サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

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Posted by さがファンブログ事務局 at

2019年06月05日

2019 第14節 : サガン鳥栖 VS セレッソ大阪

2019シーズン第14節、セレッソ大阪戦のレビューです。

■ システムとスタメン



鳥栖は連勝中のシステムを継続して4-4-2のセットアップで試合に臨みました。トゥーロン国際に出場する松岡の代わりは安在が務めます。リザーブが少し様変わりしまして、コンディション不良のトーレスがベンチ外となり、代わりに樋口、島屋がベンチにスタンバイという状況でした。トーレスはなかなか調子が上がってきませんね。ぜひとも一刻も早く復調してもらって、彼のゴールパフォーマンスを見たいですね。鳥栖に来てから、ゴールは決めるものの弓を射るパフォーマンスはG大阪戦のゴールでしか見ていないので、もっともっとゴールセレブレーションを見たいところです。

■ 鳥栖の守備組織とセレッソの狙い


試合開始と同時に激しく中盤でつぶしあう両チーム。鳥栖もセレッソも激しさの中でセットプレイのチャンスを得て、鳥栖は豊田、セレッソはヨニッチと、互いにシュートまで結びつけるものの、得点には至らず。アグレッシブな中盤での競り合いから始まった激しい応酬は、豊田の激しいスライディングの後に提示されたイエローカードによりいったん終止符が打たれ、ボール保持の展開へと変わっていきます。豊田へのカードは、開始直後ということで今村さんも判断が難しかったかもしれませんが、間髪入れずに提示することにより、両チームの中の判定に対する基準ができあがりました。

序盤、セレッソのボール保持は、ボランチの藤田をセンターバック間に落とすことによって、ボールの循環ルートを確保します。そこからのボールの運びとしては、サイドハーフが中央に入ってくるポジショニング(ちょうど、藤田、デサバト、清武(もしくは水沼)が縦関係に並ぶような形)をとり、デサバトがうまくアングルを作って中央を出口とするルートを探りながら攻撃の構築を試みていました(Aプラン)

中央でのボール保持で鳥栖の守備が密集してきて動きがとれなくなったらサイドへ展開という形も攻撃のアイデアの中に保有しており、その抜け道を作るため、松田と丸橋はボールサイドに加担するのではなく、サイドで幅をとる役目を遂行していました。(Bプラン)

このBプランもかなりの回数発動しておりまして、8分、18分、24分など、丸橋への展開もセレッソの攻撃の一つの軸となっており、これによって安在のポジショニングの取り方が少し難しくなったことは事実です。

鳥栖は、いつものように、金崎と豊田がプレッシングに入り、2人で最終ラインに対するプレッシングをしかけます。今回特徴的だったのは、プレッシングをしかけて前からマーキングを当て込む際に、センターバックに対してサイドハーフを積極的にプレッシングに利用していた事です。

サイドハーフを使うことによって、福田と原川が列を動くことなく中盤で構えることができるので、ビルドアップで中央を使いたいセレッソに対して中央でのパスコースを狭めるという効果を発揮していました。また、豊田と金崎も双方が前に出してしまうのではなく、どちらかがやや下がってデサバトを見るという縦の関係を築くことができていました。

そういった、互いの攻守のパターンが少しずつ明確になってきた中、早速、セレッソの狙いが見えたのは、図3のシーンです。



最終ラインを3人でボール保持を試みるセレッソに対して、鳥栖はサイドハーフを上げて3枚をぶつける形で守備組織を構築しますが、デサバトがうまく角度を作って鳥栖のプレッシャーを潜り抜けるボールを引き出し、藤田からのパスを受け取ります。中央を割られたくない鳥栖は福田がプレッシングに出てきますが、セレッソとしてはボランチがでてくるエリアこそ狙っていたスペースであり、福田が出てきたタイミングで清武とメンデスがビルドアップの出口となるべく、そのスペースに入ってきます。

この5分50秒ではデサバトから清武にボールが渡るものの、原川のプレッシャーによりいったん清武が撤退して最終ラインにボールを戻しますが、実は、すぐ後の5分57秒のシーンでも、ヨニッチ⇒デサバト⇒清武とパスを回し、同じパターンの攻撃を試みます。まさに瞬時の再現性であり、セレッソが福田・原川が前に出てきた事によって生まれるスペースを狙っていたことがわかるシーンです。

セレッソの攻撃の狙いはほぼ、このシーンに集約されていました。鳥栖のドイスボランチが積極的にでてくるように仕向け、そして空いたスペースに対して清武が入り込んでラストパスもしくはラストパスの一つ前のプロセスを組み立てるという攻撃の設計図です。まさに、これこそ『デザインパターン』ですね。(←職業柄、この単語を使いたい(笑))

この、中央を抜けるようなビルドアップは、セレッソにとっても諸刃の剣となる部分はありまして、中央でパス交換するということは、ミスが発生した際に鳥栖に中央の高い位置でボールを奪われるというリスクもあります。鳥栖にとっては、全体が前からボールを奪いに行っているため、カウンター攻撃に入った時(ポジティブトランジション時)に、攻撃に使える人数が前線に残っているという状況を作れるため、ある意味、高い位置からのプレッシャーによって作られるカウンター設計でもありました。

実際に、26分には中央でボールをカットしてカウンター攻撃(結果的に藤田のファールによってイエローカードを与える)につなげたり、36分には金崎が中央でカットしてそのまま福田がゴール前まで迫ることができました。鳥栖としては、そこでシュートまでしっかりと持っていってゴールを脅かすことができなかったのが残念ですが、良い位置からの攻撃の機会は少なからず得ることができていました。

■ 質について
上記の5分57秒のシーンには続きがありまして、5分59秒にはデサバトが清武を狙ったパスがミスとなって秀人がカットします。このカットしたボールをカウンターにつなげるべく、前線に残っている金崎に送り込みますが、秀人のパスのボールがバウンドしてしまった事もありますが、金崎がうまくコントロールできずに攻撃につながらず。さらに、ルーズボールを福田が拾って豊田に送ろうとしますが、そのボールも藤田にカットされてしまいました。つながれば決定的なチャンスにつながりそうなカウンターの機会であったものの、些細なミスが発生してしまったばかりに、シュートチャンスができないどころか、逆にセレッソのカウンターを受ける事になってしまいました。

67分にも、金崎が左サイドを独走して、中央でよいポジションに構えていた小野に対するパスを出しましたが、直接ゴールラインを割ってしまう結果に。後半の時間帯で30mほどドリブルしてからのパスだったので、苦しい状況ではあったでしょうが、このパスも小野の足元に収まっていれば1点ものというシーンでした。クロスの質も同様でありまして、鳥栖は何度も良い形でクロスを上げるシーンがありましたが、結果的に、良い態勢でシュートを打てるようなクロスは1本も上げることができず。72分のカウンターからの三丸のクロスは、シュートにつなげたかったですね。そのほかにも、質によってチャンスが潰えてしまったシーンは、数え上げれば枚挙に暇はありません。

ミョンヒ監督が試合後のインタビューで語っていた、「質」というのは、チャンスをつくるきっかけはできているという言葉の裏返しかもしれません。チーム全体としての理解度は高まってきているので、あとは、ボールを受けた選手個々が、動けるスペースを確保している選手を正しく選択し、受け手がコントロールしやすいボールを送り込むことによって、得点できるチャンスは目の前に転がっていると。清武が適切な判断力でパスを前線やサイドに送り込み、丸橋が正確なクロスで得点を記録したのと比較すると、この質の違いが結果として現れた形となりました。

■ セレッソの得点に向けた攻撃の変化

鳥栖としては、セレッソの攻撃のパターンがある程度見えてきていたので、守備の対応を変えるという選択は可能でした。セレッソがAプランにおいて清武を活用したいことは十二分に見て取れましたし、Bプランにおいては、左サイドから清武や丸橋がクロスを上げる際に、安在の戻りが間に合っていないケースが発生しておりました。

それは、安在がセレッソのセンターバックに対するプレッシャーをかけるために高い位置をとっているから当然の事ではあるのですが、安在が気にするべきはこれまで通りビルドアップ隊となる「木本」なのか、中央に入ってくる「清武」なのか、サイドでフリーになる「丸橋」なのか、ミョンヒ監督の選択が段々と重要になってくる時間帯でもありました。

さて、そういった状況である中、20分頃から、セレッソがボール保持の仕組みを変えてきます。試合開始序盤からは、藤田がセンターバック間に下りて攻撃を構築していましたが、鳥栖が最終ラインに下りる藤田に対して福田や原川を上げてまでもプレッシングに当てるような対応をとらず、サイドハーフを動かして最終ラインにプレッシャーを与える守備組織であったため、セレッソの狙いである中央のスペースがなかなかこじ開けられない状況でした。

そこで、福田・原川をどうにかして動かすことができないかと、少しずつ、ボール保持に関して工夫を施してきます。藤田が下がる位置をツートップの脇のスペースに変える、最終ラインに下がるのを藤田ではなくデサバトに代える、ボランチ2人を高い位置に置いたままセンターバック脇のスペースに清武が下りる、サイドバック(松田)を絞らせてボール保持係として活用する…などなど、鳥栖のプレッシングの対象をずらすように、様々な形でビルドアップの形を探るようになりました。

こうして、様々な工夫の中、藤田とデサバトが下がらなくてもボールを保持できるような形をとることによって、デサバト1人を原川・福田で見ていた状況から、藤田・デサバトを原川・福田が見なければならない状況をすこしずつ作り出すようになってきました。そのセレッソが作り出した罠にはまってしまったのが39分の失点シーンです。



まず、序盤と異なるのは、最終ラインのビルドアップに藤田が参画しているのではなく、松田がビルドアップ隊を形成しています。これによって、藤田がポジションを1列前に上げることができ、原川、福田とマッチアップする構図が生まれています。このポジションチェンジが最大のポイントでしょうね。

松田にボールが入った時に、鳥栖は前線が積極的に奪いに行く形を取り、プレッシングに入りましたが、この選択をするためには、ビルドアップの経由地であるデサバト、藤田に対して、原川、福田の二人が前に出ていかなければなりません。前線に連動して、原川がデサバトに対してプレッシングに行きましたが、福田が藤田にプレッシングに入るのがやや遅れたため、藤田が清武にフリックできるスペースと時間ができてしまいました。

もうひとつ、前線と中盤が前にプレッシングに出て行ったという事は、最終ラインもそれに追従して出ていかなければ、最終ラインの前にスペースを作ることになります。このシーンでは、原川、福田が前に出て行ったものの、最終ラインはメンデス、奥埜を見るためにステイしていました。序盤はボランチが空けたスペースに、清武がサイドを変え、メンデスが引いてくるなど、双方がスペースに入ってくる動きを見せていましたが、このシーンでは、メンデスは鳥栖の最終ラインをピン留めする役割でステイしていました。この選択も、序盤とは異なるもので、清武がフリーでボールを受ける事のできた要素の一つでしょう。安在は、丸橋を見れるような位置にはおりましたが、木本側に展開したタイミングでプレッシングに出ることに備えてやや高いポジションを取っていたため、リトリートが追い付かずに丸橋にクロスを許してしまいました。

こうなってくると、監督の戦術も含めた、チームにおけるすべての動きが失点の原因であるように思えてきますよね(笑)監督の判断、選手の判断、相手チームの判断、そしてその判断を着実に遂行することのできる選手の技術。あらゆるものが絡んで得点や失点に影響を与えます。チームスポーツのだいご味ですよね。

■ セレッソの守備組織


鳥栖の攻撃の仕組みは、前節までの試合とほぼ変わりませんでしたが、全体的な傾向として、セットアップでは5レーンに均等に選手を配置し、原川やクエンカが入ってきたレーンで数的優位を作るという形を構築していました。特に、クエンカと安在のポジショニングは(指示がでていたと思うのですが)4-4で構えるセレッソの守備におけるいわゆるハーフスペース(サイドバックとセンターバックの間)にポジションを取り、セレッソの守備組織を動かす役割を担っていました。

しかしながら、クエンカ、安在に対しては、サイドに開いたタイミングでしかボールが供給されず、ハーフスペースでボールを呼び込んでいるときには、なかなかボールが入ってこないため、中央を崩すような仕掛けが思うように取れませんでした。その原因は、ビルドアップのパスが福田を経由するのを、セレッソの守備陣が徹底的に帽子したことにあります。

鳥栖が最終ラインでボールを回している際には、メンデス、奥埜の二人は、必ず福田を見る形でセンターバックへのプレッシングをかけていました。これによって、鳥栖のビルドアップの出口は原川、三丸、小林などの外に追いやられる格好となり、福田へのルートを探すためにボール保持を続けると、機を見て清武、水沼が鋭いプレッシングでセンターバックに追い込みをかけ、長いボールを蹴っ飛ばさざるを得ない状況となりました。また、鹿島戦と異なるのは、このプレッシングに相手のボランチがでてこないために、蹴っ飛ばして豊田が競り合った後のセカンドボールに対して確かなイニシアチブを握るとまではいかず、効率的に(再現性をもって)攻撃を組み立てるという事ができませんでした。

このセレッソの守備組織によって、直接サイドに出すボールは比較的通っていました。高丘や祐治、秀人から三丸に直接ボールを送るシーンは何回も見てとれましたが、これは、セレッソ側の判断として、ボールが福田を経由するくらいならば、三丸に渡った方が良いという取捨選択の結果とも言えます。

鳥栖は開幕からこれまで何度もクロスを送り込んでいますが、なかなか精度が上がらない(フォワードと合わない)ので、セレッソとしては、確率の問題として、中央を割られるくらいならば外はくれてやるという形を取ったのかもしれません。実質、鳥栖がクロスからチャンスを得たのは、クエンカのクロスからゴール前で金崎がうまく拾って放ったシュートくらいでしたからね。

■ クエンカのクロス
これまで試合を見てきて、クエンカが「ファーサイドの味方を目がけて蹴るパターン」と、「ニアサイドのスペースを狙って蹴るパターン」でクロスを使い分けているのを感じます。ファーサイドのクロスは良いのですが、ニアサイドの場合は、選手が飛び込んでくれば惜しいシュートシーンが作れますが、そうでない場合は、何も起きずにゴールキーパーがキャッチするようなクロスとなってしまう事もあります。

豊田は主戦場がファーサイドです。クエンカ的には、豊田目がけてアバウトなボールを蹴るというよりは、豊田がピン留めしてくれているおかげで空いているスペース目がけてクロスを上げる方がチャンスメイクとしては理に適うという考えを持っているのではないかなと思います。そうなってくると、タイプ的には、スペースに対して飛び込んでくる選手(大久保嘉人とか佐藤寿人とか)の方がクエンカのクロスと相性が良いでしょう。

クエンカのクロスに限ったことではないのですが、クロスを待ち構えるときに、ニアサイドに人がいないというケースが多くみられるので、流れの中でのペナルティエリア内でのポジショニングはまだ整理する価値はあるのかなと。豊田がファーサイドにいることは分かっているので、他の選手はあえて同じファーサイドにポジションを取らず、ニアサイドにどんどん入ってきてほしいですし、そうすると、クエンカから良いボールが来てシュートチャンスが増えるのではないかなと思います。

■ 安在と松岡に違いはあったのか
今節は、連勝に貢献してくれた松岡がトゥーロン国際に出場するため、代わりに安在がスタメン出場となりました。安在と松岡に違いがあったのかといわれると、違いが見て取れるポジショニングの傾向はありました。

二人のポジショニングの傾向を比較するにあたってわかりやすいシーンがありまして、まず、松岡は鹿島戦64分のシーンが参考になります。高丘のフィードがミスとなって鹿島の選手にわたります。その際に、松岡はハーフウェーライン近くで右サイドのタッチライン際にポジションをとっています。鹿島はボールを奪い、鳥栖から見て左サイドのレアンドロにボールを渡しますが、レアンドロがゴール前に迫るころには、松岡は中央に絞ってペナルティアーク付近にポジションをとっています。その後、右サイドに控える安西にボールがでたタイミングで、中央からサイドに出ていく動きを見せました。

それに対して、セレッソ戦の22分の終わりころから23分のシーンですが、セレッソが鳥栖の右サイドでボール保持しているときは、鳥栖は4-4のきれいなラインで守備組織を構築しています。ところが、そこからセレッソがサイドチェンジして鳥栖の左サイドで攻撃を組み立てているとき、安在は中央に絞りきらずに小林よりもアウトサイド側にポジションをとっています。これにより、福田との間に大きなギャップ(スペース)が生まれ、この位置に清武がうまく入り込んでいました。(逆を言うと、安在は丸橋にボールが出た際にはすぐにマークにつける位置にはポジションを取っています。)

ゾーンディフェンスの教科書的には、松岡のポジショニングの方が正しいとされるでしょう。ボールの位置に応じて、味方全体が左サイドにスライドしているため、全体の流れに合わせてスペースを空けないように左サイドにスライドするのが定石です。特に中央のスペース(いわゆるバイタルエリア)を空けるのは、シュートレンジのスペースを相手に与えてしまうことになるので、大きなピンチの種となりえます。このセレッソの攻撃のシーンでは、メンデスがシュートを放って終わったのですが、中央の清武へのパスという選択肢も大いにありえる状況でした。

ただし、安在には、監督から丸橋を気にするポジションを取るように指示がでていたかもしれないので、一概に安在が良い悪いというものではありません。チーム戦術の中で、鹿島戦とC大阪戦でサイドハーフが押し込まれたときに取るべきポジションを変えていたという可能性はありえます。また、選手がサッカーを行ってきたポジションの経歴も関係しているのではないかと推測します。安在はサイドバックの経験が長いのでどうしてもポジションがアウトサイドに行く傾向があり、松岡はユース時代からボランチ経験が長いでしょうから、中央に対する意識が強いのかもしれません。そういった経歴から来るポジショニングの傾向の違いはあるのかなとも思います。

いずれにしても、前半のシーンでも書いたように、安在のポジショニングというのは、鳥栖の守備における大きなポイントのひとつではありました。そして、失点のシーンでも、安在のスライディングがわずかに及ばずにメンデスへのクロスを上げられてしまいました。前半40分頃の失点でもあり、ある程度相手の狙いが明確になっている段階の中でやられてしまったのは、チーム戦術的にも、個人の質的にも、セレッソ大阪の方が上回っていたという事なのでしょう。

■ 安在と義希の交代の目的とは
ミョンヒ監督は、57分に安在に代えて義希を投入します。インタビューにもどこにも載っていないので、この交代の意図が知りたかったのですが、負けている状況で中盤の運動量を増やして攻撃を活性化するためなのか、カウンターなどの場面で丸橋を抑えるために福田をワイドに出したかったのか。

鳥栖の攻撃の仕組み上、左サイドはサイドハーフ(クエンカ)ボランチ(原川)、サイドバック(三丸)の3人で構築できるので数的にも質的にも問題は発生しないのですが、右サイドはボランチがビルドアップ(アンカー)に回るので、原則、サイドハーフとサイドバックの2人で構築しなければなりません。そうすると、右サイドからゴール前まで侵入するためには、「(人数で勝負するために)フォワードもしくはアンカーを攻撃に参画させる」もしくは「(質で勝負するために)個人で突破できる選手を配置する」のどちらかが必要となります。ちなみに、人数をかけるということは、手薄になるエリアがでてくるということになりますのでフォワードが参画するとゴール前の人数が減ってシュートにつなげることのできる確率が下がりますし、アンカーやセンターバックが参画してくるとカウンター攻撃による失点のリスクが高くなります。

57分に安在から義希に代わったタイミングで福田がポジションを変えてサイドハーフにはいりますが、交代してすぐの攻撃では、最終ラインに福田が引いてしまった状態で義希とのパス交換を行ってそこから右サイドの小林に展開したので、小林が2人に囲まれてボールロストしてしまいます。この後も義希が飛び出しを見せたりとなんとか工夫をしようとしますが、組織戦術の中での動きというよりは、個人のプレイ性質を互いになんとか補完しようとする感じになり、グループとしての崩しがなかなか実現できていませんでした。

これを見て、右サイドの攻撃を機能させるために、金崎がサイドバックの裏のスペースに顔をだすようになりました。つまり、フォワードを攻撃に参画させるという選択を選んだことになります。そうすると、このままでは、右サイドからクロスが上がったときにゴール前の人数が一人減ることになりますので、原川や例えば秀人がオーバーラップでゴール前に入ってくるなどをしてゴール前に人数をかけないと、シュートが放てる確率としては低減します。

右サイドがあまり機能していなかったのが見て取れる66分がよい例なのですが、小林、福田、義希の3人で崩しにかかり、セレッソのディフェンスも数的に同数だったのですが、なかなかアタッキングサードに侵入できず。それを見て状況を打開するために金崎が右サイドの裏にポジションを変えてヘルプで入ってくるのですが、金崎がゴール前から離れたタイミングで義希がクロスを上げます。わざわざゴール前の人数を減らしたタイミングでクロスというのは、ちょっと効率悪いですよね。結局、右サイドの攻撃が活性化されない状態であったため、最後のカードはフォワードではなく右サイドバックの原を投入し、ロングスローも交えた攻撃で打開しようとしましたが、最後まで得点は取れませんでした。

試合は右サイドだけで行われているわけではないので一概には言えませんが、単純に右サイドだけの攻撃を考えると、右サイドハーフの交代は人数をかけずに個人の質で勝負できる島屋もしくは原というのもおもしろかったかもしれません。いずれにしても、右サイドにおいて、コンビネーションで崩すグループ戦術ですよね。小林、福田、義希(金崎)のグループによる崩しがなかなか成果を上げることができず、右サイドが停滞してしまう格好になってしまいました。

■ おわりに
運も実力のうちとは言いますが、金崎の66分のシュートは本当にツキがなかったですね。シュートが右にずれたら入っていたし、左にずれたらポストの跳ね返りが小野のところに行きました。セレッソのDFが詰めていたというのもあるでしょうが、ほんの数センチの世界なので、ツキがなかったと思って胸に納めるしかないですね。

ということで、現実逃避します(笑)
サポソン愛好家としては、セレッソ大阪のサポソンは好きな部類でして、試合前のアップ時なんかは耳を傾けてしまいます。
スネアドラムが強いチームのサポソンは好きです。セレッソは強いですね、スネア。
最近は叩く機会がなかったのですが、久しぶりに家にあるスネア引っ張り出して叩きました。近所迷惑(笑)

特に好きなのは
・エクスタシー大阪
・狼少年
・CRZゴール
・大阪の街の誇り(Ob-La-Di, Ob-La-Da)
ですかね。

最後の曲は勝った時のセレブレーションソングなので、できれば聞きたくなかったのですが、負けてしまったからにはしょうがないということで、せっかくなので聞いておきました(笑)

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

  

Posted by オオタニ at 18:54Match Impression (2019)

2019年05月30日

2019 第13節 : サガン鳥栖 VS 鹿島アントラーズ

2019シーズン第13節、鹿島アントラーズ戦のレビューです。

■ システムとスタメン



広島戦でスタメン交代した金崎とチョドンゴンですが、鹿島戦では再び金崎がスタメンに戻りました。自分のやるべきことを理解して自分も味方も生かす確実なプレイを遂行するチョドンゴン、多少強引でも直観と発想力で局面を打開するパワーを秘めている金崎、似て非なる二人のフォワードの使い分けも、また監督采配の楽しみの一つですね。金崎は、事前のインタビューでは古巣相手とは言え関係ないというスタンスではありましたが、心の中で感じるものは当然あったでしょう。激しく動き回るプレイで鹿島のディフェンス陣の気力と体力にダメージを与え続けてくれました。また、ベンチには久しぶりに小野が入りました。この小野が、最終盤で大きな仕事を成し遂げてくれましたね。

<鳥栖の守備組織>


■ 動かない福田
ゴールキックでの両センターバックのポジショニングを見れば一目瞭然なのですが、両チームともボール保持からのビルドアップを指向しています。ボールを保持されるということは、相手のやりたいことを実現される可能性があるということでもあり、守備側としてはそれを防止するため、どこを守備の基準点として相手の自由を阻害するかというのがまずは守備構造を決める際のポイントでした。

まずは、鳥栖の守備組織から。鹿島のビルドアップでは、両センターバックが幅をとり、ボランチ(三竿もしくはレオシルバ)が最終ラインのフォローに入って、ボール保持を試みます。ここで、鳥栖がボール保持のため人数を合わせるかどうかというところが最初のポイントだったのですが、ミョンヒ監督の回答は「ボランチに対して人数を合わせない」でした。

ポイントは2点ありまして、鹿島は、土居がトップの位置から中盤のスペースや、左右のスペースに顔を出してボールを引き出す動きを見せます。中央から福田や原川が前に出て行ってしまうと、土居が活躍するエリアを与えてしまうことになります。ボランチが出ていくことによって不用意にスペースを与えて攻撃の起点を作られるのを未然に防止しました。

もう1点は、レオシルバのパワーを発揮させないための防止策です。三竿がアンカーの位置に下って、レオシルバをビルドアップの出口とした場合、レオシルバが中央のスペースでボールを受けられる可能性があり、彼はボールをもってスペースを見つけると、ドリブルで突進しながらボールを運ぶことのできるパワーがあります。それを防止するためにはやはりスペースを作らないこと。人がいる状態ではレオシルバもリスクを負った突進はしてきません。レオシルバの位置でボールを刈られると、決定的なピンチとなるショートカウンターを受けてしまう可能性があるからです。

このように、ボール保持のためにリトリートするレオシルバ(三竿)に福田が出て行かなかったのは、土居やレオシルバが使いたい中央のスペースが空くのを未然に防止するという、理に適う守備構造でありました。

では、最終ラインに対するプレッシャーはどのようにしたかというと、金崎と豊田の二人のコンビネーションで3人を見る形をとりました。要するに、豊田と金崎の「ガンバリディフェンス」ですね。中央にいるボランチに対するプレッシャーを仕掛けながらサイドに誘導し、サイドにボールが出たならば、ボランチへの戻しのパスコースを切りながら、猛然とセンターバックに対してプレッシャーをしかけました。

ひとりでふたりを見る動きを(インテリジェンスな)運動量で対応し、距離をつめれていた状況では、サイドへの誘導後にサイドハーフがポジションを上げてサイドバックに対してプレッシングを仕掛けるシーンを作り、ロングキックを蹴らせたり、縦に送るパスをカットするような場面も作りました。特に、鳥栖で言う所の「困ったときの豊田」に比べると、鹿島のフォワードは困ったときに競り勝ってくれるタイプではないため、長いボールを蹴らせることによって、鹿島の攻撃の威力をかなり低減できていました。

26分のシーンがすごく良かったのですが、鹿島は三竿を下げて3人でビルドアップ隊を構成していましたが、右サイドのスンヒョンにわたってから、金崎と豊田がコースを消しながら静かに迫っていき、最後はキーパーに戻させてロングキックのミスを誘いました。誰もスプリントしていませんし、誰もボールにつっかけてないんですよね。数的不利な状態から始まったにも関わらず、ひとりでふたりを見つつ、最後は1対1ではめ込んでロングキックを蹴らせるという、運動量にものを言わせるのではなく、ポジショニングだけで相手のミスを誘う守備をやっていたので、体力面でも大きなメリットを生むことができました。これも最後にアディショナルタイムに豊田が走ることのできた要因ですよね。

■ 松岡が支え、小林が完成させる
鳥栖がいつもいつも高い位置からプレッシャーをかけていたかというと、決してそうではなく、鹿島がじっくりとボールを保持できる状態からスタートした場合は、フォワードのプレッシングでコースを限定はするのですが、中盤以降はミドルサードでしっかりとブロックを組む形をとり、スペース圧縮を優先して前線からの人数をかけたプレッシングは控えていました。

福田がレオシルバに対して幾度も出たさそうにしていましたが、何度も踵を返してリトリートしていたシーンは、スペースを守りたいという理性と、アグレッシブに奪いに出たいという野生とのせめぎあいが見て取れました。この、やみくもに前に出ない守備というのは、体力の温存にかなりの効果を発揮しておりまして、激しく前後の動きを繰り返していたレオシルバ&三竿コンビとの体力の差が最後にでてしまったのかなと。

