2019年05月30日
2019 第13節 : サガン鳥栖 VS 鹿島アントラーズ
2019シーズン第13節、鹿島アントラーズ戦のレビューです。
■ システムとスタメン

広島戦でスタメン交代した金崎とチョドンゴンですが、鹿島戦では再び金崎がスタメンに戻りました。自分のやるべきことを理解して自分も味方も生かす確実なプレイを遂行するチョドンゴン、多少強引でも直観と発想力で局面を打開するパワーを秘めている金崎、似て非なる二人のフォワードの使い分けも、また監督采配の楽しみの一つですね。金崎は、事前のインタビューでは古巣相手とは言え関係ないというスタンスではありましたが、心の中で感じるものは当然あったでしょう。激しく動き回るプレイで鹿島のディフェンス陣の気力と体力にダメージを与え続けてくれました。また、ベンチには久しぶりに小野が入りました。この小野が、最終盤で大きな仕事を成し遂げてくれましたね。
<鳥栖の守備組織>

■ 動かない福田
ゴールキックでの両センターバックのポジショニングを見れば一目瞭然なのですが、両チームともボール保持からのビルドアップを指向しています。ボールを保持されるということは、相手のやりたいことを実現される可能性があるということでもあり、守備側としてはそれを防止するため、どこを守備の基準点として相手の自由を阻害するかというのがまずは守備構造を決める際のポイントでした。
まずは、鳥栖の守備組織から。鹿島のビルドアップでは、両センターバックが幅をとり、ボランチ(三竿もしくはレオシルバ)が最終ラインのフォローに入って、ボール保持を試みます。ここで、鳥栖がボール保持のため人数を合わせるかどうかというところが最初のポイントだったのですが、ミョンヒ監督の回答は「ボランチに対して人数を合わせない」でした。
ポイントは2点ありまして、鹿島は、土居がトップの位置から中盤のスペースや、左右のスペースに顔を出してボールを引き出す動きを見せます。中央から福田や原川が前に出て行ってしまうと、土居が活躍するエリアを与えてしまうことになります。ボランチが出ていくことによって不用意にスペースを与えて攻撃の起点を作られるのを未然に防止しました。
もう1点は、レオシルバのパワーを発揮させないための防止策です。三竿がアンカーの位置に下って、レオシルバをビルドアップの出口とした場合、レオシルバが中央のスペースでボールを受けられる可能性があり、彼はボールをもってスペースを見つけると、ドリブルで突進しながらボールを運ぶことのできるパワーがあります。それを防止するためにはやはりスペースを作らないこと。人がいる状態ではレオシルバもリスクを負った突進はしてきません。レオシルバの位置でボールを刈られると、決定的なピンチとなるショートカウンターを受けてしまう可能性があるからです。
このように、ボール保持のためにリトリートするレオシルバ(三竿)に福田が出て行かなかったのは、土居やレオシルバが使いたい中央のスペースが空くのを未然に防止するという、理に適う守備構造でありました。
では、最終ラインに対するプレッシャーはどのようにしたかというと、金崎と豊田の二人のコンビネーションで3人を見る形をとりました。要するに、豊田と金崎の「ガンバリディフェンス」ですね。中央にいるボランチに対するプレッシャーを仕掛けながらサイドに誘導し、サイドにボールが出たならば、ボランチへの戻しのパスコースを切りながら、猛然とセンターバックに対してプレッシャーをしかけました。
ひとりでふたりを見る動きを(インテリジェンスな)運動量で対応し、距離をつめれていた状況では、サイドへの誘導後にサイドハーフがポジションを上げてサイドバックに対してプレッシングを仕掛けるシーンを作り、ロングキックを蹴らせたり、縦に送るパスをカットするような場面も作りました。特に、鳥栖で言う所の「困ったときの豊田」に比べると、鹿島のフォワードは困ったときに競り勝ってくれるタイプではないため、長いボールを蹴らせることによって、鹿島の攻撃の威力をかなり低減できていました。
26分のシーンがすごく良かったのですが、鹿島は三竿を下げて3人でビルドアップ隊を構成していましたが、右サイドのスンヒョンにわたってから、金崎と豊田がコースを消しながら静かに迫っていき、最後はキーパーに戻させてロングキックのミスを誘いました。誰もスプリントしていませんし、誰もボールにつっかけてないんですよね。数的不利な状態から始まったにも関わらず、ひとりでふたりを見つつ、最後は1対1ではめ込んでロングキックを蹴らせるという、運動量にものを言わせるのではなく、ポジショニングだけで相手のミスを誘う守備をやっていたので、体力面でも大きなメリットを生むことができました。これも最後にアディショナルタイムに豊田が走ることのできた要因ですよね。
■ 松岡が支え、小林が完成させる
鳥栖がいつもいつも高い位置からプレッシャーをかけていたかというと、決してそうではなく、鹿島がじっくりとボールを保持できる状態からスタートした場合は、フォワードのプレッシングでコースを限定はするのですが、中盤以降はミドルサードでしっかりとブロックを組む形をとり、スペース圧縮を優先して前線からの人数をかけたプレッシングは控えていました。
