サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2016年09月14日

2016 2ND 11節:浦和レッズ VS サガン鳥栖

気が付けばセカンドステージも11節を迎え、優勝争いや残留争いの行方が気になる頃になりました。サガン鳥栖は2ステージ制という恩恵を受けてセカンドステージの優勝という文字が見え隠れし出した状況だったのですが、浦和レッズという高いハードルを越えることができずに残念ながら一歩後退となってしまいました。

■ 試合の流れ

序盤は、どちらがペースを握るということもなく、前線からのチェックで奪いたいところでボールを奪うような場面(特に西川からのフィードをカットできるような鋭い出足)もありましたし、ボールを保持してゴールを伺う機会もありましたし、持ち前のハードワークを前面に押し出して、一進一退と言っても過言ではない戦いを見せていました。

しかしながら、主導権を握って戦えていたかと言うと、そこまでには至らなかったのも事実でありまして、鳥栖が完全に主導権を握ることができなかったポイントは2つあると考えます。

1つは、浦和のトランジション(攻守の切り替え)です。トランジションのスピードが下位チームとは比べ物にならない程早く、鳥栖がボールを奪って攻撃を仕掛けようとしても浦和のフォアチェックや素早いリトリートによって、ボールを前方に展開できず気がつけば遅攻フェーズに入っていました。

本来は高い位置でボールを奪って素早い攻撃を見せたいところでしたが、ボールを奪ってからのスピードアップができず、気が付けばボールを持たされる展開になり、効果的なパスをだせないまま相手にボールを奪われてしまうことが何度となく発生しておりました。

もう1つは、豊田がロングボールに対して絶対的優位に立てなかったという点です。いつもは鳥栖側に分があるはずのロングボールに対して、浦和の屈強なセンターバックである、那須、槇野が立ちはだかり、豊田の独壇場となりませんでした。

長いボールに対するセカンドボールを拾って二次攻撃に繋げるどころか、逆に前半30分のシーンのように長いボールを跳ね返されて逆に浦和のカウンターの起点になるような事態も発生し、全体を押し上げるきっかけづくりとならず、ロングボールを効果的に利用する機会がいつも程はありませんでした。

前半終了間際の失点シーンに関しては後述しますが、後半は、2点差がついてしまったので、リスクを冒してまで得点を奪いにいかなくてもよい浦和と、リスクを冒してでも得点を取りにいかなければならなくなってしまった鳥栖との戦いという形になり、前がかりになった鳥栖のスペースを狙った浦和が幾度となくチャンスを作っていましたが、林の好プレーによってなんとか失点を免れました。

最後の谷口のヘッドが決まっていれば、負けながらも多少は報われる試合だっただけに、ちょっと惜しかったかなという気持ちはありますが、浦和のミスがほとんどなかった事を考えると、完敗と言ってもいいような試合でした。

■ 失点に至るまでの経緯

現地で試合を見ていないので、画面から入ってくる情報だけが頼りなのですが、時間帯による約束事なのか、相手(特に、関根、宇賀神)の動きに対するリアクションとしての約束事なのか、この試合の中で鳥栖がいつもとは異なる守備組織で構える何かしらのトリガーがあったことは確かです。

いつものようにフルタイムで前線からのプレッシャーに行くのではなくてセンターハーフを最終ラインに下げることが多く、2人のセンターハーフを最終ラインに下げて時折6バックのような形で最終ラインのスペースを消す守り方にシフトすることもありました。

最終ラインに人をそろえるということは、中盤の選手がいたスペースを空けるということであり、では、そのスペースを守るためにどうするかという解決策が必要となります。

序盤の内は、浦和の阿部・柏木のゲームメイクに対して、前線2人と中盤2人(豊田、ムス、鎌田、ミヌ)が、パスコース、ドリブルコースへの対処を行い、スペースを埋める動き、相手の突進を阻止する動きをいつも以上にハードに対応していました。

特にキムミヌと鎌田は上下の動きによって浦和の最終ラインにプレッシャーをかけたり、引いてスペースを守ったりと非常に多くの事を求められていました。(ちなみに、鎌田は(途中交代ではありますが)1分あたりで換算するとキムミヌよりも福田よりも走っています。)

浦和に深く押し込まれた場合は、豊田が1列下がって中盤のスペースを埋める役割を果たしていましたし、この頃は、鳥栖が最終ラインに人数をかけても、それを前線と中盤の選手がカバーリングできていて、浦和の選手が動くスペースをある程度抑制することができていました。