鳥栖のブロック守備は、今節も同じく、サイドに幅をとる選手に対するマーキングは、ボールが渡ってからブロック全体を移動して対応する仕組みでした。ボランチからサイドハーフやサイドバックに対して配球されたときのマークはサイドハーフが担当していました。松岡(クエンカ)が、ボールの追い出しと、出された先へのプレッシングの双方をこなすことによって、サイドバックが出ずに済むことになり、ハーフスペース付近をサイドバックが埋める構造を保つことができていました。ミョンヒ監督に代わってから守備構造で変わったのはこの部分ですよね。前線で人数をかけてプレッシャーを与えるのではなく、少人数で進路を誘導し、フォワードとサイドハーフが複数人を見ることによって中央での数的優位を確保しつつ、スペースを圧縮してミスを誘う形をとっています。

このBlogで何度か書きましたが、相手に引っ張られずにゾーンで守りながらボールと味方の行方にあわせてプレッシングに出ていくのは小林が得意な守り方ですよね。名古屋戦や仙台戦など、原(藤田)がウイングバックに引きずられてアウトサイドにでていってしまい、ボランチとの連係ミスが発生したときにセンターバックとの間のスペースを狙われるケースが発生していましたが、小林はゾーンで守る技術の練度が高いため、ゾーン守備による強度が上がっています。当然、小林のゾーン守備を支えるのは、縦の関係を築いている松岡の動きが重要でありまして、彼1人で2人の相手を見ることのできる守備が効いているのは言うまでもありません。小林が松岡をうまく誘導して守備をコントロールしていますよね。

小林が外に出ていくのではなく、松岡が外に出て守備をすることによる利点は、例えば、64分の場面のように、中央から外に展開されたときに、松岡が出て行ったので、安西のクロスが松岡の後列にポジションをとっていた小林でクリアできることとなりました。中央を開けずに守備をできるというのは最大のメリットですよね。ミョンヒ監督に代わってから、松岡とクエンカのガンバリもサガン鳥栖の失点の減少を支えてくれています。

■ レオシルバの突進の防止

今回の鳥栖の守備方式の成果が出たシーンがあったので紹介します。54分のシーンですが、レオシルバが鳥栖の左サイドをボール保持しつつ、前進します。ここで、左のアウトサイドにポジションをとる安西に対して松岡がマークにつきます。松岡がスペースを空けることによって、レオシルバは突進の機会を得ますが、レオシルバに対して、豊田がプレスバック、さらに福田が外にスライドしながらプレッシングを仕掛けます。レオシルバとしては、空いたスペースに運ぶドリブルを仕掛けたつもりが、いつの間にか狭いスペースで囲まれる結果となってしまいました。これにより、レオシルバは、狭いスペースを縫うようなパスを送らざるを得なくなり、最終的にはパスミスで終わってしまいました。奪うことが困難な相手の場合は、いかに窮屈な状況でプレーをさせるのかという動きが大事です。アクションをとりに行くとかわされてしまうので、スペースを圧縮し、相手のミスを待つというのは我慢のいるプレーですが、チーム全体の意思がしっかりとまとまっているのを見て取れたシーンでした。

さて、このシーンで、土居のセンスを感じたのは、白崎が前線にポジションを移したと同時に、土居が中盤のスペースに引いて全体のバランスを取っているんですよね。つなぐ相手がいないという状況が発生しないよう、土居がバランサーとして前後左右にポジションをとって選手間の鎖が切れないような動きをしていました。土居だけでなく、鹿島は、選手が動くと必ずそこを補完するような動きを見せます。例えば、安西がカットインして中央に入ってくると、白崎がワイドに開いて待ち構えますし、レアンドロが中央に入ってくるとそのスペースにセルジーニョがはいって裏へのボールを引き出す動きを見せたりですね。縦のレーンに入ってくるのは1人(多くても2人)というポジションを取っていました。

逆に言うと、どこかのエリアに局所的に人数をかけるような攻撃は仕掛けてきませんでしたので、実は、ゾーンで守る鳥栖にとっては、自分のゾーン内で捕まえる人間がある程度明確になっており、守備構造としては守りやすかったのではないかと思います。人を集めて数的不利を生んだときに、どうやってその問題を解決するのか(人を集めて対処するのか、あきらめてそのエリアは渡してしまうのか)という選択をしなくて済んだのは、鳥栖にとっては組みやすかったのかもしれないですね。

<鹿島の守備組織>


■ 動くレオシルバ
ここからは、鹿島の守備組織の話です。鹿島も鳥栖と同様、ビルドアップで両センターバックをフォローする福田に対して、どうやってビルドアップによって突破されるのを防止するかという策を講じなければならないのですが、大岩監督の回答は、ミョンヒ監督とは異なり、「積極的にボランチを捕まえに行く」でした。

ゴールキックからの展開でボールをつなごうとすると、祐治、秀人、福田に対して、人数を揃えるように土居、セルジーニョ、レオシルバが前からプレッシングに入っていました。流れの中でも、福田に対してボールが出た際には、レオシルバが列を上げて、福田が前を向く前にしっかりとプレッシングに入ります。25分頃に、このプレッシングが功を奏して、福田に対してレオシルバがつっかけてボールを奪う機会ができ、鳥栖としてはあわや大ピンチというシーンを迎えてしまいました。このシーンは祐治のカバーリングで事なきを得ましたが、鹿島としてはこういった前から人数をはめて奪いきる守備を目指し、ボランチ2人が積極的に列を上げてプレッシングをしかけていました。表題を「動かない福田」に対して「動くレオシルバ」とさせてもらったのはここに理由があります。

■ レアンドロ前のスペースを狙って


レオシルバが中央のスペースを空けてプレッシングに出ていくため、鳥栖としてはボランチ周りのスペースを使いやすい状況が生まれていました。最近のビルドアップの形である、原川を左サイドのボランチ脇のスペースに配置して、ビルドアップの出口として利用する仕組みはこの鹿島戦でも同様に採用されました。今回は、センターバックや福田を経由するのではなく、高丘からの直接このスペースに出されるパスも多く目立ちました。

レアンドロは、立ち位置が非常に難しくて、プレスをはめるために三丸につくべきなのか、前方の原川を消すべきなのか、背後のクエンカを消すべきなのか、周りの味方の状況に応じた選択をしなければならず、守備の面では頭を悩ませていたかもしれません。原川をケアするために前に出てきたら28分のシーンのように、秀人から直接三丸にボールを渡して、低い位置からでも早いクロスを放り込まれますし、三丸やクエンカをケアすると原川に自由にボールを持たれます。

レアンドロと山本としては、レオシルバの積極的な動きに連動してハメる形を作りたかったかもしれませんが、レオシルバが前に行っている以上、三竿が左サイドに寄りすぎるとバランスが崩れるということもあり、原川・三丸・クエンカのすべてのパスコースを消すことがなかなかできない状態となっていました。

あと目立ったのは、中央でボールを奪って左サイドに人数を寄せて攻撃をしかけるシーンがいくつかありました。具体的には、10分や71分のシーンなのですが、中央でボールを奪った松岡が左サイドに流れて攻撃を組み立てます。いずれも、ボランチの脇(サイドバックの前)のスペースを利用して松岡がそのエリアに入ってきて左サイドに展開しました。特に、71分では、ボールを奪って裏に抜けるクエンカに対して絶妙なスルーパスを送り込み、シュートチャンスを演出しました。ブロックを組んでスペースを圧縮して守っているので、奪ってから攻撃に転じる際に味方との距離が近いという副産物ですよね。

■ セカンドボールを拾えるメカニズム

上記のように、鹿島は積極的にプレッシングをしかけてきたので、ビルドアップで崩していきたい鳥栖ではありましたが、福田がつっかけられたシーンもあったように、リスクを負ってボールを保持し続けるよりは、簡単に蹴っ飛ばすという行為もしっかりと選択していました。

実は、鳥栖にとっては蹴っ飛ばすという選択は決して悪いものではなく、鹿島がプレッシングに出ることによって、セカンドボールを拾うエリアに「レオシルバがいない」という状況が作られ、両サイドバックも幅をとっていて、そこにも鹿島の選手をつり出しているので、実質的に、セカンドボールを拾うエリアに鳥栖3人、鹿島1人という状況でもありました。

例えば21分ですが、金崎がロングボールを競っている手前には鳥栖は豊田、松岡、原川がポジションをとっていますが、鹿島は三竿のみ。31分のシーンでも、高丘が詰められてアバウトなボールを前線に送ったのですが、セカンドボールを拾うエリアには原川と福田しか選手が存在せず、前からプレスにはいっていた鹿島の選手たちがポジションを取り直すことが遅れ、鳥栖がゆうゆうとセカンドボールを奪取することができていました。

鹿島にとっては、積極的に人を捕まえようと前からプレッシングに行くものの、そのたびに頭を超えるボールを蹴られてしまって徒労に終わってしまうという、体力的にも、精神的にもかなりきつかったのではないかと思います。レオシルバも三竿も、前に出て行き、蹴られたらすぐに戻ってという繰り返しを果たすことになって体力的にかなり消費していました。後半の途中頃から、福田を捕まえに前に出るというシーンが少しずつなくなっていきましたが、そのころにはかなり消耗しており、この事がアディショナルタイムにゴール前に戻れないという状況をうみだしました。

■ 左利きの前線・中盤がいないことによる影響?
セカンドボールを奪ってからの展開でひとつの課題がありまして、上記の21分のシーンでは、セカンドボールを拾った豊田が、右サイドにいる松岡にパスを送り、しかも松岡が足ではなく、胸トラップをしなければならないような質のボールを送ってしまったことによって、松岡が胸トラップでボールを落ち着かせる間に、鹿島が守備陣形を整えてしまいました。松岡は鹿島の選手に囲まれましたが、うまくボールキープしてくれましたね。

豊田の体の向きが右サイドを向いていて左サイドへの視野が確保されていなかったからでしょうが、左サイドでは、戻りの遅いレアンドロの隙をついて原川とクエンカが良いポジションをとっていたので、金崎の落としのボールを左サイドへ展開できていれば、原川を経由して大きなチャンスを生み出していたでしょう。もしくは、松岡に渡すにしても、松岡が胸トラップをしなければならないようなボールではなく、彼の足元に収まる丁寧なパスを送ることができれば、ダイレクトで左サイドへ展開できていたかもしれません。

ボールの質といえば、31分頃に祐治が高丘に戻すパスがバウンドしてしまって高丘が叱りつけるシーンがありましたね。ひとつひとつのパスによって展開に影響を与えることもあるので、日ごろの練習は本当に大事です。

さて、最近、クエンカが左サイドで非常に良いポジションをとっているのですが、クエンカにボールが出てこないケースが発生しています。左サイドで攻撃を仕掛けているときは問題ないのですが、中央からやや右サイド付近でボール保持をしている状況で、クエンカが左サイドのスペースによいポジショニングをしていながらも、彼にボールが出てこないというシーンです。

現在の鳥栖の前線と中盤のスタメンには、左利きの選手がいません。右利きの選手は、ボールを右で持つので、視野として左サイドの奥が若干見えづらくはなります。当然、選手の配置を意識して、常に全体を把握していれば大きな問題になることはないのですが、右サイドから左サイドのクエンカにボールがでづらい状況ですので、もしかしたら、レフティがいないという影響があるかもしれないという仮説です。左サイドのボランチ(例えばシミッチみたいな)が入ることによって、鳥栖の攻撃がどのような変わるのかというのはちょっと見てみたい気はします。

昔、サガン鳥栖から坂井がアギーレ監督時代の日本代表に選出されました。左利きのセンターバックというところがひとつのポイントだったみたいですが、右利きの選手だと、右足の前にボールを置くので体を開かないと左側のパスコースが見えにくくなりますが、左利きの選手は左足の前にボールを持つことによって、左サイドでのビルドアップの視野が確保されるからというのもひとつの理由であった模様です。

昨年、オマリが左利きのセンターバックとして在籍していたので、ビルドアップやロングパスが、相手のプレッシャーの外側から蹴ることができていました。右利きのセンターバックが左サイドの選手に蹴るとボールがピッチの外に出る方向に曲がりますが、左利きの選手が蹴るとボールはピッチの中に入る方向に曲がります。この辺りも、左利きの選手がいることのメリットですよね。

■ スンヒョンのプレイスタイルが生んだ鳥栖の得点
鳥栖は、アディショナルタイムに劇的なゴールで勝利を挙げることができました。ゴールキックを跳ね返したルーズボールを小野が競り合い、義希の鋭いダッシュでセカンドボールを拾ったシーンから始まり、最後はディフェンスラインの背後へ抜け出した小野の折り返しを豊田が決めてくれました。

鹿島側にとって、このシーンの一番の問題点は、当然のことながらセンターバックがつり出されてしまって、ゴール前にスペースを与えてしまったこと。今回のレビューで何度も体力、気力という言葉を使いましたが、多くの上下動をさせられた三竿、レオシルバがスプリントをかけてゴール前に戻る体力と気力が残っていませんでした。

もうひとつですね、どうしてもサガン鳥栖出身という事で気になった動きがあるのですが、スンヒョンが、ほんのわずかですが、ボールを奪って運んできた義希に対して前に出ていこうとするアクションをとったんですよね。背後のゴール前のスペースにリトリートする動きの中、ほんの少しベクトルが義希の方へ向いてしまいました。この、ボールに対して出ていこうとする意思によってスンヒョンの動きが止まり、義希がその絶妙な瞬間にスルーパスを出したので、スンヒョンが後ろに戻るモーメントを失い、ゴール前のスペースに戻るスピードがなくなってしまいました。

66分のシーンに前触れがあり、右サイドバックの裏のスペースに出されたボールを金崎が拾うのですが、山本と一緒にスンヒョンもゴール前をあけて出て行ってしまうんですよね。その結果、スンヒョンがでていったスペースに対するケアができず、クエンカがそのスペースにボールを送り込んで豊田のスライディングシュートを演出(ここは犬飼がクリア)しました。このころから、三竿も戻りが遅れてカバーリングがぎりぎりになってきていたんですよね。

スンヒョンがゴール前をあけてでもボールに対して強くアプローチに出るプレイスタイルというのは鳥栖のサポーターのみなさんは覚えがあるでしょう。今回のゴールシーンも、一瞬スンヒョンがボールサイドへのアプローチを試みようとして動きが止まってしまい、そのわずかな動きの合間の出来事でした。もちろん、ボールに出て行ってパスコースを限定し、さらにカットすることができれば理想なのですが、そのためにゴール前のスペースを犠牲にするというリスクがあることは承知の通りです。鳥栖時代に試合の展開を左右する功罪となっていたスンヒョンの積極的なプレイスタイルは鹿島に行っても健在でした。

余談ですが、こういうシーンを見ると、マリノスの中澤だったらどのような対処をしたのかなと考えます。中澤はゴール前のスペースを埋める守備が本当に上手でした。彼は、サイドにボールがでて、例えフリーでボールを持たれたとしても、出て行かずにゴール前にステイという選択もありました。

■ おわりに
DAZNの中継で、アディショナルタイムだったというのもあるでしょうが、何度も何度も豊田のゴールがリプレイされまして。
豊田のゴールの瞬間、スタジアムのサポーターが一斉に立ち上がるのが見えるんですよ。
メインスタンドも、バックスタンドも、ゴール裏も、スタジアム中がゴールが決まると同時にサガンブルーを身にまとった大勢の観客が立ち上がって喜びを爆発させる光景が見えます。
その中で映る、豊田のほっと安堵したかのように見える表情も良いですし、そして、最後にゴール裏を背景に、ミョンヒ監督のガッツポーズもまた素晴らしい。

これは泣けますよね(笑)
ボヘミアン・ラプソディーを見ても泣けませんでしたが、このシーンは泣けます(笑)
みなさんも、ゴール画像のみではなく、ゴールが決まった瞬間のスタジアムの光景を見てみてください。
また違った喜びがでてくるのではないかなと思います。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

  

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2019年05月24日

2019 ルヴァン第6節 : サガン鳥栖 VS FC東京

2019シーズン ルヴァンカップ予選リーグ第6節、FC東京戦の雑感です。

■ 雑感
FC東京としては引き分けで予選リーグ突破となる試合。リスクをかけず、まずはしっかりとした守備を果たしつつ、機を見て攻撃に出てくるような態勢で試合に臨んできました。

前半、FC東京のビルドアップ場面では、鳥栖も体力がある状態でプレッシングに人数をかけたので、FC東京が最終ラインと前線との間でつなぐ役割のメンバーにボールを渡せず、最終的にはボールを蹴らせるような展開を強いていました。FC東京は前線でロングボールを競る要員がユインスだったので、鳥栖にとっては脅威とは言い難く、ハイボールの処理に関しては祐治が全勝だったのではないでしょうか。プレッシングをかける ⇒ 詰まらせて蹴らせる ⇒ ユインスに競り勝って回収 という展開に持ち込めたことにより、鳥栖がイニシアチブを持つことができ、FC東京に攻撃そのものの機会をほとんど与えませんでした。

そういう展開だったので、FC東京としては、体力的なセーブという意識もあったのか、前半30分頃から、鳥栖にボールを持たせる展開へとシフトしてきます。鳥栖は前半からロングボールを用いた攻撃を仕掛けていましたが、FC東京がミドルサード付近からブロックを組む守備へとシフトしてきたので、鳥栖もビルドアップからの攻撃にシフトしました。ビルドアップに関しては後述に。

鳥栖にとってはある程度想定したプラン通りの展開だったでしょうが、好事魔多しとでも言いましょうか、思いがけない形で失点してしまい、試合の展開としては、2点を取らなければリーグを突破できないという、厳しい状況に追い込まれてしまいました。

後半に入ると矢島がトップの位置に投入されます。長谷川監督の修正力ですよね。ボールを蹴らされてユインスのところで競り負けて回収されるという、悪循環に対して矢島ひとりを入れることで、ロングボールの競り合いに対して、フィフティフィフティ(かそれ以上)の状況まで持ってきました。

FC東京にとっては、貴重な得点が入ったことによって、ゲームプランとしてさらに明確になったわけでありまして、ブロックを組んで守備しながら、折を見てカウンター攻撃をしかけるという、チーム全体としてわかりやすい構図を作ることができます。両サイドを高い位置をとる鳥栖に対して、ボールを奪うと素早くサイドのスペースにボールを送り込み、あわや2点目というシーンを何回か作ることができました。それにしてもナ サンホのスピードは早かったですね。

攻撃のギアをシフトアップしなければならない鳥栖は、後半8分に樋口、アンヨンウに代えて原川、クエンカを投入し、さらにその6分後に金崎を入れて圧力を与えようとします。ところが、前半に飛ばしすぎた影響からか、ほとんどのロングボールで競り勝っていたトーレスは良いポジションを取れずに徐々に競り勝てなくなり、前半裏への飛び出しで多くのチャンスを作ってくれた本田は少しずつ裏へ抜けるスプリントの回数が減ってきました。チーム全体のボールの循環も動きもなくなってきたので、ビルドアップからの攻撃も手詰まりとなり、個人技のある選手に頑張ってもらう状況となり、段々と運頼みの攻撃へと変化してきました。

終盤には、義希を最終ラインに落として3-4-3のような形で攻撃をしかけ、さらに最終盤には祐治をトップの位置に上げてパワープレイをしかけますが、得点をあげることができず。残念ながら今シーズンのルヴァンカップは予選リーグで敗退という結果に終わってしまいました。

■ ビルドアップについて
前半30分頃からは、鳥栖がボールを保持してビルドアップを仕掛ける時間帯が生まれますが、FC東京のブロック、そしてボールの出先に応じたプレッシングに非常に苦労していました。



前半の序盤は、FC東京の4枚のセントラルハーフが並んでブロックを組む形であったので、ツートップ間でボールを受ける樋口に対してプレッシングがかからず、樋口が長短のパスを駆使して前線に簡単にボールを配球していました。そういった状態で、前半15分までに何本かシュートを打てるチャンスを作ったのですが、FC東京の対応策として、ツートップ間に立つ樋口に対して、明確にシルバ(もしくは岡崎)がつかまえに行くようにしました。(図1)

これで、結構、鳥栖としてはビルドアップに苦労するようになりました。高丘を逃げ道として作っているので、ボールロストすることはありませんでしたが、ボランチが中央でボールを受け、前を向いてボールを配球するというところでどうしてもパスコースを見つけられませんでした。FC東京のボランチが、中央に立つ樋口に対して前に出てくることはわかっているので、そのスペースは確実に存在するわけなので、なんとか効率的に使いたかったのですけどね。なかなかその動きも取れませんでした。

動きがなかったのかというと、そういうことはなく、トーレスは盛んに引く動きで縦パスを引き出そうとしていましたし、チョドンゴンは盛んに裏に抜ける動きで相手のDFを引き連れて中盤にスペースを作ろうとする動きを見せていました。ところが、トーレスが引いてくるパスコースに対して、義希の立ち位置が相手のMFを引き連れてくるようなポジショニングをとったり、チョドンゴンが空けたスペースに対してトーレスもヨンウも入ってくる動きがなかったり、単発でみんな頑張るのですが、FC東京の守備の間隙を縫うようなパスを引き出せるような形になかなか繋がりませんでした。

ミョンヒさん(樋口と義希のアイデアかもしれませんが)も立ち位置の工夫はしていまして、ツートップ間の中央に樋口ではなく義希を置いたり、ツートップの脇のスペースを当初は右サイドの脇にポジションをとっていたのを左サイドの脇に変更したり、ボランチを少しフォワードに近い位置に立たせて深さを作ったりなど、いろいろと試したりしていましたが、FC東京のゾーンに入ってきた際のマーキング守備が洗練されていて、ビルドアップの再現性を確立するまでにはいきませんでした。

そのような状態でも、辛抱強く回していくことによって、ビルドアップの抜け道を作れたシーンが2つほどありました。この形を作れたのは今後のヒントになるのではないかなと思います。

パターンの1つ目としてはセンターバックが持ち上がる仕組み。ボランチを逆サイドのツートップ脇のスペースにおいて、相手の目をそちらにむけ、空いているスペースの方をセンターバックが持ち上がる形です。



パターンの2つ目としては、ツートップ脇のスペースに立つボランチを経由してサイドへ配球する形です。



いずれも、トップやサイドハーフの動きと連動したことによって、前のスペースに対するアクションが取れています。そして、1つ目のパターンは本田が裏のスペースに抜けることによってガロヴィッチからのパスを引き出し、2つめのパターンは本田が引く動きによって相手のディフェンスを引き連れて安在をフリーにしています。本田の前を向いてパスをだすことのできる動きも良かったのですが、ビルドアップの抜け道を引き出すための動きの方が私としては印象的でした。

最後に。ビルドアップの際の義希の立ち位置でちょっと気になることがあって、樋口がツートップ間に入ったときに、義希がツートップの脇のスペースを立ち位置として構え、色々とポジションチェンジを試していたのですが、2センターバックや樋口からの逃げ道として、ボールを受け取ることのできるポジションへの意識が強かったのか、それが故に引いて受けるトーレスやライン間に入ってくる本田、ヨンウのパスコースを消してしまうケースもありました。

義希の役割がボールのつなぎなのか、それともダイレクトで前線に当てるためのスペースづくりなのか、そのあたりの役割の与え方ですよね。高丘やセンターバックから直接縦につけるパスを送ることも選択肢のひとつとして考えると、義希の立ち位置にも変化があり、閉塞していたビルドアップも工夫ができたのではないかなと思いました。今回のビルドアップのほとんどが、ボランチを経由したパスになっていましたからね。

リスクはあるかもしれませんが、ダイレクトに縦に飛ばすパスを送るのもFC東京の守備の基準をずらすひとつの要素となりえたかもしれません。ひとつそのパスを送るだけでFC東京側が警戒してきますからね。そうすると、ボランチが自由にボールを受けとることができる回数も増えてくるようになるのかなと。ボールは持てるようになってきたので、パスコースの作り方、どこを経由して前線にボールを持っていきたいのか、そのあたりのチームとしての意識の共通化がこれからの課題ですね。ブロックの固い守備を攻略するのは難しいですが、そういったことも考えられるようになったのは、チームとしてひとつの前進なのかなとは思います。そういう意味では、高丘にそういった形を要求できるようになったこと自体がチームとして非常に大きいですね。

※ わかりやすいように上記の立ち位置の話を義希と書いていますが、意味的には義希個人の話ではなく、「ドイスボランチのうち、ツートップ間に入らない方のボランチの役割」と読み替えてください。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事
  

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2019年05月22日

2019 第12節 : サンフレッチェ広島 VS サガン鳥栖

2019シーズン 第12節、サンフレッチェ広島戦のレビューです。

■ システムとスタメン



鳥栖は4-4-2スタイルを継続。スタメンは負傷の影響があったという金崎に代わってチョドンゴンがトップの位置に入りました。

個人で打開する縦への突破能力に関しては金崎の方に軍配が上がりますが、サイドのスペースに入っていく動き出しの良さと、ゴール前でシュートに持ち込む態勢の作り方に関してはチョドンゴンも金崎に負けず劣らず高い能力を備えています。

その他のメンバーには変更なく、前節を勝利で終えたということもあり、ここにきてようやく、スタメンがある程度固まってきたかなという印象です。

逆に広島は、仙台戦の逆転敗けでリーグ戦4連敗。流れを変えるために4名スタメンを変えて臨んできました。

■ ロングボールの使い方
試合開始当初は、やはり相手を探りつつの展開。長いボールを蹴ってセカンドボール&トランジション合戦で戦いは始まりました。

鳥栖は、ガンバ戦よりは長いボールを活用する形を作ってきておりまして、当然ビルドアップシーンではショートパスでのボール保持を求めていたのですが、豊田とチョドンゴンが良いポジションをとれたならば、躊躇せず長いボールを送り込んでいました。セカンドボールを狙う配置は、福田と原川をパラレルに並べて押し下がっている広島ボランチの手前でボールを受けれるような仕組みを作り、多くのセカンドボールを回収することができました。

ガンバ戦はどちらかというと「困ったときの豊田」という様相が強かったのですが、今節はチョドンゴンがスタメンだったこともあり、「狙える時には豊田とドンゴン」というポジティブなロングボールが多かったです。

数値にも表れてまして、ガンバ戦ではロングボール61本に対して成功率34%だったのですが、広島戦ではロングボール68本に対して成功率57%と高い成功率をマークしました。長いボールを蹴る際の蹴るメンバー、受けるメンバー、セカンドボールを狙うメンバーの準備が整っていた事によるものでしょう。

■ 広島のビルドアップと攻撃の狙い


蹴りあいも落ち着いてきた10分頃、ようやく互いにゆっくりとボールを持てる時間がやってきました。3-4-2-1でのセットアップだった広島ですが、ビルドアップで選手の配置を変えてきまして、最終ラインを4枚にし、川辺を中央でアンカーの役割を与え、4-1でのボール保持で攻撃を整えました。

この配置にすることによって、実は鳥栖としては、フォワード2枚、サイドハーフ2枚がうまく相手の最終ラインの4枚にはまりますので、前線からのプレッシングを仕掛けやすくなります。今節も豊田を中心にアグレッシブなプレッシングを仕掛けていました。

ただ、このプレッシングをしかけるためには、アンカー化して出口の役割を担う川辺にも必ずマークにつかなければなりませんが、ここが1つのポイントでした。

川辺へのマークは福田もしくは原川が担っていたのですが、そうするとどうしても野津田か柴崎がフリーとなる状況が生まれます。前から行くことによって広島のセカンドトップに自由をあたえてしまうのが鳥栖としては痛しかゆしなところでしたが、プレッシングがはまって高い位置からうまく奪えれば当然ショートカウンターのチャンスを作れるわけでありまして、鳥栖としてはこのプレッシングで、ある一定のリスクには目をつぶった、攻撃的な守備を慣行していたという事になります。

11分のシーンは、広島の崩しの形が良くわかるのですが、センターバック化した松本がボール保持して川辺に当て、原川がプレッシングに入ります。この原川の動きで空いたスペースに柴崎がうまく入り込み、サイドバック化した野上が縦パスを送りこみました。鳥栖が広島の4-1ビルドアップに対して、数を揃えてプレッシングしてくるという動きを利用し、ポジショニングだけでスペースそしてフリーとなる選手を作った形です。この縦パスは非常に論理的で、4-4-2守備に対する攻撃設計のち密さを感じました。

