サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年05月17日

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

2018年第14節 浦和レッズ戦のレビューです。

浦和レッズの布陣は、最終ラインに3人で両ワイドに売出し中の橋岡と宇賀神、アンカーは青木が務めて2列目を柏木、長澤、トップは武藤、興梠という布陣です。セットアップは3-3-2-2(3-1-4-2)のような感じですが、柏木が引いてボールを受けたり、長澤がワイドに広がってボールを受けたり、武藤がサイドに飛び出してそこに2列目が入ってきて3トップのようになったりと、鳥栖の守備体型に応じて前線の4人が流動的に動いておりました。

鳥栖のセットアップは5-3-2。久しぶりに復帰した池田がスタメンに入ります。福田は怪我の影響でベンチにも入れない様子でちょっと心配ですね。ワールドカップ期間中にしっかりと治してもらいたいところです。

試合は、早速前半から浦和レッズが押し込む展開となりました。システムのマッチアップ図でもあります通り、鳥栖がまず考えなければならないのは浦和の3バックに対して2トップによるプレッシングという数的不利であるところ。何もしなかったら、前線の2名がはがされて5-3ブロックによる守備となりますので、そこに至る前の所でなんとかプレッシャーをかけて簡単には攻撃させたくないところです。

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

鳥栖の解決策としては、フォワード2人に右サイドへのプレッシング(槇野対応)をタスクとして割り当て、ボールが鳥栖の左サイドに展開された場合には、インサイドハーフを1列あげてプレッシングを慣行するという対応でした。インサイドハーフが前に出る事によってスペースを空けますが、そのスペースは主に高橋祐がカバーリングするという構造となっていました。

本来であれば、最終ラインに対して鳥栖が同数を当てながら浦和をサイドに誘導し、ウイングバックのアジリティを活用して高い位置でボールを奪ってからのショートカウンターと行きたい所ではあるのですが、鳥栖のプレッシャーを受けても浦和はなかなかボールロストをしてくれませんでした。鳥栖のプレッシングがインサイドハーフを中盤の位置から上げるという形だったので、ボールが遠藤に入ってから相手に寄せるまでの距離・時間が少しだけ空きます。この少しの間というのが相手の技術が高ければ利用できるポイント(時間・スペース)となってしまいます。

前からのプレッシングというのは、プレスをかけたプレイヤーがカットしてボールを奪えれば当然最高の成果なのですが、そのようなシーンはなかなか作れないにしても、圧力をかける事によって相手のミスを発生させることもまた、目的の一つです。慌てて縦パスを送った時の精度の悪さを狙ったり、繋ごうとしたパスがフィールドの外に出てスローインを得たりと、プレッシングの成果としてボール保持者が発動するプレイのミスによってマイボールにすることを求めます。しかしながら、浦和レッズのチーム力(組織力、個人スキル)の高さによって、このミスの発生確率が低く、なかなか鳥栖はマイボールにできませんでした。特に、ボールロストを回避するために鳥栖のプレスを見ながら柏木が上手くポジションを取ってコントロールしていた印象です。

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

最終ライン3人というと、先日のルヴァンカップ長崎戦と比較すると面白いのですが、長崎戦は相手の最終ラインのビルドアップ能力が高くなく個人スキルによってはがされる可能性が低いと判断してか、最初から前線に小野、石井、河野をぶつけるという手に出ました。最終ラインに時間とスペースを与えない策ですよね。浦和戦でも前線から3人をぶつけてみてはという考えもあるのですが、最終ラインのスキル(ロングフィードの精度、はがすドリブルによる運び)や繋ぎを受ける選手たちのスキルが高いので、3人によるプレスはリスクと判断したのでしょう。ただし、押し込まれっぱなしという事も回避せねばならず、その間を取った判断でインサイドハーフをあげるという解決策でした。長崎戦は得点を取らなければならないというのもあったので、前線に3人をおいたという事もありましたしね。

鳥栖としては、インサイドハーフがプレスに入って相手が引いて撤退してくれたらひとまず成功、隙を突かれて縦に付けられたら完全撤退してブロックの構築という形。高い位置で奪ってのショートカウンターという成果はなかなか得る事が出来ませんでした。スキルの低いチームだと容易に奪えるのですが、浦和相手にはなかなかそうもいかず、鳥栖の選手たちとしても前に出る事を躊躇するようになり、徐々に押し込まれるという展開になってしまいました。ブロックを組んだ時にはほぼほぼ跳ね返していたのですが、やはり個人技によってドリブル突破されると苦しい状況になっていまして、センターバックが引きずり出されたときによくピンチを招いていました。

