サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年08月23日

2018 天皇杯4回戦 サガン鳥栖 VS ヴィッセル神戸

2018年度 天皇杯4回戦 ヴィッセル神戸戦のレビューです。録画を忘れたので画像なしの記憶に頼った簡易版です。

鳥栖のセットアップは4-4-2。リーグ戦の合間のウィークデー開催という事でメンバーも大幅に入れ替えました。フォワードの豊田、田川のツートップは久しぶりのスタメン、中盤には小野、原川に代わって義希、安在が入り、最終ラインは三丸、そして初見参のオマリが入りました。一方、神戸は多少の入れ替わりはあったもののベストメンバーに近い顔ぶれ。鳥栖の選手としては、ここで結果をだせばリーグ戦でのスタメン選出が期待できるモチベーションの上がる試合となりました。

鳥栖は4-4-2で中盤はセントラルハーフを4人並べるフラットな形でこの試合に臨みました。神戸はポドルスキがフォワード登録であったのですが、序盤はボランチの位置まで下がってゲームメイクに加担します。これによって、システム的には互いに4-4-2のような形になり、鳥栖としてはマークが捕まえやすい形になりました。ポドルスキ、藤田のどちらかが下がって二人で縦の関係を築いた時でも、義希、秀人がバランスよくプレッシングに入ることによって縦へのチャレンジを防ぎ、サイドにボールを散らす程度に抑え込んでいました。豊田、田川が前線から地道に二度追い、三度追いを繰り返すプレッシングも神戸の自由を阻害するには十分すぎる働きでした。

前線が積極的にプレスに入る状況でありながらも、この日の鳥栖は前線から最終ラインまでの守備バランスが良く、全体の統率がとれていました。特に最終ラインから前線までの距離感が良くて、神戸が縦にボールを入れてもすぐにつぶせる距離を保ち、また、誰かが持場を離れてチャレンジにいってもいつでもカバーできる状態であったため、綻びが綻びを生むという負の連鎖がありませんでした。急造のコンビではありましたが、サイドバックとサイドハーフの関係性が良く、サイドバックの三丸と藤田がプレッシングに行っても、そのカバーリングに安在と福田がしっかり入るという、サイドハーフの守備力の高さがサイドの堅牢性を保つ要因となっていました。

逆にいうと、神戸としては鳥栖のディフェンスを動かせた時にそのスペースを活用しようという意識が少なかったかもしれません。藤田やオマリもパスカットを狙って引いたフォワードにアプローチを仕掛けていましたが、そこで空けたスペースに誰かが入るという形を作れずに、攻撃の流動性という点では特に怖さを生み出すことが出来ませんでした。裏抜けして最終ラインの背後を狙う選手も少なかったですし、攻撃のバリエーションと言う意味では鳥栖の脅威とはなりえていませんでした。

その中でも、神戸のチームとしての連動が見えたのは、サイドバック(高橋・ティーラトン)が高い位置を取ってからの攻撃で、彼らが高い位置を取ることによって鳥栖のサイドハーフを押し下げる事ができます。そのエリアを狙って神戸のサイドハーフ(三田・郷家)がボールを運んで侵入するケースを作れていました。そこはビルドアップとしては再現性があり、神戸がボールを握る時間帯を作れていました。

神戸も侵入はするものの、鳥栖のバランスの良い守備によって、なかなかシュートまで持ち込むことができていませんでした。個人的にはウェリントンを早めに使った方が良かったのかなと思いました。なんとかオマリが抑えていましたが、やはり空中戦は無頼の強さを誇っていますし、ペナルティエリア外から放ったウェリントンのシュートがバーを叩いたシーンは少し肝を冷やしましたし。そのウェリントンはイニエスタとの交代でお役御免となりましたが、個人的にはウェリントンこそイニエスタがいると力が発揮できたのではないかなという印象です。ポジショニングも体の使い方もうまいので、イニエスタからのパスも上手に引き出せたのではないかなと思いました。ポドルスキを前線に上げたかったのでしょうが、ストライカーを下げる代わりにゲームメーカーを入れたという風に眼に映ってしまいました。

鳥栖もビルドアップとしては神戸の守備を崩せていたというわけではありませんでしたが、豊田への長いボールに対するセカンドボールの反応は神戸よりも鋭く感じました。綺麗な形でなくてもボールを保持できているというのは、神戸に対して位置的に優位に立っているという状況です。ポドルスキが、ボランチの位置にいたり、前線に顔を出したりと神出鬼没であることも影響したかもしれません。守備の際に、「そこにいるはずの選手がいない」という状況を生み、中央にぽっかりスペースが空いているケースがありました。