■鳥栖が守備ブロックを組んだ際の広島の狙い


鳥栖は前線からのプレッシングがはまらなかった場合は、素早くリトリートして、しっかりと4-4で守備ブロックを構築します。守備ブロック構築後の広島の主な狙いは図にもありますよう、パターンとしては大きく3つ。その心は、「ウイングバックをどう使うか」という所です。

広島のウイングバックは個で打開する能力があるので、鳥栖はどうしてもマーキングに対する意識が強くなります。油断すると置いてけぼりで縦をえぐられてしまうからですね。

ウイングバックにマッチアップするのが鳥栖のサイドハーフであった場合には、後ろでサイドバックがカバーリングできるためにさほど問題にならなかったのですが、問題は、サイドハーフが出て行ってしまった際にサイドバックがつかなければならない状況を迎えたタイミングです。

特に広島の右サイドが効果的な崩しを見せておりまして、三丸を柏で釣ってスペースを作り、柴崎が上手に侵入する形を作っていました。そのスペースの使い方は左サイドの野津田&清水のそれよりもコンビネーションがとれていました。パターン1は8分手前のシーン、パターン3は18分頃のシーンがよくわかると思います。

そういった状況もあってか、鳥栖と同じく広島も攻撃の主たるサイドは右サイドに寄せてきます。寄せてくることによって、鳥栖の全体も広島の右サイドにスライドして守備を行うのですが、広島にとって窮屈になった時がサイドチェンジのチャンスでありまして、川辺から直接、もしくは松本を経由して左サイドの清水へボールを配球しました。清水も役割は分かっていて、ボールを受けたら間を置かずにクロスをゴール前に配球していました。

また、オレンジの丸で囲んでいますが、広島はサイドバック化している野上や荒木が機を見て前線にオーバーラップをしかけ、ウイングバックが中央にカットインして空けたスペースにうまく入り込み、サイドから分厚い攻撃を見せておりました。

実は、試合を見ていて、広島が押し込んでいるときに、野上と荒木がサイドで顔を出してきていたことに最初気づいていなくて、ふとした瞬間に、天の声が舞い降りてきたことによってこの仕組みに気づかされました(笑)

野上と荒木がサイドバックのような振る舞いをすることにより、オーバーラップの準備ができるのはもちろんの事、単純に後ろ3枚のビルドアップで鳥栖の2トップをやっつけるのではなく、4枚でのビルドアップにしてサイドハーフもまとめてやっつける仕組みづくりは見事でした。

攻撃時と守備時でシステム(ポジショニング)を変化させることによって、相手の守備の基準や攻撃の狙いどころを幻惑する効果は多分にあるのだなと改めて思いました。サッカーを見るうえで、思い込みというのは解析ポイントを阻害する要素となりますね。反省したところです。

別の試合ですが、先日行われた大阪ダービーも、ガンバが試合開始当初は4バック守備のように醸し出して実は3バック守備でセレッソの3-4ビルドアップに対抗したというレビューを見ましたが、攻撃側としてはミスマッチが発生しているのか、相手のマーキングにはまっているのか、その違いは攻撃のプランニングとしては大きく変わりますよね。

…と、単に自分に戦術眼と観察眼が足りなくて、現象に気づかなかっただけなんですけど、さもたいそうなことのように話を広げてみました(笑)


■ 鳥栖のビルドアップ


鳥栖は今節も、ゴールキーパーを活用したボール保持を指向します。ガンバ戦ではゴールキーパーを活用して、相手の2トップの間に福田が顔を見せる3-1の形でのビルドアップでしたが、今節は相手がワントップ+ツーシャドウでプレッシングに来るため、福田と原川はドウグラスの周りのスペースにパラレルにポジションをとり、3-2の形でのビルドアップを見せました。

ピルドアップの形も一定ではなく、広島のプレッシングがセカンドトップを使って前線2名をセンターバックに当てて来た場合は、パラレルを解消して縦の関係に変わる動きを見せるなど、福田も原川も、相手の出方によって、ボールの引き出し方を変える形を模索しているようでした。

ポジションチェンジはありましたが、原則として使いたいのはドウグラスの脇のエリア。そこにセンターバックがボールを運ぶことができると、広島のセカンドトップ2名をひっぱりだすことができるので、堅い守備ブロックのバランスを崩す糸口となっていました。

さて、しかけの局面ですが、前節と異なり、原川が左サイドに鎮座しているわけではありませんでしたが、今節もしかけは左サイドが多く、ポジション的にも左右非対称な形となっていました。三丸の動きがやはり攻撃のポイントでして、基本的には左サイドを高い位置に張ってウイング的な役割を果たすのですが、中央でボールがはいって収まると、ハーフスペースに入り込んでつなぎの役割も果たしてしました。42分のシュートシーンはその典型的な例で、福田の長いボールを収めた豊田のフォローに入り、前を向いてボールを受けることによって、チョドンゴンへのスルーパスにつながっています。ビルドアップが窮屈になったときには、下がってボールを引きだすフォローの役割もありますし、クロスだけではない重要な役割を担っています。

右サイドはセンターバックからの展開の逃げ道として、小林がやや引いたポジショニング。松岡は、ボールが左サイドにある場合はハーフスペースからやや中央にポジションをとっていましたが、右サイドにボールが来ると同時にワイドにポジションをとり、幅をとる役目を果たします。相手のウイングバックをピン留めする役割としては、左サイド三丸、右サイド松岡という形を作り、左右のポジションのとり方が非対称となる攻めでした。

今節は、広島の5-4のブロックが固く、前半の終了間際にようやくシュートが打てたような状況でした。クロスの本数そのものも14本と多くはなかったのですが、そのうちの6本は三丸、4本は原川があげたものでした。最終ラインからのビルドアップで守備ブロックの間隙を縫って、高い位置を張らせている三丸にクロスを上げさせるという攻撃パターンそのものは、前節と同様に確立されていました。

■ 広島のプレッシングのズレを見逃さなかった鳥栖の工夫されたビルドアップ


…と、左サイドの話をしておきながら、ここで紹介するのは右サイドからのビルドアップです(笑)
広島は、25分過ぎくらいから、鳥栖のビルドアップのパターンを読み取ったのか、前線からプレッシングをしかけるようになります。鳥栖のゴールキックもつながせないために、ドウグラスと柴崎でセンターバック2名を捕まえるポジションをとるようになってきました。

そういった、広島のプレッシャーが強くなってきた頃の27分のシーンですが、高丘のゴールキックから始まり、福田と三丸を経由してボールを保持し、秀人が左サイドから右サイドに展開すると同時に素晴らしい縦へのスピードで広島のプレッシングをかわした崩しです。

ひとつめのポイントは、高丘にドウグラスがついた瞬間にみせた秀人から祐治への飛ばすパスです。これが、ゴールキーパーをビルドアップに使うという事を広島に見せている効果でして、鳥栖がセンターバック間でしかパスがないならば、ドウグラスは祐治につこうとするところですが、ゴールキーパーを経由することが分かっているので、ドウグラスのマーク相手が高丘となっていました。さらに、祐治も幅を取るように遠いサイドにポジションをとっているので、秀人がひとつ飛ばすような長いパスを送っても、祐治がボールを受けてパスコースを確認する時間が確保できました。

実はこのパスには伏線がありまして、26分のビルドアップのシーンでも同じような形になりましたが、秀人が高丘を経由して祐治にボールを回したため、ボール回しの時間がかかって、祐治に対する野津田のプレッシャーが間に合ってしまい、祐治は長いボールを蹴らざるを得なくなり、この長いボールを松本に拾われて、清水を経由して最後は松本のシュートを受けてしまいました。

そのシーンがあってすぐの27分のビルドアップだったので、高丘を飛ばすパスを送ることによって野津田のプレッシャーを回避するという、すぐさま問題点を改善した秀人のパスは非常に素晴らしいなと思いました。

2つのポイントは、広島のドイスボランチによるプレッシング組織のずれです。祐治にボールが渡った瞬間に、野津田は祐治、清水は小林に対してプレッシングをしかけますが、川辺はこの状況が危険だと察知したのか、中央のスペースを守るようにリトリートを開始します。これで直前まで捕まえられていた原川がフリーとなる状況が生まれてしまいました。

鳥栖は、広島が仕掛けてきたプレッシングをあざ笑うかのように、祐治⇒小林⇒原川とボールをつなぎます。川辺のリトリートとともに原川がフリーとなった事に気づいた松本が遅れて前に出てきますが、このプレッシングも逆に松岡をフリーにしてしまう状況を作り、原川⇒松岡⇒ドンゴンという右サイドを縦に抜けるパス交換ができました。クロスはドンゴンが芝に足をとられてしまって惜しくも上がりませんでしたが、私は試合を通じて、このビルドアップが一番好きでした。

このビルドアップの何が良かったかというと、ゴールキーパーから始まったビルドアップであり、鳥栖の工夫も入りながら、広島の守備の乱れをつきながら、豊田、クエンカ以外の9名でしっかりとボールを繋いで広島の守備網を突破した事です。

ゴールキックから約20秒でドンゴンのクロスにつながるというスピード感もありましたし、豊田の強さやクエンカのキープ力という個の強さを使うことなく、ポジショニングだけでビルドアップ出来たのは、ミョンヒさんのサッカーの実現に向けた成長を感じます。

■ レイオフ(ポストプレイからの落としのパス)を活用した攻撃のスピードアップ
これは思想・指向の問題もあるかと思いますが、仙台戦のレビューでこのような感想を記載していました。

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攻撃パターンといえば、右サイドは非常に良い崩しを企画しておりまして、金崎がハーフスペースに入り込んで、藤田から縦パスを受けて相手を背負ってボールを受けるシーンが何回か見られました。金崎が背負ったタイミングで、松岡も藤田も動き出すのですが、せっかく前を向いて走ってくる状態の良い彼らにボールを渡さずに、金崎自身がターンしてゴール前に入っていこうとするので、仙台のディフェンスにことごとくカットされていました。

例えば、仙台戦では、37分のシーンや45分のシーンなど、金崎が背負ってボール保持したタイミングで、(やや抜け方が悪かったですが)松岡も藤田も前を向いて抜け出せる位置にしっかりとランニングし、レイオフ(スイッチ)を狙って動き出すのですが、金崎からボールは出てきませんでした。これは、仙台戦に限ったことではなく、神戸戦でもFC東京戦でもそのようなシーンは多々発生しています。
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仙台戦ではこのような感想を抱いていたのですが、ここのところは、豊田がトップに入るようになって、レイオフを活用した攻撃のスピードアップが図れています。65分や75分のように、豊田がいったんボールを受けて、前を向いて走りながら受けにくる原川に簡単にボールを渡していますし、65分にも、金崎がボールを受けてダイレクトで松岡に流そうとする形が見れました。

相手も守備ブロックをしっかりと構えていますし、個人の技術力も高まっている中、よほどの個の強さを発揮しないと、ボールロストせずに突破する事が難しくなってきています。狭い密集した中でいかにコンビネーションを発揮するか、いかに前を向いた状態でスピード上げるかというのは、得点力アップのキーです。

そういう意味でも、豊田、金崎、ドンゴン、トーレスなど、相手に背中を向いてしっかりとボールキープできるメンバーがそろっていますので、彼らの周りにポジションをとることによってペアでの突破という武器を作ることができます。監督が代わってからの崩しの意識としては、このあたりも変化が見られたかなとは感じています。

■ おわりに
結果としては、三丸のクロスがオウンゴールを生んで、運よく勝利を拾うことができましたが、互いの守備の強度を考えると、終盤までスコアレスというのは納得できる攻防戦でした。シーズン序盤はアンラッキーな面もありましたが、しっかりとした守備とポリシーをもった攻撃を続けていれば、勝利の女神が微笑んでくれることもありますよね。これがスポーツの不思議なところだと思います。

ひとまず、川崎戦のレビューで記載したラッキーパンチが、神社の参拝で舞い降りてきたので、このままチームが調子を上げてくれて残留してくれたら、17円以上のお賽銭とともにお礼参りに出かけたいと思います(笑)

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↓川崎戦後のレビューと試合後のツイート





■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事
  

Posted by オオタニ at 14:00Match Impression (2019)

2019年05月16日

2019 第11節 : サガン鳥栖 VS ガンバ大阪

2019シーズン 第11節、ガンバ大阪戦のレビューです。

■ スタメン
ミョンヒ監督体制初陣となったルヴァンカップ柏レイソル戦では、出場機会の少なかった石井、樋口などの新進気鋭の若手と、豊田、岩下などの怜悧狡猾なベテランをスタメンに起用。ベンチにもユースの選手が多数ベンチに入っている新鮮な陣容でした。実は、この試合、若干寝ぼけ眼で、のんびりとスタジアムに向かっていたのですが、スタメン発表と同時にぱっちりと目が冴えてしまい、ついついスタジアムに向かう足が猛烈にスピードアップしてしまいました(笑)

柏戦で、得点こそ取れなかったものの、無失点で終えるというまずまずの結果としてミョンヒ監督の初戦を戦ってくれた選手たち。今度はミョンヒ体制初のリーグ戦で、どのメンバーがスタメンに起用されるかというところが着目点だったのですが、ほぼ大分戦と同じメンバーであった中、柏戦で顕在っぷりをアピールした豊田が唯一ルヴァンメンバーからのスタメン起用となりました。また、怪我から復帰した福田もキャプテンとして初登場。期待が高まります。

■ システム


鳥栖は4-4-2システム。ミョンヒさんは、昨年度の就任後もこのスタイルで立て直しを図りましたが、今回も4-4-2システムでの船出となりました。守備の方式も相手にミラーで合わせる形で組むのではなく、ゾーン守備を基調としながら、入ってきたボールの行方に合わせてプレッシングを整えていくオーソドックスなスタイルで、奇をてらわずにノーマルな形での再出発となりました。

G大阪は前節と同じくファンウィジョをトップに置いた4-2-3-1でのセットアップ。遠藤の起用が、中盤でのボール保持を推し進めていきたいという意思を感じます。

■ パスネットワーク図



■ 豊田起用のメッセージ
豊田の起用によって、サガン鳥栖というチームに2つの命が吹き込まれます。ひとつはロングボールをフィフティフィフティ以上のアドバンテージに変えてしまう高さと強さ。そしてもうひとつは前線での二度追い、三度追いも辞さないプレッシングによる守備面での活性化です。

試合は早速この試合で鳥栖が貫きたかったプランを表現します。左サイドでクエンカ、原川がボール保持しつつ、三丸のオーバーラップを促して最後は中央の豊田と金崎で勝負という形です。3分頃には、ニアサイドに飛び込む豊田に対して三丸がスピードのあるクロスボールを上げるというご挨拶代わりの攻撃を見せました。

この試合の鳥栖は非常にはっきりとしたプランがありまして、攻撃の局面では金崎がゲームメイクを担当し、彼がボールを引き出してポストプレイの役割を果たします。豊田はロングボール以外の局面では可能な限り中央で構えて最短距離でゴールに向かう事のできるポジションを取ります。パスネットワーク図でもありますように、ボールを受ける回数とさばく回数は金崎の方が多く、豊田はフィフティのボールを競り合うかもしくは最後のクロスのシーンで顔を出す役割(パスネットワーク図のパスの出し手としては登場しない役割)となっています。

これによって、サイドでボールを持った状況で、相手の陣形が整わないうちに早めに豊田めがけてクロスを上げるという形が実現出来ます。この試合では、三丸のこの3分のクロスのほかにも35分、46分、54分の場面など、豊田を生かすべく早めにクロスを上げるシーンが多く目立ちました。

■ ポジショニングによって優位性を作ったミョンヒ監督

この試合の鳥栖の狙いですが、ざっくり表したのがこの図です。



ボール保持ではセンターバック2名を大きく広げ、その間を埋めるように高丘を中央におきつつ後方3人でビルドアップを行い、相手のツートップ間にアンカーのような形で福田がボールを引き出す形を作り、1列目の突破を狙います。

福田がアンカー的役割で中央にポジショニングするため、ドイスボランチを組む原川は左サイド重視のポジショニングをとりました。崩しの形としては、原川もしくはクエンカがサイドバックの前にポジションをとり、ガンバのサイドバックを揺さぶるような動きを見せます。サイドバックを動かすことによって、中央で鎮座している豊田にピン留めされているセンターバックとサイドバックとの間のギャップをつくろうとする動きです。パスネットワーク図を見ても、パス交換は左サイドを中心に行われており、今回の攻撃の軸は左サイドであったことが分かります。

原川のポジショニングによって人数をかけている分、ボール保持は左サイドが中心となりましたが、右サイドにおいても小林が幅を取り、松岡がサイドバックをけん制するポジショニングをとりました。サイドチェンジ後に小林からサイドバックの前でボールを受けた松岡がファールをもらうシーンが何度かあったように、サイドチェンジが発生しても右サイドのメンバーが一人で孤立するわけではなく、両サイドのスペースが生まれれば積極的にチャレンジする形を模索していました。

カレーラスさんは局面に人数を集め、特にブロックの外のエリアに人数をかけて利用して相手守備網を攻略しようという形を作りました。秀人を大外に置く配置やフォワード二人がサイドに流れて起点を作る形がよい例ですね。ミョンヒさんの場合はサイド、ハーフスペース、中央にバランス良く選手を配置(すべてのレーンに人を配置)し、ボール保持を続けていく中で生み出されたギャップを使って前進を図ろうとする意図を感じます。

ミョンヒさんの配置を生かすためには、秀人、祐治、福田、そして高丘のボール保持が大事なわけでありまして、今節は長いボールを蹴らされるシーンが目立ちましたが、本来はゴールキーパーも含めたビルドアップで相手の1列目を攻略したいところ。そうすることによって、ボールを持ち出した次のアクションで相手の2列目を動かす事ができます。2列目が動き出すと、相手守備網のギャップ(スペース)を作りだすことができ、配置が生かされる形を作ることができます。

今節の戦い方を見ると、最初からロングボールありきではなく、豊田へのロングボールはあくまでも「困ったときの豊田」でした。ロングボールを主軸にすると、どうしても豊田の個、そして中盤の運動量に頼ってしまう偶発性の高い攻撃となってしまいます。配置で崩す攻撃パターンを作り出せると、選手が変わっても崩れない(選手の質に頼りきらない)攻撃の仕組みができ、そして豊田、トーレスが本来のゴールゲッターとして活かせる仕組みを作ることが出来ます。理想としてはですね。

<試合中の具体例>
ガンバ大阪は4-2-3-1から守備時は4-4-2へと変化し、ファンウィジョと遠藤で前線のプレッシングをしかけます。ガンバのプレッシングも整理されていて、高丘がボール保持したタイミングで、秀人へのパスコースを遮断しながら一人がプレッシングをしかけます。祐治にはもう一人の前線がつき、出口となるはずの福田には倉田がマーキング。序盤で体力のある2人の素早いプレッシングによって高丘の動きが制限され、ロングボールを蹴らされてしまう展開が続きます。

蹴らされてしまったロングボールなのですが、鳥栖にとっては豊田が生きる展開となりまして、ロングボールをフィフティフィフティ以上のものにしてくれる彼の力によって中盤でボールをうまく拾える展開が生まれます。前線からのプレッシングではある程度整理されていたG大阪でしたが、中盤で鳥栖がボールを保持する局面になると、うまく対処することができずに手を焼いていました。

(1) サイドバックに選択を強いるポジショニング

この試合で鳥栖が幾度も活用していたのは、ガンバのライン間、特にサイドバックの前に人を立たせるポジショニングでした。ゴール前には豊田が控えていて油断すると低い位置からでも素早いクロスが送られて来るので、ガンバとしては豊田を無視してセンターバックのポジションを中央から移すわけにはいきません。いわゆる、豊田がセンターバックを「ピン留めする」という状況が生まれます。センターバックが動けない状況下にあるため、鳥栖はサイドバックさえ動かせば、攻撃の中で狙う事のできるスペースを作り出すことができます。



図は21分のシーンです。ボール保持の中で、左サイドの三丸を高いポジションに置き、ボランチの原川を1列上げて米倉の前に立たせます。これによって米倉に守備の選択を迫ることになります。

・ 三丸についてしまうとセンターバックとのギャップを空けてしまい原川に侵入される。
・ 原川についてしまうと大外の三丸をフリーにしてしまい豊田へのクロスを許してしまう。

本来は、米倉がこの選択を決めなければならない前にG大阪としては双方のパスコースを消したかったところでしょうが、クエンカが1列引いてボールを受けていることで、プレッシングで安易に飛び込んでしまうとかわされるリスクとも戦わなければなりません。鳥栖はこの配置をとることによって、G大阪に対して守備の課題を突き付けることに成功していることになります。

このシーンでは、クエンカがボール保持してドリブルを開始したところで動き始めます。小野瀬がプレッシングを開始して原川へのパスコースを消しながらクエンカをサイドに追い込もうとします。これによって米倉は三丸へのケアを意識します。しかしながら、クエンカがサイドにボールを運びながらも小野瀬がコースを完全に消す直前にセンターバックとサイドバックとのギャップでフリーとなった原川へパスを送ります。原川はダイレクトで三丸へ戻し、三丸は素早いクロスで豊田の惜しいヘディングシュートを演出しました。このシーンは、鳥栖が選手の配置でガンバ大阪の守備を攻略し、豊田のストロングを生かすシュートまで結びつけたシーンでした。ここで豊田が決めたらかなり盛り上がったんでしょうけどね。シュートが惜しくも外れました。

36分の原川のビッグチャンスにおいても、三丸のアーリークロスのこぼれ球を拾った原川が、米倉の前でポジションを取っているクエンカとのワンツーで抜け出しました。これも、米倉の前のスペースを効率的に活用したことによって生まれています。米倉の前でボールを受けたクエンカが、米倉の前に入り込んできた原川にボールを渡し、キックフェイント一つでサイドをぶち抜いたシーンは素晴らしかったですね。あとは決めるだけでしたがそこはちょっと(笑)

38分からのボール回しにおいても、この試合の狙い通りの形づくりができていました。センターバック2名と福田は中央でトライアングルを作り、クエンカ、松岡がサイドバックの前にポジションを取ってサイドバックをひきつけ、ワイドに開く三丸、小林をフリーにしつつ自らもフリーでボールを受け取る形を作ります。この頃には、体力の低下によってガンバの前線もプレッシングに出てこれなくなっており、余裕を持ってボールを回せている時間帯でしたので、じっくりとビルドアップすることができていました。

さて、このボール回しの中での39分のシーンでは、サイドバックの前で松岡が非常に良いポジションを取っていたのですが、豊田からのポストプレイでのボールを受けとった福田の選択はアウトサイドの三丸へのパスでした。遠藤のプレッシングがあったものの、ここは松岡に出してほしかったかなというのはあります。右サイドも小林が大きく幅を取って張っていましたし、松岡ならばひとりはがして前に前進することもできますし、小林、金崎とパスコースがある中での選択もあり、そのチャレンジが見たかったかなという所ですね。

(2)コーナーキックのポジショニング
鳥栖は久しぶりにコーナーキックから決まった得点で先制点を上げました。今シーズンも幾度となくコーナーキックを得ていましたが、なかなかチャンスに結び付けられなかったのですが、ポジションの取り方をルール化することによって、多くのシュートチャンスを得ることができました。13分のコーナーキックのポジショニングを図で表します。



原川が蹴る瞬間にはゴールキーパーの近くに豊田とクエンカがポジショニング。ファーサイドには金崎、秀人、裕治がセットアップします。蹴った瞬間に、ゴール前ニアサイドに豊田、ゴール前ファーサイドにクエンカ、ゴール前中央へ金崎、ニアサイドに秀人、ファーサイドに祐治という動きを見せます。原川が相手の守備陣形をしっかりと見て、ゾーンで守るガンバ大阪に対して隙が生まれそうなエリアに対して早いボールを蹴りこむという形を作ったため、鳥栖はバランスよく人員が配置されている状態でしっかりとシュートへつなげることができました。この試合では、蹴ったはいいものの誰も競ることができなかったというシーンも生まれず、バランスの良い配置が生かされた格好となりました。15分の先制点はもちろん、13分の祐治のシュートも惜しかったですし、18分の金崎のシュートも惜しいシーンでした。すべて、同じ配置でコーナーキックをシュートまで結びつけています。

■ 1人で2人を相手に守備する鳥栖の前線
幸先よく先制点を奪ったサガン鳥栖。得点をとったことによって、無理に攻撃に出る必要がなくなり、試合のパワーを守備にかけることが可能となります。この日のサガン鳥栖が選択した守備は、原則的にはミドルサードでの4-4ブロッキング。そして、豊田・金崎をトリガーとした積極的なプレッシングでした。



ボールを保持したいガンバは、最終ラインに今野が下がって3人でボール保持を試みます。ツートップの鳥栖は、プレッシングの人数を合わせるため、サイドハーフ(松岡orクエンカ)を押し出してプレッシングに臨みます。中央でボールを持つボランチに対してサイドへボールを促すプレッシングを開始。ここからが豊田・金崎の本領発揮の部分でありまして、今野がサイドにボールを展開すると同時に、サイドでボールを受けるセンターバックに対しても、中央のボランチへのパスコースを遮断するべく二度追いのプレッシングを開始します。ボランチに戻すコースを失ったセンターバックは縦へのパスを狙いますが、縦のコースは松岡とクエンカが非常に良いスプリントで制限をかけてきました。ここが、一つ目のボールを奪うポイントでした。

ガンバはサイドバックが大外で幅をとっており、クエンカや松岡のプレッシャーが間に合わなかった場合は、外で幅をとるサイドバックへ展開します。ここで松岡とクエンカがまたよいスプリントを見せまして、サイドバックにボールが出された瞬間に、素早くリトリートのスプリントを見せ、サイドバックへのプレッシングも見せてくれました。最終ラインへのプレッシングがはまらなくてサイドに逃げられたとしても、すぐに松岡・クエンカがリトリートすることで第二形態のブロック守備へとすぐさま変化することができ、また、このスプリントによって、鳥栖のサイドバックが、G大阪のサイドハーフ(小野瀬・アデミウソン)を見れる形を作れたことも余分なスペースを与えないという意味では非常に大きかったです。

大分戦で、1人で2人を見るスプリント力の話になり、クエンカは適正ではないということを記載していましたが、ここはお詫びしなければならないところでありまして、確固たる戦術と役割を与えれば、クエンカも迷いなくスプリントを見せてくれる選手であることを認識しました。特に圧巻だったのは、50分、51分、52分、56分に見せてくれたクエンカのカット。前線の追い込みに反応するようにガンバのセンターバック、サイドバックに詰め寄るスプリントで何度もビルドアップを破壊してくれました。当然、クエンカのみならず松岡も同様のスプリントとプレッシングを幾度となく発揮しており、この試合のプレッシング守備は、松岡とクエンカなしでは語れないほど、彼らがハードワークを見せてくれたと思います。

■ ガンバの攻撃
鳥栖の積極的なプレッシングとミドルサードにおけるリンクの切れない鳥栖の4-4ブロックを前に、前線への配球のみならずビルドアップもままならなくなってきたガンバは、20分すぎ頃から徐々に遠藤、ファンウィジョがボールを受けるために最終ライン付近まで下がるポジショニングを始めます。これでボールポゼション率は確かに回復し、後ろでボールを持つことはできるようになったものの、前線に人がいないために、前進するパスコースが見当たらなくなります。そして、全体がボール保持の為に下がっている状態にも関わらず、長いボールを前線に放り込むという中途半端な攻撃に手を染めてしまい、鳥栖の格好のカウンターの餌食となってしまいました。

図は、ショートカウンター34分のシーンです。



鳥栖のコンパクトなブロックとプレッシングで、今野も倉田も最終ラインに下がってビルドアップ隊に加わります。なかなかボールがもらえないファンウィジョも徐々にポジショニングが下がってきていました。このように、前線に人がいない状態、セカンドボールを拾う体制も作れていない状態であるにもかかわらず、前進できないことで焦れてしまった今野が、鳥栖の守備陣で囲まれている遠藤に対して中途半端な長いボールを蹴ってしまい、福田のカットから鳥栖のカウンターを食らってしまいました。ビルドアップにかける人数、ファンウィジョの引いたポジショニング、遠藤が長いボールのターゲットとなるなど、前半のガンバはどこかちぐはぐな感じで、結局、前半にガンバが作ったチャンスは、裏に走りこむファンウィジョに送り込んだロングボールやカウンターでのアデミウソンのドリブルなど、スピードと強さに頼る攻撃で前半を終えることになってしまいました。

