2018年05月24日
2018 第15節 : サガン鳥栖 VS FC東京
2018年第15節 FC東京戦のレビューです。
FC東京のセットアップは4-4-2。前線はディエゴ、永井のツートップ。中盤は基本フラットですが、攻撃時には大森と東がワイドに高いポジションをとり、前線の2人と併せて4人が鳥栖の最終ラインに並ぶような形を取ります。中盤は橋本と高萩が支え、どちらかというと橋本がディフェンスラインからボールを受け、高萩が前線にパスを振り分けるというタスク分担。室屋、太田のサイドバックも積極的に攻撃に参加していました。
鳥栖のセットアップは4-3-1-2。最終ラインの4枚はいつものメンバーです。セントラルハーフは怪我から復帰の福田がスタメンに顔を連ね、高橋秀が中央、義希が右サイドに入ります。トップ下は原川が務め、状況に応じて前線からのプレッシャーと2列目のスペースケアを担当。ツートップは久しぶりにスタメンのイバルボと好調の小野でした。鳥栖としては、ひとまずベストメンバーと言っても良いのではないでしょうか。
試合開始直後は、お互い4-4-2のミラーゲームらしい展開を生み、互いに前線からプレッシャーをかけ、高い位置でボールを奪ってからのショートカウンターを試みます。試合開始当初は体力も十分でプレッシャーにかかるスピードも速いため、ビルドアップする側がなかなか思うようにボールを運べずに、長いボールを蹴らざるを得ない展開となりました。長いボールを蹴ったとしても、両チームのトップにはイバルボ、ディエゴというキープ力に優れるプレイヤーがいるので、ここでキープできるかどうか、そして彼らがキープした時にどのようなフォローができるかという事が攻撃に繋がるか否かのキーポイントでした。
今回の攻撃の仕組みとしては、両チームともにイバルボ、ディエゴをいかにして活用するかと言うところなのですが、そこに至る前のビルドアップにおいて、サガン鳥栖とFC東京とでは大きな違いがありました。概念的に言うと、サガン鳥栖はサイドに人数を集めていかにして「数的優位」を作るかという組み立てで、FC東京はバランスよく選手を配置していかにして「位置的優位」を作るかという組み立てでした。
ここがちょっとしたポイントでありまして、この戦い方の違いによって「サイドチェンジ」によってビルドアップを成功させる確率に差が生まれていました。守備側としては、前線からプレスをかけますが、高い位置からボールが取れないと判断した場合にはリトリートして守備ブロックを組みます。攻撃側は最終ラインからしっかりとボール保持しながら相手の穴を作るために縦パスを入れたりサイドチェンジを行ったりして様子を伺います。
サイドチェンジ後に受けた選手がドリブルで突破できるアタッカーであれば、1VS1の状況に持って行いってドリブルでしかけられるタイミングを作ることが目的となり、そこに数的不利を生じても質的優位で勝負するという構図が出来上がります。しかしながら、サガン鳥栖の場合は、左サイドから右サイドの小林に展開しても、小林自体はドリブルでの突破を長所とするプレイヤーではありません。また、サイドでの数的優位を作ることが鳥栖の攻撃パターンなので、逆サイドに展開しても中盤の選手はスライドが追い付かず、フォワードも相手最終ラインの位置にいますので、小林が一人で孤立してしまいます。そのため、選択肢としてはロングボールか、バックパスかという形になってしまいます。数的不利であっても、相手の守備対応にミスがあればワンツーで抜けるなどで簡単に前進させることはできますが、この日のFC東京はフォワード2人もしっかりと守備をこなすハードワークがありますし、中盤の選手たちも均等に4分割でスペースをケアしているため距離感が良く、守備の穴をなかなか見せてくれませんでした。
それに対して、FC東京は鳥栖の選手間に均等に配置するというポジショニングを取っていました。それにより、逆サイドに展開した時であってもそこに人がいないという状況にならず、複数名での関係を作ることができます。鳥栖のスライドが遅れた時が縦にパスを入れるチャンスが発生し、しかも選手間の距離も近いためにそのパスの成功確率も上がります。
