サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2018年06月25日

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

熱戦が続くワールドカップですがみなさま寝不足で体調は崩されていないでしょうか。ワールドカップは短期決戦という点、対戦相手が決まってから半年以上の期間で戦略を練ることができるという点、とはいえ選手が集まってのチームとしての練習期間が限られている点など、普段のリーグ戦とは異なる要素がふんだんにあり、戦術的にも選手起用的にもチームごとに様々な特色が見られます。当然、国と国との威信をかけた戦いであるために、選手のみならず観客の熱気も画面越しに伝わってきて、真剣勝負というスポーツの最大の魅力を感じながら観戦することができる最高に楽しい大会です。

その中でも、先日のドイツVSメキシコ戦は、監督同士の考え抜かれた戦術、選手個々のレベルの高さも相まり、スピーディな展開で一時も目を離せない面白い試合で、気がついたらあっというまに時間が過ぎていきました。特に、メキシコの先制点はまさにリスクとゲインを天秤にかけたチーム戦術が生んだ得点であり、得点に至るまでの経緯が緻密な策略で張り巡らされておりました。筆者的には、このドイツVSメキシコが今大会の予選リーグのベストバウトであるかなと思っています。せっかくなので、サガン鳥栖サポーターのみなさまにもこのメキシコの戦術を分かり易くするため、メキシコ側の選手の動きをサガン鳥栖の選手名で例えてご紹介したいと思います。

スタメンは図の通り。キープレイヤーは福田と田川です。スピードがあり個人で打開する力を持っている選手をワイドに配置しているところがポイントです。当然、守備に置いても強い強度を発揮することが求められます。また、トップには池田を入れました。高さや強さで勝負するよりは、敏捷性と気の利いたポジショニング、そしてポストプレイヤーも裏抜けのランニングも同時にこなせるタイプを考えると、現在のサガン鳥栖の選手の中では池田という回答が生まれました。トップ下は小野です。広い視野、そして戦術眼、何よりもチームの為に献身的に動くことができ、そしてパスセンスに優れているという所での選択です。

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのゲームプランは、端的に言うとしっかりと守備をした上でカウンター攻撃をしかけるというものでした。ただし、カウンターと言っても当然チームの意思の統一がなければ場当たり的なパス、場当たり的なドリブルになってしまい、その時の選手の配置やボールの行方などの運に左右されてしまうことになります。そこでメキシコは、自分たちに優位な状態を作り出して再現性のあるカウンター攻撃をしかけるべく、選手の配置やプレスのやり方によって、ドイツが攻撃を仕掛けてくるサイドを限定し、そのサイドの裏のスペースを狙うという戦術でこの試合に臨みました。具体的には

① 池田、福田、小野でドイツの左サイドをしっかり抑える事によって右サイドからのビルドアップへと誘導し、
② ボアテング、キミッヒの高い位置への侵入を「是」としてドイツの右サイドのディフェンスライン裏のスペースを作り出し、
③ クロース、ケディラを動かす事によってカウンター時の池田へのパスコース構築を構築し、
④ ボールを奪うと即座に③で空けたコースを利用して池田に繋ぎ、②で空けたスペースを利用してカウンターを仕掛ける

というものでした。図で簡単に説明すると以下のようになります。
メキシコの攻撃は左サイドを駆使していました。右サイドでボールを奪ってから池田に当てたり、直接左サイドの裏にボールを蹴ったりと、自分たちで作り上げたスペースを最大限活用する動きを見せていました。

また、メキシコは必要以上にサイドに攻撃の人数をかけるのを自重していました。サイドからの攻撃は個人の突破に任せて至ってシンプルな崩しとしており、ドイツの早いカウンターを防ぐために(ヴェルナーへのパスコースを防ぐために、セカンドボールを拾うために)中央に3人を配置するポジションを取っていました。

(Jリーグにおける)サガン鳥栖の攻撃パターンとしては、サイドに人数をかけて数的優位をかけて崩そうとするのですが、ボールを奪われる位置によっては中央が薄い状態で簡単にカウンターを受けてしまうケースが見受けられます。メキシコは、このようなカウンターを防ぐためのポジショニングを取っていました。守備時にはリスクを負って相手からの攻撃を受けますが、攻撃時におけるポジショニングはカウンターを受けるリスクを最大限防ぐという戦い方でした。面白いですね。攻撃している時こそ、ボールを奪われた際のリスクマネジメントが重要だということが分かります。



メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

さて、そうやって攻撃時にはリスクマネジメントをしっかりと構築し、守備時にはあえてリスクを取ってでも攻撃に備えるというメキシコの戦術が先制点と言う形で実を結びます。先制点のシーンを図で示します。