<食野を活用した後半の修正>
後半になって、ガンバは遠藤に代えて食野を投入します。この宮本監督の修正は非常に素晴らしく、鳥栖のプレッシングに苦しんでいたガンバが、プレッシングによって発生するスペースを突いた攻撃をしかけるようになります。まず、前半にうまくいかなかった例をひとつ図で示します。



22分のシーンですが、先ほど紹介した34分のシーンと同じく、ボール保持のために後ろにメンバーが集中してしまっています。それに対して鳥栖は、無理に人数を合わせるプレッシングをしかけるのではなく、ボール保持はさせておいて、パスの出所を抑えるブロック守備を構築します。豊田、金崎、クエンカによって前方へのパスコースを制限された倉田が選択したのは、三丸の背後のスペースを狙うパスでした。しかしながら、そこに走りこませるのは三丸のマーキング相手の小野瀬だったため、三丸が対応するのに難くなく、難なく先にボールに追いついてクリアしました。

ガンバ大阪は、後半に入って、食野が入ったことによって、このスペースの狙い方を変えてきます。



サイドに幅をとる選手に早めにボールを展開するようにし、豊田と金崎のプレッシングが到達しないエリアへボールを運びます。サイドバックがボール保持し、縦関係にサイドハーフを置くことによって、鳥栖がクエンカ&三丸(松岡&小林)でプレッシングを開始します。このプレッシングによって生まれるサイドバックの裏のスペースが、後半の狙いどころでありまして、食野が裏へのランニングでしっかりと入り込み、そしてガンバの選手もそのスペースを狙うボールを幾度も送り込んでいました。この57分のシーンは食野のトラップが流れてしまったためにチャンスになりませんでしたが、62分のシーンでは、食野がサイドバックの裏を突くことによってボールを受け、カットインしてシュートを打つチャンスを作ります。このシーンは高丘の好セーブによって救われたのですが、ガンバ宮本監督の後半の修正によって生まれた、論理的な仕組みによるものでした。

しかし、アディショナルタイムの食野のゴールは度肝を抜かれましたね。鳥栖の選手5人が束になってかかっていきましたが、それでも止められずに、強烈なシュートが見事にゴールに突き刺さりました。ずば抜けた個の質によって戦術を無効化できてしまうシーンをまざまざと見せられてしまいましたが、ある意味あきらめの付くスーパーゴールでしたね。

■ おわりに
ミョンヒさんは「局所的な数的優位」よりは「バランスの取れた配置」で攻撃を組み立てる形を指向する指揮官である事を感じとれました。ここで一つデータを見ると

カレーラスさん時代の過去数試合のクロス成功率を見てみますと
川崎戦 2/20・・・10%
松本戦 5/34・・・15%
湘南戦 6/29・・・21%

だったのですが、この試合では
G大阪戦8/22・・・36%
と、以前よりも高いクロス成功率で攻撃を仕掛けることができました。
中央に「高さに強い選手」を、「ルール化された状態」で配置することによって、成功確率は変わります。コーナーキックからのシュートチャンスをいくつも作りましたし、クロスから豊田やトーレスの惜しいシュートシーンも演出できました。メンバー的に変わらない陣容であっても、選手の配置によって攻撃の仕組みも効果も変わることが見て取れます。

まだ1試合が終わっただけなのですが、監督交代直後に結果を残した事で選手たちの雰囲気も変わるでしょう。久しぶりの勝ち点3は自信にもなるでしょうし、何よりもこの勝ち点3で、最下位(18位)と言いながらも13位まで勝ち点3差に迫ることができたことが良かったと思います。次の広島戦が大事です。広島も4連敗と調子を崩している状態ですので、勝てずとも何とか勝ち点1だけでも拾って帰れたらいいなと思います。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事保たれている事
  

Posted by オオタニ at 18:23Match Impression (2019)

2019年05月10日

2019 ルヴァン第5節 : サガン鳥栖 VS 柏レイソル

2019シーズン ルヴァンカップ予選リーグ第5節、柏レイソル戦の雑感です。
感じたことをつらつらと書きます。

<守備>
・柏3-4-3ビルドアップに対して、鳥栖4-4-2での守備。柏の最終ライン3人に対して、鳥栖が前線で見るのが豊田、ドンゴンの2人であり、柏のビルドアップ隊に対して無理に人数合わせをしなかったので、必然的に柏がボール保持する形となっていきました。

・ヒシャルジソンに対して鳥栖がひっぱられすぎていたシーンが見えました。前線(豊田・ドンゴン)がヒシャルジソンへのパスコースを制限しようとした上に、ボランチ(義希・樋口)がヒシャルジソンにマーキングに行こうとするので、その奥にいる江坂、オルンガ、ガブリエルへのコースが空いてしまって通されるケースがありました。特に江坂には手を焼きました。義希が運動量豊富ではあるのですが、その反面人に引き寄せられすぎてしまい、周りが連動せずに中央をあけてしまったタイミングで柏の縦パスが通されてしまうケースがありました。53分のシーンとか。

・鳥栖のサイドハーフが柏の最終ラインにプレッシングに出ていくタイミングがあっていない時がありました。豊田とドンゴンがサイドに誘導する前にサイドハーフが出ていくケースがあり、出て行ったスペースを柏のセカンドトップ(江坂・ガブリエル)とサイドハーフ(菊池・田中)に使われていました。サイドハーフが出て行ったときに、豊田とドンゴンも併せてプレッシングに行った方が良いタイミングでも、前線2名が人につかずに中央のスペースをケアする動きを見せてしまったので、サイドハーフのプレッシングが死んでしまったケースがありました。カレーラスさんの時は、ミラーにして人に対してわかりやすいシステムだったのでプレッシングの相手がほぼ明確でしたが、今回は基本的にミスマッチ(人数がかみ合わない状態)からプレスなのでちょっと難しかったかもしれません。プレスのタイミングに関しては、これからの熟成でしょうね。

・左サイドは、石井が出て行ったときに、ブルシッチがついてこないので、何度か石井がブルシッチに手招きするシーンがありました。戦術として落とし込めていないので、試合中に修正しなければならないのですが、日本語でコミュニケーションがとれないのはちょっと厳しかったでしょうね。田中陸のケアがちょっと難しかったので、前半終了くらいから、石井が下りて田中をケアしつつ最終ラインを5人で対応するようにシフトしていきました。守備を考えるとこの判断(ベンチの指示?)は良かったと思います。石井の位置が低いので、カウンターで出ていく人数が減るのがデメリットではありましたが。

・ボランチがボールを狩りに行くのは良いのですが、中央ではがされてしまうケースが多くて、思いのほかピンチを招いていました。岩下とガロヴィッチが何とかラインを下げながら対応して、最後はシュートコースをなんとか消していましたが、失点してもおかしくないようなケースはありました。

・全員が守備に対する意識を持っていました。プレッシングではがされても、全員がすぐにポジションに戻り、そして押し込まれてもサイドバックが中央にしぼって、サイドハーフがケアをし、ボランチも引いてバイタルを埋め、前線も中盤に下がってセカンドボールの準備をして、最後は人数をしっかりとかけて守り切るという形でなんとか無失点にしのぐことができました。単純ですが、人数をかけてでもスペースを消すという守備ができたのは、変化したところでもあり、久しぶりに気合で守るサガン鳥栖を見たような気がしました。

<攻撃>
・全体的に、ワンタッチ、ツータッチくらいでパスをだすことを意識していたようでした。そのせいでミスにはなることもありましたが、攻撃のスピードというものを考えると良かったかなと思います。そこが、監督が代わって変化した点かなとは思いました。豊田のワンタッチのポストプレイは、成功確率は低かったのですが、これから連係が取れてはまれば大きなチャンスになっていたので、よいチャレンジだと思いました。

・ビルドアップはボランチが最終ラインに落ちて数的優位を作るのではなく、柏の前線のプレッシングのライン間に顔を出すような形で前に運ぶルートを作る形を見せてくれました。ビルドアップで義希やヨンウがバックラインに下がってきたときに、柏の選手たちを引き連れてくるので窮屈になっていたのですが、そこを岩下がコントロールして、前に出るように要求していました。パス回しで選手間の距離が近づいて相手選手がついてくる弊害は、ルヴァンカップの前節のベガルタ仙台戦でのクエンカがひっかけてからのチョドンゴンのゴールが良い例です。

・石井とヨンウ(安在)は可能な限り高い位置を保とうという動きが見えました。ただし、攻撃の時に前線に4枚が並んでしまってからの動きがなくなってくると、パスの出所をなくしてしまったので、ゴールキーパーからビルドアップしようとしても、結局はロングボールに頼ってしまう形になりました。サイドバックにボールが出ても柏にとっては狩場になるので、サイドからの前進は苦しんでいたイメージです。

・樋口、石井がボールを受けた時に、焦らずに前を向けるタイミングを探して保持する動きは良かったと思います。間を探して縦に出そうとするパス、ワンタッチで狙ったパスはチャンスメイクに貢献しました。前半のゴール前での石井のパスからの義希のシュートは惜しかったですね。

・岩下からの中距離のパス(ひとり飛ばす程度のパス)は、いままでのメンバーにはなかったプレイでした。豊田とドンゴンというターゲットが2人いたのも良かったかもしれません。彼らに対して浮き球でパスをフィードしたのは、彼らのストロングを生かそうという意思が見えました。豊田とドンゴンがしっかりと中央にポジションをとっていたので、長いボールのターゲットもわかりやすく、落としを二人のコンビネーションで崩そうとする動きも見えました。そこからの落としをしっかりとコントロールして次の展開に繋げられるようになれれば、ひとつの攻撃の形ができるかなと思います。

・カレーラスさん時代と比べると、フォワードもサイドハーフも中央にポジショニングする動きは見えました。クロスの際に、豊田かドンゴンかどちらかが必ずゴール前にいたので、可能性は感じました。石井がサイドでボールを持った時に、中央へ入ってくるドリブルを見せたのは、サイドで人数をかけるカレーラスさん時代との違いが見えました。18分の石井が中央に入っていってゴール前で待つ豊田にパスを渡してファールをもらうシーンは、カレーラスさん時代にはあまり見れなかった動きでした。

・イバルボはボールキープ時の体の強さは見せてくれましたが、絶好調時の爆発するようなスピードは影を潜め、コンディションはまだまだかなと思いました。

<全体的に>
・緩急をつけながらもスピードアップを果たす攻撃は意識されている模様でした。しっかりと焦らずにボールを保持するところと、スピードを上げて崩していこうというところの意識(ワンタッチ、ツータッチでパスを送り出そうという意識)は感じました。

・ビルドアップはサイドで行き詰まっていたので、サイドバックとサイドハーフの縦の関係、そこにボランチを加えた関係でどうやって崩していくかというのはこれからでしょう。豊田、ドンゴンに当ててからの展開は柏が慣れてくるとつぶされてしまうようになったので、裏へのボールなどを活用しながら相手のディフェンスラインをどうやって動かすかという攻撃が課題ですね。フォワードの組み合わせをどう変えてくるかは楽しみですが、鳥栖にはセカンドトップタイプがいないですからそこをどうするのかなとは思います

・守備面はまだ手をつけられてはいないかなという所です。この試合は「身を粉にできる」メンバーがしっかりと守備に戻って人数をかけて対応する事でなんとかなりましたが、それだけでは失点は防げても良い攻撃にはつながらないので、前線からの守備構築はこれから急務でしょう。

・ミョンヒさんの船出としては、無失点で終えることができたので良かったと思います。まだまだやりたいことは不完全でしょうが、意識付けというところは既に手を付けてあり、新しい組織に向けて少しずつ前に進んでいるのかなと思いました。ミョンヒさんに託したので、期待を持ちつつ、でも決して焦らず、見守らなければならないですね。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事
  

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2019年05月08日

2019 第10節 : 大分トリニータ VS サガン鳥栖

2019シーズン 第10節、大分トリニータ戦のレビューです。

■ スタメン
何よりも驚いたのが、スターティングラインナップ発表における「監督」の欄。ミョンヒコーチがこの試合の指揮官として登録されていました。当日はカレーラス監督の体調不良という情報だったのですが、後日、公式サイトで監督退任の発表があり、実は4/30にはメンバーに退任の挨拶をされていたとのこと。本人にとっても無念であったことでしょう。

たらればを言わせてもらうならば、開幕の名古屋戦、ポストをたたいたトーレスのシュートが先制点として入っていれば、今シーズンの展開はまた違ったものになっていたかもしれません。

攻守ともに効果的な戦術を落とし込む事ができなかった面はあるものの、チームによる選手編成と戦術指向が合致していなかった問題もあり、また、戦術に関係なく選手の単純なミスで失点を喫していた点などの不運な面もあり、決してカレーラスさんのみに責任があるわけではないのですが、現場の長としての責任を全うして退任される事になってしまいました。短い期間でしたが、サガン鳥栖の為に尽力していただいたことに感謝しつつ、次のステージでのご活躍をお祈り申し上げます。

さて、スタメンの話に戻りましょう。湘南戦からスタメンがまたがらりと変わりました。トーレスと金崎がスタメンに復帰し、義希に替わって松岡がスタメンへ。前節試合開始早々に怪我で退いた藤田はベンチスタートとなり、小林がスタメンに入りました。湘南戦と異なり、今節はストッパーの位置に小林が入り、ウイングバックの位置に原が配置されました。

■ システム


システムの数値の上での表現では、互いに3-4-1-2となり、ミラーゲームのような状態でしたが、セカンドトップとボランチの位置取りに違いがあり、この配置によって大分がビルドアップで完全に優位性を確保しました。この試合で劣勢に立たされたのは、鳥栖がプレッシング時のフォーメーションがなかなかハマらずに前線が守備において完全に捨て駒になってしまった点が全てでしょう。選手配置の段階で大分に後手を取ってしまい、最後まで配置による問題が解消せずに試合が終わってしまった印象です。

■ ロジカルで再現性のある大分の攻撃

試合開始当初は互いに(特に大分側にとっては)相手の出方がわからないという事もあり、また、試合開始当初で体力もある状態で積極的にボールにアプローチをしかける展開という事もあり、互いにボール保持に固執せず、あまり無理せず長いボールを送り込みながらの攻守となりました。

ようやく5分くらいたつと試合が徐々に落ち着いてきて、鳥栖がこの試合でどのようなセットアップで対応するのかが明確となり、大分も鳥栖の出方がわかったことによって攻撃におけるポジショニングが定まってきました。

大分がフィッティングしてきたなと感じたのが、前半6分頃。鳥栖のプレッシングをいなしながら巧みにゴールキーパーまでボールを下げ、トーレスとクエンカを引き寄せてその間にポジションを上げた右サイドストッパーの岩田にボールを渡すと、岩田はオナイウがいるので前に出れない松岡と、松本がいるので前に出れない三丸をしり目に、悠々とアタッキングサード付近までボールを運ぶことに成功。そして、逆側の原川の脇のエリアの小塚を経由して、その間に上がってきた高畑にボールが渡り、中央に人を揃えてからクロスをあげました。ここで、この試合の大分の狙いが明確になりました。

<大分のビルドアップ>


大分の強みは、いわゆる「疑似カウンター」という状況を作りだすため、最終ラインでゴールキーパーまでも活用してボールを保持しながら、活用できるスペースを作り出すまでじっくりとパスを回すビルドアップです。例え、アタッキングサード付近まで相手を押し込んでいても、そこに攻める手はず(使えるスペース)がないと判断したら、相手をおびき出すためにゴールキーパーまでボールを下げてでもスペースを作り出そうとします。相手のプレッシングに少しでもほころびがでたら、攻撃のスピードを上げてチーム全体で押し上げが始まります。彼らにとって、バックパスとは決して「撤退」でも「後退」でもありません。むしろ、効果的な攻撃を仕掛けるための「トリガー」であり「撒き餌」でもあるのです。

この試合の大分の狙いとしては首尾一貫して鳥栖の原川、松岡で構成するドイスボランチの脇のスペースでした。オナイウと小塚が巧みにポジションを取ってビルドアップの出口としてこのスペースを活用することによって、攻撃のスイッチを入れる役割を果たします。ビルドアップの出口が明確となった大分にとっては、制限するエリアが定まらず、ボールの行方に合わせて秩序なくプレッシングに来るトーレス、金崎、クエンカ(時々松岡)を最終ラインで引き寄せ、まるでルーチンワークのようにサイドに張るストッパーを活用しながら、淡々と前方にボールを送り出していました。

ポジショニングとしては、ボランチを1列下げて鈴木と2人で最終ラインを構成し、ストッパーの高畑と岩田がサイドに張りだしやすい形をとります。トーレス、クエンカ、金崎と3人が寄せてくるのですが、大分はゴールキーパーの高木を利用してストッパー、ボランチとで、4対3の状況を作ります。数的に確保できている上に、逆サイドに張りだした岩田(高畑)へのルートがあるので、できる限り相手を引き付けてからのパスをするだけで、簡単に鳥栖の前線3人を無効化することに成功していました。

それでは、経由先となる高畑や岩田に対してマークにつけばよいのではという考えもあるのですが、サイドの原、三丸が前方にプレッシングに出ていく事になると、本来のマッチアップの相手である高山、松本をフリーにしてしまいます。前半は原、三丸を高い位置でプレッシングに参加させてボールを奪ったケースも何度か見られたのですが、大分はウイングバックが少し前に出てくると、原、三丸の背後に入れる長いパスも送り込んできますので、裏へのケアを考えるとその対応を続けることもなかなか出来ず、結局サイドのマッチアップを継続するポジショニングを選択しました。

この試合は、大分が左サイドでのボール保持から右サイドに展開し、岩田経由でオナイウをビルドアップの出口とするケースが多く、クエンカはオナイウへのパスコースを消しながら鈴木のボール保持を見つつ、岩田へのアプローチも行わなければならないという、前線の守備に対するタスクが非常に多く課せられていました。そうなってくると、このポジションをこなせるのは、福田、松岡、義希などの機動力と耐久力に長けている選手の配置が最適解であるのですが、守備面で劣るクエンカが配置されたことにより、このエリアのイニシアチブを大分に献上してしまうことになりました。

26分50秒頃のシーンが連動性のない(守備のやり方が定まっていない)顕著なシーンでありました。
クエンカが最終ラインを誘導してボールを大分の右サイドに追いやって大分は岩田にボールを送ります。岩田にボールが入った瞬間、トーレスがオナイウへのパスコースを消しながら岩田にプレッシャーに入ります。ところが、このタイミングで、原川と松岡は岩田にボールが入った瞬間に前進でのドリブルを警戒し、プレッシングをあきらめて自陣へのリトリートを始めます。ドイスボランチのプレッシャーがなくなったため、岩田は中央でフリーで待つ前田に楽にパスをだすのですが、そこでボールを刈り取ってほしかったクエンカが、自陣にリトリートしているボランチ陣に対して不満のジェスチャーを見せる事となりました。

確かに、ボランチがボールをこの位置で刈り取る動きを取らなかったならば、クエンカとトーレスのプレッシングは何の意味ももたらさなかったという事であり、このシーンだけでも、前線の意図、中盤の意図、このあたりの疎通が取れていない事を示しています。

前半30分頃には、どうやってもボールを取るためにハメることのできない金崎、クエンカが前からのプレッシングを諦め、列を下げて5-4-1のような形へと変化しました。ところが、ボランチの両サイドのスペースを締めてオナイウ、小塚を積極的に捕まえるような思い切ったリトリートまでは取らず、かと言って高畑、岩田にマンマーク気味につききるという守備も取れず、ポジショニングとしては中途半端な感が否めません。その結果、鳥栖の前線が下がった分、大分としては全体を押し上げることができるので、攻撃に拍車がかかる格好となってしまいました。

鳥栖は前線に3人も費やしたにも関わらず、フィルターの役割を果たせず、守備の機能性に乏しかった事が、この試合を最後まで難しくしてしまいました。

<大分の崩しのパターン>

オナイウと小塚にボールが入ってからの鳥栖の守備の問題をつく大分の攻撃ロジックも見事でした。大分の攻撃のパターンはいくつか準備されていましたが、効果的であったのを下図に紹介します。



(1)ウイングバックを引き連れてサイドを狙う崩し
マッチアップで互いにマーキングが明確になっているウイングバック。人を捕まえるということは、逆の視点からいうとマッチアップの相手が動いたときについていくことによって、そこにスペースができることを示しています。大分は上手にマッチアップ相手のディフェンダーを動かすことによってその状態を逆手に取り、上手にスペースを作りだしました。

27分5秒の攻撃が顕著にわかるのですが、この試合の狙いであるドイスボランチの脇で小塚がボールを受けた瞬間、大外に張っている高山が中央へのランニングを開始し、ゴール前のスペースへボールを引き出す動きをします。これに対して高山のマーカーである原がついていく動きを見せますが、高山の目的はインサイドへ原を誘導してアウトサイドに高畑が上がるスペースを作る事。これにまんまとはまってしまいました。アウトサイドでボールを受けた高畑が、高山も含めてゴール前にポジションをとる3人に対してクロスを上げることに成功します。1失点目はこれの応用編ですね。高山にボールを渡して原をピン留めさせて、その裏のスペースを高畑に狙わせました。

(2)ストッパーを引きだして裏のスペースを狙う崩し
もうひとつ鳥栖が苦しかったのは、ボランチの脇のエリアをつかうオナイウ(小塚)に対してストッパー(祐治、小林)が出て行ったときでありまして、ストッパーが出て行ったエリアに対するカバーリングのルールがきまっておらず、大分に何度も侵入されるスペースとなってしまいました。

これは38分20秒からの攻撃がよい例でして、岩田の持ち出しにクエンカがつこうとしますが、寄せが甘くて松岡の脇(祐治の前)で待つオナイウに対してパスを通されてしまいます。オナイウに対して出て行った祐治のスペースを鳥栖の選手がだれも埋めようとする動きを見せません。そのまま祐治が空けたスペースへ岩田に侵入されて非常に危険な攻撃を受けてしまいました。

30分40秒頃の攻撃でも、小塚に対して小林が出て行ったスペースに高山が飛び込んでいきますが、鳥栖はこのスペースを埋める選手がおらず。大分はストッパーを引き出す崩し方を完全に再現していました。

状況的には、秀人は藤本のマークがタスクであったはずなので秀人はスライドできない。三丸も松本とのマッチアップで動けない。ボランチはバイタルのケア(前田のケア)で動けない。人に対するタスクが課せられているならば、クエンカが岩田についていくべきでしょうが、そのようなそぶりもなし。ストッパーが動かされて作られたゴール前のスペースに対し、誰かがどこかを捨てて対応しなければならないのですが、このあたりの守備のルールというものが、この試合は見えてきませんでした。

■ 大分の得点
大分はチームとしての攻撃の狙いがはっきりしていて、鳥栖の守備の問題点をしっかりと利用し、再現性の高い崩しを見せていました。失点こそ2点で終わりましたが、ラストパスの精度が上がっていたら更なる失点を重ねていたでしょう。

<1点目>
崩しのトリガーはやはりドイスボランチのスペースでした。オナイウのパスカットから、右サイドの松本にボールが流れ、プレッシングにかかった鳥栖の網をくぐってボランチ脇のエリアで構えるオナイウへパスを送ります。オナイウは中央の前田にいったん下げ、前田が逆サイドのボランチ脇のエリアに構える小塚にボールが渡ります。この段階で、鳥栖は前線の3人が死んでしまって、5-2ブロックでゴール前の守備を行う事となります。小塚にボールがはいった瞬間、左サイドの高畑がオーバーラップを始め、小塚はウイングバックの高山にパスを送り、オーバーラップをしかけて追い越した高畑にボールを送ってクロス。藤本の飛び込みにマンマークでついていた秀人がつぶれてクリアできず、ボールが裏にぬけたところで祐治もクリアミス。この試合で散々ビルドアップの出口として貢献していたオナイウにとってはご褒美となるゴールとなりました。

<2点目>
2点目はまさに大分の「疑似カウンター」という術中にはまってしまいました。最終ラインに3人引いている状態を狙い、鳥栖が金崎、クエンカ、ヨンウが詰めていきますが、ボランチ脇のエリアで待つオナイウにパスを通されてしまいます。1点目と同じ形でオナイウがいったん島川にボールを渡すのですが、その瞬間に今度は右サイドから岩田がオーバーラップ。島川は岩田にボールを送りますが、三丸は松本を見るためにプレスに行けず、原川は度重なるスライドで疲れがでていたのか足が動かず、クエンカは前線で殺されてしまっているので、戻ることもできず。岩田はノープレッシャーで3人がペナルティエリアに入っている状態でクロスを上げることができました。オナイウがつかうスペースへの対処、オーバーラップしてくるストッパーへの対処、1失点目でやられた部分の対処ができないまま、同じ形でやられてしまう事となりました。

1点目も、2点目も、ボランチ脇のエリアが起点となっています。不思議なのは、後半になっても前半から散々やられていたこのドイスボランチの脇のエリアに対する対処を行わなかった点です。このエリアに対するケアがないまま漠然と後半を迎えてしまい、まるで再現VTRを見るかのような形で攻撃を組み立てられ、同じ攻撃パターンで2失点を喫してしまう事となりました。

考えられるとしたら、脇のエリアを意図的に差し出して、そこにパスが出された瞬間に囲んでボールを奪おうとしていたのかもしれません。その位置でボールを奪えると、トーレス、金崎、クエンカを前においたままにしているので、カウンターの攻撃につなげることができるという判断もありえます。

最終ラインを5人で守ることによってゴール前のスペースを埋めることもできるので、最後はクロスを弾き返せば良いという判断もあったかもしれません。実際に、前半の序盤は、クロスをあげられるようなシーンはあったのですが最後は中央で跳ね返していました。ただ、それにしてもあまりにも容易にゴール前に運ばれてしまっていましたし、最後のところでミスが出て失点をしてしまうという結果になってしまったのは残念でした。

■ 鳥栖の攻撃
<パスネットワーク図>


鳥栖の攻撃は、パスネットワーク図を見てもわかる通り、ビルドアップの中心は小林が担っていました。小林から長短のパスを送り込む形、特に、金崎にボールを送り込んで彼を起点として全体を押し上げる形が多く見られました。

鳥栖のビルドアップにおいて、後ろの3枚に対して大分もトップ+セカンドトップの3人が詰めており、ウイングバックに対しては高山と松本がついているという、こちらはミラーゲームのプレッシングにがっつりとはまってしまって、逃げ道は長いボールだけだったいうことも金崎を起点にせざるを得なかったひとつの要因であります。金崎は高畑とのマッチアップでしたが、そこはさすがの質の違いという事で、長いボールを収めて起点となる動きを見せてくれました。

松岡はショートパスの経由先として中盤での配球を担っていました。パスネットワーク図でもありますように、松岡と原川のパス交換も多く、サイド一辺倒だった今シーズン序盤の攻撃とはまた一味違う形を見せてくれました。松岡は、中央でボールを保持することもできますし、ワンタッチで前線の3人に通すパスもありましたし、攻撃のアクセントとしては義希や秀人がボランチの時とは一味違う形を見せてくれました。

鳥栖が狙いとしていたスペースは大分のウイングバックとストッパーの間。特に高山と高畑の間のスペースをねらい目としていた模様で、小林は特にこのエリアに縦パスを狙うシーンが何回も見えました。ただし、そのスペースをどのように使おうか(引いて受けるのか、裏に抜けるのか)が明確でないために、パスの精度がなかなか上がりません。このエリアで受けることができていれば良かったのですが、トーレスも金崎も小林のパスとのタイミングが合いませんでした。

この試合で鳥栖の攻撃での問題点は、スペースを狙うためのデザインがチームで統一されていなかった点です。6分の場面ですが、大分の攻撃をかわして秀人がボールを奪ってクエンカ、松岡とワンタッチで抜けるパスをだしたのですが、秀人が前を向いたときに、トーレスと金崎が二人とも中央にいて、どちらかがスペースに流れて引き出すような動きは見せず、秀人のパスも流れていってしまいました。相手DFと2対1の状況を作っても金崎とトーレスの動きがかぶってしまってチャンスを逸してしまった松本戦がフラッシュバックします。

12分40秒頃のシーンもですが、前を向いてボールを持ち上がった祐治が、ディフェンスラインの裏のスペースに抜けようとするクエンカと、ディフェンスラインの手前のスペースを使いたかった祐治の息が合わずにパスミス。