FC東京の攻撃が良かったのは、もちろんポジショニングだけではなく、そのポジショニングをベースとして、チームとして連動しながら上手にスペースを使う所でした。スペースの作り方と使い方のパターンは、ビルドアップであろうが、ゴール前であろうが、また、中央であろうが、サイドであろうが、そのコンセプトは同じで、「味方が動いたらそのスペースに別の味方が入ってくる」というものでした。
決定的チャンスを迎えたシーンは、その集大成とも言えるべき動きでして、ワンタッチを繰り返して非常に素早くボールが動いていたかのように見えますが、実は使っているスペースは最小限に限られています。同じ空間を利用して
「自分が動く」
↓
「相手を動かす」
↓
「スペースが空く」
↓
「味方が入ってくる」
という、選手が動くとその位置に別の選手が入ってくるという、コンビネーションを生んでいました。(図の白で囲った部分を室屋が利用しています。)最終的には、人の動きに翻弄されたサガン鳥栖の選手が、ボールを捉えきれずにゴール前のスペースを空けてしまって決定的なシュートを放たれてしまいました。このシュートがこの日の権田のファインセーブ連発の序章でしたね。
この崩しのシーンで選手の利き足を考慮した配置の大事さというのを改めて痛感したシーンがあります。
前述の東京が右サイドから左サイドにサイドチェンジして、左サイドバックの太田にボールが入ったシーンです。サガン鳥栖は、サイドに人数を圧縮しているので、逆サイドに展開されたときにはスライドが始まります。義希が右サイドのインサイドハーフとしてプレスをしかけるのですが、ここで、太田はトラップすると同時に利き足である左足に持ち替えて、左足で前方にフィードします。そして、義希のプレスが僅かに間に合わずに縦パスを入れられてディエゴ・オリベイラのキープから崩されてしまいます。
ここで、左足で蹴ったというのがポイントでありまして、もし、右足で蹴ったとしたならば義希のプレスにつかまっている可能性がありますし、つかまらなかったとしてもタッチラインの方に逃げていくボールとなり、パスミスになった可能性もあります。プレッシャーをかけてくる選手から遠いサイドにボールを置いて遠いサイドの足でボールを蹴ることができる事がスペースの活用に繋がっており、左利きの選手を左サイドに配置していたことによってこのプレイが成功しています。そう考えると、鳥栖には三丸、安在という左足のキックに優れたサイドバックがおり、彼を有効活用することによって戦術的な幅が広がる可能性が多々ありますよね。
プレイにおいて、当然のことながら利き足を利用した方が、蹴るときの精度が上がりますのでパスやシュートの成功確率が上がります。そして、選手たちはミスをしたくないので、成功確率を上げるために利き足で蹴ろうとして持ち替えたり、そのタイミングを探ったりする動作が入ります。ただし、成功確率を上げようとするために発生するこのロスタイムによって失われるスペースが発生するのも事実です。(相手は守備を固める動きをするので、時間を奪われるという事はスペースを奪われる事と同義だと考えます。)
鳥栖にとっては、利き足でしか蹴られない(精度がない)という事によって、シュートの機会損失が発生したシーンがありまして、それは終盤に、イバルボがボールを受けてゴールに向けて突進し、左サイドで田川がボールを受けたシーンです。(そもそも、イバルボに対するフォローが適切であったのかという所はありますが)
このシーンでは、左サイドで受けたことによってカットインしてシュートというチャレンジが出来なかったのですが、彼の利き足は左足ですので、シュートを打つにしてもラストパスを送るにしても、成功確率を上げるためには左足で蹴らなければなりません。同様の場面で右サイドにて受けていたならば、田川の選択肢としては高い確率でカットインしてシュートという行動を見せています。田川に右足の精度があれば、シュートチャンスに繋がっていた所でありまして、逆足の精度を鍛える事で選手たちの活躍の場も広がります。
ここで、ちょっと観点を変えて整理すると、このシーンの問題としては、
「田川が左サイドでボールを受けてからのアタックが手詰まりとなってしまった」事です。
それを解決するための課題としては、当然のことながら「利き足と逆足の精度を上げる事」なのですが、他にも
「田川が右サイドでボールを持てるように組み立てる」
ということもありますし、
「田川が左サイドでボールを持った時のフォローの仕方を決める」
