っていません。(まあ、見れるのなら見たいのですが)サガン鳥栖として、やるべきことをやって負けたのならば納得も行くのですが、ハードワークもできず、前から奪うという積極的な守備も展開出来ず、ましてや選手が守備に戻る事もできないままの失点というのは、見ていて失望を感じてしまいます。

体力的な問題、意識の問題、戦術の問題などいろいろとあるのでしょうが、それらを最適な形でマッシモ監督が解決してくれることを心から望んでいます。攻撃の構築に関しては怪我人と言う影響は多々あるかもしれませんが、守備意識の希薄さというのは前線の選手の怪我は理由になりません。結果が出ていないので後ろを固めるという戦術にでたりと、ここの所消極的になっているのかもしれませんが、是非とも原点に立ち戻って、サガン鳥栖らしい積極的なハードワークを見せてほしいと思います。

監督人事というのは、短期間の成績で左右されるものではなく、クラブ理念に基づいて、クラブが実現しようとするビジョンに向かっていないと判断されたときに一つの手段として監督人事が発動するものだと思っています。勝利という結果が出ている時には表だって見えないものなのですが、結果が出ていない時であるからこそ、果たして現在のチーム運営としてクラブ理念の実現に向かっているのか、今一度見つめ直さなければならないですね。

■株式会社サガンドリームス クラブ理念
私たちは、『人づくり』『まちづくり』『夢づくり』の実現のため努力いたします。
私たちは、地域の人々に『愛され』『親しまれる』クラブ創りを目指し努力いたします。
私たちは、常に前進し未知のものへ挑戦いたします。

<画像引用元:DAZN>

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Posted by オオタニ at 20:42 │Match Impression (2018)