54分30秒頃のシーンでは、秀人がせっかく運ぶドリブルで中央の藤本、オナイウをはがしたのですが、そのあとのパスの選択がトップで顔を見せていた金崎ではなく左サイドの原川に対して後ろ向きにさせてしまうパスを送ります。後ろを向いてしまった原川に対して、オナイウと岩田がプレッシングに入ったことで攻撃のスピードが上がらずに、振り出しに戻ることとなりました。

例えば湘南戦では、チョドンゴンがセンターで相手センターバックをピン留めして、アンヨンウやクエンカがサイドのスペースに流れていくなどのある程度ルール化された動きがあったのですが、この試合はまた振り出しに戻り、金崎、トーレス、クエンカのセンスに任せた攻撃だったのかなという感じです。豊田を入れてもどのタイミングで長いボールを放り込んだら良いのか、迷いながらやっているように見え、なかなかチームとしての攻撃の形を作り出せませんでした。チームとしてどこを狙うのかというデザインが統一されてなく、攻撃のスピードをどこであげるのかという思惑が一致しない鳥栖は、ボランチ脇のエリアを狙うという大分の徹底した攻撃とは対照的に個人の感覚と裁量に任せた攻撃となっていました。

■ おわりに
監督はミョンヒさんに替わりましたが、昨年とは選手層がかなり異なります。良い攻撃のためには、良い守備からという、鳥栖の原点に回帰するならば、スタメンの大幅変更もありえるかもしれません。

まずは、トーレス、金崎、クエンカの3人を同時に起用するかどうかという所が最大のポイントでしょう。もし、起用するとしたら彼らにどのような守備タスクを与えるのかという、この試合での最大の問題点を解消するアイデアが存在するのかが見ものです

気になるのは、この試合で実権を握っているミョンヒさんでも大分の攻撃に対する対処が後半になってもできなかったいう点です。去年のミョンヒさんの例を見ても、4-4-2で立て直すことが想定されますので、この試合の3-4-2-1での守備はカレーラスさんの遺産であった可能性はありますが、前半から散々同じパターンでやられていたので、せめて後半には対応してほしかったかなという所ですね。そこだけが気がかりでした。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事
  

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2019年04月30日

2019 第9節 : サガン鳥栖 VS 湘南ベルマーレ

2019シーズン 第9節、湘南ベルマーレ戦のレビューです。

鳥栖のスタメンは、ルヴァンカップ仙台戦と同じメンバーでした。このメンバーでの戦い方に一定の手ごたえを感じたのでしょう。ところが、開始早々の藤田の怪我によって選手交代を余儀なくされてしまい、交代出場した小林が右サイドのウイングバックのポジションにつき、原が右ストッパーの位置に入りました。最終的には、システムを湘南に合わせる形で攻撃時3-4-2-1、守備時5-4-1の形でこの試合に臨みました。

湘南のスタメンは、前節の川崎戦から変更が入りました。杉岡をストッパーの位置に下げて左ウイングバックに鈴木冬を起用。前線は梅崎に代わって鈴木国が入り、川崎戦の前半早々にケガで退いた武富の代わりに大橋が入りました。

■システム


今節の鳥栖は、湘南に合わせる形のセットアップとなりました。湘南が攻撃のフェーズでは、トップ、セカンドトップ、ウイングバックの5枚をそろえてくるので、4バックでサイドハーフ(もしくはボランチ)を下して対応するよりは、最初から5枚を並べた方が明確に相手のマークにつきやすいとの判断でしょう。

湘南はアグレッシブに前線に人数をかけてくるので、人を逃さず、裏を取られないためにも、最終ラインに頭数をそろえておくのは妥当な対応策のひとつです。試合開始当初、湘南のロングボールに対して秀人が最終ラインに下がる動きを見せたので、4枚スタートだったとしても、押し込まれたら5枚そろえる手はずであったかと思われます。

アンヨンウとクエンカはやや下がり目のポジショニングとなりました。これによって、前線からのプレッシングはチョドンゴンが対応することとなり、湘南は最終ラインに3人を置いておく必要がないために、ストッパーが積極的に攻撃に参画することになります。

■パスネットワーク図

この試合の戦術であるカウンター攻撃を表すかのように、最終ライン間でのパス交換がほとんどありません。詳しくは後述に。

■湘南の狙い、鳥栖の狙い
前半早々に藤田がケガでピッチの外で治療を受けることとなり、藤田が外にいるときの鳥栖のシステムは4-4-1で、チョドンゴンをトップに残して2ラインで湘南の攻撃に備えました。

開始早々、思わぬ形で数的優位の状況を得た湘南が攻め立てます。
湘南の狙いは早めに前線にボールを送り込み、山崎(もしくはセカンドトップ)のキープを利用しての波状攻撃です。山崎に求めている役割は重要で、彼がセンターバックを引き付けてキープすることによって、セカンドトップやウイングバックが前を向いてアタックする機会を作ります。

4分には早めに裏に送り込んだことによって得られたセットプレイから大橋が決定的なシュートを放ちますがバーの上でした。

その後の5分のプレーでも、鳥栖のゴールキックの跳ね返しを山崎がキープする事によって、鳥栖のラインを押し下げることに成功。いったん最終ラインに戻しますが、プレッシャーのかからない状態からボールを持ちだした山根がクエンカをはがして山崎へ縦パス。そのまま上がって落としのボールからミドルシュートを放ちました。湘南がこの試合で見せようとした攻撃の形を5分の間でいくつか実現しました。

今のサガン鳥栖に足りないのは、このセンターバックがセントラルハーフのプレッシングをはがして縦パスを送るプレイ、そしてフォワードがボールを受けて飛び込んでくる前向きのプレイヤーにボールを渡すプレイでして、プレッシングを回避してシュートに結び付ける攻撃の術を湘南が教えてくれるかのような一連の攻撃でした。

さて、6分頃、サガン鳥栖も対抗して自分たちの形を見せ始めます。高い位置をとっていた松田のトラップミスを見逃さずに原川がカット。素早くアンヨンウにボールを送り、ドリブルによる前進から最後は左サイドを上がってきたクエンカにやさしいパスを送ってからのシュート。この決定的なチャンスを決めていれば、サガン鳥栖がこの試合をものにできている可能性が高くなるシュートでしたが、残念ながら決めきることができませんでした。サガン鳥栖も、開始早々に、引いた守備からカウンターで両サイドの裏のスペースを狙うという形がしっかりと表現できていました。

このプレーの後、アンヨンウのファールでようやくプレーが止まり、小林が藤田に代わってピッチにはいります。小林が入ったことによって、鳥栖のポジショニングが明確になり、この試合のサガン鳥栖の狙いがはっきりと見えるようになりました。





一つ目の狙いは、相手をおびき出すブロック守備からのカウンター攻撃。
最終ラインを5枚ならべ、中盤はアンヨンウとクエンカをアウトサイドに落として中央を原川と義希でフィルターをかけます。トップがチョドンゴン一人になるので、湘南は最終ラインに3人を残す必要がなく、特に山根が積極的にポジションを上げて攻撃に参画してきました。

鳥栖としては、クエンカ、アンヨンウを杉岡、山根にぶつけて前から積極的に奪いに行くという案も考えられたのですが、あえて全体を低い位置に置くことで湘南が前に出てくるようにし向け、そしてボールを奪うと同時に湘南の両サイドの裏のスペースへ向けてクエンカとアンヨンウが飛び出していく形を作りました。彼らがそのままゴール前まで突破、もしくは起点を作ってボールキープの間に小林、三丸のフォローを待ち、早いタイミングでのクロスを中央に待ち構えるチョドンゴンに送る攻撃を繰り出しました。

二つ目の狙いは、長いボールをチョドンゴンに当ててからのセカンドボール奪取からの展開。
正確には、10分頃までは、最終ラインも大久保を利用してボールをつなごうと試みますが、鳥栖の最終ラインの3人に対して、湘南がトップ+セカンドトップの3人でプレッシングをかけるため、同数プレッシングを回避する手立てがない状態で苦し紛れのロングボールを蹴らされる場面が多く訪れました。三丸が窮屈になって長いボールを蹴ろうとしても大橋にひっかけられてしまうシーンはその典型的な例です。

窮屈になってしまうくらいならば、最初から蹴っ飛ばそうというのは自然の流れであって、チョドンゴンに向かって蹴った際に、例え競り負けてもセカンドボールを拾える位置に必ず原川か義希を配置し、奪ってからすぐにサイドハーフに展開というポジショニングを作ることができました。チョドンゴンと原川・義希がしっかりと中央で縦の関係を作れたので、例えチョドンゴンが競り負けたとしても、セカンドボールを狙える形作りができていました。

30分には、フレイレからのロングボールを祐治が弾き返したところ、原川が後ろ向きの状態ながらもダイレクトで右サイドのスペースにはいってくるアンヨンウにボールを送り込みました。そこから小林を経由して、再びアンヨンウに送り込み、チョドンゴンとのワンツーを仕掛けますが惜しくもミス。ただ、原川のアンヨンウのポジショニングがわかっていることを見越してのパスは非常に良かったです。これこそ、戦術的に、配置的に意思疎通ができている事の現れです。

この試合、右サイドの原川、アンヨンウ、小林はグループによる崩しを幾度となく発揮できていました。小林のボールの持ち方とターンの仕方だけで相手をはがして前にボールを送り込むプレーは、是非とも原には参考にしてほしいプレーです。

36分にも鳥栖の狙い通りの形ができて、湘南のロングボールに対して祐治が跳ね返し、チョドンゴンが競って、そのこぼれ球を拾った義希がダイレクトで左サイドの裏に抜けるクエンカに送り出しました。このシーンはクエンカが相手をかわし切ることができずにシュートチャンスにはなりませんでしたが、少なくとも自分たちがどこに選手を配置し、そしてタイミングよく奪えたときにはどこを経由して攻撃をしかけるのかという共通意識が成り立っていました。

あとはクエンカとヨンウの個の質だけで勝負とい形にとどまらずに、彼らが抜け出したあとのサポートと押し上げですね。湘南は、この辺りが洗練されていて、前線でボールを保持することができたならば、アウトサイド、ハーフスペース、しっかりとバランスよく全体が押しあがってゴール前に人数をかけてきます。

ただし、上記の狙いにもウィークポイントはありまして、前線のプレッシングがチョドンゴン一人となるため最終ラインへのプレッシャーがどうしても甘くなるシーンが訪れます。16分にはプレッシングがかからない状態でフリーでボールを持ち出したフレイレから、セカンドトップの大橋に縦パスが入り、大橋がダイレクトで落として受け取った山崎がシュートというシーンを作られてしまいました。

このように、前線に当ててから落としたボールを前を向いている選手がシュートというのはこの試合での湘南の一つの狙いでありました。ただ、湘南には前半10本のシュートを打たれていますが、そのうちの7本はペナルティエリア外からのシュートです。最終ラインを引いているのでミドルシュートの形は作られやすい状況ではありましたが、可能性としては低い位置からのシュートでありまして、大久保の好セーブもありつつ前半を無失点に抑えることができています。

最終的には「割り切り」というのが大事であり、自分たちの狙いどころを作ろうとすると、当然のことながら自分たちの守りが薄くなる部分がでてきます。その部分は与えても仕方がないと割り切って、可能な限りシュートの精度を落とすような対応をすることが大事です。そういう意味では、前半の鳥栖の全体を引き気味で湘南が攻撃的に出てくるのを待ち構えてカウンター狙いというのは、非常にいまのサガン鳥栖の実力としては理にかなっていたと思います。チーム全体の意識が同一されていて、(たとえミスになったとしても)ボールを奪ってからの走りだしとパス出しに迷いがない状態というのは、自然と良い状況を生み出すことができます。

危ないのは、全体で統一した狙いを実現できずに、準備ができていないのに中途半端な事をやろうとしたタイミングでありまして、26分にはボールを奪ってチョドンゴンに当てたのですが、秀人がそのままこの試合の狙いであった左サイドの裏のスペースをつく動きではなく、センターバックのポジションだったからというのもあるでしょうが、オーバーラップを自重していったんボールを保持しようとする動きを見せます。ボールが循環しないと運動量豊富な湘南がプレッシングにくるので、回避するために逆サイドに大きな展開を試みましたが、危うく鈴木に引っ掛けられて決定的なピンチを迎えるところでした。

フリーキックのチャンスでも、センターバックを上げているのにつなごうとして、単純に最終ラインに人数がいないまま、プレッシングを受けて窮屈になってボールロスト。

前半終了間際も、ボールを保持する仕組みが整っていない状況で最終ラインでのボール回しを行ってしまい、危うくひっかけられるところでした。

選手の配置に応じた適切なプレーの選択をしないと、簡単に数的同数を作れる湘南のアグレッシブな守備では、簡単にボール保持を許してくれません。

■ 後半

後半になると、湘南が鳥栖への対策を見せます。裏を突かれる要因となっていたセンターバックの攻撃参加回数を少し抑え、裏のスペースを作らないように慎重な動きを見せます。アンヨンウに対しては、ストッパーの杉岡がヨンウの狙うスペースを消すようにややサイドにポジションをとるようになりました。また、ミドルサード付近では右サイドの岡本を少し引かせてクエンカを見るようにし、押し込んでいる状況ではネガトラ対策として、斎藤がクエンカの動きに注意を払うようになり、鳥栖がボールを奪ってからクエンカに渡ったボールをいち早くチェックできる形づくりを行います。これによって、前半は機能していた鳥栖のカウンター攻撃がやや鈍ることになってしまいました。このあたりの湘南の対応は非常に素晴らしいなと思います。

55分、鳥栖は変化を加えるためにチョドンゴンに代えてフェルナンドトーレスを投入します。ところが、トーレス投入した直後に、湘南がこの試合何度も繰り返して送り込んでいたロングボールを使った攻撃で先制します。大久保からフェルナンドトーレスに送られたロングボールのこぼれ球を杉岡が拾い、すぐさま長いボールを前線の山崎に送り込みます。山崎がそのボールを収めることに成功。鳥栖も必死でクリアしようとしますが、ボールが義希の足にひっかかってリフレクションする中で、左サイドから湘南が強烈なシュート。このシュートを大久保がキャッチングに行ったのですがファンブルしてしまい、武富の折り返しから大橋に詰められてしまいました。

先制点を奪われた鳥栖は攻撃のスイッチを入れようとしますが、なかなか攻撃のスイッチがはいりません。得点を奪うために、両ウイングバックが高い位置をとりますが、高い位置を取ることで逆に最終ラインの3人からのボールの出しどころがなくなってしまい、最終的にはストッパーが苦しい状態で蹴っ飛ばすしかない状況を生み出してしまいました。トーレス投入の影響か、先に失点してしまった影響か、前線がボールを奪いたいばかりに前がかりになってしまい、連動していない状況下でプレッシングをしかけるシーンも増え、湘南に簡単にいなされてきわどい攻撃にさらされる回数も多くなってきました。

65分は典型的なシーンであり、最終ラインでボールをつなごうとするものの、湘南の同数プレッシングにはまってしまい、原にボールが回ってきましたが、小林が高い位置をとっていたためにボールの送りどころがなく、結果的にロングボールを蹴らざるをえなくなりました。ロングボールを難なく湘南が回収したのですが、トーレス、クエンカ、ヨンウ、義希が最終ラインが押しあがらない状態でそのままペナルティエリア付近まで向かってプレッシングにいってしまい、義希が空けたスペースを湘南のボランチが使い、出て行った義希のスペースを埋めるために秀人も出て行ったのですが、そのスペースを狙って岡本が抜け出したシーンが下の図です。クロスから山﨑のシュートを受けたのですが、前から奪いたいばかりに出ていてしまって逆にピンチを迎えるという、チームとしては連動性の低い守備になってしまいました。



後半はフェルナンドトーレスのポジショニングが固定されていないため、蹴っ飛ばした先がクエンカであったりヨンウであったりと決して空中戦に強い方ではないメンバーが競ることとなり、セカンドボールを湘南が拾う回数が徐々に増えてきます。それにもまして、風下や疲れの影響なのか、大久保が蹴ったボールが前に出ていこうとする鳥栖の前線まで届かないケースが多発し、湘南がフリーで前線に跳ね返すケースも増えてきました。また、前半は、チョドンゴンのロングボールは手前で待つ義希や原川に落とす狙いがあったのですが、トーレスは前方へフリックするようなヘディングが増え、せっかくデュエルに勝っても鳥栖の選手が誰もいないところに送り込んでしまい、セカンドボール回収の確率もなかなか上がってきませんでした。

チョドンゴンの交代によってロングボールに対するスキーマがあやふやとなったことで、65分を過ぎたころから、長いボールを活用した攻撃ではなく最終ラインからのビルドアップで打開しようと、原川が最終ラインにひいて湘南の同数プレッシングの回避を狙います。この原川の動きは非常に良くて、3-3でプレッシングを仕掛ける湘南に対して、原川が下りることで4-3の形を作り、原を右サイドから前進させるような仕組みを作ります。

67分には、原川のビルドアップで原が前を向いてボールを受けてクエンカにつなぐかたちを作り、湘南のプレッシング回避に成功します。ところが、そこから攻撃のスピードを上げるべくトーレスに当てようとしますがこれをトーレスが納めきれず。ビルドアップの出口を作ってもそこから攻撃のスピードが上がらないのは、サガン鳥栖としては非常にもったいない攻撃でした。

ところで、トーレス自身のコンディションは果たしてどうなのでしょうか。足元にボールが収まらないシーンもありましたし、トップパフォーマンスにはまだ戻りきれてないのかなとも思います。

トーレスと周りの意思疎通のところなのか、チームとして誰がどのようにゴール前でポジションをとるのか決まっていないのか、本来はビッグチャンスだったのに逸してしまったというシーンもありました。65分に、クエンカのボールキープから裏へ抜け出した三丸が、幾度となくクリアされていたフレイレの頭を超える素晴らしいクロスボールを送り込んだシーンです。(図4)



この素晴らしいクロスに対して、本来は飛び込んできてほしいはずのトーレスがファーサイドに逃げる動きでそのボールに対してシュートに行くことができず。義希もニアサイドにはいたのですが、クロスに対する飛び込みができずチャンスを逃してしまいました。クロスが味方に合わないシーンが続きましたが、決して三丸だけの責任ではありません。

サガン鳥栖は71分にイバルボを投入して、システムを4-3-3に変更します。このシステム変更によって、鳥栖はビルドアップでの崩しへと戦術の切り替えが行われました。74分には、クエンカの左サイドでのキープから右サイドへ展開。原川にボールが渡ったところで、秀人が裏に抜けようとした動きに湘南のディフェンスがつられたのを見逃さず、トーレスへの縦パスが入ります。ここで、イバルボが中央による動きを見せてディフェンスを引き連れて、三丸がフリーとなりました。三丸のシュートは惜しくも枠の外。ここでクロスの選択なのか、シュートの選択なのか、それはチームで話し合ってもらいましょう。前のシーンでクロスに誰も飛びこんでこなかったので、それならば自分でシュートを打とうと思った気持ちも理解はできます。

湘南も、リードしている状況ではありますが、鳥栖の中盤が薄くなったのを狙い目として攻撃の手を緩めません。87分には、山根の攻撃参加によって三丸を引き付けて裏のスペースを作り出すことに成功し、裏のスペースに抜け出した武富のファーサイドへのクロスから、これまた山根がフリーとなってからのシュートを放ちます。このシュートは原がクリアしたのですが、リードしているこの時間帯でもストッパーが攻撃参加してしかも決定的チャンスを作りだす動きは、チームとしての完成度をまざまざと見せつけられる格好となりました。

そして、なかなか攻撃の手筈が整わないサガン鳥栖をしり目に、ついに、88分には、大久保のロングキックを、後半に何度も発生してしまった鳥栖の選手が誰も競らない状況でフレイレに弾かれ、武富のキープから梅崎のゴールを食らってしまって試合が終わってしまいました。

■ビハインド時の選択肢
サガン鳥栖は、しっかりとした守備からのカウンターという作戦であったため、先に点を取られると戦術の変更をしなければなりませんでした。これまで何度も見てきたように、失点を喫した後の戦術変更が今シーズンは特にうまくいきません。今のサガン鳥栖は、試合中に失点してしまうと、改善策を打ちますが、本当は問題ではなかったところにも手を加えてしまいます。そのことによって新たな問題を引き起こしています。

攻撃に関する問題解決策は、前線の人数を増やすことだけではありません。相手をうまく押し込める形を作って、最終的にゴール前で人数をかける仕組みが必要なのです。そのためには、中盤の運動量を増やしてボールを循環させる、最終ラインに精度の高いボールを蹴ることのできるメンバーを置く、なども改善策の一つなのですが、前線を増やすことがあたかも最善の解決策であるかのような選手交代がよく見受けられます。それは、開幕の名古屋戦で藤田を豊田に代えたことからずっと続いています。これがカレーラス監督の思想なのでしょう。

この改善策であると、守備の局面での人数不足に陥りやすく、博打性が高いため追加点を奪われてしまうリスクがあります。実際問題として、名古屋戦、仙台戦、FC東京戦、湘南戦と攻撃に人数を加えようとして失点を重ねてしまいました。

昨年度は、失点を喫しても良くも悪くも変わらないコンセプトでのサッカーであったため、続けての失点を防ぐことができ、最終版の残留争いで何とか得失点差で優位に立つことができました。今シーズンは、得失点差というアドバンテージはおそらく得られないでしょう。

もちろん、勝ち点を重ねれば問題のないことなのですが、現状を考えると、この得失点差のアドバンテージを得られない事が最後に響かなければいいなと思っています。

この試合での前半の戦いは、決定的なチャンスは少なかったものの、チャンスメイクに向けた選手全員のベクトルは一定の方向を向いていました。ポゼションは取れずとも、しっかりと引いてからのカウンターという、ある意味割り切った戦いで、耐えながらも数少ないチャンスをつかもうとする動きが見えました。

ところが、後半にリードされてからは、選手投入、システム変更と相まって、選手全員がどういった攻撃を仕掛けたいのかの共通理解が見えないまま試合が進んでしまいました。最終的には前線の動き出しがなくなってしまい、オフサイドが頻発し、単調な攻撃に終始してしまいました。

今一度、自分たちの立ち位置を見つめなおし、組織としてやれることをチーム内で見出すことが必要です。

そして、リードされてもまずは焦らない事、気持ちを落とさずにその試合で準備してきたことをしっかりと全うすること、それがいまのサガン鳥栖には必要な事だと思います。

準備できていないこと(準備が足りない事)をその場の即興でやって得点をとれるほど、甘くはありません。じっと我慢して戦況を見つめながら、相手の守備の綻びを見つけながら、最後の数分に最適な手を打つこともまた一つのやり方です。

湘南は、鳥栖がどのような対応をしてきても、素早くベンチから自チームの選手名と鳥栖の選手の背番号を示すサインボードが掲示されました。あらゆるシチュエーションに対する想定・準備がされていることがよくわかります。ベンチ、選手が一体となって戦っていますよね。

大分戦はある意味分水嶺の戦いになりそうですね。この試合で負けるようなことがあると、さすがに、何かの動きがあるかもしれません。

■応援について
結果がでていると、本当は潜んでいるかもしれない問題点が見えづらくなります。
結果がでないと、本当は問題点ではない事までもが、あたかも問題であるかのように見えてしまいます。
いまは、結果が出ていないので、サガン鳥栖の試合の何もかもがうまくいっていないように見えてしまいがちです。

もがき苦しんでいる選手たちの後押しをするのは、我々サポーターしかいません。

今年も昨年と同様に苦しいシーズンとなってしまいましたが、何とか選手たちの力になれるように、応援していきましょう。

応援をやめたら、間違いなく選手たちのモチベーションが半減します。
プロスポーツという職業ですが、支えてくれる人、励ましてくれる人、喜んでくれる人がいるからこそ、激しく厳しい戦いの場に気持ちを込めて臨むことができます。

何のために応援するのか、誰のために応援するのか、それぞれみなさんの心の中にあるものをもう一度奮い立たせて、みんなでサガン鳥栖を楽しみましょう。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事
  

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2019年04月26日

2019 ルヴァン第4節 : ベガルタ仙台 VS サガン鳥栖

2019シーズン ルヴァンカップ第4節、ベガルタ仙台戦のレビューです。

4月にも関わらず今期3回目の対戦となるサガン鳥栖対ベガルタ仙台。過去の2試合はいずれも鳥栖が3失点して敗北を喫しています。この試合に負けるとルヴァンでの勝ち抜けが厳しくなる戦いだけに、調子があがらないながらもなんとか勝ち点を取りたいところです。

鳥栖はリーグ戦からスタメンを数人入れ替えました。注目はツートップのチョドンゴンとアンヨンウの韓国人コンビ。松本戦はカウンターのチャンスにトーレスと金崎の息が合わずに決定的なチャンスを逸しただけに、ツートップの相性も気にしたいところ。スタメン発表時はオーソドックスな4-4-2かと思われましたが、守備の局面では秀人が最終ラインに下がって5バックを形成する形を取りました。守備を厚くして過去の3失点ゲームを払拭したいのか、仙台に人数を合わせたかったのかは、カレーラスさんの胸の中です。

対する仙台はリーグ戦でのスタメンからほぼ全員を入れ替えた布陣。いつもの3バックシステムではなく、4-4-2システムでこの試合に臨みました。ターンオーバーでスタメンが変わったことによる影響なのか、鳥栖の思惑を外して揺さぶりをかけるためなのかは、これもまた渡邊監督の胸の中です。いつもの鳥栖と仙台が逆転したしたかのような現象は非常に不思議な気分でした。

序盤に試合のペースをつかんだのはサガン鳥栖。祐治、秀人、藤田で構成する最終ラインに対して仙台のツートップは、やみくもにプレッシングに行くのは得策ではないと判断したのか、鳥栖のボール保持に対し、いったんはボール保持者に詰める動きは見せるものの、サイドチェンジに対して二度追いするまでの積極性なプレッシングは行わず。プレッシングに来ないということは、運べるスペースも時間もあるということで、鳥栖は藤田がボールを運びつつ、左サイドの位置から長短のパスを織り交ぜて最終ラインからの攻撃のタクトを握ることになりました。

藤田のゲームメイクはいろいろなプレーを見せてくれて少し驚きもありました。最終ラインからボールを持ち出したかと思えば、相手陣地深くまで入ってハーフスペースでボールを受ける役割も果たすこともありましたし、サイドからボランチの位置に斜めに入ってさながら偽サイドバックのような動きで三丸へのパスコースを作ることもあったり。攻撃に参画してくる動きのあるストッパーというのは相手にとっては捕まえづらいもので、鳥栖の攻撃にアクセントを加えるには十分の動きでした。

仙台の4-4-2は守備面でとまどいがあったのか、序盤はツートップの脇のスペースからボールを持ち出す藤田に対して、道渕が出ていくべきか、とどまるべきか、いろいろと試すもののなかなかはまりません。中央を抑えれば三丸に通され、サイドを抑えにかかると下りてきたアンヨンウに通されと、鳥栖のボールの前進を食い止めるのに四苦八苦していました。

鳥栖は、前線のアンヨンウとチョドンゴンが仙台のサイドハーフが動いた隙をついて、ハーフスペースで受けたり、サイドバックの裏に入り込んだりと最終ラインから上手にボールを引き出していました。縦横無尽に動き回るような派手な動きではありませんでしたが、ボールを引き出すという役割としては十分な動きで鳥栖のボールの循環に貢献していました。

うまく守備の基準を決められない仙台の隙をついて、難なくサイドからボールを運んでいく鳥栖。思うようにボールを奪えない仙台は徐々に撤退を強いられることになりましたが、鳥栖も仙台の撤退に乗じてサイドの奥深くまではボールを運ぶものの、最終ラインに人数をかけてきた仙台に対してゴール前の局面になると効果的な崩しができず。10分から15分頃には連続でコーナーキックを得るものの、仙台のディフェンスが良いのか鳥栖のクロスの精度が良くないのか、シュートまでには至らないもどかしい展開が続きます。