福田がレオシルバに対して幾度も出たさそうにしていましたが、何度も踵を返してリトリートしていたシーンは、スペースを守りたいという理性と、アグレッシブに奪いに出たいという野生とのせめぎあいが見て取れました。この、やみくもに前に出ない守備というのは、体力の温存にかなりの効果を発揮しておりまして、激しく前後の動きを繰り返していたレオシルバ&三竿コンビとの体力の差が最後にでてしまったのかなと。
鳥栖のブロック守備は、今節も同じく、サイドに幅をとる選手に対するマーキングは、ボールが渡ってからブロック全体を移動して対応する仕組みでした。ボランチからサイドハーフやサイドバックに対して配球されたときのマークはサイドハーフが担当していました。松岡(クエンカ)が、ボールの追い出しと、出された先へのプレッシングの双方をこなすことによって、サイドバックが出ずに済むことになり、ハーフスペース付近をサイドバックが埋める構造を保つことができていました。ミョンヒ監督に代わってから守備構造で変わったのはこの部分ですよね。前線で人数をかけてプレッシャーを与えるのではなく、少人数で進路を誘導し、フォワードとサイドハーフが複数人を見ることによって中央での数的優位を確保しつつ、スペースを圧縮してミスを誘う形をとっています。
このBlogで何度か書きましたが、相手に引っ張られずにゾーンで守りながらボールと味方の行方にあわせてプレッシングに出ていくのは小林が得意な守り方ですよね。名古屋戦や仙台戦など、原(藤田)がウイングバックに引きずられてアウトサイドにでていってしまい、ボランチとの連係ミスが発生したときにセンターバックとの間のスペースを狙われるケースが発生していましたが、小林はゾーンで守る技術の練度が高いため、ゾーン守備による強度が上がっています。当然、小林のゾーン守備を支えるのは、縦の関係を築いている松岡の動きが重要でありまして、彼1人で2人の相手を見ることのできる守備が効いているのは言うまでもありません。小林が松岡をうまく誘導して守備をコントロールしていますよね。
小林が外に出ていくのではなく、松岡が外に出て守備をすることによる利点は、例えば、64分の場面のように、中央から外に展開されたときに、松岡が出て行ったので、安西のクロスが松岡の後列にポジションをとっていた小林でクリアできることとなりました。中央を開けずに守備をできるというのは最大のメリットですよね。ミョンヒ監督に代わってから、松岡とクエンカのガンバリもサガン鳥栖の失点の減少を支えてくれています。
■ レオシルバの突進の防止

今回の鳥栖の守備方式の成果が出たシーンがあったので紹介します。54分のシーンですが、レオシルバが鳥栖の左サイドをボール保持しつつ、前進します。ここで、左のアウトサイドにポジションをとる安西に対して松岡がマークにつきます。松岡がスペースを空けることによって、レオシルバは突進の機会を得ますが、レオシルバに対して、豊田がプレスバック、さらに福田が外にスライドしながらプレッシングを仕掛けます。レオシルバとしては、空いたスペースに運ぶドリブルを仕掛けたつもりが、いつの間にか狭いスペースで囲まれる結果となってしまいました。これにより、レオシルバは、狭いスペースを縫うようなパスを送らざるを得なくなり、最終的にはパスミスで終わってしまいました。奪うことが困難な相手の場合は、いかに窮屈な状況でプレーをさせるのかという動きが大事です。アクションをとりに行くとかわされてしまうので、スペースを圧縮し、相手のミスを待つというのは我慢のいるプレーですが、チーム全体の意思がしっかりとまとまっているのを見て取れたシーンでした。
さて、このシーンで、土居のセンスを感じたのは、白崎が前線にポジションを移したと同時に、土居が中盤のスペースに引いて全体のバランスを取っているんですよね。つなぐ相手がいないという状況が発生しないよう、土居がバランサーとして前後左右にポジションをとって選手間の鎖が切れないような動きをしていました。土居だけでなく、鹿島は、選手が動くと必ずそこを補完するような動きを見せます。例えば、安西がカットインして中央に入ってくると、白崎がワイドに開いて待ち構えますし、レアンドロが中央に入ってくるとそのスペースにセルジーニョがはいって裏へのボールを引き出す動きを見せたりですね。縦のレーンに入ってくるのは1人(多くても2人)というポジションを取っていました。
逆に言うと、どこかのエリアに局所的に人数をかけるような攻撃は仕掛けてきませんでしたので、実は、ゾーンで守る鳥栖にとっては、自分のゾーン内で捕まえる人間がある程度明確になっており、守備構造としては守りやすかったのではないかと思います。人を集めて数的不利を生んだときに、どうやってその問題を解決するのか(人を集めて対処するのか、あきらめてそのエリアは渡してしまうのか)という選択をしなくて済んだのは、鳥栖にとっては組みやすかったのかもしれないですね。
<鹿島の守備組織>

