2018年08月23日
2018 第23節 : 名古屋グランパス VS サガン鳥栖
2018年第23節、名古屋グランパス戦のレビューです。
■ 補強とコンセプト
システムの前にスタメンに関して触れたいのですが、名古屋とのホームでの戦いは3月でした。その時の対戦から比べると、怪我や出場停止の影響があるとはいえ、名古屋が7名、鳥栖は4名メンバーが異なります。互いに下位脱出に向けて夏の移籍ウインドウオープンの期間に積極的な補強を仕掛け、そして、獲得した選手たちが続々とスタメンに名を連ねました。
ただし、補強の内容を比べると「監督のサッカーを具現化できる選手」という明確な補強コンセプトで取った名古屋に対し、「個人の質の高さで違いを見せることの出来る選手」という形で取った鳥栖という違いがあり、そのコンセプトの違いが、現在の選手たちの戦術理解度、パフォーマンスの発揮具合の違いとして出ているのではないかと感じます。
名古屋のコンセプトは「止める」「蹴る」そして「目をそろえる」という言葉がよく話題に出てきます。これはショートパスを繋ぎ、ボールを保持しながら攻撃を仕掛けるポゼションサッカーと思われがちなのですが、実態はもう少し概念的なものというか、名古屋でサッカーをする上での理念に近いものだと解釈しています。
特に、「目をそろえる」の部分は、チーム全体が共通のポジション、共通のスペース、そして共通の攻撃イメージが出来ていれば、それが短いパスであろうと、長いパスであろうと、攻撃の手段としては有意であるという意味ではないかと。風間さんが伝えている言葉は戦術ではなく、戦術を発揮するための前提条件のようなものでしょうね。目がそろった段階で、もしかしたらもう一段レベルをあげた戦術が出てくるのかもしれません。それに、この「目をそろえる」は、特にサッカーに限ったことではありませんよね。一般のお仕事でも、上司、同僚、部下、みんなの目がそろってないと、効率的で質の高い仕事は出来ません。一般業界にも通用する言葉だと思います。
この試合を終えて、サッカーという組織で戦術を意思統一し、そして更にプレイとして具現化する必要があるスポーツの前では、過去の実績やネームバリューというものは一切アドバンテージにはならないという現実を突きつけられました。コミュニケーションとコンビネーションの構築には時間かかる事は理解できますが、マッシモの攻撃構築に当たって、いまだに彼が求める選手像が見えません。彼の攻撃の理想形とはいかなるものなのでしょうか。風間監督の言葉を借りますが、それが我々サポーターにも見えてきて監督、選手、サポーターの「目がそろう」ようになってくるようになると、サガン鳥栖が本当に強いチームになれるのかなと思っています。
■ 試合
鳥栖のセットアップは4-3-3でした。小野はトップ下というよりは、今節はトップに近い形での振る舞いであったと見ています。それは、試合開始からの鳥栖の積極的なボールへのアプローチに現れていました。名古屋は4-4-2でのセットアップでしたが、攻撃時はビルドアップを丁寧に行うためにボランチが1枚下りる形になります。序盤は、風間チルドレンとまでは言いすぎなのかもしれませんが、川崎から移籍してきたネットがその役目を担っていました。そして、鳥栖はそのネットを狙い撃ちするかのように前線から圧力をかけていきます。
その、鳥栖の全力で追い回すわけではないけれども、静かに前進していく圧力は意外と効果がありました。ボールを保持したい名古屋が出しどころを探す間に、トーレス、金崎、小野、そして福田がじわりじわりと追い詰めていきます。前へと繋ぎたいもののその先がない名古屋は、それでも頑張って狭い所を繋ぐか、中盤のプレスをかいくぐるために直接フォワードまで蹴っ飛ばすかという選択を迫られました。
まず、味方に繋ぐという選択は、端的に言うと、思いのほか鳥栖の網にかかっていました。それが単なるボールロスト程度で済めば良かったのですが、鳥栖の決定的チャンス(金崎とランゲラックとの1VS1)まで生むケースもありました。ネットはやや狙い撃ちされていた感があり、パスミスが続いたことによって味方から指摘があって少しチームに不穏な空気が流れましたね。後で仲直りしていましたが(笑)それくらい、序盤の名古屋のビルドアップは少し手をこまねいていました。後半は、ネットを少し前に押し出して、ビルドアップを小林が担当するようになり、安定感と迫力が増した感じです。ある意味修正力ですね。