ということもあります。
これが攻撃戦術の大事さという所でありまして、より優位に試合を進めるためには、個の力を最大限発揮し、また、個の力が足りていない部分を補うための配置、戦い方が必要となります。試合に勝つためには、あらゆるプレイの成功確率を上げる必要がありますが、それを選手個人の能力で対応するのか、戦術で対応するのか、最適な解決策を与えるのが監督の仕事です。
この試合でサガン鳥栖がチャンスになったのはイバルボにボールが収まって、彼がキープしながら前進してくれたシーン、もしくは田川に上手く裏に抜けてもらってボールを拾ってもらったシーンのみです。FC東京のように、選手たちの再現性のあるコンビネーションで崩したというシーンはほとんど見られませんでした。これがFC東京とサガン鳥栖とのこの試合の決定的チャンスの数の差、ひいてはこの両チームの順位の差に現れているところです。
攻撃面がうまく行かなかった事に関しては、それが個の力なのか、攻撃戦術に起因するものなのかという問題の切り分けは必要なのですが、サガン鳥栖の最終ラインや中盤が、簡単に蹴ってしまったり、簡単にバックパスを選択する場面が多いことが、チャンスメイクに繋がる可能性を減らしていました。中盤のつなぎにおいてもプレスをはがして前を向く(前に送る)というプレイができずに、そのうち相手につめられてバックパスからのロングフィードしか選択肢がなくなり、チャンスの可能性を減らしてしまうシーンが多く見られました。特に、後半に入ってからは選手の体力やシステムの問題もあり、選手間の距離が大きく空いてしまって、ボールの繋ぎが出来ない状況が続き、FC東京に押し込まれる結果となってしまいました。
FC東京とサガン鳥栖とのポジショニングの差が体力面にも影響しておりまして、エリアを寄せているのでサガン鳥栖の方がボールを奪われてからスペースを埋めるために守備ポジションを取るまでの横の距離が少し長くなります。FC東京はある程度左右にバランスよく配置しているので、ボールを奪われてもそのままリトリートするだけである程度のスペースをケアできます。このちょっとした差が積もり積もって、後半の体力低下を招いてしまった印象です。特に、原川はトップ下という事で左右の動きに加えて前後の動きも入ったので、非常にきつかったと思います。鳥栖の中盤が後半の途中から明らかにプレッシャーに行けておらず、前半寄せられていたのが後半になって寄せられないことによって崩されており、それを防ぐためにシステム変更を行ったのですが、結果として後ろが重たくなってしまい、FC東京も鳥栖のシステム変更によって作り出されるスペースを有効活用し、最後は押し込まれる展開となってしまいました。
最後に一言。理由はいろいろとあるにせよ、サガン鳥栖の選手たちが、いつもに比べてエネルギーの矛先が本来あるべき場所に向いていなかったかなとは思いました。モチベーション高く試合に臨んでいるのは良いことなのですが、小野がしつこく食い下がる場面もアクチュアルプレーイングタイムを損ねますし、ミンヒョクが室屋を突き飛ばした場面は一歩間違えたらレッドカードで試合を壊してしまうようなシーンです。社長との質問会で負けている状況で選手が自信を失っている事に関するメンタルコントロールの話が上がりましたが、このように競馬で言うところの「かかっている」ような状態においてのメンタルコントロールも大事ですよね。自分の中でメンタルの折り合いをつけないと興奮状態のままでは最高のプレイを実現できないと思います。
連敗中のサガン鳥栖は、多数のけが人で選手がいなかったというところもあり、個の力を最大限発揮できる戦い方だったのかと言うと必ずしも適材適所とは言えなかった状況でした。修正の期間もなく次々と試合が行われたので仕方がない面もありますが、ワールドカップ中断期間も訪れたことですし、中断明けによい試合ができるようにリフレッシュしてトレーニングに励んでほしいですね。
<画像引用元:DAZN>
FC東京のセットアップは4-4-2。前線はディエゴ、永井のツートップ。中盤は基本フラットですが、攻撃時には大森と東がワイドに高いポジションをとり、前線の2人と併せて4人が鳥栖の最終ラインに並ぶような形を取ります。中盤は橋本と高萩が支え、どちらかというと橋本がディフェンスラインからボールを受け、高萩が前線にパスを振り分けるというタスク分担。室屋、太田のサイドバックも積極的に攻撃に参加していました。