■ 動くレオシルバ
ここからは、鹿島の守備組織の話です。鹿島も鳥栖と同様、ビルドアップで両センターバックをフォローする福田に対して、どうやってビルドアップによって突破されるのを防止するかという策を講じなければならないのですが、大岩監督の回答は、ミョンヒ監督とは異なり、「積極的にボランチを捕まえに行く」でした。
ゴールキックからの展開でボールをつなごうとすると、祐治、秀人、福田に対して、人数を揃えるように土居、セルジーニョ、レオシルバが前からプレッシングに入っていました。流れの中でも、福田に対してボールが出た際には、レオシルバが列を上げて、福田が前を向く前にしっかりとプレッシングに入ります。25分頃に、このプレッシングが功を奏して、福田に対してレオシルバがつっかけてボールを奪う機会ができ、鳥栖としてはあわや大ピンチというシーンを迎えてしまいました。このシーンは祐治のカバーリングで事なきを得ましたが、鹿島としてはこういった前から人数をはめて奪いきる守備を目指し、ボランチ2人が積極的に列を上げてプレッシングをしかけていました。表題を「動かない福田」に対して「動くレオシルバ」とさせてもらったのはここに理由があります。
■ レアンドロ前のスペースを狙って

レオシルバが中央のスペースを空けてプレッシングに出ていくため、鳥栖としてはボランチ周りのスペースを使いやすい状況が生まれていました。最近のビルドアップの形である、原川を左サイドのボランチ脇のスペースに配置して、ビルドアップの出口として利用する仕組みはこの鹿島戦でも同様に採用されました。今回は、センターバックや福田を経由するのではなく、高丘からの直接このスペースに出されるパスも多く目立ちました。
レアンドロは、立ち位置が非常に難しくて、プレスをはめるために三丸につくべきなのか、前方の原川を消すべきなのか、背後のクエンカを消すべきなのか、周りの味方の状況に応じた選択をしなければならず、守備の面では頭を悩ませていたかもしれません。原川をケアするために前に出てきたら28分のシーンのように、秀人から直接三丸にボールを渡して、低い位置からでも早いクロスを放り込まれますし、三丸やクエンカをケアすると原川に自由にボールを持たれます。
レアンドロと山本としては、レオシルバの積極的な動きに連動してハメる形を作りたかったかもしれませんが、レオシルバが前に行っている以上、三竿が左サイドに寄りすぎるとバランスが崩れるということもあり、原川・三丸・クエンカのすべてのパスコースを消すことがなかなかできない状態となっていました。
あと目立ったのは、中央でボールを奪って左サイドに人数を寄せて攻撃をしかけるシーンがいくつかありました。具体的には、10分や71分のシーンなのですが、中央でボールを奪った松岡が左サイドに流れて攻撃を組み立てます。いずれも、ボランチの脇(サイドバックの前)のスペースを利用して松岡がそのエリアに入ってきて左サイドに展開しました。特に、71分では、ボールを奪って裏に抜けるクエンカに対して絶妙なスルーパスを送り込み、シュートチャンスを演出しました。ブロックを組んでスペースを圧縮して守っているので、奪ってから攻撃に転じる際に味方との距離が近いという副産物ですよね。
■ セカンドボールを拾えるメカニズム

上記のように、鹿島は積極的にプレッシングをしかけてきたので、ビルドアップで崩していきたい鳥栖ではありましたが、福田がつっかけられたシーンもあったように、リスクを負ってボールを保持し続けるよりは、簡単に蹴っ飛ばすという行為もしっかりと選択していました。
実は、鳥栖にとっては蹴っ飛ばすという選択は決して悪いものではなく、鹿島がプレッシングに出ることによって、セカンドボールを拾うエリアに「レオシルバがいない」という状況が作られ、両サイドバックも幅をとっていて、そこにも鹿島の選手をつり出しているので、実質的に、セカンドボールを拾うエリアに鳥栖3人、鹿島1人という状況でもありました。
例えば21分ですが、金崎がロングボールを競っている手前には鳥栖は豊田、松岡、原川がポジションをとっていますが、鹿島は三竿のみ。31分のシーンでも、高丘が詰められてアバウトなボールを前線に送ったのですが、セカンドボールを拾うエリアには原川と福田しか選手が存在せず、前からプレスにはいっていた鹿島の選手たちがポジションを取り直すことが遅れ、鳥栖がゆうゆうとセカンドボールを奪取することができていました。
鹿島にとっては、積極的に人を捕まえようと前からプレッシングに行くものの、そのたびに頭を超えるボールを蹴られてしまって徒労に終わってしまうという、体力的にも、精神的にもかなりきつかったのではないかと思います。レオシルバも三竿も、前に出て行き、蹴られたらすぐに戻ってという繰り返しを果たすことになって体力的にかなり消費していました。後半の途中頃から、福田を捕まえに前に出るというシーンが少しずつなくなっていきましたが、そのころにはかなり消耗しており、この事がアディショナルタイムにゴール前に戻れないという状況をうみだしました。
■ 左利きの前線・中盤がいないことによる影響?