鳥栖は、この序盤に上手くいっている時にゴールと言う形で仕留めなければなりませんでした。名古屋はワールドカップブレイク明けで大きく調子を上げてきたチームです。風間監督のイメージにある完成形とは程遠いでしょうが、シーズン前半のJ1に対してうまく適用できていなかった状況と異なり、少しずつ、戦術的実りが生まれつつある状況で、いまはそれがまさに連勝と言う結果に現れています。そういった名古屋の最近の状況を見ると、試合が進むにつれて鳥栖の弱点を見抜き、そしてチーム全体が「目をそろえて」攻撃の勘所(狙いのポイント)をチーム共通の意識として作り上げていくのは明らかでした。だからこそ、まだ鳥栖の前からのプレスに慣れていない頃に訪れるであろう決定的チャンスに得点を取ることが必要でした。ということで、下のツイートをしたわけであります。
先制点をあげるというのは非常に大事なわけでありまして、得点を取ることによって確実に守備リスクのかけ方が変わります。得点を取るためには何らかのリスクをかけなければなりませんが、得点を取るというアドバンテージでそのリスクをかける必要が少なくなるのです。C大阪戦、浦和戦の勝利はまさにその典型的な例です。後述しますが失点シーンはまさに前から奪い取ろうという積極的な守備が生んだリスクによる失点でありまして、金崎の決定的チャンスが決まっていれば、この試合はもしかしたら逆に3-0で勝てていた試合なのかもしれません。そのくらい微妙なバランスの上で成り立っていた試合だったと思います。
さて、先ほど書いたもう一つの選択肢である蹴っ飛ばすの方は、実はこれがサガン鳥栖の守備陣にじわりじわりとダメージを与えます。もちろん、鳥栖のプレッシャーに負けて単純に蹴っ飛ばすというだけであれば、直接権田の守備範疇となりボールロストとなってしまうだけなのですが、しっかりと前を向きつつ、ディフェンスラインの裏に意図を持って送りこむボールは、前田と最終ラインとの競争というものを生み出します。ジョーがいなければ前田をうまく使えばいいじゃない…と風間監督が言ったかいわないかは分からない…というか言わないでしょうが、前田の使い方は移籍して1ヶ月強であるにも関わらず、名古屋の選手たちの中で統一されていた感があります。
風間さんがこの試合に対して望んだものかはわかりませんが、前田のスピードを生かそうとするパスは鳥栖の最終ラインにじわりじわりとダメージを与えていました。スピードを発揮して抜け出されることを阻止するためには、センターバックは相手よりも早く始動しなければなりませんし、相手よりもより自陣に近い位置にスタート地点をおけばおいて行かれることを少しでも防ぐことができます。裏に抜けるというのは一発で決まらなくても、繰り返すことによって少しずつ最終ラインを動かすジャブのようなものです。そうして、徐々に、徐々に、鳥栖の最終ラインが前にでるという勇気を失って、ポジションを前田よりも数m手前に取るようになってきました。
金崎のランゲラックとの1VS1という決定的チャンスを決めきれなかった鳥栖は、序盤には出てこなかった綻びを少しずつ名古屋に突かれてくるようになりました。それはどのような綻びであったかというと、福田の運動量の豊富さに起因するものでした。運動量の豊富さが綻びになるというのはイメージがつかないかもしれませんが、福田は運動量があるから頑張ります。頑張って前にプレスをかけ、はがされたら全力でリトリートします。ただし、その運動量の豊富さに周りが着いてこないとどいいうことになるでしょうか。
それは、彼が持場を動いたことによって自分がいるべきスペースを相手に分け与えてしまうことに繋がるのです。彼が運動量を最大限生かして前からボールを奪えるというメリットもあれば、その動きに対して周りが連動しなければ、(彼の動きに対して共通の意識を持ち合わせてなければ)相手に隙を与えるという諸刃の剣になりやすいものなのです。
ここで少し前からのプレスに関しておさらいします。まず、コンパクトな状態とはどのような状態かというと、最終ラインの選手と相手に一番近い選手との距離が30m~35m程度の範囲であることが理想と言われています。最終ラインと中盤の距離が15m、中盤とトップの選手が15m程度ですね。もちろん、戦術や選手たちの状況によってチームごとに異なりますが、ひとまずはそれを基準として考えて良いでしょう。
そして、フィールドの縦の長さを約100mとすると、リトリートして守備ブロックを固めた場合は、自陣だけのスペースを守れば良いので、自陣からゴール30m~50mの間に選手を配置してスペースをケアすることになります。しかしながら、前からプレスをかける場合は、ボールの位置から自陣ゴールまで50m~80m分の広さのスペースに対して、ラインと範囲を定め、味方の位置を決めなければなりません。当然、その範囲が広くなればなるほどにひとりひとりがカバーしなければならないエリアが広くなります。よって、オフサイドというルールを活用して、最終ラインを押し上げて相手が使えない(待ち伏せできない)デッドスペースを作り出す事によって、自分たちの守備のゾーンを少しでも狭めて相手にプレッシャーをかける(相手を迎え打つ)のです。