鳥栖のセットアップは4-3-1-2。最終ラインの4枚はいつものメンバーです。セントラルハーフは怪我から復帰の福田がスタメンに顔を連ね、高橋秀が中央、義希が右サイドに入ります。トップ下は原川が務め、状況に応じて前線からのプレッシャーと2列目のスペースケアを担当。ツートップは久しぶりにスタメンのイバルボと好調の小野でした。鳥栖としては、ひとまずベストメンバーと言っても良いのではないでしょうか。
試合開始直後は、お互い4-4-2のミラーゲームらしい展開を生み、互いに前線からプレッシャーをかけ、高い位置でボールを奪ってからのショートカウンターを試みます。試合開始当初は体力も十分でプレッシャーにかかるスピードも速いため、ビルドアップする側がなかなか思うようにボールを運べずに、長いボールを蹴らざるを得ない展開となりました。長いボールを蹴ったとしても、両チームのトップにはイバルボ、ディエゴというキープ力に優れるプレイヤーがいるので、ここでキープできるかどうか、そして彼らがキープした時にどのようなフォローができるかという事が攻撃に繋がるか否かのキーポイントでした。
今回の攻撃の仕組みとしては、両チームともにイバルボ、ディエゴをいかにして活用するかと言うところなのですが、そこに至る前のビルドアップにおいて、サガン鳥栖とFC東京とでは大きな違いがありました。概念的に言うと、サガン鳥栖はサイドに人数を集めていかにして「数的優位」を作るかという組み立てで、FC東京はバランスよく選手を配置していかにして「位置的優位」を作るかという組み立てでした。
ここがちょっとしたポイントでありまして、この戦い方の違いによって「サイドチェンジ」によってビルドアップを成功させる確率に差が生まれていました。守備側としては、前線からプレスをかけますが、高い位置からボールが取れないと判断した場合にはリトリートして守備ブロックを組みます。攻撃側は最終ラインからしっかりとボール保持しながら相手の穴を作るために縦パスを入れたりサイドチェンジを行ったりして様子を伺います。
サイドチェンジ後に受けた選手がドリブルで突破できるアタッカーであれば、1VS1の状況に持って行いってドリブルでしかけられるタイミングを作ることが目的となり、そこに数的不利を生じても質的優位で勝負するという構図が出来上がります。しかしながら、サガン鳥栖の場合は、左サイドから右サイドの小林に展開しても、小林自体はドリブルでの突破を長所とするプレイヤーではありません。また、サイドでの数的優位を作ることが鳥栖の攻撃パターンなので、逆サイドに展開しても中盤の選手はスライドが追い付かず、フォワードも相手最終ラインの位置にいますので、小林が一人で孤立してしまいます。そのため、選択肢としてはロングボールか、バックパスかという形になってしまいます。数的不利であっても、相手の守備対応にミスがあればワンツーで抜けるなどで簡単に前進させることはできますが、この日のFC東京はフォワード2人もしっかりと守備をこなすハードワークがありますし、中盤の選手たちも均等に4分割でスペースをケアしているため距離感が良く、守備の穴をなかなか見せてくれませんでした。
それに対して、FC東京は鳥栖の選手間に均等に配置するというポジショニングを取っていました。それにより、逆サイドに展開した時であってもそこに人がいないという状況にならず、複数名での関係を作ることができます。鳥栖のスライドが遅れた時が縦にパスを入れるチャンスが発生し、しかも選手間の距離も近いためにそのパスの成功確率も上がります。
FC東京の攻撃が良かったのは、もちろんポジショニングだけではなく、そのポジショニングをベースとして、チームとして連動しながら上手にスペースを使う所でした。スペースの作り方と使い方のパターンは、ビルドアップであろうが、ゴール前であろうが、また、中央であろうが、サイドであろうが、そのコンセプトは同じで、「味方が動いたらそのスペースに別の味方が入ってくる」というものでした。
決定的チャンスを迎えたシーンは、その集大成とも言えるべき動きでして、ワンタッチを繰り返して非常に素早くボールが動いていたかのように見えますが、実は使っているスペースは最小限に限られています。同じ空間を利用して
「自分が動く」
