サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2013年08月13日

横浜FM VS 鳥栖

点数的には、惜しい試合のように見えて、やっているサッカーの質的に、いや、選手たちそのものの質にかなりの差を感じました。
マリノスの試合の強さの源は、的確で正確なキック力とトラップ力だと思います。単純なスキルですが、サッカーでは一番大切な要素です。
特に、この試合で際立って目立った中町のボールの配給は、今年のマリノスの躍進を支えている原動力ですね。決して、中村頼みのチームではないことが明確に分かりました。

中町とドゥトラは、鳥栖のセンターバックの背後のスペースに、マルキーニョスであり、中村であり、マリノスの選手が動いた瞬間によいタイミングでボールを配給していました。周りの選手も、徹底した動きで鳥栖の最終ラインに揺さぶりをかけてきました。

彼らが、そのエリアでボールを受けて、しっかりとトラップしてボールをキープし、後ろから来る選手たちに繋ぐことができるので、非常に大きなチャンスを生みます。中村の場合はゴールを決めたのですが、あのプレイは仕方ないにしても、あの走り込みを続けているからこそ生まれるゴールでしょう。最終ラインの破られ方から考えると、あそこまで攻め入られていたのに、よく2失点で収まりました。キーパーの藤嶋君の頑張りもありましたしね。

横浜FM VS 鳥栖


横浜FM VS 鳥栖

このような、マリノスの攻めをかわすには、最終ラインが完全に統率されたラインコントロールが必要です。
ディフェンスラインが引いてしまっていては、起点を作るはずのパスが、ゴールに結びつくパスとなってしまうのです。
その結果、前半開始からの背後を狙うパスを恐れ、ラインが下がりつつある中、ゴールの近くでボールを受けることができた中村がヘディングでシュートを打てる距離に入り込むことができ、見事なゴールとなってしまいました。

ただ、2点目は、マルキーニョスのスーパーゴールでちょっと影を潜めた感じですが、藤田に競り負けたヨソンヘは厳しいものがあります。
あの場面は、絶対に競り負けてはいけない場面です。相手が長いボールを仕掛けてくることはわかっていたでしょうし、ゆったりとしたボールなので、ボールがどの位置に落ちてくるか比較的予想しやすいのです。しかも、自分はボールに対して正対して対処できる状況。しかしながら、簡単に競り負けた。あの場面と状況でセンターバックが競り負けるから、今年は失点が減らないじゃないかなと思います。

さて、この試合、一流選手と代表レベルになりきれない選手の違いが良くわかって、すごくためになりました。
一流選手とは、中村であり、代表レベルになりきれない選手とは野田、池田の事です。
世界を経験した日本代表と、代表経験のない選手を比べること自体、おこがましいのかもしれませんが、野田と池田も、足元の技術や一瞬のスピードは光るものがあるので、少しだけ、いまよりも頭を使ったプレイをするだけで、プレイの質が変わる可能性があると思っているんですけどね。

中村がすごいのは、スキル的にスーパーなプレイができる選手でありながら、実は、一番"確かな選択"ができることです。
中村が鳥栖のクリアをダイレクトで拾って、前を向いてドリブルをしかける場面がありました。当然、すぐに鳥栖の選手が詰めて来てますが、詰める前のタイミングで、シュートを打つことも、ドリブルで交わそうとすることも選択肢としてはありました。彼の技量だったら、成功する可能性もゼロではありません。しかし、中村は立ち止まってボールを一旦キープして、ボールを失わず、ボランチにバックパスしてしっかりと攻撃のリビルドに繋げました。

ここが、野田や池田と、中村の違いでしょう。

池田が、前半の20分よりちょっと前くらいの頃、鳥栖が波状攻撃を仕掛けているときに、右サイドでスローインからボールをもらって、マリノスの選手が何人もいる中、ダイレクトちょこんとボールを浮かせて、ディフェンスをまるごとぶっこぬきで交わそうとしました。もちろんカバーしているマリノスの選手の網にあっさりとかかってしまってボールをいとも簡単に失ってしまいました。ここで、この浮き玉のプレイが成功したとして、交わした後に何につながったのでしょうか?