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

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攻撃面でも鳥栖はなかなかボールポゼションが上がらなかったのですが、今回は、ポジティブトランジションにおける攻撃設計が整理されていなかった事が要因だったのではという印象です。前半は特に、池田がディフェンスライン近くまで引いて守備に参画するので、ボールを渡すところがありません。また、前半と後半にかけてツートップが入れ替わったのですが、ボールを奪ってからの二人のアクションに連動性がなく、ボールを引き出す形、ボールをキープする形が明確でありませんでした。チームとして「ボールキープ」という時間を作れずに、せっかくボールを奪ってもなかなか前に進めずに、すぐに奪い返されてしまうというシーンが目につきました。イバルボが入ってからはまずは彼を狙うという構図があったのですが、それならば、田川はどのような役割を果たすのか?という事ですよね。ツートップの連係で崩すという形がなかなか作れませんでした。

また、浦和レッズはネガティブトランジションでやるべきことが整理されていました。特に、アタッキングサードとミドルサードの境目付近でボールを奪われたときには、奪われたと同時に複数人がサガン鳥栖のボール保持者に即座にプレスをかけて、奪い返して再びボールを支配しようという動きをチーム全体でとれていました。厳密にゲーゲンプレスと言うかはわかりませんが、恐らくそのような形でのプレッシングを慣行していました。前述のサガン鳥栖のボールを奪ってから直後(ポジティブトランジション)の攻撃構築設計の手薄さと、浦和レッズのボールを奪われた直後(ネガティブトランジション)の意思統一によって、鳥栖が思うように攻撃フェーズに入っていくことが出来ませんでした。

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

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前述に、プレスの成果はその位置でボールを奪う事だけではなく、相手にミスを発生させることも成果という事を記載しましたが、鳥栖の場合はまさにそのパターンに当てはまっておりまして、ネガティブトランジションによって浦和が素早いプレスをかけてきたときに、ボールロストを防ごうとワンタッチでパスを出したり、ドリブルで相手をはがすチャレンジをしていましたが、プレッシャーの厳しい所を突こうとするのでそこがミスの温床となってボールロストとなるケースが多々発生していました。個人の技術レベルというのもあるのですが、もう少し、ポジティブトランジション時の攻撃設計がされていたら、少しは楽な形での繋ぎや運びができて、もう少しポゼション率を上げる事ができたのではないかなという気はします。ただ、ゴールキックなどのゆっくりボールを繋ぐことができる状況からは、よい崩しを見せるシーンはあったので、そこで最後にピンポイントクロスが来たらなというのはありました。惜しかったシーンを紹介しておきます。

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

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後半にはいってからは、前半の戦術と変わってプレッシャーをかけていたインサイドハーフが相手センターバックにプレッシャーをかけるのをやや自重します。ミドルサードまでは相手が侵入してくるものと割り切り、完全にブロックを組む態勢となりました。前半と異なるのは、イバルボが池田のように中盤まで下りて守備をする機会が減りました。そのため、相手もイバルボ対策としてセンターバックを残しておかなければなりません。フォワードが戻らない事によって、逆に、見えない守備と言いますか、相手のセンターバックの攻撃参加を自重させるという効果もあります。そのあたりは監督、そして選手の判断というところでしょうが、押し込まれている展開だとどうしても引きたくなるので難しい所ではあります。

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

2018 第14節 : 浦和レッズ VS サガン鳥栖

75分過ぎになって、浦和のネガティブトランジションのプレス強度が落ちてからは、イバルボにボールが入っていくつかのチャンスを作れるようになりました。この試合のシュートは2本と少なかったのですが、いずれも可能性のあるエリアからのシュートでした。守備で耐えに耐えまくって一発シュートが決まって勝つと爽快なのですが、なかなかそう思うようにはいかず。ただ、今年の鳥栖はそのようなシュートを、例えば、広島戦のパトリックや、G大阪戦の倉田秋など素晴らしいゴールを決められています。ここまでくると後は個人技の範疇であり、日頃の練習の成果が表れるシーンでありまして、鳥栖もしっかりとゴールの枠に納めるシュートを蹴ることができれば、おのずと勝ち点が上がってくるでしょう。まだ若い原川、田川が2年後、3年後にどのようなプレイヤーとして成長しているか、同じような場面で試合を決めるゴールをたたき込む事ができるか、非常に楽しみであります。

今年のサガン鳥栖は守備一辺倒になって最後は耐え切れずに失点というシーンが多かったですが、最後までしっかりと集中を切らずに守り切れたのは大きな収穫ですし、本当に貴重な勝ち点1だと思います。

<画像引用元:DAZN>


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Posted by オオタニ at 18:21 │Match Impression (2018)