セカンドボールを奪ってからの展開でひとつの課題がありまして、上記の21分のシーンでは、セカンドボールを拾った豊田が、右サイドにいる松岡にパスを送り、しかも松岡が足ではなく、胸トラップをしなければならないような質のボールを送ってしまったことによって、松岡が胸トラップでボールを落ち着かせる間に、鹿島が守備陣形を整えてしまいました。松岡は鹿島の選手に囲まれましたが、うまくボールキープしてくれましたね。
豊田の体の向きが右サイドを向いていて左サイドへの視野が確保されていなかったからでしょうが、左サイドでは、戻りの遅いレアンドロの隙をついて原川とクエンカが良いポジションをとっていたので、金崎の落としのボールを左サイドへ展開できていれば、原川を経由して大きなチャンスを生み出していたでしょう。もしくは、松岡に渡すにしても、松岡が胸トラップをしなければならないようなボールではなく、彼の足元に収まる丁寧なパスを送ることができれば、ダイレクトで左サイドへ展開できていたかもしれません。
ボールの質といえば、31分頃に祐治が高丘に戻すパスがバウンドしてしまって高丘が叱りつけるシーンがありましたね。ひとつひとつのパスによって展開に影響を与えることもあるので、日ごろの練習は本当に大事です。
さて、最近、クエンカが左サイドで非常に良いポジションをとっているのですが、クエンカにボールが出てこないケースが発生しています。左サイドで攻撃を仕掛けているときは問題ないのですが、中央からやや右サイド付近でボール保持をしている状況で、クエンカが左サイドのスペースによいポジショニングをしていながらも、彼にボールが出てこないというシーンです。
現在の鳥栖の前線と中盤のスタメンには、左利きの選手がいません。右利きの選手は、ボールを右で持つので、視野として左サイドの奥が若干見えづらくはなります。当然、選手の配置を意識して、常に全体を把握していれば大きな問題になることはないのですが、右サイドから左サイドのクエンカにボールがでづらい状況ですので、もしかしたら、レフティがいないという影響があるかもしれないという仮説です。左サイドのボランチ(例えばシミッチみたいな)が入ることによって、鳥栖の攻撃がどのような変わるのかというのはちょっと見てみたい気はします。
昔、サガン鳥栖から坂井がアギーレ監督時代の日本代表に選出されました。左利きのセンターバックというところがひとつのポイントだったみたいですが、右利きの選手だと、右足の前にボールを置くので体を開かないと左側のパスコースが見えにくくなりますが、左利きの選手は左足の前にボールを持つことによって、左サイドでのビルドアップの視野が確保されるからというのもひとつの理由であった模様です。
昨年、オマリが左利きのセンターバックとして在籍していたので、ビルドアップやロングパスが、相手のプレッシャーの外側から蹴ることができていました。右利きのセンターバックが左サイドの選手に蹴るとボールがピッチの外に出る方向に曲がりますが、左利きの選手が蹴るとボールはピッチの中に入る方向に曲がります。この辺りも、左利きの選手がいることのメリットですよね。
■ スンヒョンのプレイスタイルが生んだ鳥栖の得点
鳥栖は、アディショナルタイムに劇的なゴールで勝利を挙げることができました。ゴールキックを跳ね返したルーズボールを小野が競り合い、義希の鋭いダッシュでセカンドボールを拾ったシーンから始まり、最後はディフェンスラインの背後へ抜け出した小野の折り返しを豊田が決めてくれました。
鹿島側にとって、このシーンの一番の問題点は、当然のことながらセンターバックがつり出されてしまって、ゴール前にスペースを与えてしまったこと。今回のレビューで何度も体力、気力という言葉を使いましたが、多くの上下動をさせられた三竿、レオシルバがスプリントをかけてゴール前に戻る体力と気力が残っていませんでした。
もうひとつですね、どうしてもサガン鳥栖出身という事で気になった動きがあるのですが、スンヒョンが、ほんのわずかですが、ボールを奪って運んできた義希に対して前に出ていこうとするアクションをとったんですよね。背後のゴール前のスペースにリトリートする動きの中、ほんの少しベクトルが義希の方へ向いてしまいました。この、ボールに対して出ていこうとする意思によってスンヒョンの動きが止まり、義希がその絶妙な瞬間にスルーパスを出したので、スンヒョンが後ろに戻るモーメントを失い、ゴール前のスペースに戻るスピードがなくなってしまいました。
66分のシーンに前触れがあり、右サイドバックの裏のスペースに出されたボールを金崎が拾うのですが、山本と一緒にスンヒョンもゴール前をあけて出て行ってしまうんですよね。その結果、スンヒョンがでていったスペースに対するケアができず、クエンカがそのスペースにボールを送り込んで豊田のスライディングシュートを演出(ここは犬飼がクリア)しました。このころから、三竿も戻りが遅れてカバーリングがぎりぎりになってきていたんですよね。
スンヒョンがゴール前をあけてでもボールに対して強くアプローチに出るプレイスタイルというのは鳥栖のサポーターのみなさんは覚えがあるでしょう。今回のゴールシーンも、一瞬スンヒョンがボールサイドへのアプローチを試みようとして動きが止まってしまい、そのわずかな動きの合間の出来事でした。もちろん、ボールに出て行ってパスコースを限定し、さらにカットすることができれば理想なのですが、そのためにゴール前のスペースを犠牲にするというリスクがあることは承知の通りです。鳥栖時代に試合の展開を左右する功罪となっていたスンヒョンの積極的なプレイスタイルは鹿島に行っても健在でした。