チャンスが続いてゴールが決まらなければ流れが変わるというのはよくある話で、守り切った仙台が、鳥栖の守備の仕組みに慣れを見せ始め、徐々にボールを保持できるようになってきました。仙台のボール保持局面では、鳥栖も前線からのプレッシングはそこまでの強度はなく、最終ラインではじき返すことを前提としたブロックを構えます。最終ラインは秀人を中央において5枚で構え、中盤は義希と原川で形成し、クエンカを相手のボランチへのパスコースを見せるようにしつつ前線に3枚を配置する5-2-1-2のような形です。

クエンカを前に押し出すことによって中盤の脇のスペースが空くことになり、仙台はサイドハーフを中心にボールを前進する仕組みを作ります。ただ、鳥栖が前線に3枚を残しているので、カウンターに対する備えの必要もあり、仙台がなかなかサイドバックをあげていくタイミングを見つけることができず、分厚い攻撃とまでには至りません。

仙台は内寄りにポジションをとるサイドハーフまでは簡単にボールを渡せるものの、そこから長澤、阿部に至るところで思うように鳥栖の密集地帯を抜けられず、狭いところを通すパスも通らずという事で、仙台もなかなかシュートまでたどり着かない状態が続きます。

互いに相手の守備の仕組み上で生まれるスペースをついてボールの前進を果たそうとするものの、ゴール前まで来るとフィニッシュまでには至らない展開。この展開を打破するべく、先に仙台が動きました。30分頃、仙台が4-4-2をあきらめて3-5-2へとシステム変更し、両サイドのウイングを作ることによって、ワイドに幅のある攻撃へとシフトチェンジ。この攻撃によって、義希、原川の脇のスペースに対する攻略が進み、チョドンゴン、アンヨンウをやや中盤よりのポジションへと押し下げます。リトリートしたという事は、両サイドのウイングバックが上がっても差し支えなしということで、永戸が積極的に攻撃への参加を見せだします。永戸は裏に抜け出したり、浅いところからでも鋭いボールをゴール前に送りこんだりと、さすがの動きを見せていました。

仙台のボール保持が続いてきたところで流れも仙台に傾くかと思われた42分頃、押し込まれだした鳥栖がショートカウンターで先制点を挙げます。

仙台が左サイドでボールを保持しているタイミングで、鳥栖の中盤の脇のスペースを狙って右サイドストッパーの照山が高い位置へと侵入。ここで、左サイドにポジションしていたシマオマテから平岡に展開した際に、大岩が平岡の方向へ寄ってしまったことで問題が発生します。照山が高い位置にあがっているため、最終ラインでの大岩から右サイドに向けたボールの循環先が失われてしまったことに加え、大岩が平岡の方に近寄ってしまったことで、狭い範囲に鳥栖の選手たちも密集することになってしまうことになりました。行き場をなくした大岩のトラップミスをクエンカがかっさらいアンヨンウへ。最後はアンヨンウからボールを受けたチョドンゴンが冷静にゴールに流し込んで先制ゴール。システム変更で勢いを取り戻した仙台にとっては思いがけない失点だったでしょう。ここで前半は終了。

後半にはいってまず流れをつかんだのが仙台。両サイドを鳥栖のウイングバックにぶつけ、高い位置に押し込みながらサイドでボールを保持し、鳥栖の前線と中盤を寄せたところで逆サイドへ展開。2名で中盤を守る鳥栖のセントラルハーフのスライドが間に合わないスペースを突いて、49分頃には関口、50分頃には永戸がペナルティエリア手前からシュートを放ちます。前半はシュートまで持ち込む仕組みができませんでしたが、後半はサイドチェンジをうまく使いだした仙台が攻勢を強めます。

さすがの鳥栖もこれには対策を打たなければならないと思ったのか、チョドンゴン、アンヨンウの2名をサイドのスペースのカバーに回すことに。撤退守備の様相を見せだした鳥栖の隙をついて仙台のボール保持がさらに加速し、鳥栖の守備陣を押し込んで高い位置をとることに成功した椎橋のミドルシュートからコーナーキックを獲得。このコーナーキックをクリアできなかった鳥栖が、最後はオーバーヘッドのパスを天敵長澤に決められて同点ゴールを上げました。

同点になってから試合は膠着状態へ。仙台がボール保持して攻撃をしかけるものの、前線をやや下げて5-3-2の形でブロックを組む鳥栖の最終ラインの攻略ができず、鳥栖もボールを持つ機会は減ったものの奪ってからのアンヨンウとチョドンゴンのスピードのあるカウンターで応戦。互いに決定機を迎えることのないまま時間が過ぎていきましたが、ここでも先に動いたのは仙台。照山に代えてリャンヨンギを投入し、再び4-4-2へシステム変更。鳥栖も連戦の疲れを気にしたのか、義希に代えて樋口を投入して中盤を活性化します。

前半は、4-4-2でのプレッシングの基準がうまくはまらなかった仙台でしたが、リャンヨンギが右のサイドハーフに入ると鳥栖のサイドバックのところを狙い撃つようにしてプレッシングの強度を強め、ボールの回収の回数を増やします。

ただし、ボールを奪ってサイドハーフが前進は果たすものの、サイドバックをうまく上げていく形ができないのは前半と同様となり、早めにサイドハーフから中央の長澤、阿部にボールを入れるものの、最終ラインを固めている鳥栖の網にかかってしまう展開に。そこから鳥栖もカウンターを見せますが、決定的チャンスとまでは至らず。

互いにボールは前進できるもののゴール前でのチャンスメイクできない状態が続くと、徐々に体力の衰えで間延びが発生してきます。ややオープンな状態でのカウンター合戦が始まり、78分頃には、仙台のカウンターで抜け出した関口を原が倒してフリーキックのチャンス。このチャンスで永戸のキックを大岩が抜け出して決めるものの判定はオフサイド。鳥栖としては肝を冷やしました。

オープンな展開となり段々とロングボールが多くなってくる両チーム。あとはどこまで体力が持つかというところで、仙台は石原、鳥栖は島屋をいれて前線の活性化を図ります。

85分頃に鳥栖はイバルボを投入。入って早速右サイドを抜ける島屋へシュートにつながるパスを送るチャンスメイクを行います。89分にはカウンターからゴール前右サイドでボールを受けて、切り返しをしようとするもののボールが足につかずにシュートまでには至らず。まだイバルボ10%程度という感じでした。

試合終了間際は互いにゴール前を行き来しあう激しい展開となり、試合終了間際にはクエンカが放ったシュートにゴールキーパーが弾いたところを秀人が押し込み、思わずヤッターと喜んでしまったシュートでしたが、判定はオフサイド。残念ながら、ぬか喜びのゴールとなってしまいました。

■おわりに
両チームともに選手もシステムも普段通りではないため、探り探りの中での戦いでした。互いに撤退守備を見せ、高い位置から効果的にボールを奪う機会が少なかったのが、シュート数の少なさに繋がったのでしょう。仙台としては引き分けでも勝ち抜け決定だったので良かったのかもしれません。

例年であれば早々にルヴァンの敗退が決まっていたところを、この貴重な勝点1で、2連勝すれば自力でノックアウトステージに進める状態でホームに戻ってくる事が出来ました。なんとかホームで良い試合を見せてほしいですね。

ルヴァンカップの勝ち抜けのチャンスは残りましたが、リーグ戦に出場しているメンバーを使ってるので、そのあたりコンディションの面はやや心配です。秀人、義希、三丸当たりの疲労がボディブローのようにたまらなければ良いかなとは思います。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事
  

Posted by オオタニ at 18:38Match Impression (2019)

2019年04月24日

2019 第8節 : 松本山雅 VS サガン鳥栖

2019シーズン第8節、松本山雅戦のレビューです。

なかなか得点が取れない試合が続くサガン鳥栖。今節は筋肉系の負傷から回復したトーレスがスタメン復帰。同じく(おそらく)負傷から復帰してここ数試合はベンチ入りしていたガロヴィッチもスタメンに名を連ねます。カレーラス監督の考えとして藤田よりも序列が高いのか、それともレアンドロ・ペレイラの強さに対抗したかったのかは気になるところです。彼らのスタメン復帰に伴い、原川と藤田がスタメンを外れました。

J2からの昇格で不安はあったでしょうが、ここまでのところはしぶとい戦いで勝ち点を積み重ねている松本山雅。スタメンは負傷したゴールキーパーの守田に代わって村山が入りましたが、その他のメンバーは前節と変わらず。スタメンが固定できるということは調子の良い証でもあり、それを証明するかのような今節の戦いぶりでした。

鳥栖は結局今節も得点が取れなかったのですが、この試合は34本ものクロスをゴール前に供給しています。それだけ、クロスを上げる形までは作れたということであり、我々は34回もゴールゲットできるのではないかとワクワクさせてもらいました。ただ、残念ながら34回のがっかりもあったのですが(笑)

■システム


セットアップのシステムかみ合わせは図の通りですが、この試合はセットアップのかみ合わせ自体は特に意味があるものではなかったので、さらっと次に行きます(笑)ここから、松本が鳥栖を窮屈にさせる仕組みづくりを行い、それに鳥栖が対抗策を打ち出すという流れがこの試合の妙味でありました。

■ パスネットワーク図



■ 前田、中美の貢献による前線からのプレッシング守備


序盤は一進一退の攻防。ややトランジション合戦のような形で、互いにボールを奪うとすぐに前線に送り込む早い展開でした。鳥栖は金崎・トーレスにボールを当てて、彼らのキープ(もしくはファールを受ける)から中盤が前に出ていく形を作り、松本もレアンドロ・ペレイラを軸とし、前田の裏に抜けるスピードを生かしながら素早い攻撃を展開していきます。

互いにハードワークが持ち味のチームであり、トランジション合戦も落ち着かないまま迎えた10分頃、早速試合が動きます。スローインからのボールをはじき返しあう落ち着かない状況から、パウリーニョがダイレクトでディフェンスラインの裏へボールを送り、鋭く反応した前田の飛び出しによって松本が先制点をゲット。ガロヴィッチのアジリティを大きく上回る前田のスピードは素晴らしかったのですが、それにしてはあまりにもあっさりと前田に裏を取られてしまいました。ガロヴィッチにどこまで事前に前田の事が伝わっていたのかは少し気になったところです。

思いがけず早い時間帯で先制した松本ですが、ここから落ち着いて引いて守るという選択ではなく、鳥栖のボール保持局面になるとミドルサード付近から積極的にプレッシングをかけてきました。松本はワントップであるので、鳥栖としてはかみ合わせ的にはセンターバック2名で松本のワントップをさばけるだろうという思惑の元、秀人は最終ラインよりも少し前にポジションを取って最終ラインからボールを受け取る役目を果たします。

ビルドアップで自由を与えたくない松本は、セカンドトップの2名が鳥栖のセンターバックからの展開を読み取ってプレッシングを先導します。前田と中美のスピードは攻撃面ばかりでなく、むしろ守備面の方で威力を発揮していて、鳥栖の最終ラインが少しボールコントロールを手間取っただけであっというまに間を詰めてパスコースを制限しにかかりました。特に、鳥栖の右サイドへの誘導はかなり整備されていて、両センターバックをレアンドロ・ペレイラ+前田で追い込んで意図的に右サイドにパスを出させ、原にボールが出たタイミングで中美をぶつけて前線の3人で鳥栖の最終ラインを狭いエリアに追い込んでいました。

松本にとっては、トップの3人の追い込みによって鳥栖のサイドハーフをウイングバックが見れる形を作り、両サイドバックから縦に出るパスをうまく抑え込むことに成功。原、三丸は非常に窮屈な状態からのパスとなったため、相手に引っかかってしまうパスや直接サイドを割ってしまうようなパスが何回も見られました。

■ 松本の守備が生んだクエンカのゲームメイク



このままではボール保持できないということで、鳥栖は(当初は想定していなかったかもしれませんが)、最終ラインに秀人のヘルプを加えて3人でのボール保持へと転換を見せます。松本としては、その対応も織り込み済みでありまして、もともと、3-4-2-1システムは、4バックシステムのチームがアンカーを最終ラインに落としたビルドアップに対応できるシステム(両センターバック2名+アンカー1名に対してワントップ+セカンドトップ2名をぶつける)であるため、その対処には苦慮しません。

鳥栖の最終ラインの3名に対して松本は前線の3人をぶつけ、サイドバックにウイングバックを押し上げ、サイドハーフにボランチを当てることによって、同数プレッシングの準備が整います。

松本からの同数プレッシングを受けた鳥栖は、前線のトーレスに対して早々に蹴っ飛ばすか、それとも更にひとりビルドアップ隊に人数を加えてボールを保持する形をつくるかの選択をしなければなりません。ここで出した鳥栖の回答は、仕組み上フリーとなるクエンカを最終ライン近くまでポジションを下げて、ボール保持を継続するという形でした。これが、クエンカが下がってゲームメイクを行った(せざるを得なかった)経緯となります。

ゲームメイクを『せざるを得なかった』というのは、当然のことながら、センターバック2名+アンカーで相手の1列目を突破できれば良い(同数プレッシングに来ているので、誰か一人でも相手をはがすだけで良い)のであって、それができないがために、数の力でボール保持するか、もしくはクエンカという個ではがすことができるメンバーを使ってボール保持をしなければならなくなっています。クエンカをゴール前から遠ざけてでも彼のヘルプがいる状況なのです。

求めるサッカーの質と個人の力量とのギャップをどこまで我慢できるのか。アンカーがブスケツやモドリッチだったら、劇的に点数が取れるようになるかもしれませんが、そのような選手がいない中でどこまで戦術を追い求めるか…という分岐点の見極めがこれから訪れるでしょう。

さて、クエンカがボールを中盤の底で保持するようになってからは、松本も無理なプレッシングで中盤にスペースを空けることを良しとせず、また、1点リードしているという余裕もありまして、徐々に全体がリトリートするタイミングが早くなります。鳥栖が押し込んでからは、ウイングバック、セカンドトップをそのままひかせて5-4-1ブロックで鳥栖を待ち構えます。

こうなってくると、鳥栖は人数をかけてサイドを攻略する方策へと転換し、松本が引いてからはボール保持の為に最終ラインでビルドアップに参画していた秀人が、今度はサイドの人数確保の為にブロックの外側で起点をつくるといういつもの対応を行うようになります。秀人が左のアウトサイドでボールを受けてもかわしてクロスというプレイヤーではないため三丸や金崎などのクロス要員をもう一人サイドに費やすことになり、ましてや秀人自身がゴール前でクロスを待つという対応も取れなくなるこの形が攻撃として有効であるかは考えどころです。

■クエンカの大きな展開による右サイドからの攻撃

クエンカが引いた位置でゲームメイクをこなすこの形が生んだのは鳥栖の主戦場の変化でした。前節までの試合を見たらわかるように、鳥栖は左サイドからの攻撃を主戦場としており、最後は三丸のクロスという仕組みで攻撃を仕掛けていました。ただ、そのキーパーソンでもあったサイドで作るトライアングルを司る原川が今節は出場しておらず、クエンカがゲームメイクに降りて離れたため、左サイドからの前進が影を潜めます。(無論、松本のウイングバックの守備によってサイドが封鎖されたという事もあるのですが。)

左サイドからの前進が詰まった時に生きたのが、クエンカのサイドチェンジのボールで、逆サイドに幅をとる原に対して大きな展開を行うことによって、鳥栖の攻撃の主戦場を右サイドへと移しました。今節は冒頭で述べた通り34本のクロスを上げていますが、そのうち5本が右サイドの原からのボール、7本が左サイドの三丸からのボールです。攻撃におけるサイドの偏りは段々と減ってきています。

パスネットワーク図でも、クエンカからの展開を証明するかのように、クエンカから原へのパスが非常に多くなっています。大久保からのパスも前節までは三丸が多く受け取っていたのですが、今節は祐治が受け取って、原への展開が多くなっています。ただし、このなかのいくつかは、松本のプレッシングによって誘導されたものが含まれていますが。

さて、クエンカの早いスピードのサイドチェンジは松本の守備に揺さぶりをかけるのに充分効果を発揮しており、右サイドへの展開からトーレスのポストを使って金崎のシュートを生んだ惜しい攻撃がありましたので図で表します。



このシーンのポイントは、クエンカが大きく右サイドの原へ展開した時に、金崎も右サイドにポジションを取っていた点であり、これによって原、金崎の両名に加えて飛び込んでくるトーレスとのグループによる崩しができたことです。

鳥栖が左サイドに人数を集めているため、当然のことながら松本も左サイドに守備の人数を集めています。クエンカのサイドチェンジによって、鳥栖の右サイドを守る松本の選手は原、金崎に対してプレッシャーに出ていきますが、左サイドの守備はスライドが遅れてゴール前に大きなスペースを作ることとなりました。

このスペースにトーレスが飛び込んでポストとして受け、金崎のシュートを生み出すのですが気になるポイントが2つありました。

1つめは、手前にいる松岡ではなくて奥にいたトーレスがこのスペースに飛び込んできた点です。チームとしてこのスペースができることを認識していれば、一番手前にいる松岡が飛び込んで、トーレスが中央でシュートを打てる体制を作ることができるのですが、松岡はゴール前で待ち構えていて、トーレスがスペースに入り込んでいます。

2つめは、クエンカのサイドチェンジはこの試合では何本も原に送られるのですが、この試合に限らず、サイドチェンジの後の多くの場面において原が孤立してしまう点です。ひとりでボールを受けても原が縦に突破してクロスという形に頼らざるを得ません。チームとして、このシーンのように松本を左サイドに誘導してサイドチェンジを行い、金崎もしくは松岡を右サイドにおいてグループによる崩しを図る形を攻撃ロジックとして持てているのかどうか。

パスネットワーク図でもありますように、同サイドの原と松岡のパス交換が毎試合少ない状況ですので、右サイドを原、松岡、金崎のグループで崩し切るイメージの共有(戦術的配置)ができていない可能性は高いでしょう。チーム全体の中でも、毎試合松岡だけがパス受け、パス出しが少ないのが非常に気になります。松岡にはボール循環への貢献を求めているわけではなく、裏に抜けて味方のスペースを作る役割や、左サイドからクロスがあがってくるのでフィニッシャーとしてのポジショニングを求めているので必然とこのような数値になるのかもしれませんが、果たしてそれが松岡にとって適材適所なのか。

■ カレーラス戦術の特徴と強力2トップが作り出すスペースの浪費

後半も中盤頃になると、松本の前線もさすがに体力が低下してきたのか、鳥栖の最終ラインに対するプレッシャーも減ってきて、ブロック守備のフェーズが多くなります。そうなってくるとボール保持のためにクエンカを下げる必要もなくなり、徐々にクエンカがゴールに近い場所へとポジションを移していくことになります。相手がブロックを組んだ場合は、両サイドに幅を取り、人数をかけることによって前進を図るいつもの形で攻撃を仕掛けるのですが、この戦術と配置によって攻撃の停滞を生んでしまったシーンがあったので一つ紹介します。



まず、このシーンで大事な要素は、24分のシーンと同様に、トーレスと金崎がゴール前にスペースを作り出してくれたという所です。松本としては、当然この強力ツートップを無視するわけには行きませんので、彼らの周りには必ず人が付くこととなります。そうやって生まれたスペースが図4のシーンです。トーレスはファーサイドでボールを待ち構えてセンターバック2名をピン留めします。金崎は中央からボールサイドに寄って来ることによって、相手センターバックを右サイドへ引き寄せます。この動きによってゴール前に大きなスペースを作ることができるのですが、鳥栖のセントラルハーフ陣、サイドバック陣は戦術面でこのような動きを見せていました。



特に原と義希はカレーラス戦術の色が出ている部分でありまして、逆サイドに幅をとる原を置きたいがため、義希がカウンターに対するリスクマネジメントでポジションを下げます。ちょうど秀人が中央から左サイドの三丸に展開し、幅をとるために中央から左サイドへ出て行った際に、義希がカウンターに備えるために、最終ライン近くへ戻る動きを見せました。

ゴール深くまで入った時に、逆サイドの原のポジションに人を配置したのは監督の判断です。この試合では、原のクロスや三丸のクロスが流れて逆サイドのサイドバックが拾うシーンがありましたが、そのほかに有効な場面があったかどうかはカレーラスさんが把握しているでしょう。

例えば、同じような状況下では、このような配置も考えられます。妄想は自由ですからね(笑)



変更のポイントは、秀人の左サイドへのポジションチェンジをさせないことと、原のポジショニングです。

義希はスペースを目がけたランニングに長けているので、リスクマネジメントの役割を解いたら金崎が空けてくれたスペースを狙ってくれるでしょう。代わりに、原にサイドを絞らせてカウンターに備えさせるポジショニングを与えます。

秀人は中央で待ち構えていると、ネガトラ時の対応もできるし、左サイドを崩した場合にクロスを待ち構える要員として飛び込ませることもできます。彼がサイドに張って深い位置でボールを受けても何も起きません。それよりは、中央で構えていた方が彼の強みを発揮できます。

サイドは個で勝負できるクエンカにポジションをとらせたいです。クエンカはここでボールを受けたら1対1のデュエルで勝利してクロスまでもっていってくれるでしょう。もしくは飛び込んでくる義希への浮き球のパスが出せたらベストです。

三丸は、クロス要員として裏に抜けるか、クエンカから戻ってくるボールのフォローとしての役割。原川もクエンカが勝負できない時のフォローの役目ですが、クエンカが直接義希に送れない時に中継でボールを受けてダイレクトで義希もしくはトーレスにパスを送ってほしいですね。

…という配置も考えられます。何度も言いますが妄想は自由です(笑)

サイドの幅という、カレーラス戦術の配置のポイントをどう捉えるかですよね。ゴール前にどれだけ人数をかけるか。トーレスと金崎が作ったスペースをどのように活用するのか。サイドで1対1の状況を作り出して誰に仕事をさせるか。

最後は三丸がクロスという形を確立はできていますが、それにしては中央が薄い状態が続いており、何よりもまったく得点が取れていないので、何かしら対処は必要でしょう。

■ 終わりに

実はこの試合は金崎もクロスを5本供給しています。彼がポジティブトランジション時に相手を背負ってボールを受け、クエンカが下がれない時は金崎が下がってゲームメイクをこなし、そしてサイドを突破してクロスを上げるという活躍を見せてくれるのですが、フォワードとして一番大事な、そして金崎の力を発揮してくれるゴール前での脅威となりきれていません。結局、この試合の金崎のシュートは上の図の1本だけでした。金崎がゲームメイクに奔走する形が果たして鳥栖として良い攻撃であるのかというところは、今年ここまでゴールが1本しか決まっていないという事実が表しているのかもしれません。

監督交代よりも、配置と戦術の変更でしょうね。上記程度の内容であれば容易に考えられることです。あの形以外にも色々と考えられるので、得点が取れてない現状打破のためにも何かしらの変更は必要でしょう。

筆者の意見は首尾一貫して同じ。仙台戦のエントリーでも同じようなことを書いたのですが、いまのサガン鳥栖のメンバーではどのようなサッカーがいちばんチーム全体のパフォーマンスが上がるのか。誰にどの役割を任せたら選手たちの能力が最大限発揮できるのか。ゴールから逆算して、どのような仕組みと配置にしたら効率よくシュートまで持っていけるのか。チームとして効率の良いデザインを描いてほしいですね。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事  

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2019年04月17日

2019 第7節 : サガン鳥栖 VS 川崎フロンターレ

2019シーズン第7節、川崎フロンターレ戦のレビューです。

なかなかスタメンが固定できない猫の目フォーメーションのサガン鳥栖。今節は原が右サイドバックに復帰し、藤田はブルシッチに代わってセンターバックを務めます。前節ケガで途中交代してしまった福田は復帰とはならず、松岡がスタメンに入りました。守備時のセットアップは4-4-2。攻撃時はボランチが最終ラインをケアし、3-1-4-2でビルドアップを試みます。

こちらもチャンピオンチームとしては物足りない調子の川崎フロンターレ。10日にACLの試合をこなしたばかりということもあり、スタメンは前節と大きく異なるメンバーでした。その中で、大島の復帰は川崎としては心強いものだったでしょう。守備時のセットアップは鳥栖と同じく4-4-2ですが、攻撃時にはボランチを最終ラインに下げて3人で構成し、サイドバッグを高く押し上げ、中央はセカンドトップが目まぐるしくポジションをかえる形で攻撃を構築していました。

■ 前半
前節は、仙台のシステムの変更などもありまして、プレッシングのタイミングなどなかなかテーラリングできないまま試合を進めてしまったところで、思わぬ手痛い先制点をくらってしまいました。今節はある程度想定していた形だったのか、しっかりと統率された守備ラインで全体のバランスをコントロールできていました。守備プロセスとしては3つのパターンで

①アタッキングサードでの4-1-5プレッシング
②ミドルサードでの4-4-2ブロックから4-3-3プレッシングへの変化
③ディフェンシブサードでの5-3-2ブロック

という形で整備されており、前から行って奪えずに展開されると素早くリトリートしてブロックを構えるプロセスを踏んでいました。

特筆すべきは、②のミドルサードでのプレッシング。4-4-2で中央のスペースを圧縮した状態でブロックを組み、川崎のドイスボランチやセカンドトップが降りてくるタイミングに合わせて鳥栖のボランチがポジションをコントロールして4-3-3プレッシングに変化する形での守備でした。

思いのほか、中央から縦へのパスを送れない川崎。基本的には下田もしくは大島が下がって最終ラインでのボール保持を形成しますが、時折、家長、阿部がセンターバック脇のエリアに下がるなど、様々な工夫を凝らして鳥栖の守備を動かそうと試みます。

その試みに対し、鳥栖は、川崎の最終ラインが3枚の段階では金崎とクエンカに任せて無理に人数を合わせる事はしませんでしたが、4人目の選手(特に大島)が下がろうとした際には、セントラルハーフの一人がついていくことにより、守備に穴をあけない状態を保ちつつ、大島、下田から自由に配球する余裕は与えないという組織を構築していました。



川崎は、長短のパスを織り交ぜて幾度も中央からの崩しを試みてはいたものの、鳥栖のブロックの網にかかってなかなか進めない状況が続きます。中央に固執してばかりではなかなか前進できないという事で、川崎は、鳥栖が優先度を下げている大外に向かったサイドチェンジを試みます。大島と下田が最終ラインから正確なボールを左右に配球できることの強みがここで発揮される形となりました。

大きな展開でサイドにボールが渡った時には、鳥栖としても撤退の合図であり、最終ラインにほころびを作らないように、セントラルハーフがバランスをとって最終ラインのスペースを埋め、5-3-2を組んでクロスやカットインに備えていました。このように、仙台戦に比べると格段に組織化された守備を構築できていました。



鳥栖のブロック守備が非常に堅固で、ボールは保持するものの中央からの縦パスがなかなか通らず、左右にボールを振り分けるものの今いちシュートまでつながらない川崎。ただ、固いゾーン主体の守備によるブロックを打ち破る最善策はダイレクトプレイというのは、川崎は百も承知という話。少しずつ、鳥栖のプレッシングに慣れてきた頃、鳥栖のセントラルハーフが上がって4-3-3を形成してくるタイミングを見計らって、ダイレクトプレイによる崩しを試みます。

例えば、28分のシーンですが、センターバック2名+下田の3人でボール保持を継続していましたが、そこでさらに引いて受けようとする大島に対して秀人がプレッシングに出ます。川崎が優れているのは、自分が動いて空けたスペース(自分が動いて相手を引き連れてきたスペース)には、味方が必ず入ってきてつなぎどころとなる事を肌で理解し、そして実践出来る事です。

大島へのプレッシングで秀人が空けたスペースを狙って阿部が入り、大島はそこに味方が入ってくることを理解して躊躇することなくボールを送り込みます。大島からボールを受けた阿部はダイレクトで縦関係に入ってきた小林にパス。小林が即座に右サイドで幅をとっている馬渡に展開し、三丸が出ていくことによって作られる藤田とのギャップに対して家長が飛び込んで馬渡からボールを受けることにより、深い位置で起点を作ります。家長の切り替えしてのクロスから、ヘッドでの折り返しという攻撃は、大久保のキャッチという結果に終わりましたが、ダイレクトプレイをきっかけとした鮮やかな崩しは川崎の本領発揮という所でした。

しかしながら川崎もこのようなプレイが何度も再現できていたかというと、その多くはサガン鳥栖のプレッシャーとリトリートのバランスの良さの前に消されてしまい、鳥栖としては決定的なピンチを与えず、前半としては満足のいく出来だったはずです。