相手の攻撃における自由を奪うためには、前からプレスした時にフォワードの選手に連動して、ハーフの選手も、最終ラインの選手も、全体が味方の位置を意識して動き、相手に与えるスペースを極小化しなければなりません。それが出来ないと前線と中盤、中盤と最終ラインの間に相手が利用しやすいスペースを与えてしまう事になります。間延びというのは、相手との駆け引きや疲れなどによって、最終ラインや中盤のラインを押し上げられず(最前線が素早いリトリートをできず)相手が使いやすいスペースを生み出すという事です。試合の終盤になると、よく、中盤に誰もいない状況でカウンターの応酬になったりすることがありますよね。それは、攻撃したい前線と守りたい最終ラインの間があいて、60m~70mの間に人を配置しなければならず、仕方なく間のスペースを捨てている(捨てざるを得ない)という状況という事です。
では、この試合ではどうだったのかというと、鳥栖は前から圧力をかけて丁寧なビルドアップを行う名古屋のパスの出所を抑えようという戦術でこの戦いに挑みました。前からの圧力というのは、どの位置で、どのメンバーが、そしてどのタイミングでしかけるのかと言うディテールが明確になっていないと相手に隙を見せることになります。
最初は少しぐらいのプレスのずれがあっても相手が対応できないのですが、徐々に相手が慣れてきたときに、ほころびをつかれてしまうことになります。それが、先ほど記載した福田の動きの部分です。前半から、福田が前に圧力をかけるのですが、彼が動いたことによって空けたスペースを誰がケアするのかと言うところが意思疎通取れておらず、アンカーがサイドによるのか、サイドバックが1列あげるのか、そこの対応に苦慮していました。
また、前田の裏抜けのスピードというのも最終ラインに徐々に刷り込まれて行ってまして、鳥栖の最終ラインが少しずつ、後ろのスペースに対する意識が増してきました。それにより、先ほどの50m守っているところが52m、54mと、じわじわとライン間が空いてくることに繋がりました。
試合開始当初は、当然のことながら相手のやり方や出方を見定めている状態だったので、鳥栖のプレスに名古屋もハマってしまったのですが、徐々に、「福田の裏のエリア」にスペースがあることを名古屋の選手たちは理解してきます。そして、選手たちの共通理解の下に、名古屋の逆襲が始まりました。
シャビエルのシュートが外れたのはその前兆でした。名古屋の選手たちに、福田が空けたスペースは使えるという共通理解が生まれます。その理解が生まれたことにより、ボランチの小林がすっとそのスペースに入っていきます。全員の「目が揃った」段階で、左サイドからの崩しによる先制点が生まれたという事です。
■ シャビエルのシュートシーン
■ 先制点のシーン
ここで気を付けて頂きたいのは、決して、福田の前からのプレスが悪いというのではありません。福田のプレスに連動しなかった味方が悪かったかもしれませんし、もしかしたら、「前からのプレス」という戦術を与えていたけどそのディテールの部分を伝えきれていなかった監督が悪かったのかもしれません。
ここで言いたいのは「福田がプレスによって空けたスペース」を使われて幾度もピンチを招いたという現象であり、その現象を改善するための解決策を監督も選手も出せずに、結局試合終了近くまで同じような形で幾度ものピンチを招いたという事です。58分にピンチを迎えたシーンを下に示しますが、原理としては同じです。チームとして連動した守備ができていなかったことによって、福田が前に行ったスペースをうまく使われてしまいました。
■ 後半のピンチのシーン
個人的には、75分くらいまでは前からのプレスを一旦ゆるめて、リトリートしてブロックを組む戦術変更でもよかったのかなと思いました。名古屋の守備ブロックも盤石ではありませんでしたし、ボールさえ持つことが出来れば、鳥栖のビルドアップで崩せる予兆はあったからです。
鳥栖のビルドアップは実はそこまで苦労していなかったのではないかと思っていまして、名古屋のドイスボランチが比較的最終ラインの前で構えているケースが多く、前につっついてくるような守備はあまりありませんでした。鳥栖はサイド攻撃を良く使うので、名古屋はサイドハーフがどう動くかという所は大事な要素になるのですが、児玉と玉田が、鳥栖のサイドバックにつくのか、ドイスボランチにつくのか、少し迷っているのではないかという節がありました。結局、サイドハーフはサイドバックを見る形が多くなるのですが、それにより、センターバックから鳥栖のドイスボランチへのパスコースが良く通るようになっていました。基本的に、鳥栖のボランチは最終ラインに下がってサイドバックを押し上げるという攻撃がよく見られるのですが、この試合では、センターバックから縦の位置でボールをもらえるケースが多く作り出せていました。もしかしたら、事前に名古屋を分析してマッシモが出した指示だったのかもしれません。