↓
「相手を動かす」
↓
「スペースが空く」
↓
「味方が入ってくる」
という、選手が動くとその位置に別の選手が入ってくるという、コンビネーションを生んでいました。(図の白で囲った部分を室屋が利用しています。)最終的には、人の動きに翻弄されたサガン鳥栖の選手が、ボールを捉えきれずにゴール前のスペースを空けてしまって決定的なシュートを放たれてしまいました。このシュートがこの日の権田のファインセーブ連発の序章でしたね。
この崩しのシーンで選手の利き足を考慮した配置の大事さというのを改めて痛感したシーンがあります。
前述の東京が右サイドから左サイドにサイドチェンジして、左サイドバックの太田にボールが入ったシーンです。サガン鳥栖は、サイドに人数を圧縮しているので、逆サイドに展開されたときにはスライドが始まります。義希が右サイドのインサイドハーフとしてプレスをしかけるのですが、ここで、太田はトラップすると同時に利き足である左足に持ち替えて、左足で前方にフィードします。そして、義希のプレスが僅かに間に合わずに縦パスを入れられてディエゴ・オリベイラのキープから崩されてしまいます。
ここで、左足で蹴ったというのがポイントでありまして、もし、右足で蹴ったとしたならば義希のプレスにつかまっている可能性がありますし、つかまらなかったとしてもタッチラインの方に逃げていくボールとなり、パスミスになった可能性もあります。プレッシャーをかけてくる選手から遠いサイドにボールを置いて遠いサイドの足でボールを蹴ることができる事がスペースの活用に繋がっており、左利きの選手を左サイドに配置していたことによってこのプレイが成功しています。そう考えると、鳥栖には三丸、安在という左足のキックに優れたサイドバックがおり、彼を有効活用することによって戦術的な幅が広がる可能性が多々ありますよね。
プレイにおいて、当然のことながら利き足を利用した方が、蹴るときの精度が上がりますのでパスやシュートの成功確率が上がります。そして、選手たちはミスをしたくないので、成功確率を上げるために利き足で蹴ろうとして持ち替えたり、そのタイミングを探ったりする動作が入ります。ただし、成功確率を上げようとするために発生するこのロスタイムによって失われるスペースが発生するのも事実です。(相手は守備を固める動きをするので、時間を奪われるという事はスペースを奪われる事と同義だと考えます。)
鳥栖にとっては、利き足でしか蹴られない(精度がない)という事によって、シュートの機会損失が発生したシーンがありまして、それは終盤に、イバルボがボールを受けてゴールに向けて突進し、左サイドで田川がボールを受けたシーンです。(そもそも、イバルボに対するフォローが適切であったのかという所はありますが)
このシーンでは、左サイドで受けたことによってカットインしてシュートというチャレンジが出来なかったのですが、彼の利き足は左足ですので、シュートを打つにしてもラストパスを送るにしても、成功確率を上げるためには左足で蹴らなければなりません。同様の場面で右サイドにて受けていたならば、田川の選択肢としては高い確率でカットインしてシュートという行動を見せています。田川に右足の精度があれば、シュートチャンスに繋がっていた所でありまして、逆足の精度を鍛える事で選手たちの活躍の場も広がります。
ここで、ちょっと観点を変えて整理すると、このシーンの問題としては、
「田川が左サイドでボールを受けてからのアタックが手詰まりとなってしまった」事です。
それを解決するための課題としては、当然のことながら「利き足と逆足の精度を上げる事」なのですが、他にも
「田川が右サイドでボールを持てるように組み立てる」
ということもありますし、
「田川が左サイドでボールを持った時のフォローの仕方を決める」
ということもあります。
これが攻撃戦術の大事さという所でありまして、より優位に試合を進めるためには、個の力を最大限発揮し、また、個の力が足りていない部分を補うための配置、戦い方が必要となります。試合に勝つためには、あらゆるプレイの成功確率を上げる必要がありますが、それを選手個人の能力で対応するのか、戦術で対応するのか、最適な解決策を与えるのが監督の仕事です。