■後半
後半に入っても戦い方を変えない鳥栖でありましたが、状況の変化は突然にやってきます。最終ラインの脇のスペースでボールを受けた大島が知念に向けて長いボールを蹴りこみます。そのロングボールを知念が藤田に競り勝ち、そのままペナルティエリア内に侵入して先制点をゲット。

川崎は、後半に程良くロングボールを活用していました。前半も知念への長いボールはあったものの、その多くはスペースに対して足元を狙った低めのボールで、頭を狙ったアバウトなボールは1本程度。後半はキーパーからのロングフィードも含めて5本以上は知念が藤田とデュエルを出来るようにアバウトなハイボールを蹴り込んでいました。このデュエルならば勝算は十分にあると踏んだのでしょう。そのあたりはハーフタイムにメンバー間で話があったのかなと。

ところで、この失点、どこかで見覚えはありませんか?神戸戦で最終ラインに降りていた山口蛍に対するプレッシングが甘くなり、前線のきわどい場所にフィードされたボールを最終ラインが処理を誤って(祐治のクリアが谷口の足に当たって)ビジャのゴールを生んでしまったシーンがありましたが、やられ方としてはほぼ同じような形です。

サッカーにおいて、90分間まったくミスがなかったり、デュエルで必ず勝つという保証はありえません。ミスやデュエルでの負けが発生した際にも、それをカバーしたり、最悪の出来事に発展しなくすることが極めて重要なのです。

しかしながら、このシーンは、ロングボールを知念が受けてから、あっさりとそのまま縦にドリブルで入ってシュートまでもっていかれてしまいました。知念のトラップの際にハンドリングであったのではないかという疑念や、小林が裏に回ってスプリントをかけてきたことでマーキングの迷いがでた点など、様々な状況が重なって祐治も対応が難しかったかもしれませんが、ノープレッシャーでシュートまで持っていかれたのは、カバーリングに問題があった事を認めざるを得ないでしょう。大久保のポジショニングも気になるところで、祐治が戻ってくる前提でニアサイドを中心にケアしていたのかもしれませんが、あまりにも簡単にシュートコースを与えてしまっていました。

先に失点してしまったので、ボールを奪うために前に出ていかざるを得なくなったサガン鳥栖。これまでしっかりとしたブロック守備を構築していましたが、突如としてパラパラと前に押し上げていく守備にスタイルが変わってしまいました。今シーズンの鳥栖は、失点してしまうと戦い方がガラッとかわってしまうケースが多いです。失点の時間帯にも依るのでしょうが、焦る必要のない時間帯で焦ってしまい、90分間の中でのコントロールがチームの中で確立できていないのを感じます。

前線でボールを奪いたいばかりにボランチが前に出ていくことによって、当然のことながら中盤にスペースができてしまいます。そのスペースを狙って、川崎お得意のダイレクトプレイが生まれ、後半はアッという間にゴール前に迫られてしまうシーンが増えてしまいました。幸運にも追加点は許しませんでしたが、失点後の戦い方をもっとクレバーに行かなければならないのは、プランニングの課題ですよね。

今シーズンは、スコアレスで互いにリスクをかけない整備された状況では鳥栖も質の高いサッカーを演じますが、その均衡が崩れた時に、秩序も乱れだし、環境の変化に対する個々の判断のずれが、後半の停滞(逆転できない展開)を生み出しています。実質、オープンな展開になった後半のほうが、鳥栖としては繋ぎどころがあったはずなのですが、川崎が人数を揃えるプレッシングをするだけで、ビルドアップにおけるパスのベクトルも、パスを出したあとのランニングや体の向きも後方に向かってしまい、結局蹴っ飛ばす対応が増えてしまいました。

蹴っ飛ばす対応をしたときに、トーレスに対するフォローができればよいのですが、ボランチはつなごうとして最終ライン近くに下がり、サイドハーフは幅をとろうとしてタッチライン近くにポジションをとっているので、セカンドボールを拾う確率としてはかなり下がります。最後は祐治を前線にあげてパワープレイで何かを起こそうとしたのですが、クエンカも小野もアンヨンウも消えてしまいました。

■鳥栖の攻撃




鳥栖の攻撃としては、大きくスタイルは変わりませんでした。ボール保持時では、川崎が家長を上げて2人でセンターバックを監視してくるので、鳥栖は秀人を下げて3人でのボール保持を試みます。ボールを保持していく中で、フォワードをサイドに寄せ(時には受け手として引いてきて)、ディフェンスの網を抜けるように斜めにパスの経路を作ったうえで前進を図り、最後は三丸がクロスを供給できる形を作ります。ビルドアップの抜け道は、サイドハーフがライン間に入ってボールを受けるか、大外の三丸を経由して前進を図るかという攻撃です。

カウンターの場面では、まずは金崎に当てて陣地を回復(ボールキープ)し、上がってくるメンバーのための時間を確保して、彼らへパスを送り込みます。前半開始早々、ボールキープしてファールを受けてセットプレイのチャンスを立て続けに作った姿は印象的です。

パスネットワーク図でも、秀人が配球の核となっていますし、金崎は15回のパス受けをしています。これは三丸に次いで高い数字で、前線としてターゲットになっていることがよくわかります。

同じサイド攻撃ではあったのですが、前節と異なるのは、パスネットワーク図でも右側に太い線があるように、左サイドのみでなく、右サイドからの攻撃回数も増えていました。今節はクロスを21本上げたのですが、三丸の5本に対して原も4本のクロスを供給しております。交代で入ったアンヨンウも右サイドから4本のクロスを供給しています。原やアンヨンウが持ち出せることによって、右サイドからの攻撃も活発になってきています。

ただし、仙台戦でも提起しましたが、フォワードがチャンスメイクに入る今の仕組みでは、ゴールゲッターはどうしてもセントラルハーフという形になってしまいます。数字にも表れていますが、この試合の前半のシュート数は、松岡2、義希2、秀人1、金崎1でした。セントラルハーフのシュートの精度の向上を待つか、セントラルハーフにゴールゲットに長けたメンバーを入れるか、それともやり方を少し変えるか。チームとしての選択が必要な状況です。

38分の松岡のヘディングがバーを叩いたシーンがありましたが、このシーンは左サイドで相手のパスを義希がカットし、原川がドリブルで前進して秀人経由で三丸にボールを渡してからのクロスという形でした。ショートカウンターであったので、金崎とクエンカがサイドの数的優位に参画する必要がなく、ゴール前でクロスを待つという状況を作り出すことができました。これにより、三丸がクロスを上げた際には、金崎、クエンカにディフェンスの視線が集中することによって、背後から入ってくる松岡に対するマークが甘くなり、ヘディングができたという事です。フォワードがゴール前に相手の脅威として存在していたからこその松岡のシュートであり、鳥栖としてはこの形をいかに多く作れるかが今後のゴールに向けたポイントかなと思います。

■ゴールまでのクリティカルパス


鳥栖のサイド攻撃重視の戦術は崩しとしてはよい形を見せるものの、時折、最終目的を考えさせられるシーンがあります。

36分のシーンですが、ビルドアップで保持する秀人から、ハーフスペースに入り込んだ原川に縦パスが入ります。原川はワンタッチでつなぎ、やや混戦状態になりますが三丸が拾い、金崎からの落としを受けて中央にドリブルを開始します。このとき、ゴール前中央には松岡、義希がいてパスコースも十分あったのですが、三丸の選択は中央を縦に通すパスではなく、右サイドに幅を取る原に展開。ところが、松岡も義希もゴール前にいる状況で、原が孤立してボールを受けたところで何の手立てもなく、コーナーを得るだけで終わってしまいました。

ビルドアップの場面で、何も阻害するものがなければ、中央を縦に繋いでいく方がゴールまでの最短経路となります。しかしながら、中央は相手がそれを阻むために手厚く守るので、(ある意味仕方なく)薄くなるサイドから前進させているに過ぎません。

この状況でせっかく良いポジションを取っている松岡や義希にパスを送れないのは、戦術的な意図(意思)、利き足と逆足の精度、ボールの持ち出し方、体の向き、と色々と要因はあるのでしょうが、総体的に、この試合は、サガン鳥栖の止める・蹴るという所に起因する見えないミスが見え隠れしていました。

ちなみに、この36分の松岡のポジショニングですが、センターバックのギャップをついてゴール前中央でボールを待ち受けるこのセンス、単純にすごいなと思います。彼のゴールに向けたベクトル、攻守の切り替えのスピード、ダイレクトプレイを指向する考え方、現在の鳥栖の選手の中でもトップクラスではないでしょうか。松岡のミスに見えるプレイは、実質はミスではないプレイも多くあります。ミスを恐れてボールキープして停滞してしまうよりも、よっぽど価値のあるプレイです。

■シュートまでの時間は守備組織構築までのカウントダウン

この試合は、特に後半は川崎も間延びしてきていたので、比較的オープンな状況で鳥栖が前進できる機会も多く生まれました。ここで気になったのは攻撃のスピード。スピードアップしなければならない場面で躊躇してしまって(安全に行き過ぎて)残念ながらチャンスの芽を自らで潰したシーンもいくつかありました。

例えば、46分ですが、クエンカのカットによってショートカウンターの機会を作り、原川が左サイドにてフリーでボールを受けます。この時、ペナルティエリア内を守る川崎の選手は4人、クロスを待つ鳥栖の選手は3人でした。しかしながら、原川は、右足に持ち替えて中を探り、オーバーラップした三丸を使うために間を開けました。この、ホンの僅かな時間でしたが、三丸がパスを受けた段階では、ペナルティエリア内を守る川崎の選手は8人、クロスを待つ鳥栖の選手は4人という状況に変わりました。

当たり前の話ですが、攻撃はゴールライン際まで崩して陣地を獲得する事が目的ではなく、ゴールを奪うことが目的です。ゴール前にラストパスを送る際、相手が少なければ少ないほど、味方が多ければ多いほど、ゴールの確率はあがります。三丸を使うという戦術を全うしたのかは分かりませんが、時間をかければ相手が戻ってくるという概念を今一度把握しておかないと、相手の守備ブロックがすぐに整ってしまい、シュートはおろか、クロスさえ上げられないという状況がすぐにやってきます。

それでも、一人で相手をはがしたり、センターバックの間にピンポイントのクロスを送る技術があればよいのですが、この試合は21本ものクロスをあげたものの、どんぴしゃりというクロスは1本もありません。技術的な要素で解決できないならば、時間的な要素で解決を図らなければなりません。

■ おわりに

今シーズン、首脳陣もメンバーが変わって時間がかかりましたが、やっと守備ブロックもしっかりとしたものが構築できるようになってきました。攻撃も惜しいシーンまで作れています。ただ、試合の中での見えない判断ミスが、残念ながらゴールを遠ざけてしまう結果を招いています。あとは、正確な止める・蹴るの対応、そして正確なプレーの判断・選択。ワンタッチでのプレーや縦につける意識は、シーズン開始当初から比べるとだいぶん改善してきました。ワンタッチパスをつなげることで前進できたシーンも増えてきました。クエンカというボール保持できる選手も加わったので、味方が動き出す時間を作ることもできています。あとは連携と精度の向上ですね。それがシーズンのどの段階で勝てるレベルまで発展するのか。

この試合は21本のクロスを上げています。そのうちの1本だけでよいのですけどね。1本いいクロスが入るだけでゴールになるのですが、その1本が来ませんでした。改善ポイントは様々あるでしょうが、サイドを崩してサイドバックがクロスをあげるこの攻撃は着実に形ができて行っています。選手の配置などの問題はあるかもしれませんが、いまは、この攻撃が実を結ぶことを祈るしかありません。
クロスを上げ続ければオウンゴールが発生するかもしれません。シュートが相手の足に当たってループのようになって入ることだってあります。いつかは訪れるであろうラッキーパンチも含めて祈っておきます(笑)

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事
  

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2019年04月10日

2019 第6節 : ベガルタ仙台 VS サガン鳥栖

2019シーズン第6節、ベガルタ仙台戦のレビューです。

なかなかスタメンが固まらないサガン鳥栖は、原がスタメンから外れて藤田が右サイドバックへ。藤田のポジションチェンジに伴って出場停止明けの祐治がセンターバック。前節スタメンの豊田が外れてフォワードにはクエンカが今季初スタメンで入ります。セットアップは4-4-2です。

鳥栖と同様になかなか波に乗れない仙台もスタメンを変更してきました。キャプテンの大岩を外して常田がスリーバックの中央へ。右サイドは道渕に代わって蜂須賀が入ります。システムも若干変更してジャーメインとハモンロペスの2トップ、セカンドトップに吉尾と兵藤がポジションをとりました。セットアップは、攻撃時に3-1-4-2、守備時に5-3-2の形でこの試合に臨みました。

■ システム


図の通り、システム的にはお互いに数的優位(不利)な場所が発生します。仮に何も動かないとしたら、仙台は自陣でのボール回しは楽にできることになり、鳥栖にとっては最終ラインに人数が多く、特にサイドバックがあまっているので裏を突かれることなく安心して構えているという状況になっています。あくまでセットアップの上ではですね。皮肉にも、この後の動きで、数的には断然優位なはずのサイドバックの裏をがんがんと突かれだすことになるのですが(笑)

両チームともこれでは、勝ち点3を獲るサッカーにならないので、ボールを相手陣地まで前進するべく(ボールを相手チームから奪うべく)人の配置を変えながら試合を進めることになるのですが、このポジショニングの部分で両チームの差が出てしまいました。

鳥栖は選手の判断ミスが発生し、それに周りが追随することによってチーム全体として予期せぬエラーを招き、仙台は各人の判断にミスが少なく、チーム戦術を遂行する上でエラーなく統率された状態で試合を進めることができた…という所でしょうか。

決して、個人の質の差の問題ではなく、チーム全体として最適な状況を作り出すことができたか否か。ここがこの試合の勝敗を分けたポイントでした。

■ 仙台の攻撃のキーマンは3人のセンターバック

野球の格言なのですが、投手は5人目の内野手という言葉があります。投手は投げることに着目されますが、投げたから終わりというわけではなく、投げた後はダイヤモンドを守る内野手の役目を果たさなければならないという教えです。すなわち、チームスポーツは主役、脇役関わらず、誰もが状況に応じた役割を持ち、その役目を果たすことによって、チームとして最大のパフォーマンスを発揮できるという例えです。

同様に、特に現代のサッカーにおいては、フォワードだから攻めるだけ、ゴールキーパー、ディフェンダーだから守るだけという役割分担にしてしまっては、チームとしての最大限のパフォーマンスを発揮できません。この試合で仙台の攻撃が活性化したキーポイントは、紛れもなく3人のセンターバックが、鳥栖のフォワードをはがして前進し、長いボールを送り込むことによって、ボールの前進に寄与できた事であり、鳥栖の守備のキーポイントはフォワードが仙台のビルドアップに突破されたか、食い止めたかという所でした。

渡邉監督が試合後の談話で

「常田を起用した一番の理由は、ロングフィード、それで相手を大きく揺さぶって、相手の中盤と最前線の2枚、合わせて6枚を一気にひっくり返すことができるので、それを期待して入れました。」

と語っていましたが、常田に関しては言わずもがなの貢献でした。仙台が3CB+1CHのビルドアップに対して、鳥栖が2FW+1CHでのプレッシングとなり、ボール回しの中で、常田がフリーな状態でロングボールを蹴ることができるタイミングができてきます。そのタイミングで、サイドに幅をとる両WBに対して長く、質の良いボールを送り込むことができ、確実にボールを前進させる形を作ることができていました。

ただし、長いボールというのは、それが到達するまでに時間があるので、鳥栖も対応するための時間を作ることができます。また、長いボールを蹴るという事は、鳥栖の陣地深いところに向かって蹴りこまれるので、鳥栖としてはいやがうえにも全体がリトリートしなければなりません。攻められるという事自体は決して良い状況ではありませんが、このロングボール自体によって鳥栖の守備が芋づる式に壊滅するというわけではなく、あくまで深い位置に入り込まれてしまうというものでありました。

鳥栖にとって守備組織が崩れるエラーが発生した状況は、
「自らが主体的にボールを奪いに行こうとした瞬間」
でありました。
無論、ボールを奪いに行く事自体は悪くないのですが、それが良くなかったのは、
「自分たちが奪える形ではないタイミングであるにも関わらず前に出ていく」
という状況だったことです。

試合序盤で、しかも仙台が少しシステムを変えてきた状況下という事もあり、チームとして「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どうする」「どんな風に」という5W1Hがまだ整っていない状況下で、その時のインスピレーションで前のめりになってしまったばっかりに仙台の術中にはまり、そして前半早々に先制点を与えてしまったことが、この試合全体を難しくしてしまいました。

鳥栖が難しい判断を迫られたシーンというのは明確でありまして、それは、
「仙台のセンターバックが、フォワードのプレスを外して侵入してきたとき」
です。

最初のシステム図でもありますように、仙台は最終ラインではボールを保持できる状況下にあります。その中で、鳥栖のフォワードのプレッシングが弱まった時に、仙台のディフェンスがボールを持ちだす動きを見せます。いわゆる「1列目」を突破された状況です。その状況下において、鳥栖としては「出る」のか「戻る」のか判断が必要となり、そして、チーム全体の判断ミスによって、一気に鳥栖のディフェンスが崩れるシーンを迎えてしまいました。

■ 鳥栖の守備システムのバグ
この試合は、最初の図でもわかる通り、仙台のセントラルハーフ(アンカー富田)を誰が見るかという判断もありました。鳥栖の回答としては、富田にボールが出るタイミングで、彼に前を向かれないようにボランチがプレッシャーをかけ、ボールを戻したら自陣に戻る動きを繰り返す、いわゆるボクシングムーブメントという動きで富田をけん制していました。

鳥栖のボランチが富田に対してプレッシャーをかけるというのは一つのポイントでした。富田に対してプレッシャーをかけるということは、最初の図でいうところの、福田もしくは秀人がかみ合っている相手選手を離して前にでるという事になります。「じっとしていれば何も起きない」というところに変化を加え、前からプレッシングをかけることによってかみ合わせにずれが生じる事になります。

<正常系>

前述のとおり、守備設計としては1列目の突破がカギを握っていました。まずは、鳥栖の守備の成功パターンから見てみましょう。

今回のボールの奪いどころはサイドであるのですが、フォワードが3センターバックの誘導に成功して、中央の常田がロングボールを蹴らないように見張りながら、平岡(もしくはジョンヤ)サイドにボールを回させます。そのタイミングで、もう一人のフォワードがさらにサイドに追い込むようにプレッシャーをかけたタイミングが、鳥栖がボール回収に動ける状況でした。

この動きであれば、サイドでしっかりと人を捕まえることができていますし、当初のかみ合わせでは空いていた富田に対してもボランチがしっかりと捕まえています。最終ラインも数的優位を保っていますので、仮に長いボールを出されたとしても先に追いつくことができ、万が一、サイドに抜け出されてキープされたとしても、中央にセンターバック、サイドバックと2名が残るので致命的な状況という形にまでは至りません。

この形でのプレッシングによって、鳥栖は高い位置でボールを奪い、ショートカウンターの機会を作ることも出来ていました。

<バグその1>


さて、本題。鳥栖のフォワードがプレッシャーをかけたい逆方向に仙台がボールを回すと、センターバックがボールを持ち出すチャンスが生まれます。センターバックがボールを持ち出したときに、パスの出し手をケアするのか、受け手をケアするのかというのは非常に判断が難しいのですが、その判断ミスが生じてしまったときが仙台のチャンスにつながっていました。

ひとつめは、自陣に入り込もうとするセンターバックに対して、鳥栖としてはまだミドルサードに入ろうかという高い位置であるにも関わらず、迎撃するかのようにサイドハーフが1列前にでてプレッシングを仕掛けてしまったことです。サイドハーフが出ていくという事は、リンクしているボランチ、サイドバックも出ていかざるを得ず、パスコースを防ぐために仙台ウイングバックには鳥栖のサイドバックが、仙台セントラルハーフには鳥栖のボランチがプレッシングを仕掛けます。

一方、最終ラインは、今年の守り方として相手の強いフォワードに対しては常に数的優位を保とうとするべく、最終ラインでの人数確保が方針となっている模様で、2センターバック+サイドバックで仙台の2トップを見る形で構えていました。

そうすると、必然的に数が合わない場所…今回は仙台のセカンドトップが浮いてしまう状況が発生してしまう事になり、
「この選手は誰が見るとカイナ?」
…という事態に陥ってしまうのです(敗戦のショック(笑))

序盤から、鳥栖がプレッシングをかけるもののうまくはまらずに吉尾に自由を与えて簡単にサイドのスペースを使われてしまったのは、鳥栖のプレッシングの判断ミスから生まれたものでありました。

<バグその2>


こちらは、ある程度鳥栖がリトリートしている状況なのですが、序盤からセカンドトップをフリーにしたことによって、鳥栖も修正を加え、中盤もしっかりとスライドしてセカンドトップをボランチが捕まえるという形に修正をしてきました。ただ、やっぱり1列目が突破されてしまうとつらい状況というのはどうしても発生するわけでありまして、全体がどう振舞うかという所がポイントとなり、簡単に言うと、どこを重要視して、どこを捨てるかという判断を迫られます。

仙台は両サイドに幅をとるウイングバックを置いているので、中央が難しい場合は簡単に外にボールを回すことができます。サイドバックとしてはウイングバックをケアしたい、でも、センターバックは中央にいるセンターフォワードが気になって動けない。サイドバックとセンターバックの判断にずれが生じてしまうという、そのジレンマの狭間で生まれてしまうのが、CB-SB間のスペースでした。

ジャーメインもハモンロペスも中央で待ちかまえるよりは、両者ともにゴール前でスペースを見つけると、ボールがもらえる位置には惜しみなくスプリントしてポジションを動かすことのできる選手です。無論、吉尾に至っては、その動きを期待されて起用されている選手であります。センターバックが追随したり、ボランチのケアがないまま、藤田や三丸がウイングバックに食いつく動きを見せた時こそが、仙台FWが侵入してくるタイミングであり、ゴール前に起点を作られてしまう形となります。

ブルシッチがPKをとられたシーンがありましたが、これも、サイドバックが仙台の幅をとる選手に引き寄せられてSB-CB間が空いてしまい、そのスペースにボールを送られて祐治をサイドに引き釣りだされてしまったことによって、中央がブルシッチ一人という状況を生んでしまいました。彼が焦ってクリアミスをしたことは確かにミスではあるのですが、彼が焦ってしまう状況を生んでしまったのは、チーム全体の守備設計のバグですよね。

改善するとすれば、マリノス戦のような動きを見せればよかったわけでありまして、侵入されても焦らず、選手間のリンクが切れないようにコンパクトな状態を保ってスライドすることは必要でしょう。

あとは、仙台のウイングバックに対して誰がどのタイミングで出ていくのかという決めごとですね。サイドバックが出たとして、空けたところをセンターバックがスライドするのか、ボランチが落ちるのか。そのときにフォワードも落とすのか、逆サイドが絞って来るのか。

もしくは手っ取り早いのは、名古屋戦のように、守備時にはボランチとフォワードを1枚下げて5-4-1にしてしまうとか。CB-SB間を開けてしまわないように、数の論理で埋めてしまおうというのも一つの策としては妥当だと思います。ただ、後ろを重たくすることによって仙台にボール保持を許すことになるかもしれませんが、そうなると押し込んで前に出てくる仙台センターバックの背後のスペースをカウンターで利用できていたかもしれません。攻守は表裏一体ですよね。

■ ラインコントロール


図は、鳥栖の2失点目のきっかけとなった、サイドの裏のスペースにボールを蹴られてポイントを作られてしまったシーンです。この試合では、サイドの裏のスペースに出されてセンターバックがつり出されるというシーンを数多く作られてしまいました。その原因は、最終ラインが上手にラインコントロールできていなかったことに起因します。

例えば、このシーンですが、仙台の最終ラインに対して強いプレッシャーをかけており、パスをつなぐ相手に対しても鳥栖の中盤が封鎖して、ジョンヤは蹴るしかない状況に追い込まれている状況です。蹴るしかない状況に追い込んでいることを察知したのか、もしくはウイングバックへのパスを警戒したかったのか、藤田はラインを上げている状況でした。しかしながら、祐治とブルシッチが仙台のフォワードの抜け出しが怖いのか、藤田のラインに合わせずに低い位置を保ったままの状況となっています。

これによって、サイドバックとセンターバックのポジションに段差ができて、サイドバックの裏のスペースを与えてしまったうえにオフサイドも取れないという、最悪の状況を生んでしまいました。ラインコントロールができていなかったという部分も、この試合の大きな問題点のひとつであり、失点の要因となってしまいました。

■ 鳥栖の攻撃
<パスネットワーク図(前半のみ)>


今回の鳥栖は、長いボールをフォワードに当てるという攻撃はほぼありませんでした。これは前線がクエンカ、金崎であるということが要因でしょう。彼らに長いボールを当てたとしても決してストロングポイントではないので、ボールロストの可能性の方が高まります。

コンセプトとしては、しっかりとボールをつなぐ。そして、左サイドを有効活用するというところでしょうか。矢印の流れを見たらわかるように、全体的にボールの流れは左側へと矢印が向かっています。鳥栖がボールを奪うポイントは右サイド、左サイド、双方あるのですが、そのあとの攻撃の主体(ボールの流れ)としては左サイドに重きを置いていました。

特に、三丸は攻撃のキーマンとして活躍していました。ゴールキーパーからボールを受ける役割、そして高い位置にポジションをとって、ビルドアップでつないだボールを最後にクロスとしてゴール前に送り込む役割という、起点と終点のタスクをしっかりとこなしていました。この試合、チーム全体としてクロスは12本上がっているのですが、そのうちの7本(約60%)は三丸があげたものです。右サイドバックの藤田のクロスは1本だったので、左サイドからの攻撃がメインだったことは数字としても明らかですね。三丸を高い位置に上げて彼がクロスを上げることのできる状況を作るために、左サイドに人数を多く配置して、ビルドアップで崩していく戦術なのでしょう。

ちなみに、横浜FM戦のクロスは7本でしたので、仙台戦の方がチャンスメイクできていたと言っても良いでしょう。DOTAMAさんが、保持率とパスだけでは得点は取れないと言われていましたが、保持率とパスのおかげでチャンスメイクはできていたのかなと。大事なのは、その先の精度とフィニッシュの部分です。

<フィニッシュについて>
そこで、フィニッシュの話になるのですが、この左サイドに人数を集めて崩してクロスという攻撃の形に課題がありまして、それは、ビルドアップや崩しに金崎、クエンカを要することによって、ゴール前でクロスを待ち構えるのが、義希、松岡などの決してヘディングがストロングポイントではないメンバーになってしまっていた点です。

彼らは、本来、フィニッシャーの役割ではなく、ビルドアップであったり、裏に抜けてクロスを上げたりと、どちらかというとチャンスメイクをこなすべきプレイヤーです。今回の攻撃パターン上、右サイドハーフやボランチがフィニッシュの役割を担わなくてはならず、彼らがゴール前でクロスを待ち構える形になっていましたが、フィニッシュの役割としては迫力不足でした。

当たり前の話ですが、ゴール前でクロスを待つメンバーが、松岡・義希よりもトーレス・豊田という方が相手にとっては恐怖の度合いが高まります。攻撃においても、配置が適材適所であるのかという事は重要であり、得点が入らないことを、「質的問題」という便利な言葉で片づけられないですよね。それこそ、選手の配置に関しては、監督・コーチの役割です。

その点を考えると、例えば、選手交代は小野(ヘディング強い)を右サイドにおいてフィニッシュの場面で活用する配置にしたり、ボランチを飛び込ませるならば谷口(ベンチに入っていませんでしたが。ヘディング強い。得点力高い)を起用するという選択肢もあります。

交代して入った小野とチョドンゴンは何を意図した上での起用だったのかも気になります。小野もチョドンゴンもチャンスメイク側に入ってしまったのでシュート0本で終わってしまいました。それではちょっと寂しいですよね。

原川に代えてチョドンゴンを入れることによって、サイドのスペースに侵入して起点となる動きを見せてくれましたが、彼もまたチャンスメイク側に回ってしまったばっかりに、ゴール前でクロスを待ち構えるという役割をこなすタイミングがなかなか来ませんでした。果たしてその役割を与えることが彼の能力やチームとして求めることを最大限達成できるのかという所ですよね。