しかしながら、そこから先が問題でして、サイドに大きく展開するパスや、フォワードの裏抜けに対するパスの精度が悪く、せっかくビルドアップの抜け道として前を向くことができても、そこから先の効果的な攻撃になかなか繋がりませんでした。
パスの精度が悪いのは当然「止める」「蹴る」の技術不足ということもあるのですが、チームとして、組織として作り上げられた攻撃であれば迷いなく蹴ることができ、これが、パスの精度としては大事な要素でもあります。逆に言うと、今の鳥栖には欠けている事でありまして、前に抜けるのか、後ろで受けるのか、サイドで受けるのか、その時その時の選手の判断によって変わります。トーレスが裏に抜けたり、手前に引いてボールを受けたり、金崎がサイドに逃げたり、ハーフスペースで待って受けたり、小野も様々なところに顔を出しています。このあたりの役割分担がしっかりされていないことが、パスの精度に大きく影響しておりまして、裏に抜けると思ってパスしたら相手は手前に引いてきたという事が発生したりしていました。いかにもとんでもない所にパスを出したかのように見えてしまいますが、実は好パスだったにも関わらず、受け手がその意図を理解できなかったという事なのかもしれないのです。
そのチームとしての意図の統一の必要性はカウンターにも現れておりまして、カウンター攻撃の際に誰があがっていくのか、誰がどのようにフォローするのか、誰がフィニッシュするのか、そのあたりが不明瞭でしたね。(監督が決めていなかったのか、決めていることを選手が実現できなかったのか、それはわかりません。誰かマッシモに聞いてくれませんかね(笑))
もうひとつ、選手の力量を把握するという事も大事な要素です。金崎やトーレスに対するパスにしても、彼らがある状況で「ここでボールを受けれたらシュートまで持ち込める状況」と思っても、回りが「彼はマークにつかれてパスを出しても苦しい状況」と判断すれば、それは確実にチャンスロストとなってしまいます。言葉は悪いですが、鳥栖のきぞんの選手がトラップできないボールでも、トーレスや金崎はトラップできます。既存の選手たちが判断している以上のプレーが出来るにも関わらず、その機会を彼らに与えきれてないのかも知れません。風間さんの言葉を借りると、その辺りを少しでも早く選手たちが高いレベルで「目をそろえる」必要がありますよね。
もうひとつ、この試合で目立ったプレイがありまして、それはボールを奪われた直後の名古屋の守備でした。鳥栖が最終ラインでボールを奪って持ち上がろうとした直後、シャビエルや前田がしっかりとプレスに入ります。そのプレスで奪わなくても、鳥栖をちょっと遅らせて、遅攻フェーズに入らせることによって、名古屋としては失点の確率がガクンと下がるのを分かっているかのようでした。2失点目はその献身的なプレイが実を結んで、ゴール前でボールを奪い返して得点に繋げました。
その2失点目のクロスも先制点のヒールパスと同様なくらいにネットの非常に素晴らしいテクニカルなパスだったのですが、そこに選手がいる事が分かって迷いなく蹴ったことが精度の高さに繋がっています。精度を上げるためには迷いを持たないということが大事なのです。今の鳥栖は、ボールを持ちながら味方を探して探りながらパスを出すシーンが多いので、少しでも早く、個人を理解し、戦術を理解することが重要ですよね。
3対0という点差でしたが、金崎の序盤での1VS1、トーレスのコーナーやクロスからのシュート、そしてアディショナルタイムの金崎の決定的チャンス。得点の機会は作っています。ガンバ大阪戦で、これらのチャンスをしっかりと仕留められるように期待しましょう。
<画像引用元:DAZN>
■ 補強とコンセプト
システムの前にスタメンに関して触れたいのですが、名古屋とのホームでの戦いは3月でした。その時の対戦から比べると、怪我や出場停止の影響があるとはいえ、名古屋が7名、鳥栖は4名メンバーが異なります。互いに下位脱出に向けて夏の移籍ウインドウオープンの期間に積極的な補強を仕掛け、そして、獲得した選手たちが続々とスタメンに名を連ねました。