2016 2ND 11節:浦和レッズ VS サガン鳥栖

2016 2ND 11節:浦和レッズ VS サガン鳥栖

2016 2ND 11節:浦和レッズ VS サガン鳥栖

ただ、動きに少し陰りが見え始めたのが、前半35分頃です。序盤の内は、ボールの動き、人の動きについていく体力と気力があります。しかしながら、試合も進み体力が消耗してくると、メンタル面、フィジカル面、双方の疲れで足が動かなくなり、少しずつ地力の違いによるプレッシャーが鳥栖イレブンにのしかかってきます。そして、その一瞬の隙を逃さないのが、阿部であり、柏木でした。

この時間帯を迎え、阿部、柏木が鳥栖の前線のチェックを難なくはがすようになってきました。いつもだったら、前線がはがされても、鳥栖の中盤が二の矢と言わんばかりに襲い掛かってくるのですが、関根、宇賀神へのスペースを与えないために、義希、福田が最終ラインに近い所で構えているため、前線と最終ラインとの間に大きなスペースを生み出し、二の矢となるプレッシャーをかけることができませんでした。

また、柏木の位置取りが、この時間帯は最終ラインまで下がってきたことも、鳥栖の前線の付き方に迷いが生まれました。抑えるべきところがゲームメイクする阿部や柏木なのか、それとも彼らからパスが渡るであろう森脇、槇野、那須なのか、柏木のポジショニングのわずかな変化なのですが、鳥栖の選手間のポジショニングの微妙なズレ(明確な意思疎通が行えていない)のを感じました。柏木や阿部のドリブルの仕掛けに対して、豊田とムスの2人はパスの出先を気にしていた状態であり、それに対して急遽プレスに行くという選択をしませんでしたし、その体力も残っていないように目に映りました。

そして、とうとう、阿部、柏木がドリブルで持ち出してからストレスフリーの状態でパスコースを探し、最終ラインで良いポジショニングを見せていた関根に好パスを通され、鳥栖が対処する暇もなくシュートを浴び、ゴールを奪われるという結果になってしまいました。

2016 2ND 11節:浦和レッズ VS サガン鳥栖

2016 2ND 11節:浦和レッズ VS サガン鳥栖

2016 2ND 11節:浦和レッズ VS サガン鳥栖

2016 2ND 11節:浦和レッズ VS サガン鳥栖

■ 今後に向けて

下図は、阿部から右サイドの森脇にパスを通され、中盤にプレッシャーが全くかからない状態(複数人がフリーの状態)を察知して吉田が慌ててマークに向かいますが、そのスペースを使って裏へ抜け出すズラタンへのパスを許してしまったシーンです。この間、浦和がゴール前にチャンスを作るためのパスはたったの2本です。

私は、このシーンが、試合の流れの中で、チームのコンセプトを保ちつつ、前線、中盤、最終ラインがそれぞれどういう陣形を取れば良かったのか、選手同士がコミュニケーションをとってみんなで策を練るよい材料かなと思います。

2016 2ND 11節:浦和レッズ VS サガン鳥栖


サガン鳥栖の組織構築という観点で考えると、今はまだ、完成へ向けた過渡期の段階です。相手が4-4-2(4-5-1)の場合で、ある程度オーソドックスな攻め方をしてくる場合では、自分が守るスペースと相手が攻めるエリアとが対比しやすく、選手個々の次の動きのアイデアが生まれやすい状態になってきました。

しかしながら、今回の浦和のように、強力なアンカーがゲームメイクする場合や、前線に4~5枚並べられた場合など、相手に自分たちの守備の陣形にそぐわない形を作られたり、個人能力の高い選手による攻撃を受けたりした際には、人への対応をとるのか、スペースへの対応をとるのか、プレスをかけるのか、リトリートするのか、試合の中で最適解を出すには至っていない状態です。

相手との力関係のみならず、勝っている時、同点の時、負けている時など、それぞれの状況に応じて戦い方を変えなければなりませんが、まだまだその引き出しを多数持っているわけではありません。マッシモさんが、福田のポジショニングを試合の中で様々変えて挑んでいましたが、組織およびそれに紐づく個々の判断が自然に対応できるようになるにはまだまだ時間が必要で、現在は試行錯誤の段階だと感じました。

ファーストステージでの浦和との戦いのように、勝ち点1を獲得するために、完全に引いてしまう戦いをするのもひとつの手だとは思いましたが、マッシモさんとしては、現在の鳥栖の状態で、どの程度戦うことができるのか確認したかったのでしょう。そう考えると、ファーストステージのスコアレスドローよりも、今回の0-2での敗戦の方が、得るものは多かったのではないかと思います。

得られる勝ち点は望んでいるものではありませんでしたが、この試合における経験(特に失点のシーン)は、今後のサガン鳥栖のより強固な守備システムの構築に向けて必ず活用して欲しいですね。

<画像引用元:スカパーオンデマンド>


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Posted by オオタニ at 12:35 │Match Impression (2016)