サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2016年09月21日

2016 2ND 12節:サガン鳥栖 VS サンフレッチェ広島

前節、浦和レッズに敗れたものの、選手・サポーター共にセカンドステージ優勝という目標を下方修正する気はさらさらなく、ホームでの広島撃破を選手もサポーターも信じて戦いに臨んだのですが、3失点を喫するという想像しなかった状況となってしまい、それでも絶体絶命のところから気迫の2ゴールで追いつきかけたのですが、あと一歩届かず、無念の連敗となってしまいました。

■ 試合の流れ

鳥栖は前節と同じスタメン。ムスがスタメンに入ってからは守備時におけるセットアップが4-3-1-2であったり、4-3-3であったりする流動的な守備体系ですが、早坂スタメンの時よりも機能性が向上しているとは言い難い状況です。

広島は、攻撃時には3-6-1でウタカをトップに、茶島と柴崎がセカンドトップ(シャドーストライカー)に入り、ワイドにミキッチと柏、ゲームは青山と丸谷が作ります。守備時には、両サイドを下げて5-4-1の構え。両ウイングは、鳥栖のサイドバックが侵入してきた際に積極的にマークにつく形を取り、中盤は、セカンドトップ・ボランチの4人でしっかりと固めていました。

しっかりとリトリートして構える広島に対して、鳥栖の攻撃は思いのほか機能していたように感じました。それは、繰り返し行われていた、下図の攻撃パターンに表れています。

最終ラインでボールを保持し、センターハーフのミヌと福田はボールを受けに下がらずに、中央で広島のマークを引き付けています。鳥栖は最終ラインでボールを回しながら、逆サイドに展開して鳥栖のサイドバック(藤田、吉田)と広島のウイングバック(ミキッチ・柏)が対峙する状況を作り出します。

ミキッチ・柏は、藤田・吉田を前進させまいとマークに入りますが、その裏のスペースにしっかりとミヌや福田が入って、サイドバックからのワンタッチでボールを受けることが出来ていました。

ミヌや福田がそのスペースに入れない時は、鎌田やムスがそのスペースを狙っており、ウイングバックが空けたスペースを狙うという形が鳥栖の選手たちの共通意識の下で行われていました。

豊田が、あまりサイドのスペースに流れてこなかったことを考えると、豊田はやはりゴールゲッターであるというチームの方針があってこそのことでしょう。ただ、それにしては、この試合の豊田のシュートが遠い位置からのミドルシュートしか印象がないのは、やや残念な感じです。

2016 2ND 12節:サガン鳥栖 VS サンフレッチェ広島

2016 2ND 12節:サガン鳥栖 VS サンフレッチェ広島

2016 2ND 12節:サガン鳥栖 VS サンフレッチェ広島

2016 2ND 12節:サガン鳥栖 VS サンフレッチェ広島

このようにサイドのエリア深くまでボールを運ぶのは組織としての崩しであり、この試合ではうまく機能していたところなのですが、最後のゴール前へのラストパスやシュートに関しては、個人の力によるところが大きくなります。

広島は、もちろん深く入ってきた相手を自由にさせませんから、そのスペースまでボールを運ばれたとしても、中央はしっかりとセンターバックが構えていますし、ボランチが下りてきて(もしくはセンターバックがカバーリングに入って)サイドでボールを持った鳥栖の選手には自由を与えないカバーリングも行います。そこで、どれだけのクロスを上げることができるか、どれだけのシュートを放てるかというところが、ゴールに繋がるか否かというポイントです。

鎌田がゴール前にドリブルで入ってきたり、ムスが早いクロスをニアに送ったり、福田やミヌが切り返してクロスを上げたりしていますが、カットされたり、ブロックされたりして、惜しくもゴールに繋がらなかったのは、広島の個々の能力の強いところでありました。

後半、鳥栖がウイングバックの裏のスペースを利用する機会が減少したのは、ハーフタイムにミキッチと柏の裏のスペースにボールが入った際の対処の指示(もしくは選手間の議論)があったのではないかと想定します。前半に使えていたスペースに対して、広島のセンターバックが早めにカバーリングに来ていましたし、流れによっては、青山や丸谷がいち早く察知してスペースをつぶしにかかって来ていました。

3点差がついたことによって、広島もやや引き気味になったところに、鳥栖がフレッシュな早坂、富山を入れて前線の動きを活発化させ、高い位置からの追い込みに伴って、最終ラインの谷口、ミンヒョクも高い位置にポジショニング取ることによって、セカンドボールも拾えるようになり、この押せ押せムードの中で、セットプレイやミンヒョク&ミヌのビッグプレイ(ミンヒョクの縦パスとミヌの囲まれていながらのシュート)によって2点返しますが、惜しくも反撃はここまででした。

1点差に追いついた後に、この勢いに乗じて同点まで行きたかったのですが、広島も押し返して連続でコーナーキックを与えてしまった時間帯があり、個人的には、ここで勢いがやや消失したのが痛かったかなと思います。