ただし、補強の内容を比べると「監督のサッカーを具現化できる選手」という明確な補強コンセプトで取った名古屋に対し、「個人の質の高さで違いを見せることの出来る選手」という形で取った鳥栖という違いがあり、そのコンセプトの違いが、現在の選手たちの戦術理解度、パフォーマンスの発揮具合の違いとして出ているのではないかと感じます。
名古屋のコンセプトは「止める」「蹴る」そして「目をそろえる」という言葉がよく話題に出てきます。これはショートパスを繋ぎ、ボールを保持しながら攻撃を仕掛けるポゼションサッカーと思われがちなのですが、実態はもう少し概念的なものというか、名古屋でサッカーをする上での理念に近いものだと解釈しています。
特に、「目をそろえる」の部分は、チーム全体が共通のポジション、共通のスペース、そして共通の攻撃イメージが出来ていれば、それが短いパスであろうと、長いパスであろうと、攻撃の手段としては有意であるという意味ではないかと。風間さんが伝えている言葉は戦術ではなく、戦術を発揮するための前提条件のようなものでしょうね。目がそろった段階で、もしかしたらもう一段レベルをあげた戦術が出てくるのかもしれません。それに、この「目をそろえる」は、特にサッカーに限ったことではありませんよね。一般のお仕事でも、上司、同僚、部下、みんなの目がそろってないと、効率的で質の高い仕事は出来ません。一般業界にも通用する言葉だと思います。
この試合を終えて、サッカーという組織で戦術を意思統一し、そして更にプレイとして具現化する必要があるスポーツの前では、過去の実績やネームバリューというものは一切アドバンテージにはならないという現実を突きつけられました。コミュニケーションとコンビネーションの構築には時間かかる事は理解できますが、マッシモの攻撃構築に当たって、いまだに彼が求める選手像が見えません。彼の攻撃の理想形とはいかなるものなのでしょうか。風間監督の言葉を借りますが、それが我々サポーターにも見えてきて監督、選手、サポーターの「目がそろう」ようになってくるようになると、サガン鳥栖が本当に強いチームになれるのかなと思っています。
■ 試合
鳥栖のセットアップは4-3-3でした。小野はトップ下というよりは、今節はトップに近い形での振る舞いであったと見ています。それは、試合開始からの鳥栖の積極的なボールへのアプローチに現れていました。名古屋は4-4-2でのセットアップでしたが、攻撃時はビルドアップを丁寧に行うためにボランチが1枚下りる形になります。序盤は、風間チルドレンとまでは言いすぎなのかもしれませんが、川崎から移籍してきたネットがその役目を担っていました。そして、鳥栖はそのネットを狙い撃ちするかのように前線から圧力をかけていきます。
その、鳥栖の全力で追い回すわけではないけれども、静かに前進していく圧力は意外と効果がありました。ボールを保持したい名古屋が出しどころを探す間に、トーレス、金崎、小野、そして福田がじわりじわりと追い詰めていきます。前へと繋ぎたいもののその先がない名古屋は、それでも頑張って狭い所を繋ぐか、中盤のプレスをかいくぐるために直接フォワードまで蹴っ飛ばすかという選択を迫られました。
まず、味方に繋ぐという選択は、端的に言うと、思いのほか鳥栖の網にかかっていました。それが単なるボールロスト程度で済めば良かったのですが、鳥栖の決定的チャンス(金崎とランゲラックとの1VS1)まで生むケースもありました。ネットはやや狙い撃ちされていた感があり、パスミスが続いたことによって味方から指摘があって少しチームに不穏な空気が流れましたね。後で仲直りしていましたが(笑)それくらい、序盤の名古屋のビルドアップは少し手をこまねいていました。後半は、ネットを少し前に押し出して、ビルドアップを小林が担当するようになり、安定感と迫力が増した感じです。ある意味修正力ですね。
鳥栖は、この序盤に上手くいっている時にゴールと言う形で仕留めなければなりませんでした。名古屋はワールドカップブレイク明けで大きく調子を上げてきたチームです。風間監督のイメージにある完成形とは程遠いでしょうが、シーズン前半のJ1に対してうまく適用できていなかった状況と異なり、少しずつ、戦術的実りが生まれつつある状況で、いまはそれがまさに連勝と言う結果に現れています。そういった名古屋の最近の状況を見ると、試合が進むにつれて鳥栖の弱点を見抜き、そしてチーム全体が「目をそろえて」攻撃の勘所(狙いのポイント)をチーム共通の意識として作り上げていくのは明らかでした。だからこそ、まだ鳥栖の前からのプレスに慣れていない頃に訪れるであろう決定的チャンスに得点を取ることが必要でした。ということで、下のツイートをしたわけであります。
今日の名古屋ならば、3点分位は決定的チャンス出来そうですが、その時に決めきれるかどうかですね。