確実にゴールできるようなシュート角度でもないし、抜けて中央でフリーになるわけでもないし、決定的なアシストができる位置に味方がいるわけでもない。ただ、スーパーなプレイで「目の前の相手を交わしました」ってだけで終わるようなプレイです。

彼にこのスローインの受け手として求められるのは、的確なキープとつなぎ、ただそれだけですし、言いすぎかもしれませんが、池田がそのプレイを着実に実行することによって、ボールキープと攻撃が続いていれば、前半の失点はなかったかもしれません。

マルキーニョスは、最後のオーバーヘッドこそ、スーパーなプレイだったかもしれません。ですが、そのスーパーなプレーは、確率は低くとも、成功すればゴールに直結できるものなんです。これまでの彼のチームに対する献身的な動き、たとえば、上記のセンターバック同士のギャップに走りこんでボールを受けるような場面では、無理してダイレクトシュートを狙ったりしていません。チームのために確実にキープをして、次の選手の動きへと繋げる確実なプレイを選択していました。中村、マルキーニョスはそのプレイがチームのためになるのか、そのプレーがゴールに直結するものなのかというのを常に考えながらプレイをしているのです。

野田と池田は、是非ともここ数年の自分のプレイを見返し、中村やマルキーニョスとの違いを考えて欲しいです。彼らが自陣のサイドで試みるような、無理に相手をかわすようなプレイは、チームとして不要です。むしろ、そのプレイを試みることによってボールを失い、逆に失点をしてしまったという指摘すらしていたかと思います。チームのために、一番確率の高いプレイは何か、ボールを大事にするプレイは何かという事を常に頭の中にいれ、成功したらゴールに直結する場面や失敗してもリスクが低い場面では、思い切ってスーパーなプレイを狙ったら良いのです。

それは決して消極的なプレイではありません。彼らの無駄で無謀でゴールの確率ゼロのプレイは、チームに何も生み出さないのです。頭を使ったサッカーができるかどうか、俯瞰的な視野でフィールドをとらえることができるか、これが野田、池田と代表レベルの選手との違いだと思いますし、今後の成長ポイントだと思います。野田、池田の技術力とスピードを彼らが適切な場面で適切に使えるかどうか、今こそ、プレイヤーとして一流になれるかどうかの分岐点に立っているのではないでしょうか。

その池田の飛び出しからチャンスを作り、見ごたえがあったのが、前半15分のプレイでした。
マリノスのディフェンスラインからの長いボールをカットして、サイドに起点をつくります。
マリノスのサイドバックが出てきたスペースを狙って、池田が右サイドに飛び出します。

横浜FM VS 鳥栖

ここで、中澤のプレーが目にとまりました。サイドでフリーの池田を対処するために、ついついボールに向かっていきがち(つまりセンターバックがおびきだされる)になりそうなのですが、自分の周りの状況をルックアップし、あえて池田を泳がせて中央を固めることに徹しました。

横浜FM VS 鳥栖

池田は豊田にクロスを上げることをあきらめ、マイナスのボールを早坂に送ります。早坂も(ボールが早くて左足側に入ってしまったのもあるのですが)中央を固めているマリノスゴール前に対してシュートを打つことができずに、サイドの突破をこころみてクロスを上げます。しかしながら、そのボールは中澤にクリアされてしまいました。

横浜FM VS 鳥栖

この中澤の状況判断は、駆け引きという点で見ごたえがありました。サイドを突破されても、最後にシュートを打つところを防いだら、簡単にはゴールは生まれないという思想が完全に根付いてますね。非常にクレバーなプレイだったと思います。彼が池田に釣られてサイドに出てきてくれたら、中央が薄くなり、シュートチャンスが作れたのではないかなと思います。

ところで、この試合のユン監督の采配はどうだったのでしょうか。アウェーで圧倒的な戦力の差がある相手に、勝ち点3を取らんばかりと金井に変えて水沼をいれ、またもやバランスの悪いキムミヌサイドバックという手にでました。これを見て、ディフェンスラインに穴が空いたとばかりに樋口監督も小林に変えて前線に藤田を入れてきました。そして、樋口監督の采配がぴたりとはまり、マリノスが勝ち越し点を取りました。