■ 豊田、鎌田、ムス、3人の関係

守備に関しては、早坂が入っている時に比べると、明らかに機能不全に陥っている状態です。前線に3人が並んでいる状態で、簡単に前線(第1列)が突破されてしまうのは、中盤、最終ラインに相応の負荷をかけることになります。特に、相手が中盤を厚くしてくるチームであれば、中盤の数的不利によってそのまま決定的なピンチを招く羽目になります。

鳥栖のプレスが機能して、中盤がボールをカットできるのも、前線が相手の動きに制約をかけるプレスをかけるからこそです。

ところが、この試合は、相手のどういったプレイを阻害したいのか(左(右)への展開を阻害したい、ボランチへのパスを阻害したい、前線へのロングボールを阻害したい・・・)、そして、そのために誰がどのスペースを埋める(どの選手につく)のか、そういったところの意思疎通が取れていないのを感じました。

2016 2ND 12節:サガン鳥栖 VS サンフレッチェ広島

2016 2ND 12節:サガン鳥栖 VS サンフレッチェ広島

無論、彼らが単純にさぼっているわけではなく、中盤の選手が不在の時は、自分たちが中盤に下がってカバーリングするなど、3人共に献身的な動きを見せることもあります。ただ、せっかくの動きが3人バラバラな意思の下で対応してしまうと、無駄なものに終わってしまうという事です。

流れの中のひとつの場面というのもありますが、図でもありますように、2人がセンターバックへのパスコースを阻害していますが、どちらのサイドを殺したいのか、そして、肝心なボール保持者に対してのアプローチは誰が行うのか、中央へのパスはどの程度ケアするのか、そして、大事な大事なドリブルで抜かれない意識、そのあたりの守備をもっとできるようになれば、ピンチの数は減ってくるはずです。

攻撃面に関しては、ムスが思いのほかゲームメイクのポテンシャルを見せています。彼は、ボールキープして起点となり、味方を使ったスルーパスをだし、また、ドリブル突破も仕掛けられますし、ゴール前での鋭い飛び出し(シュート)も見せてくれます。私は、彼の動きに対してすごく期待感がありまして、特に、前線でボールキープしてあのような相手の間隙を縫うようなパスが出せる選手は、鳥栖の外国人としてビスコンティ以来久しぶりに見たかもしれません。

ただし、それも、周りのメンバーとの意思の疎通があってからこそ生きる物であり、高さとシュート力のある豊田、キープ力と創造性のある鎌田をどのように生かすのか、また、ムス自身が彼らによってどう生かさせるのかというところで考えると、まだまだチームにフィットしきれていないのを感じます。

豊田、鎌田、ムス、3人とも非常に高い個人能力を保有しており、ベンチメンバーも含めて、鳥栖史上でも類を見ないほどの選手たちが前線にそろっています。3人の関係性(役割分担)に関して、日々のトレーニングの中で互いにコミュニケーションを取り、相互理解した上で攻撃を組み立てることができれば、ムスが加入したことによって、サガン鳥栖をもう一段上のレベルまで引き上げてくれると信じていますし、そのようになるために、攻撃の準備と守備への貢献のバランスに関してマッシモさんがうまく手綱を引いてくれることを期待しています。

■ 審判との関係について

この試合は、非常にメンタルコンディションが上下する状況でありまして、試合の展開もさることながら、開始当初から、主審や副審の判定に対する不信感が選手、スタッフ及びスタジアム全体に生じたことは確かです。ただ、至る所で検証されていますが、疑惑のシーンとされていた部分に関しては、判定通りであったかと思います。いずれにしても、審判技術向上のために、意見書を提出し、リーグの中で検証してもらうというのは、チームとしてとるべき対応でしょう。

ところで、試合中に監督や選手が審判に対して抗議することによるメリットは何が考えられるでしょうか。原則として判定は覆りませんし、度が過ぎると意義や遅延によってイエローカードの対象となりますし、抗議が認められないことによってフラストレーションがたまってメンタル面でも悪影響がでます。

判定の理由を問うたりするのは、審判とのコミュニケーション(ある意味審判のコントロール・釘さし)という意味でも必要かもしれませんが、必要以上にヒートアップして審判に敵意を持って接するのは得策ではありません。選手の鼓舞の為というのもやや詭弁に聞こえます。

主審は必ずしも百戦錬磨の担当割り当てが行われるわけではありません。今回のように、若い経験のない主審が割り当てられることもあり、そして、今回のようにマネジメントがうまくいかないようなケースが当然のごとくあり得ます。もちろん、納得の行かないジャッジに激高することもあるでしょう。ただ、そういう状況下において、如何にしてセルフコントロールして普段のポテンシャル通りの実力を発揮できる状況に自分たちの身を置くことが出来るかというのは、勝利へ向けて、技術、体力と共に必須条件であるようにも思われます。

本来ならば3点取られて失墜してしまう所でしょうが、最後まであきらめない気持ちで2点を取り返しました。それだけに、次節に指揮官、エース、期待の助っ人の3人がそろって試合に出場できない状況になってしまったのは、残念でなりません。

<画像引用元:スカパーオンデマンド>


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Posted by オオタニ at 19:22 │Match Impression (2016)