— オオタニ@SAgAN Report (@ootanirendi) 2018年8月19日
決めきれなければ名古屋の1発に沈む試合になりそう。
先制点をあげるというのは非常に大事なわけでありまして、得点を取ることによって確実に守備リスクのかけ方が変わります。得点を取るためには何らかのリスクをかけなければなりませんが、得点を取るというアドバンテージでそのリスクをかける必要が少なくなるのです。C大阪戦、浦和戦の勝利はまさにその典型的な例です。後述しますが失点シーンはまさに前から奪い取ろうという積極的な守備が生んだリスクによる失点でありまして、金崎の決定的チャンスが決まっていれば、この試合はもしかしたら逆に3-0で勝てていた試合なのかもしれません。そのくらい微妙なバランスの上で成り立っていた試合だったと思います。
さて、先ほど書いたもう一つの選択肢である蹴っ飛ばすの方は、実はこれがサガン鳥栖の守備陣にじわりじわりとダメージを与えます。もちろん、鳥栖のプレッシャーに負けて単純に蹴っ飛ばすというだけであれば、直接権田の守備範疇となりボールロストとなってしまうだけなのですが、しっかりと前を向きつつ、ディフェンスラインの裏に意図を持って送りこむボールは、前田と最終ラインとの競争というものを生み出します。ジョーがいなければ前田をうまく使えばいいじゃない…と風間監督が言ったかいわないかは分からない…というか言わないでしょうが、前田の使い方は移籍して1ヶ月強であるにも関わらず、名古屋の選手たちの中で統一されていた感があります。
風間さんがこの試合に対して望んだものかはわかりませんが、前田のスピードを生かそうとするパスは鳥栖の最終ラインにじわりじわりとダメージを与えていました。スピードを発揮して抜け出されることを阻止するためには、センターバックは相手よりも早く始動しなければなりませんし、相手よりもより自陣に近い位置にスタート地点をおけばおいて行かれることを少しでも防ぐことができます。裏に抜けるというのは一発で決まらなくても、繰り返すことによって少しずつ最終ラインを動かすジャブのようなものです。そうして、徐々に、徐々に、鳥栖の最終ラインが前にでるという勇気を失って、ポジションを前田よりも数m手前に取るようになってきました。
金崎のランゲラックとの1VS1という決定的チャンスを決めきれなかった鳥栖は、序盤には出てこなかった綻びを少しずつ名古屋に突かれてくるようになりました。それはどのような綻びであったかというと、福田の運動量の豊富さに起因するものでした。運動量の豊富さが綻びになるというのはイメージがつかないかもしれませんが、福田は運動量があるから頑張ります。頑張って前にプレスをかけ、はがされたら全力でリトリートします。ただし、その運動量の豊富さに周りが着いてこないとどいいうことになるでしょうか。
それは、彼が持場を動いたことによって自分がいるべきスペースを相手に分け与えてしまうことに繋がるのです。彼が運動量を最大限生かして前からボールを奪えるというメリットもあれば、その動きに対して周りが連動しなければ、(彼の動きに対して共通の意識を持ち合わせてなければ)相手に隙を与えるという諸刃の剣になりやすいものなのです。
ここで少し前からのプレスに関しておさらいします。まず、コンパクトな状態とはどのような状態かというと、最終ラインの選手と相手に一番近い選手との距離が30m~35m程度の範囲であることが理想と言われています。最終ラインと中盤の距離が15m、中盤とトップの選手が15m程度ですね。もちろん、戦術や選手たちの状況によってチームごとに異なりますが、ひとまずはそれを基準として考えて良いでしょう。
そして、フィールドの縦の長さを約100mとすると、リトリートして守備ブロックを固めた場合は、自陣だけのスペースを守れば良いので、自陣からゴール30m~50mの間に選手を配置してスペースをケアすることになります。しかしながら、前からプレスをかける場合は、ボールの位置から自陣ゴールまで50m~80m分の広さのスペースに対して、ラインと範囲を定め、味方の位置を決めなければなりません。当然、その範囲が広くなればなるほどにひとりひとりがカバーしなければならないエリアが広くなります。よって、オフサイドというルールを活用して、最終ラインを押し上げて相手が使えない(待ち伏せできない)デッドスペースを作り出す事によって、自分たちの守備のゾーンを少しでも狭めて相手にプレッシャーをかける(相手を迎え打つ)のです。