鳥栖の先制点は秀人のサイドチェンジからでした。神戸がプレッシングで大きく鳥栖の右サイドに寄っていたところなので、このサイドチェンジが通ったことで一瞬にして数的優位を生みました。三丸が外から回ってオーバーラップするのを福田が感じ取ってパスを送り、三丸がしっかりと可能性のあるクロスを上げたことがオウンゴールを生み出しました。ゴール前に豊田、田川、安在と入っていたことも神戸の焦りを生みました。

2点目は、2列目の選手が裏に抜けるという動きですよね。それを義希が上手く感じ取ってパスを送り込めました。神戸も配置の変更があってうまくプレッシングがハマっていなかったタイミングなので、上手にその隙を突きましたね。

3点目は、福田のターンで決まりですね。トーレスも絶妙な位置にボールをコントロールしていて、それでかつ、キーパーが届かないようなスピードでシュートを放っていました。流石ストライカーですね。待望のゴールを挙げる事ができたので、これからリーグ戦でも調子に乗ってきて欲しいですね。

鳥栖としては、先制点を挙げ、更に後半の早い時間帯で追加点を挙げたことによって、プレッシングも自分たちのペースでコントロールできるようになりました。また、ターンオーバーで体力的にもフレッシュな選手が多かったため、全体がコンパクトなまま後半終了間際まで戦えました。とにかく、この試合は前線からの献身的な守備、そしてラインコントロールによるコンパクトネスの確保、これがすべてだと思います。

さて、この試合ではこれまで秘密のベールに包まれていたオマリですが、初見の印象はこんな感じでした。




タイプとしては、人にも強く、ゾーンを意識する守備も問題なくこなす印象です。縦にボールが入るタイミングやクロスが入るタイミングをしっかりと計っていて、その場で奪えなくても相手に自由を与えないという知的な守備をしていました。ポジショニングは中央を意識する守備を行うようです。サイドを破られても、サイドチェンジをされても、安易にボール保持者に飛び出していくのではなく、まずはゴール前のスペースを意識します。ゴール前を出てプレッシングに行く場合も、味方も戻りやボールの状況を見ながら動いています。プレッシングの役目を終えた時にはしっかりとゴール前に戻ります。ゴール前の意識が高いのは素晴らしいです。

余談ですが、今日の最終ラインの4人は、全員が離れてもよいタイミングを見計らいながら動けるメンバーでした。無理したチャレンジやスペースを開けてのプレッシングというのが少なかったので、ゴール前への侵入というのを最小限に抑え込む事ができましたね。

オマリのパスカットで前に出ていくよりは、ゴール前のスペースを優先して守るという意識の高さにより、クロスのヘッドでのクリア、イニエスタのシュートブロックなど、中央にしっかりと腰を据えているからこそ対応出来たプレイも見えました。三丸や福田が大きく外れようとした時やサイドチェンジでのスライドが遅れた時には、しっかりとコーチングして守備組織を整えていましたし、ラインコントロールにも遅れることなく祐治と調整しながら全体をコンパクトに収めてしました。

スピードは遅くはないのですが、アジリティのある選手と競争になるとちょっと怖いかなというのは感じました。前半の最後の方と、後半の最後の方は少し疲れていましたね。鳥栖では初めての試合ですし、コンディションが上がってきたらそこまで心配はなくなるかもしれません。

攻撃時にも守備時にも周りがしっかり見えているので、効果的なパスを送ることができますし、ボールを保持してペースを落とすこともできます。田川に縦にパスを付けるシーンや、相手を少しひきつけてサイドに送り込むパスがありました。攻撃のテンポを上げるパス能力があるので、慣れてくるとビルドアップの中心になれる可能性を秘めています。

大きなサイドチェンジや、前線へのダイレクトのスルーパスなど、リスクをかけたパスをチャレンジすることが少ないので思いもしないようなボールロストは少ないと思います。フォワードの裏に放り込むパスはトーレスを狙った1回だけだったかな。前半に左サイドで良い形でボールを受けましたが、前方の味方の連動が少なかったため無理せずにキーパーに戻すというプレイがありました。あのシーンは2度ほど前に出すパスを躊躇したので、無理せずにキーパーに戻して正解だったと思います。とにかくパスは堅実なイメージです。

抜群の高さや速さはないので、目を見張るようなパスカットや空中戦で全戦全勝みたいな派手なプレイは少ないと思いますが、ポジショニングとタイミングの良さで堅実に守ることができ、予想もしないような失点をするようなこともなく、確実な守備が出来るタイプだと思いました。

昨日のプレイだけで判断すると、正直、好きなタイプです(笑)

久しぶりの快勝でリーグ戦にも弾みを付けたいですね。絶対に負けられないガンバ大阪との戦い。楽しみですね!

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Posted by オオタニ at 19:36 │Match Impression (2018)