余談ですが、こういうシーンを見ると、マリノスの中澤だったらどのような対処をしたのかなと考えます。中澤はゴール前のスペースを埋める守備が本当に上手でした。彼は、サイドにボールがでて、例えフリーでボールを持たれたとしても、出て行かずにゴール前にステイという選択もありました。
■ おわりに
DAZNの中継で、アディショナルタイムだったというのもあるでしょうが、何度も何度も豊田のゴールがリプレイされまして。
豊田のゴールの瞬間、スタジアムのサポーターが一斉に立ち上がるのが見えるんですよ。
メインスタンドも、バックスタンドも、ゴール裏も、スタジアム中がゴールが決まると同時にサガンブルーを身にまとった大勢の観客が立ち上がって喜びを爆発させる光景が見えます。
その中で映る、豊田のほっと安堵したかのように見える表情も良いですし、そして、最後にゴール裏を背景に、ミョンヒ監督のガッツポーズもまた素晴らしい。
これは泣けますよね(笑)
ボヘミアン・ラプソディーを見ても泣けませんでしたが、このシーンは泣けます(笑)
みなさんも、ゴール画像のみではなく、ゴールが決まった瞬間のスタジアムの光景を見てみてください。
また違った喜びがでてくるのではないかなと思います。
■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事
■ システムとスタメン

広島戦でスタメン交代した金崎とチョドンゴンですが、鹿島戦では再び金崎がスタメンに戻りました。自分のやるべきことを理解して自分も味方も生かす確実なプレイを遂行するチョドンゴン、多少強引でも直観と発想力で局面を打開するパワーを秘めている金崎、似て非なる二人のフォワードの使い分けも、また監督采配の楽しみの一つですね。金崎は、事前のインタビューでは古巣相手とは言え関係ないというスタンスではありましたが、心の中で感じるものは当然あったでしょう。激しく動き回るプレイで鹿島のディフェンス陣の気力と体力にダメージを与え続けてくれました。また、ベンチには久しぶりに小野が入りました。この小野が、最終盤で大きな仕事を成し遂げてくれましたね。
<鳥栖の守備組織>

■ 動かない福田
ゴールキックでの両センターバックのポジショニングを見れば一目瞭然なのですが、両チームともボール保持からのビルドアップを指向しています。ボールを保持されるということは、相手のやりたいことを実現される可能性があるということでもあり、守備側としてはそれを防止するため、どこを守備の基準点として相手の自由を阻害するかというのがまずは守備構造を決める際のポイントでした。
まずは、鳥栖の守備組織から。鹿島のビルドアップでは、両センターバックが幅をとり、ボランチ(三竿もしくはレオシルバ)が最終ラインのフォローに入って、ボール保持を試みます。ここで、鳥栖がボール保持のため人数を合わせるかどうかというところが最初のポイントだったのですが、ミョンヒ監督の回答は「ボランチに対して人数を合わせない」でした。
ポイントは2点ありまして、鹿島は、土居がトップの位置から中盤のスペースや、左右のスペースに顔を出してボールを引き出す動きを見せます。中央から福田や原川が前に出て行ってしまうと、土居が活躍するエリアを与えてしまうことになります。ボランチが出ていくことによって不用意にスペースを与えて攻撃の起点を作られるのを未然に防止しました。
もう1点は、レオシルバのパワーを発揮させないための防止策です。三竿がアンカーの位置に下って、レオシルバをビルドアップの出口とした場合、レオシルバが中央のスペースでボールを受けられる可能性があり、彼はボールをもってスペースを見つけると、ドリブルで突進しながらボールを運ぶことのできるパワーがあります。それを防止するためにはやはりスペースを作らないこと。人がいる状態ではレオシルバもリスクを負った突進はしてきません。レオシルバの位置でボールを刈られると、決定的なピンチとなるショートカウンターを受けてしまう可能性があるからです。
このように、ボール保持のためにリトリートするレオシルバ(三竿)に福田が出て行かなかったのは、土居やレオシルバが使いたい中央のスペースが空くのを未然に防止するという、理に適う守備構造でありました。
では、最終ラインに対するプレッシャーはどのようにしたかというと、金崎と豊田の二人のコンビネーションで3人を見る形をとりました。要するに、豊田と金崎の「ガンバリディフェンス」ですね。中央にいるボランチに対するプレッシャーを仕掛けながらサイドに誘導し、サイドにボールが出たならば、ボランチへの戻しのパスコースを切りながら、猛然とセンターバックに対してプレッシャーをしかけました。
ひとりでふたりを見る動きを(インテリジェンスな)運動量で対応し、距離をつめれていた状況では、サイドへの誘導後にサイドハーフがポジションを上げてサイドバックに対してプレッシングを仕掛けるシーンを作り、ロングキックを蹴らせたり、縦に送るパスをカットするような場面も作りました。特に、鳥栖で言う所の「困ったときの豊田」に比べると、鹿島のフォワードは困ったときに競り勝ってくれるタイプではないため、長いボールを蹴らせることによって、鹿島の攻撃の威力をかなり低減できていました。