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

メキシコのドイツに対する戦術をサガン鳥栖の選手で例えました

この仕組みを見ると、攻撃の効率性は守備時点から構築されるものであり、また、守備の強度は攻撃のやり方で左右される事が分かります。攻撃に手数をかけると守備が手薄になるというのは当たり前の話ではあるのですが、それをメキシコは攻撃と守備を表裏一体として明確に表現していました。守るべきポイント、攻撃を許すポイント、そしてボールを奪ってからの統率のとれたカウンター攻撃、それらを一連のアルゴリズムとして作り上げ、そして再現性のある形で実践していました。なかなか出来るものではありません。

この戦術の最大の肝は、ドイツに右サイドからの攻撃を受けてもすべて守り通せていたという所です。センターバックの侵入を許し、相手サイドバックが高い位置を起点としてからの攻撃(しかもドイツの攻撃)であっても耐え抜くことが出来るということが前提の上でこの戦術が成り立っています。ドイツも少なからずやチャンスを迎えていましたし、ここで仕留められていたらこの戦術はすべてが水泡に帰していましたが、最終ラインと中盤の選手たちがしっかりと守り通し、攻撃を許すというリスクに打ち勝ったからこそ、準備されていたカウンターによる得点というご褒美が生まれました。

また、当然のことながら、この戦術を実現するためには、スプリントでキミッヒを上回る質を持ったサイドハーフが必要ですし、アジリティでフンメルスを上回るフォワードが必要です。メキシコはエルナンデス(チチャリート)、ロサノというタレントを抱えていたことがこの戦術の実現に繋がりました。まさに、この試合のメキシコはチーム戦術と個人スキルが織り成すひとつの芸術作品であったかのように思えます。

サガン鳥栖の前半の連敗中の戦いを振り返ってみると、田川をトップにおいてからのカウンターは、足元を狙うのか、裏のスペースを狙うのか、いまいち再現性のない攻撃に終始してしまって、前線の疲労だけを招いてしまうというまさにカオスな攻撃になっていました。イバルボが帰ってきてから攻撃が機能するのは、全員がその場の判断で攻撃を仕掛けるのではなく、イバルボという武器を最大限生かそうとすることで意思統一されていますし、また、イバルボがその意思に応える事のできるスキルを持っているというところが大きいです。個人のスキルも大事ですが、チームの意思統一というのは非常に大事ですよね。ボールが来てから(相手が来てから)考えるのではなく、次の動きを想定して自然と体が動くようなチームであれば躍動感が生まれて見ていて面白いサッカーとなりますよね。

今回のドイツとメキシコの試合は非常に勉強になりました。私自身が試合を見ていた時のインプレッションとしては、エルナンデスがワントップであるためにドイツの2人のセンターバックへの対処で数的不利が発生し、フンメルスへのプレスはできるが、ボアテングの運ぶドリブルに対しては「ケアできない」という観点でこの試合を見ていました。しかしながら、試合中にTwitterを見ながら、様々な方の分析に関するツイートを確認するとボアテングの運ぶドリブルはメキシコが「あえて」許しており、攻撃のスペースを作り出すための「罠」であるということを理解できました。

通常のJリーグ期間中ではサガン鳥栖中心の観戦(分析)であり、また、識者の方がサガン鳥栖に集中してあらゆる分析をするという機会はほぼありません。みなさん、それぞれ自分のチームの分析をされたり、意見を述べられたりしています。しかしながら、ワールドカップに関しては、識者のみなさんが同時間帯に同じ試合(しかもハイレベルな試合)を見て、注目の試合に関しては様々な方がツイッターなどで意見を発信されます。筆者にとっては、非常にありがたい勉強の場となっております。このメキシコとドイツの試合は様々な意見を次から次へと見る事ができ、そのたびに目からうろこが落ちて、合計100枚以上は足元に落ちていたような気がします(笑)今回のワールドカップで得た知見を、今後のサガン鳥栖の試合の分析で活用できるようにしたいですし、みなさんにもその成果をお伝えできればいいなと思っています。

さて、ワールドカップもそろそろ後半戦ですね。日本代表もコロンビアに勝ち、セネガルに引き分けて、思いがけず非常に良いポジションに立つことができました。日本代表の今後の試合も楽しみですし、他の試合も好カードが目白押しです。残り半分となりましたが、みんなでサッカーを楽しみましょう。

<画像引用元:NHK スポーツ>


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Posted by オオタニ at 18:49 │SAgAN Diary