相手の攻撃における自由を奪うためには、前からプレスした時にフォワードの選手に連動して、ハーフの選手も、最終ラインの選手も、全体が味方の位置を意識して動き、相手に与えるスペースを極小化しなければなりません。それが出来ないと前線と中盤、中盤と最終ラインの間に相手が利用しやすいスペースを与えてしまう事になります。間延びというのは、相手との駆け引きや疲れなどによって、最終ラインや中盤のラインを押し上げられず(最前線が素早いリトリートをできず)相手が使いやすいスペースを生み出すという事です。試合の終盤になると、よく、中盤に誰もいない状況でカウンターの応酬になったりすることがありますよね。それは、攻撃したい前線と守りたい最終ラインの間があいて、60m~70mの間に人を配置しなければならず、仕方なく間のスペースを捨てている(捨てざるを得ない)という状況という事です。
では、この試合ではどうだったのかというと、鳥栖は前から圧力をかけて丁寧なビルドアップを行う名古屋のパスの出所を抑えようという戦術でこの戦いに挑みました。前からの圧力というのは、どの位置で、どのメンバーが、そしてどのタイミングでしかけるのかと言うディテールが明確になっていないと相手に隙を見せることになります。
最初は少しぐらいのプレスのずれがあっても相手が対応できないのですが、徐々に相手が慣れてきたときに、ほころびをつかれてしまうことになります。それが、先ほど記載した福田の動きの部分です。前半から、福田が前に圧力をかけるのですが、彼が動いたことによって空けたスペースを誰がケアするのかと言うところが意思疎通取れておらず、アンカーがサイドによるのか、サイドバックが1列あげるのか、そこの対応に苦慮していました。
また、前田の裏抜けのスピードというのも最終ラインに徐々に刷り込まれて行ってまして、鳥栖の最終ラインが少しずつ、後ろのスペースに対する意識が増してきました。それにより、先ほどの50m守っているところが52m、54mと、じわじわとライン間が空いてくることに繋がりました。
試合開始当初は、当然のことながら相手のやり方や出方を見定めている状態だったので、鳥栖のプレスに名古屋もハマってしまったのですが、徐々に、「福田の裏のエリア」にスペースがあることを名古屋の選手たちは理解してきます。そして、選手たちの共通理解の下に、名古屋の逆襲が始まりました。
シャビエルのシュートが外れたのはその前兆でした。名古屋の選手たちに、福田が空けたスペースは使えるという共通理解が生まれます。その理解が生まれたことにより、ボランチの小林がすっとそのスペースに入っていきます。全員の「目が揃った」段階で、左サイドからの崩しによる先制点が生まれたという事です。
■ シャビエルのシュートシーン
■ 先制点のシーン
ここで気を付けて頂きたいのは、決して、福田の前からのプレスが悪いというのではありません。福田のプレスに連動しなかった味方が悪かったかもしれませんし、もしかしたら、「前からのプレス」という戦術を与えていたけどそのディテールの部分を伝えきれていなかった監督が悪かったのかもしれません。
ここで言いたいのは「福田がプレスによって空けたスペース」を使われて幾度もピンチを招いたという現象であり、その現象を改善するための解決策を監督も選手も出せずに、結局試合終了近くまで同じような形で幾度ものピンチを招いたという事です。58分にピンチを迎えたシーンを下に示しますが、原理としては同じです。チームとして連動した守備ができていなかったことによって、福田が前に行ったスペースをうまく使われてしまいました。
■ 後半のピンチのシーン
個人的には、75分くらいまでは前からのプレスを一旦ゆるめて、リトリートしてブロックを組む戦術変更でもよかったのかなと思いました。名古屋の守備ブロックも盤石ではありませんでしたし、ボールさえ持つことが出来れば、鳥栖のビルドアップで崩せる予兆はあったからです。
鳥栖のビルドアップは実はそこまで苦労していなかったのではないかと思っていまして、名古屋のドイスボランチが比較的最終ラインの前で構えているケースが多く、前につっついてくるような守備はあまりありませんでした。鳥栖はサイド攻撃を良く使うので、名古屋はサイドハーフがどう動くかという所は大事な要素になるのですが、児玉と玉田が、鳥栖のサイドバックにつくのか、ドイスボランチにつくのか、少し迷っているのではないかという節がありました。結局、サイドハーフはサイドバックを見る形が多くなるのですが、それにより、センターバックから鳥栖のドイスボランチへのパスコースが良く通るようになっていました。基本的に、鳥栖のボランチは最終ラインに下がってサイドバックを押し上げるという攻撃がよく見られるのですが、この試合では、センターバックから縦の位置でボールをもらえるケースが多く作り出せていました。もしかしたら、事前に名古屋を分析してマッシモが出した指示だったのかもしれません。