26分のシーンがすごく良かったのですが、鹿島は三竿を下げて3人でビルドアップ隊を構成していましたが、右サイドのスンヒョンにわたってから、金崎と豊田がコースを消しながら静かに迫っていき、最後はキーパーに戻させてロングキックのミスを誘いました。誰もスプリントしていませんし、誰もボールにつっかけてないんですよね。数的不利な状態から始まったにも関わらず、ひとりでふたりを見つつ、最後は1対1ではめ込んでロングキックを蹴らせるという、運動量にものを言わせるのではなく、ポジショニングだけで相手のミスを誘う守備をやっていたので、体力面でも大きなメリットを生むことができました。これも最後にアディショナルタイムに豊田が走ることのできた要因ですよね。
■ 松岡が支え、小林が完成させる
鳥栖がいつもいつも高い位置からプレッシャーをかけていたかというと、決してそうではなく、鹿島がじっくりとボールを保持できる状態からスタートした場合は、フォワードのプレッシングでコースを限定はするのですが、中盤以降はミドルサードでしっかりとブロックを組む形をとり、スペース圧縮を優先して前線からの人数をかけたプレッシングは控えていました。
福田がレオシルバに対して幾度も出たさそうにしていましたが、何度も踵を返してリトリートしていたシーンは、スペースを守りたいという理性と、アグレッシブに奪いに出たいという野生とのせめぎあいが見て取れました。この、やみくもに前に出ない守備というのは、体力の温存にかなりの効果を発揮しておりまして、激しく前後の動きを繰り返していたレオシルバ&三竿コンビとの体力の差が最後にでてしまったのかなと。
鳥栖のブロック守備は、今節も同じく、サイドに幅をとる選手に対するマーキングは、ボールが渡ってからブロック全体を移動して対応する仕組みでした。ボランチからサイドハーフやサイドバックに対して配球されたときのマークはサイドハーフが担当していました。松岡(クエンカ)が、ボールの追い出しと、出された先へのプレッシングの双方をこなすことによって、サイドバックが出ずに済むことになり、ハーフスペース付近をサイドバックが埋める構造を保つことができていました。ミョンヒ監督に代わってから守備構造で変わったのはこの部分ですよね。前線で人数をかけてプレッシャーを与えるのではなく、少人数で進路を誘導し、フォワードとサイドハーフが複数人を見ることによって中央での数的優位を確保しつつ、スペースを圧縮してミスを誘う形をとっています。
このBlogで何度か書きましたが、相手に引っ張られずにゾーンで守りながらボールと味方の行方にあわせてプレッシングに出ていくのは小林が得意な守り方ですよね。名古屋戦や仙台戦など、原(藤田)がウイングバックに引きずられてアウトサイドにでていってしまい、ボランチとの連係ミスが発生したときにセンターバックとの間のスペースを狙われるケースが発生していましたが、小林はゾーンで守る技術の練度が高いため、ゾーン守備による強度が上がっています。当然、小林のゾーン守備を支えるのは、縦の関係を築いている松岡の動きが重要でありまして、彼1人で2人の相手を見ることのできる守備が効いているのは言うまでもありません。小林が松岡をうまく誘導して守備をコントロールしていますよね。
小林が外に出ていくのではなく、松岡が外に出て守備をすることによる利点は、例えば、64分の場面のように、中央から外に展開されたときに、松岡が出て行ったので、安西のクロスが松岡の後列にポジションをとっていた小林でクリアできることとなりました。中央を開けずに守備をできるというのは最大のメリットですよね。ミョンヒ監督に代わってから、松岡とクエンカのガンバリもサガン鳥栖の失点の減少を支えてくれています。
■ レオシルバの突進の防止

今回の鳥栖の守備方式の成果が出たシーンがあったので紹介します。54分のシーンですが、レオシルバが鳥栖の左サイドをボール保持しつつ、前進します。ここで、左のアウトサイドにポジションをとる安西に対して松岡がマークにつきます。松岡がスペースを空けることによって、レオシルバは突進の機会を得ますが、レオシルバに対して、豊田がプレスバック、さらに福田が外にスライドしながらプレッシングを仕掛けます。レオシルバとしては、空いたスペースに運ぶドリブルを仕掛けたつもりが、いつの間にか狭いスペースで囲まれる結果となってしまいました。これにより、レオシルバは、狭いスペースを縫うようなパスを送らざるを得なくなり、最終的にはパスミスで終わってしまいました。奪うことが困難な相手の場合は、いかに窮屈な状況でプレーをさせるのかという動きが大事です。アクションをとりに行くとかわされてしまうので、スペースを圧縮し、相手のミスを待つというのは我慢のいるプレーですが、チーム全体の意思がしっかりとまとまっているのを見て取れたシーンでした。
さて、このシーンで、土居のセンスを感じたのは、白崎が前線にポジションを移したと同時に、土居が中盤のスペースに引いて全体のバランスを取っているんですよね。つなぐ相手がいないという状況が発生しないよう、土居がバランサーとして前後左右にポジションをとって選手間の鎖が切れないような動きをしていました。土居だけでなく、鹿島は、選手が動くと必ずそこを補完するような動きを見せます。例えば、安西がカットインして中央に入ってくると、白崎がワイドに開いて待ち構えますし、レアンドロが中央に入ってくるとそのスペースにセルジーニョがはいって裏へのボールを引き出す動きを見せたりですね。縦のレーンに入ってくるのは1人(多くても2人)というポジションを取っていました。