これこそが、J1で優勝争いをしている監督と、残留争いをしている監督の采配の差だと思います。

どう考えても、勝ち点3を取れる可能性が高いのは、ホームでもあるマリノスです。ユン監督は、柏戦もそうだったのですが、なぜ、このような事態になっても、勝ち点1を死守するサッカーに切替をしないのかと不思議に思います。仮に、専守防衛だったとしても、柏、FM相手に勝ち点1ずつ取れれば、現在、甲府よりも上の順位にいるわけです。

勝ち点3を取るためには、狙いにいける対戦相手、狙いにいけるチーム状態、狙いに行かなければならないタイミングがあると思うのですが、その当たりのシーズン全体を見渡した戦略感というのを試合の展開や采配からは感じることができません。戦略と言っても難しいものではありません。

1.勝ち点3を取りに行く。状況が悪ければ、勝ち点1狙いに切り替える。
2.勝ち点1を取りに行く。状況が良ければ、勝ち点3を取りに行く。

このように試合ごとの目的、状況に応じた動きを明確化することで、奪える勝ち点が変わってくるはずです。アウェーの引き分け狙いも、立派な戦術なんです。
現在の戦い方は、相手チーム問わず戦い方が均一化されており、その試合での最大の目標が何なのかというのがなかなか伝わってきません。

正直、サッカーそのものの質は、J1下位に甘んじるほど悪くはないと思います。勝ち点3を狙いに行きたくなる気持ちはわかります。
ただ、逆にその状況が良くなくて、現在のサガン鳥栖は、麻雀で例えるといわば「半ヅキ」状態なのです。
試合の入りは良かった、選手たちの動きも良かった、ゴールチャンスも多く作った、でも、相手のスーパープレイで負けた。
配牌は良かった、ツモもよかった、リーチした、でも、相手の追っかけリーチに振り込んで負けた。
まったく一緒です。なまじっか、戦える状態にあるだけに、守備を疎かにして、点棒を失い続けるという、麻雀で大負けをする典型的な例です。

彼らもプロでしょうから、そういう試合を繰り返すうちに、「自分たちのサッカーは出来ている」「選手たちの動きは悪くない」で勝ち点を失い続け、降格するチームを過去に何度も見てきているはずなんですが…。
試合開始から引き分けを狙えと言いません。ホームの試合で引き分けを狙えとも言いません。
せめて、アウェーの地でくらい、後半の終盤になってでも構いませんので、チームの状況、置かれている立場を冷静に判断し、勝ち点1を取りに行くサッカーへの切り替えを考えてみることも必要であるかと思います。

昨年の5位はフロックです。そう言われてもしょうがない、今年の勝ち点になっています。
勝ち点こそ、真実です。
現在の順位を改めて凝視し、昨年は、フロックであったと自分たちの価値を再認識しなければなりません。

そろそろ、甲府より下の5チームで、2つのJ1の席を争うような形になってきています。
プライドを捨ててでも、チームの方向性を考える時期に来ているのではないでしょうか。

翌日のJ2の試合後、アビスパ福岡のプシュニク監督が面白いことを言っていました。
ガンバとの試合の勝ち負けの差は、チームがいい選手を取ってくる資金のあるなしの差だと。

「予算の違いです。ロチャ、宇佐美、遠藤、今野、大森、という選手を我々が獲得できる予算があれば、我々ももっといいプレーができたのじゃないかと思います。」

と語ってましたが、サガン鳥栖とマリノスとの試合も同じことが言えるのではないでしょうか?

「予算の違いです。マルキーニョス、中村、栗原、中澤、ドゥトラという選手を我々が獲得できる予算があれば、我々ももっといいプレーができたのじゃないかと思います。」

負け惜しみを言うならばそこですね。

<<画像引用元:スカパーオンデマンド>>


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Posted by オオタニ at 13:39 │Match Impression (2013)