しかしながら、そこから先が問題でして、サイドに大きく展開するパスや、フォワードの裏抜けに対するパスの精度が悪く、せっかくビルドアップの抜け道として前を向くことができても、そこから先の効果的な攻撃になかなか繋がりませんでした。
パスの精度が悪いのは当然「止める」「蹴る」の技術不足ということもあるのですが、チームとして、組織として作り上げられた攻撃であれば迷いなく蹴ることができ、これが、パスの精度としては大事な要素でもあります。逆に言うと、今の鳥栖には欠けている事でありまして、前に抜けるのか、後ろで受けるのか、サイドで受けるのか、その時その時の選手の判断によって変わります。トーレスが裏に抜けたり、手前に引いてボールを受けたり、金崎がサイドに逃げたり、ハーフスペースで待って受けたり、小野も様々なところに顔を出しています。このあたりの役割分担がしっかりされていないことが、パスの精度に大きく影響しておりまして、裏に抜けると思ってパスしたら相手は手前に引いてきたという事が発生したりしていました。いかにもとんでもない所にパスを出したかのように見えてしまいますが、実は好パスだったにも関わらず、受け手がその意図を理解できなかったという事なのかもしれないのです。
そのチームとしての意図の統一の必要性はカウンターにも現れておりまして、カウンター攻撃の際に誰があがっていくのか、誰がどのようにフォローするのか、誰がフィニッシュするのか、そのあたりが不明瞭でしたね。(監督が決めていなかったのか、決めていることを選手が実現できなかったのか、それはわかりません。誰かマッシモに聞いてくれませんかね(笑))
もうひとつ、選手の力量を把握するという事も大事な要素です。金崎やトーレスに対するパスにしても、彼らがある状況で「ここでボールを受けれたらシュートまで持ち込める状況」と思っても、回りが「彼はマークにつかれてパスを出しても苦しい状況」と判断すれば、それは確実にチャンスロストとなってしまいます。言葉は悪いですが、鳥栖のきぞんの選手がトラップできないボールでも、トーレスや金崎はトラップできます。既存の選手たちが判断している以上のプレーが出来るにも関わらず、その機会を彼らに与えきれてないのかも知れません。風間さんの言葉を借りると、その辺りを少しでも早く選手たちが高いレベルで「目をそろえる」必要がありますよね。
もうひとつ、この試合で目立ったプレイがありまして、それはボールを奪われた直後の名古屋の守備でした。鳥栖が最終ラインでボールを奪って持ち上がろうとした直後、シャビエルや前田がしっかりとプレスに入ります。そのプレスで奪わなくても、鳥栖をちょっと遅らせて、遅攻フェーズに入らせることによって、名古屋としては失点の確率がガクンと下がるのを分かっているかのようでした。2失点目はその献身的なプレイが実を結んで、ゴール前でボールを奪い返して得点に繋げました。
その2失点目のクロスも先制点のヒールパスと同様なくらいにネットの非常に素晴らしいテクニカルなパスだったのですが、そこに選手がいる事が分かって迷いなく蹴ったことが精度の高さに繋がっています。精度を上げるためには迷いを持たないということが大事なのです。今の鳥栖は、ボールを持ちながら味方を探して探りながらパスを出すシーンが多いので、少しでも早く、個人を理解し、戦術を理解することが重要ですよね。
3対0という点差でしたが、金崎の序盤での1VS1、トーレスのコーナーやクロスからのシュート、そしてアディショナルタイムの金崎の決定的チャンス。得点の機会は作っています。ガンバ大阪戦で、これらのチャンスをしっかりと仕留められるように期待しましょう。
<画像引用元:DAZN>
2018 第34節 : 鹿島アントラーズ VS サガン鳥栖
2018 第33節 : サガン鳥栖 VS 横浜F・マリノス
2018 第32節 : ヴィッセル神戸 VS サガン鳥栖
2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎
2018 第30節 : ベガルタ仙台 VS サガン鳥栖
2018 第29節 : サガン鳥栖 VS 湘南ベルマーレ
2018 第33節 : サガン鳥栖 VS 横浜F・マリノス
2018 第32節 : ヴィッセル神戸 VS サガン鳥栖
2018 第31節 : サガン鳥栖 VS V・ファーレン長崎
2018 第30節 : ベガルタ仙台 VS サガン鳥栖
2018 第29節 : サガン鳥栖 VS 湘南ベルマーレ
Posted by オオタニ at 12:53
│Match Impression (2018)