逆に言うと、どこかのエリアに局所的に人数をかけるような攻撃は仕掛けてきませんでしたので、実は、ゾーンで守る鳥栖にとっては、自分のゾーン内で捕まえる人間がある程度明確になっており、守備構造としては守りやすかったのではないかと思います。人を集めて数的不利を生んだときに、どうやってその問題を解決するのか(人を集めて対処するのか、あきらめてそのエリアは渡してしまうのか)という選択をしなくて済んだのは、鳥栖にとっては組みやすかったのかもしれないですね。
<鹿島の守備組織>

■ 動くレオシルバ
ここからは、鹿島の守備組織の話です。鹿島も鳥栖と同様、ビルドアップで両センターバックをフォローする福田に対して、どうやってビルドアップによって突破されるのを防止するかという策を講じなければならないのですが、大岩監督の回答は、ミョンヒ監督とは異なり、「積極的にボランチを捕まえに行く」でした。
ゴールキックからの展開でボールをつなごうとすると、祐治、秀人、福田に対して、人数を揃えるように土居、セルジーニョ、レオシルバが前からプレッシングに入っていました。流れの中でも、福田に対してボールが出た際には、レオシルバが列を上げて、福田が前を向く前にしっかりとプレッシングに入ります。25分頃に、このプレッシングが功を奏して、福田に対してレオシルバがつっかけてボールを奪う機会ができ、鳥栖としてはあわや大ピンチというシーンを迎えてしまいました。このシーンは祐治のカバーリングで事なきを得ましたが、鹿島としてはこういった前から人数をはめて奪いきる守備を目指し、ボランチ2人が積極的に列を上げてプレッシングをしかけていました。表題を「動かない福田」に対して「動くレオシルバ」とさせてもらったのはここに理由があります。
■ レアンドロ前のスペースを狙って

レオシルバが中央のスペースを空けてプレッシングに出ていくため、鳥栖としてはボランチ周りのスペースを使いやすい状況が生まれていました。最近のビルドアップの形である、原川を左サイドのボランチ脇のスペースに配置して、ビルドアップの出口として利用する仕組みはこの鹿島戦でも同様に採用されました。今回は、センターバックや福田を経由するのではなく、高丘からの直接このスペースに出されるパスも多く目立ちました。
レアンドロは、立ち位置が非常に難しくて、プレスをはめるために三丸につくべきなのか、前方の原川を消すべきなのか、背後のクエンカを消すべきなのか、周りの味方の状況に応じた選択をしなければならず、守備の面では頭を悩ませていたかもしれません。原川をケアするために前に出てきたら28分のシーンのように、秀人から直接三丸にボールを渡して、低い位置からでも早いクロスを放り込まれますし、三丸やクエンカをケアすると原川に自由にボールを持たれます。
レアンドロと山本としては、レオシルバの積極的な動きに連動してハメる形を作りたかったかもしれませんが、レオシルバが前に行っている以上、三竿が左サイドに寄りすぎるとバランスが崩れるということもあり、原川・三丸・クエンカのすべてのパスコースを消すことがなかなかできない状態となっていました。
あと目立ったのは、中央でボールを奪って左サイドに人数を寄せて攻撃をしかけるシーンがいくつかありました。具体的には、10分や71分のシーンなのですが、中央でボールを奪った松岡が左サイドに流れて攻撃を組み立てます。いずれも、ボランチの脇(サイドバックの前)のスペースを利用して松岡がそのエリアに入ってきて左サイドに展開しました。特に、71分では、ボールを奪って裏に抜けるクエンカに対して絶妙なスルーパスを送り込み、シュートチャンスを演出しました。ブロックを組んでスペースを圧縮して守っているので、奪ってから攻撃に転じる際に味方との距離が近いという副産物ですよね。
■ セカンドボールを拾えるメカニズム

上記のように、鹿島は積極的にプレッシングをしかけてきたので、ビルドアップで崩していきたい鳥栖ではありましたが、福田がつっかけられたシーンもあったように、リスクを負ってボールを保持し続けるよりは、簡単に蹴っ飛ばすという行為もしっかりと選択していました。
実は、鳥栖にとっては蹴っ飛ばすという選択は決して悪いものではなく、鹿島がプレッシングに出ることによって、セカンドボールを拾うエリアに「レオシルバがいない」という状況が作られ、両サイドバックも幅をとっていて、そこにも鹿島の選手をつり出しているので、実質的に、セカンドボールを拾うエリアに鳥栖3人、鹿島1人という状況でもありました。
例えば21分ですが、金崎がロングボールを競っている手前には鳥栖は豊田、松岡、原川がポジションをとっていますが、鹿島は三竿のみ。31分のシーンでも、高丘が詰められてアバウトなボールを前線に送ったのですが、セカンドボールを拾うエリアには原川と福田しか選手が存在せず、前からプレスにはいっていた鹿島の選手たちがポジションを取り直すことが遅れ、鳥栖がゆうゆうとセカンドボールを奪取することができていました。
鹿島にとっては、積極的に人を捕まえようと前からプレッシングに行くものの、そのたびに頭を超えるボールを蹴られてしまって徒労に終わってしまうという、体力的にも、精神的にもかなりきつかったのではないかと思います。レオシルバも三竿も、前に出て行き、蹴られたらすぐに戻ってという繰り返しを果たすことになって体力的にかなり消費していました。後半の途中頃から、福田を捕まえに前に出るというシーンが少しずつなくなっていきましたが、そのころにはかなり消耗しており、この事がアディショナルタイムにゴール前に戻れないという状況をうみだしました。
■ 左利きの前線・中盤がいないことによる影響?