この試合でサガン鳥栖がチャンスになったのはイバルボにボールが収まって、彼がキープしながら前進してくれたシーン、もしくは田川に上手く裏に抜けてもらってボールを拾ってもらったシーンのみです。FC東京のように、選手たちの再現性のあるコンビネーションで崩したというシーンはほとんど見られませんでした。これがFC東京とサガン鳥栖とのこの試合の決定的チャンスの数の差、ひいてはこの両チームの順位の差に現れているところです。
攻撃面がうまく行かなかった事に関しては、それが個の力なのか、攻撃戦術に起因するものなのかという問題の切り分けは必要なのですが、サガン鳥栖の最終ラインや中盤が、簡単に蹴ってしまったり、簡単にバックパスを選択する場面が多いことが、チャンスメイクに繋がる可能性を減らしていました。中盤のつなぎにおいてもプレスをはがして前を向く(前に送る)というプレイができずに、そのうち相手につめられてバックパスからのロングフィードしか選択肢がなくなり、チャンスの可能性を減らしてしまうシーンが多く見られました。特に、後半に入ってからは選手の体力やシステムの問題もあり、選手間の距離が大きく空いてしまって、ボールの繋ぎが出来ない状況が続き、FC東京に押し込まれる結果となってしまいました。
FC東京とサガン鳥栖とのポジショニングの差が体力面にも影響しておりまして、エリアを寄せているのでサガン鳥栖の方がボールを奪われてからスペースを埋めるために守備ポジションを取るまでの横の距離が少し長くなります。FC東京はある程度左右にバランスよく配置しているので、ボールを奪われてもそのままリトリートするだけである程度のスペースをケアできます。このちょっとした差が積もり積もって、後半の体力低下を招いてしまった印象です。特に、原川はトップ下という事で左右の動きに加えて前後の動きも入ったので、非常にきつかったと思います。鳥栖の中盤が後半の途中から明らかにプレッシャーに行けておらず、前半寄せられていたのが後半になって寄せられないことによって崩されており、それを防ぐためにシステム変更を行ったのですが、結果として後ろが重たくなってしまい、FC東京も鳥栖のシステム変更によって作り出されるスペースを有効活用し、最後は押し込まれる展開となってしまいました。
最後に一言。理由はいろいろとあるにせよ、サガン鳥栖の選手たちが、いつもに比べてエネルギーの矛先が本来あるべき場所に向いていなかったかなとは思いました。モチベーション高く試合に臨んでいるのは良いことなのですが、小野がしつこく食い下がる場面もアクチュアルプレーイングタイムを損ねますし、ミンヒョクが室屋を突き飛ばした場面は一歩間違えたらレッドカードで試合を壊してしまうようなシーンです。社長との質問会で負けている状況で選手が自信を失っている事に関するメンタルコントロールの話が上がりましたが、このように競馬で言うところの「かかっている」ような状態においてのメンタルコントロールも大事ですよね。自分の中でメンタルの折り合いをつけないと興奮状態のままでは最高のプレイを実現できないと思います。
連敗中のサガン鳥栖は、多数のけが人で選手がいなかったというところもあり、個の力を最大限発揮できる戦い方だったのかと言うと必ずしも適材適所とは言えなかった状況でした。修正の期間もなく次々と試合が行われたので仕方がない面もありますが、ワールドカップ中断期間も訪れたことですし、中断明けによい試合ができるようにリフレッシュしてトレーニングに励んでほしいですね。
<画像引用元:DAZN>
2018 第34節 : 鹿島アントラーズ VS サガン鳥栖
2018 第33節 : サガン鳥栖 VS 横浜F・マリノス
2018 第32節 : ヴィッセル神戸 VS サガン鳥栖
2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎
2018 第30節 : ベガルタ仙台 VS サガン鳥栖
2018 第29節 : サガン鳥栖 VS 湘南ベルマーレ
2018 第33節 : サガン鳥栖 VS 横浜F・マリノス
2018 第32節 : ヴィッセル神戸 VS サガン鳥栖
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Posted by オオタニ at 19:08
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