セカンドボールを奪ってからの展開でひとつの課題がありまして、上記の21分のシーンでは、セカンドボールを拾った豊田が、右サイドにいる松岡にパスを送り、しかも松岡が足ではなく、胸トラップをしなければならないような質のボールを送ってしまったことによって、松岡が胸トラップでボールを落ち着かせる間に、鹿島が守備陣形を整えてしまいました。松岡は鹿島の選手に囲まれましたが、うまくボールキープしてくれましたね。
豊田の体の向きが右サイドを向いていて左サイドへの視野が確保されていなかったからでしょうが、左サイドでは、戻りの遅いレアンドロの隙をついて原川とクエンカが良いポジションをとっていたので、金崎の落としのボールを左サイドへ展開できていれば、原川を経由して大きなチャンスを生み出していたでしょう。もしくは、松岡に渡すにしても、松岡が胸トラップをしなければならないようなボールではなく、彼の足元に収まる丁寧なパスを送ることができれば、ダイレクトで左サイドへ展開できていたかもしれません。
ボールの質といえば、31分頃に祐治が高丘に戻すパスがバウンドしてしまって高丘が叱りつけるシーンがありましたね。ひとつひとつのパスによって展開に影響を与えることもあるので、日ごろの練習は本当に大事です。
さて、最近、クエンカが左サイドで非常に良いポジションをとっているのですが、クエンカにボールが出てこないケースが発生しています。左サイドで攻撃を仕掛けているときは問題ないのですが、中央からやや右サイド付近でボール保持をしている状況で、クエンカが左サイドのスペースによいポジショニングをしていながらも、彼にボールが出てこないというシーンです。
現在の鳥栖の前線と中盤のスタメンには、左利きの選手がいません。右利きの選手は、ボールを右で持つので、視野として左サイドの奥が若干見えづらくはなります。当然、選手の配置を意識して、常に全体を把握していれば大きな問題になることはないのですが、右サイドから左サイドのクエンカにボールがでづらい状況ですので、もしかしたら、レフティがいないという影響があるかもしれないという仮説です。左サイドのボランチ(例えばシミッチみたいな)が入ることによって、鳥栖の攻撃がどのような変わるのかというのはちょっと見てみたい気はします。
昔、サガン鳥栖から坂井がアギーレ監督時代の日本代表に選出されました。左利きのセンターバックというところがひとつのポイントだったみたいですが、右利きの選手だと、右足の前にボールを置くので体を開かないと左側のパスコースが見えにくくなりますが、左利きの選手は左足の前にボールを持つことによって、左サイドでのビルドアップの視野が確保されるからというのもひとつの理由であった模様です。
昨年、オマリが左利きのセンターバックとして在籍していたので、ビルドアップやロングパスが、相手のプレッシャーの外側から蹴ることができていました。右利きのセンターバックが左サイドの選手に蹴るとボールがピッチの外に出る方向に曲がりますが、左利きの選手が蹴るとボールはピッチの中に入る方向に曲がります。この辺りも、左利きの選手がいることのメリットですよね。
■ スンヒョンのプレイスタイルが生んだ鳥栖の得点
鳥栖は、アディショナルタイムに劇的なゴールで勝利を挙げることができました。ゴールキックを跳ね返したルーズボールを小野が競り合い、義希の鋭いダッシュでセカンドボールを拾ったシーンから始まり、最後はディフェンスラインの背後へ抜け出した小野の折り返しを豊田が決めてくれました。
鹿島側にとって、このシーンの一番の問題点は、当然のことながらセンターバックがつり出されてしまって、ゴール前にスペースを与えてしまったこと。今回のレビューで何度も体力、気力という言葉を使いましたが、多くの上下動をさせられた三竿、レオシルバがスプリントをかけてゴール前に戻る体力と気力が残っていませんでした。
もうひとつですね、どうしてもサガン鳥栖出身という事で気になった動きがあるのですが、スンヒョンが、ほんのわずかですが、ボールを奪って運んできた義希に対して前に出ていこうとするアクションをとったんですよね。背後のゴール前のスペースにリトリートする動きの中、ほんの少しベクトルが義希の方へ向いてしまいました。この、ボールに対して出ていこうとする意思によってスンヒョンの動きが止まり、義希がその絶妙な瞬間にスルーパスを出したので、スンヒョンが後ろに戻るモーメントを失い、ゴール前のスペースに戻るスピードがなくなってしまいました。
66分のシーンに前触れがあり、右サイドバックの裏のスペースに出されたボールを金崎が拾うのですが、山本と一緒にスンヒョンもゴール前をあけて出て行ってしまうんですよね。その結果、スンヒョンがでていったスペースに対するケアができず、クエンカがそのスペースにボールを送り込んで豊田のスライディングシュートを演出(ここは犬飼がクリア)しました。このころから、三竿も戻りが遅れてカバーリングがぎりぎりになってきていたんですよね。
スンヒョンがゴール前をあけてでもボールに対して強くアプローチに出るプレイスタイルというのは鳥栖のサポーターのみなさんは覚えがあるでしょう。今回のゴールシーンも、一瞬スンヒョンがボールサイドへのアプローチを試みようとして動きが止まってしまい、そのわずかな動きの合間の出来事でした。もちろん、ボールに出て行ってパスコースを限定し、さらにカットすることができれば理想なのですが、そのためにゴール前のスペースを犠牲にするというリスクがあることは承知の通りです。鳥栖時代に試合の展開を左右する功罪となっていたスンヒョンの積極的なプレイスタイルは鹿島に行っても健在でした。
余談ですが、こういうシーンを見ると、マリノスの中澤だったらどのような対処をしたのかなと考えます。中澤はゴール前のスペースを埋める守備が本当に上手でした。彼は、サイドにボールがでて、例えフリーでボールを持たれたとしても、出て行かずにゴール前にステイという選択もありました。
■ おわりに
DAZNの中継で、アディショナルタイムだったというのもあるでしょうが、何度も何度も豊田のゴールがリプレイされまして。
豊田のゴールの瞬間、スタジアムのサポーターが一斉に立ち上がるのが見えるんですよ。
メインスタンドも、バックスタンドも、ゴール裏も、スタジアム中がゴールが決まると同時にサガンブルーを身にまとった大勢の観客が立ち上がって喜びを爆発させる光景が見えます。
その中で映る、豊田のほっと安堵したかのように見える表情も良いですし、そして、最後にゴール裏を背景に、ミョンヒ監督のガッツポーズもまた素晴らしい。
これは泣けますよね(笑)
ボヘミアン・ラプソディーを見ても泣けませんでしたが、このシーンは泣けます(笑)
みなさんも、ゴール画像のみではなく、ゴールが決まった瞬間のスタジアムの光景を見てみてください。
また違った喜びがでてくるのではないかなと思います。
■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事
Posted by オオタニ at
17:42
│Match Impression (2019)