<クエンカについて>
今回は、クエンカが初スタメンだったのですが、彼のボール保持も独特の空気とタイミングを持っているので、周りが慣れて動き出せるのには時間がかかるかなとは思いました。彼がどのタイミングでボールが欲しいのか、どの位置でほしいのか、どの状況であったらパスを出せるのか。

ただ、ボール保持と循環は彼が入ったことによって確実に質が上がっています。ネットワーク図を見ても明らかなように、ハブ空港のような役割を果たし、彼を中心にパスが展開されています。そのボール保持の質の高さをビルドアップの出口からの展開として使うのか、それとも高い位置でのラストパスで使うのか、そしてその場所はサイドなのか中央なのか、ある程度の約束を与えないと、彼の自由な動きで回りがついて来れず、チームとしてスペースを作る動きもボールを受ける動きもままならないように見えました。

怪我などの事情で仕方がないかもしれませんが、毎試合スタメンが異なるのは、お互いが特徴を理解するためにはデメリットとなります。選手間の動きを把握しているからこそ、個人のインスピレーションに合わせた攻撃が確立できることもあります。例えば、豊田がクロスではファーサイドに逃げる動き、中央では裏に抜け出す動きが多いというのを義希は知っているかもしれませんが、クエンカは知らないかもしれません。その動きを知っているだけで、パスを送り込むポイントが異なり、それはゴールの成功確率の違いにも繋がります。戦術だけではカバーできないことは、試合の中で培っていくしかありませんので、様々な選手を使えば使うほど、ある程度の期間はかかり、我慢が必要なのかもしれません。

<右サイドの連係について>
攻撃パターンといえば、右サイドは非常に良い崩しを企画しておりまして、金崎がハーフスペースに入り込んで、藤田から縦パスを受けて相手を背負ってボールを受けるシーンが何回か見られました。金崎が背負ったタイミングで、松岡も藤田も動き出すのですが、せっかく前を向いて走ってくる状態の良い彼らにボールを渡さずに、金崎自身がターンしてゴール前に入っていこうとするので、仙台のディフェンスにことごとくカットされていました。

例えば、仙台戦では、37分のシーンや45分のシーンなど、金崎が背負ってボール保持したタイミングで、(やや抜け方が悪かったですが)松岡も藤田も前を向いて抜け出せる位置にしっかりとランニングし、レイオフ(スイッチ)を狙って動き出すのですが、金崎からボールは出てきませんでした。これは、仙台戦に限ったことではなく、神戸戦でもFC東京戦でもそのようなシーンは多々発生しています。

おそらく、戦術のパターンがしこまれていないのでしょう。金崎のセンスでボールを引き出せる位置に入って受けるというところまでは対応し、松岡も自身の経験からボールを良い形で受け取れる状況を作り出そうとしているのですが、味方をどのように使うのかというところは、選手たちの即興に任されているため、良い動きをしても展開につながらないのかもしれません。もしくは、金崎が松岡、藤田を信頼していないか。

相手を背負って後を向いている選手よりも、前を向いてスプリントしている選手の方が、圧倒的にゴール前に近づける可能性が高いのですが、そこに対してボールをださないのには、チームとして、個人として何か理由があるはずです。

■ 仙台の守備


この試合での仙台の守備は非常にわかりやすくて、サイドバックにプレスがはまったらそのまま全体でプレッシング、はまらなかったらリトリートという、すごく単純でありながらも、選手全員の状況判断にミスが少ない形で対応していました。早めに先制点を挙げたので、無理をして前に出ていく必要がなくなったからというのもあるでしょう。ここで無理をしなくてよくなったために、ボールが奪える形にならないと判断したら瞬時に5-3-2ブロックを構えるべく全体がリトリートしていました。そのあたりの意思疎通が鳥栖の守備フェーズと異なったところです。最初の失点につながるパスミスも、仙台のブロックに対して有効な手が打てず、ブロックで構えられている状態の中、右サイドから左サイドへ大きな展開をしかけたところをカットされてしまいました。

■ 仙台の攻守の切り替え
この試合でもうひとつ語るポイントがあるとすれば、攻守の切り替えでしょう。とにかく、仙台は攻守の切り替えにおいてオーガナイズされていました。

<攻から守>
まず、攻から守の切り替えですが、鳥栖のゴール前でボールを失ったとしても、セカンドトップを中心として即座にプレッシングに入り、鳥栖のボール保持に自由を与えませんでした。鳥栖の今節の戦術である「ボールをつなぐ」というのがこのカウンタープレッシングにぴたりとはまってしまいまして、すぐにボールを蹴っ飛ばすならばプレッシャーにはまらないのですが、中途半端に保持してしまう(※)ので、奪ったもののすぐにボールを失ってしまうという事態が訪れてしまいました。

※ 守備の際のポジショニングがバラバラだったので、誰がどこにいるのか明確でなく、ボールを奪ってからのつなぎもデザインしきれていなかったのでしょう。

2失点目は、見た目にもわかるように、ガチャガチャの最終ラインであったにも関わらずつなごうとして、仙台の強いネガトラプレッシャーに負けてしまって原川のミスを誘発してしまい、仙台にプレゼントパスを送ってしまいました。

3失点目は、裏に抜け出したハモンロペスから秀人ボールを奪ったのですが、リャンヨンギのネガトラプレッシャーが強くてボールロストしてしまうところからスタートします。ここも、きっかけは仙台のネガトラのプレッシングなんですよね。その後、左サイドの石原がカットインして、ハモンロペスにボールを渡されてからの失点でした。

ちなみに、この時の石原の動きは非常に秀逸でして、ハモンロペスにボールを渡した後も右サイドのスペースに向けてスプリントしています。これで、三丸がハモンロペスに寄せるのか、石原が狙うであろうスペースを消すのか、一瞬迷いました。この迷いによってハモンロペスに寄せきれず、ブルシッチが抜かれてしまって失点してしまいました。いまの鳥栖に足りないのはこの動きなのではないかなと。

<守から攻>

仙台の守から攻への切り替えにおいては、鳥栖の攻撃パターンとポジショニングによるスペースを見事につく攻撃を繰り出していました。

前述のとおり、鳥栖のビルドアップが、左サイド重視であったため、時折ボランチがアウトサイドにポジションを移して仙台のブロックの外側にポイントを作ってからの崩しを企画していました。この仕組上、右サイドハーフがゴール前に顔を出してフィニッシュを狙うというところなのですが、全体が左サイドによっているために、鳥栖の右サイドに大きなスペースを生んでしまい、カウンターの場面でハモンロペスや石原が上手く抜け出して一気にボールを運ぶという形を作られてしまいました。攻守の切り替えのデザインに関しては、仙台の方が上手であったかなという印象です。

■ まとめ
局所、局所では、選手の個の質を前面に押し出してボールを保持し、また、数的優位を作り出してボールを前進することもできていました。足りないのは試合全体をどのようにデザインするのかというところでしょう。この試合で一番多くのシュートを放ったのが松岡の2本です。果たして、左サイドからのクロスを松岡が合わせることがこのチームの狙いなのでしょうか。

スタートダッシュに出遅れたことを考えると、将来を見越したシステム、将来を見越した選手起用という余裕が徐々になくなってきています。「やりたいサッカー」という大げさなものでなく、ただ、単純に、いまのサガン鳥栖のメンバーではどのようなサッカーがいちばん生産性に優れ、どのシステムを起用し、どこに配置したら選手達の能力が最大限発揮できるのかというデザインにプライオリティをおいてほしいです。誰にどの役割を任せたら良いのか、誰がどんなプレイが得意なのか、そこは、監督、コーチだけでなく、選手たちも意見を言い合って、チーム全体としてよく考えてほしいですね。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え
ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ
ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側
ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央
アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側
リトリート ・・・ 自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き
レイオフ ・・・ ポストプレイからの落としのパス
オーガナイズ … 組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事
  

Posted by オオタニ at 17:15Match Impression (2019)

2019年04月03日

2019 第5節 : 横浜F・マリノス VS サガン鳥栖

2019シーズン第5節、横浜F・マリノス戦のレビューです。

サガン鳥栖のスタメンは、今節出場停止の祐治に替わってブルシッチがセンターバックに入り、出場停止明けの秀人がボランチに入りました。前節怪我で途中交代したトーレスは今節欠場。豊田が久しぶりのスタメンに入ります。セットアップは3ラインをフラットに並べた4-4-2です。
好調の横浜FMもスタメンを変更し、怪我から復帰の松原が右サイドバックに入り、広瀬が左サイドバックに回ります。ゴールキーパーはJ1リーグ戦初出場の朴が入りました。セットアップは4-1-2-3です。

■ 鳥栖のゲームプラン
記憶にも新しい、2018シーズンホーム最終戦のマリノスとの戦い。あの試合は、セントラルハーフも前線にあげてプレッシングに参加させるという積極的な守備で横浜FMのビルドアップを窒息させ、横浜FMが狙うボール保持を徹底的に阻止する守備組織作りに成功。先制点を許したものの、試合のイニシアチブを握りながら試合を進めていった結果、トーレスの逆転ゴールという劇的な勝利をつかみ、残留を大きく引き寄せた試合となりました。

横浜FMは昨シーズンと戦術的な方向性は変わらないということで、鳥栖が前年の試合と比較してどのような戦術で試合に臨むのか…というのはカレーラス監督のサッカーを把握する良いポイントだと捉え、以下の点に着目してみました。サガン鳥栖サポーターはハードワークをモチーフとした前線からの全力守備が好きですから、特に①に関しては大いに気になるところではありました(笑)

① チームとしてどの位置でプレッシングをかけるのか(セントラルハーフはどの時点で高い位置へ出ていくのか)

② 鳥栖は最終ラインにどの程度の人数をかけるのか。(相手に合わせて人数をそろえるのか、ゾーンでスペースをコントロールするのか)

③ 攻撃のプランニングはどのような形を取るのか。カウンターやロングボールで早い攻撃を仕掛けるのか、ボールを保持してショートパスで崩すのか

ゲームプランとしては、
「横浜FMの組織構造の変化(ビルドアップ時のシステムの変化)によって生まれるスペースを攻撃時に活用するべく、ミドルサードで守備の網にかけてボールを奪うと同時にサイドのスペースに飛び出してカウンターをしかける」
というものでした。

ポゼション率だけを見ると横浜FMがイニシアチブを握っているように見えますが、鳥栖にとってはボールを渡すことと引き換えに自分たちの狙いたいスペースを作るということもあり、ある程度は想定していた展開ではありました。大袈裟に言えば、昨年のワールドカップでドイツ代表を破ったメキシコ代表のような戦い方ですね。

相手がミドルサードからディフェンシブサードに入ってくる際に、後ろを重くして構えるのではなく、中盤と最終ラインをコンパクトにしてスライドしながらボール付近のスペースを圧縮する守備を選択しました。これには、ポジトラ時に両サイドハーフの原川と義希がサイドのスペースに飛び込んでいく事を想定し、可能な限り前線に出ていくための距離を短いものにしようとする意図が見えました。

後半からは少し前からプレッシングを始めるような変化も感じられました。昨年の試合のように、センターバックからボールを受け取る選手(主に中央に絞ったサイドバック)に対してセントラルハーフが前にでていってプレッシャーをかけ、セカンドトップに入ってくるボールをインサイドハーフでかっさらうという形も見えだしました。前半に拮抗状態を作った上で、後半にしかけるというプランは最初からあったのかもしれません。

原川から松岡への選手交代は、体力の低下という所もあるでしょうが、サイドハーフのタスクを前線からのプレッシングとボール奪取に変化してきたこともあったのでしょう。ただし、この形を取ってしまうと、中央にスライドするサイドバックに対してサイドハーフが着くため、横浜FMのウイングへのパスコースが空くことになり、終盤はそのあたりで少し苦労しました。終盤、遠藤、マルコスがしかけるシーンが増えてきたのは、このあたりの影響もあるでしょう。

前半のスライド守備、そして後半の更に前への圧力をかけていく守備という、体力を使ったツケは必ずやってくるものでありまして、コンパクトを維持していた中盤も徐々に出足が遅れ始め、最後は横浜FMに押し込まれる展開となりましたが、大久保の好セーブなどもありなんとか無失点を保つことができました。

■ カレーラス監督の選択
カレーラスサガンは、開幕から試合に応じて戦術を変えており、そのすべてが異なるゲームプランでの戦い方となっています。

金崎をリトリートさせて5-4-1ブロックで最終ラインの数的優位を作って守備重視で構えた名古屋戦。

4-4-1-1で、イニエスタをドイスボランチで見させ、プレッシングのトリガーという大事なタスクをトップ下の松岡に与えた神戸戦。

4-4-2によるミラーゲームで膠着試合に持ち込み、終盤のクエンカの途中投入によって攻撃のスイッチを入れてしかけようとしたFC東京戦。

4-4-2から、ビルドアップで福田を最終ラインのフォローとして活用して左サイドからの崩しを重視した攻撃と、相手ボランチの位置でボールを奪う守備の仕組みづくりを確立した磐田戦。

そして、ボール保持を許しながらも相手のシステム逆手に利用するべく、攻撃も守備もスペースコントロールを重視した横浜FM戦。

結果は伴わずとも、相手チームを分析し、自チームの選手の状態を把握し、配置と動き方で優位に立つべく戦術を組み立て、何としても勝ち点を取ろうとする戦いは見ていてなかなか面白いです。もう一度言いますが、結果は伴わずとも(笑)

サッカーは相手あってのことですから、相手に応じた戦い方を選択するのは大事です。ただし、戦術を相手の戦い方に合わせるだけだと相手の出方に左右されてしまう(相手が準備してきた事と異なるサッカーをするとその試合のプランニングが崩れてしまう)ので、それだけは気を付けなければなりません。そのためにも、早く、ベストメンバーがそろって、サガン鳥栖としての新しいサッカーを確立してほしいですね。退場してからが本番!みたいなサッカーは是非とも勘弁してほしいですが(笑)

イバルボ、小野、クエンカ、トーレスなどなど、主たる選手たちが戻ってきたら、本来自分たちがやりたかった4-3-3システムでの試合に切り替えるのかもしれません。そこは、カレーラスさんがどういうプランを描いているかというところでしょうが、まだそのあたりは見えてきませんね。ポジショナルプレーをやりたいという記事も見ましたが、5レーンを意識したポジショニングはいまのところまだまだ発展途上のようです。むしろ、マッシモさんの時代のほうがその配置は見えてたような(笑)

とにかく、自分たちのやりたいサッカーを確立するためには、例えリアクションサッカーになったとしても、早めにある程度の勝ち点を獲得したい所ですよね。残留という最低限の結果は確保しなければなりませんから。

■ 鳥栖の守備


鳥栖は、横浜のビルドアップに対して慎重なポジショニングを見せながらも、しかしながらアグレッシブに相手を追い込もうとする守備組織でこの試合に臨みました。

センターバック2名に対しては、豊田と金崎がプレッシャーをかけますが、相手陣地までどこまでも追いかけて奪おうとするプレッシングではなく、ミドルサード付近で構えていておいて、アンカーの喜田へのパスコースを抑えながら、相手センターバックが持ち出したときにサイドに誘導する形の動きを見せていました。マリノスの配給の肝は喜田ということで、彼へのパスコースを遮断し、スペースを圧縮しながらアウトサイドに追いやろうとするプレッシングです。

マリノスがむやみやたらにロングボールを蹴らないということが分かっているので、低い位置だったらセンターバックに自由を与えても問題ないという意図もあったかと。喜田の位置を気にするため、必然的に金崎、豊田が中央に位置することになり、その脇のスペースを使われやすい状況下にありましたが、豊田も金崎も横パスに対して連携し、しっかりとスライドしてプレッシングを仕掛けていました。

中盤は4人をフラットに並べてコンパクトな陣形を取ります。セントラルハーフが見張るのは、中央に絞ってくるサイドバック2人と、セカンドトップの2人。縦横無尽に動くマリノスのセントラルに対して、なるべくサイドに開いていく人に引っ張られず、スペースを意識して4人が連係して網にかける動きを見せていました。マリノスがポジションチェンジを繰り返す中で、人の動きとボールの動きの双方を見ながら対応しなければならなかったため、非常に難しい対応を迫られましたが、しっかりと対応できていました。

横浜FMのビルドアップ隊が金崎、豊田の網を掻い潜ってドリブルで上がってきたとしても、セントラルハーフが焦って突っかかる事はせず、そこに突っかかることによって、喜田や天野、三好、更には仲川やマルコスにパスが渡るスペースを空けてしまうくらいならば、むしろ放っておくという選択が見えました。網に入ってくるまでの我慢の時間ですね。

マリノスのサイドバックも中央に絞るだけではなく、時折横幅を取ってウイングとの縦関係を築いて鳥栖の守備に揺さぶりをかけていたのですが、鳥栖としてもどこまでサイドに寄せていくかというのを全体で調整しながらポジションをコントロールしていました。この寄せ方を間違えると、セカンドトップにいい形でボールが入ってしまうので、ポジショニングにはホント神経を使ったと思います。

マリノスとしては、ラストパスを送り込む局面としては、仲川やマルコスがサイドの局面で相手と1VS1を迎えるシーンを作り、デュエルで打ち勝って中央へしかける形を作りたかったでしょうが、鳥栖はマリノスウイングについては必ずサイドバックが見張り番としてついており、三丸、原が、仲川、マルコスを抑え込むという、与えれたタスクをしっかりとこなしてくれました。

■ マリノスのチャンスメイク



2018年の伝説(←勝手に伝説にしている(笑))のマリノス戦では、ビルドアップでは中央にポジションを取っていた松原が、ゴール前ではウイングの仲川のアウトサイドをオーバーラップすることによって、鳥栖の守備の軸をずらしました。その動きで空いたスペースにセカンドトップの大津が飛び込み、クロスを折り返し、失点を喫しました。

この試合でも、松原、広瀬、三好、天野のポジションチェンジによって鳥栖の守備陣に数多くの問題を提起していました。サイドバックの松原、広瀬は中央への絞り込み一辺倒ではなく、サイドハーフを動かすためにアウトサイドにポジションを取る動きをとりましたし、天野、三好も引いてボールを引き出す動きで鳥栖の中盤を動かそうとしていました。

図は、三好の動きによってマーキングをずらされてしまい、ちょうどセンターバック、サイドハーフ、サイドバックの間のスペースを狙われてしまったシーンなのですが、ここは大久保の好セーブとディフェンス陣の戻りによって何とか失点を防ぐことができました。サイドバックとサイドハーフが出て行ったときに、このスペースを誰が埋めるのかというのは今後の課題でしょう。セオリーで行くとセンターバックがスライドするべきであるのでしょうが、カレーラスさんは強いセンターフォワードに対しては数的優位で抑え込む(開幕戦のジョーへの対処のように)というフィロソフィーがあるかもしれないので、もしかしたらボランチのタスクだったのかもしれませんし、そもそもサイドハーフが出て行ってはいけなかったシーンなのかもしれません。チームオーダーをしっかりと共有しなければならないですね。

■ 鳥栖の攻撃


パスネットワーク図を見ても分かるように、磐田戦に比べるとパスの成功本数そのものがかなり少ないです。ターゲットとなる豊田や空いたスペースを見つけたらそのスペースめがけて素早いボールの送り出しによる攻撃を仕掛けていたので、パスそのものの成功確率もショートパスを繰り返すよりは下がっています。

横浜FMが、前線3枚+セカンドトップ1枚を利用した高い位置からのプレッシングを仕掛けてくる点、鳥栖がボランチを1枚下げたとしても、もうひとりのセカンドトップがプレッシングに行けるのでマーキングされやすい点より、不用意にボールを失うよりは、豊田というストロングポイント目がけてボールを蹴り込むというスタイルを取りました。実際、最終ライン間のパスもゴールキーパーを利用したパスも、磐田戦に比べると格段と低い数値となっており、ビルドアップによる攻撃は指向していなかったことが分かります。

鳥栖の守備として、前線から追いまわすのではなく、ある程度マリノスがビルドアップの形を作るまでプレッシングを待ち合わせたのは、ポジションを中央に絞ってくる両サイドバックの裏のスペースを活用したいため、相手がその形を作るための時間を確保したからでありました。

ボールを奪ってからのターゲットは、基本的には中央にポジションを取る豊田と金崎。彼らにボールを預ける事によって、まずはセンターバック2人のポジションを中央に引き寄せます。その隙に、両サイドハーフがサイドのスペースめがけてランニングを始めます。中央でボールを受けたフォワードが、サイドハーフが入るスペースめがけてボールを送り込むと、マリノス陣地の奥深くまで入り込むことができるという算段でした。

プレッシング後のポジションなどによって、サイドのスペースに金崎、豊田が入ってくることはありましたが、基本的には中央にポジションをとっていました。豊田がサイドに開いてボールを受けたとしても、サイドハーフが上がってくるスペースをつぶすことにもなり、豊田はボールを受けてからカットインしてシュートや、縦に入ってクロスなどのプレイをする選手ではなく、その後の展開を考えても出来るだけ中央に待ち構えていた方が良いという判断でしょう。金崎に関しては、その時々に応じてプレイしておりましたが、中央を抜けかけたシーンがあったように、金崎もカウンターのメインポジションは中央でした。

■ 鳥栖のチャンスメイク



図は、秀人が良い形でボールを奪ってから、金崎に預けてそのタイミングで義希と原川がサイドのスペースに上がっていったシーンです。このシーンでは、金崎からボールを受けた原川が左サイドで起点を作って中央にカットインし、中央で時間を作ってくれたおかげで原がオーバーラップすることができ、逆サイドへの展開を見せてくれました。原のクロスは惜しくもシュートに結び付きませんでしたが、この試合の狙い通りの攻撃だったかと思います。惜しいシーンはたくさん作っていました。

ただし、いかんせん、義希も原川もウイングタイプの選手でないだけに、サイドでの1VS1をかわし切ってクロスというところまではなかなか到達できず。図の後のシーンのように、三丸や原のオーバーラップという援護があってこその攻撃だったので、サイドバックが上がってくる頃には、マリノスもしっかりと戻ってきて最終ラインを固めていました。古き時代のオランダ代表のように、オフェルマウスに預けておけば、彼がぶち抜いてクロスを上げ、そしてクロスの先はクライファートがいるという、どうしようもない程に個の質を生かせる攻撃も見てみたいのですが、そうなってくるとサイドの守備をどうするのかという問題がでてきます。ただ、クエンカやイバルボがサイドをぶち抜いて、中央にトーレスや豊田がいるというのは、夢はありますよね。個の質を持ち合わせているというのは、ホント夢があります(笑)

マリノスは、ツートップを残す豊田と金崎のコンビネーションや、攻撃の布陣によって与えてしまうスペースを狙われていたのですが、失点しそうなシーンまでには至らず、大きなピンチを迎えそうなシーンであっても、最終的にはセンターバック2人で守り切ったような形となりました。早くて、高くて、強いセンターバック(それに加えて畠中はビルドアップもうまい)がいるというのはチームとしてのかなりの強みでありまして、人数を確保しなくても守りきるだけの力があるというのは、それだけ攻撃に人数をかける事が出来るという事でもあります。古き時代のオランダ代表が、全体が攻撃に上がりきってしまってもセンターバックのスタム、F・デブール、そしてゴールキーパーのファンデルサールだけで守り切ってしまうという恐ろしく守備範囲の広い姿が印象に残っていますが、チアゴ・マルチンスが金崎に追い付いてボールをカットしたシーンはまさにそのような姿を彷彿とさせていました。

■ まとめ
狙っているサッカー、思い描いたサッカーができたとしてもそれが結果に伴わないこともあります。狙っていないサッカー、自分たちの思いとは異なるサッカーでも、思いがけず勝ち点を取れることもあります。そして、サポーターのみなさまも、サガン鳥栖にはこういったサッカーをしてほしいという想いをひとりひとり持っていらっしゃる事でしょう。ただ、共通したみんなの願いは、勝ち点3を積み重ねて、年末に笑顔でシーズン報告会を迎えることですよね。

今回の試合がみんなの想いにマッチした試合なのかはどうかは皆様の胸の中で考えていただくとして、結果として勝ち点1をとれたことは、監督、選手のメンタル的にも非常に良かったのではないでしょうか。個人の質の部分がでてしまう部分は仕方ないとして、組織として準備してきたことを試合という本番の中で発揮できた事は、今後のチームの成熟につながっていきますし、監督・コーチへの信頼にもつながります。戦術を遂行しても結果が出なかったときに生じる、監督・コーチへの不信感が一番怖いですしね。

■ 余談
別に、例えるのはこの時代のオランダでなくても良かったのです。アザールが抜いてルカクでも、C・ロナウドが抜いてベンゼマでも、一人で守るのはセルヒオ・ラモスでも、ゴディンでも、誰でも良かったのですが、ただ、この時代近辺のオランダが好きってだけでそうなっちゃいました(笑)

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

トランジション ・・・ 攻守の切り替え

ポジトラ ・・・ ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ

ディフェンシブサード ・・・ フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

ミドルサード ・・・ フィールドを3分割したときの中央

アタッキングサード ・・・ フィールドを3分割したときの相手ゴール側

  

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2019年03月23日

パスネットワーク図を用いたFC東京戦とジュビロ磐田戦との比較

試合分析手法の一つである、「パスネットワーク図」なる情報を入手し、さっそく、当Blogでも作図してみました。
分析対象は、FC東京戦の前半と、ジュビロ磐田戦の前半です。
双方ともに4-4-2のシステムでのセットアップであった点、ボールポゼション率がほぼ同じである点ということでピックアップしました。
ただし、後半は退場者がでて選手交代やシステム変更などで比較対象とするのが難しかったため、前半同士の比較とさせてもらいました。

※ 筆者、人事異動で超多忙なプロジェクトにアサインされ、決して暇を持て余している訳ではないことだけは記載しておきます(笑)

■ FC東京戦(前半)



■ ジュビロ磐田戦(前半)


■ パスネットワーク図から見えたもの
(1)FC東京戦
フォワードへ直接入るパスが少なく、フォワード間のパスも少なくなっています。フォワードに入る矢印の中では、大久保からトーレスへのパスの矢印が濃くなっています。前線がゲームメイクに寄与できず、最終ラインからのボールの前進が上手くできずに長いボールを使わざるを得なかった事が分かります。チョドンゴンがポストプレイで寄与していたかと思っていたのですが、ボールを受けた回数はトーレスとさほど変わりありません。チーム全体として、FC東京の守備に変化を加えるような動きがあまりできていなかったのかもしれません。

秀人は最終ライン近くにポジションを移してポゼションをとり、ボール回しの中心となっていましたが、なかなか前方向へのパスが出せていません。ボールの巡回で明確なルートが見えず、最終ライン間でのパス交換は出来ているものの、思うように前進が図れなかった事を示しています。

金崎と原のパス交換が多くなっています。チームとしては右サイドを使った攻撃が有効であったことを示します。しかしながら、金崎からフォワードや義希にボールが入っていないので、やはり金崎の単騎突破や金崎からの長いボールに頼っていたことが分かります。

三丸から松岡へのパスが入り、そこからトーレスへのパスへと繋がっています。松岡はボールの中継点としての役割があったのでしょうが、彼に入ってくるボールそのものも少なく、攻撃に対する寄与はあまりみられませんでした。(対峙するのが室屋、久保というのも厳しかったかもしれません)

(2)ジュビロ磐田戦
福田、藤田、三丸のボール回しが中心となっており、左サイドからの突破を図っていたことが分かります。

金崎は15回もパスを受ける事に成功しており、その多くが三丸、福田という比較的後ろにポジションを取った選手から直接ボールが入ってきています。サイドハーフから直接金崎にはボールが入っておりません。実際の試合でもそうだったのですが、松岡、原川が磐田のサイドハーフ(もしくはサイドバック)を引き連れていて、金崎が入り込むスペースづくりに寄与したことが分かります。

パスの循環としては、

① 藤田 ⇒ 福田 ⇒ 三丸 ⇒ 金崎 ⇒ 原川 ⇒(オーバーラップした)三丸

② 藤田 ⇒ 福田(義希) ⇒ 原川 ⇒(オーバーラップした)三丸

という形作りが出来ていたことが分かります。三丸は、この試合、前半だけで7本ものクロスを上げていますし、左サイドの崩しとしては、良い攻撃ができていたと思います。

藤田から右サイドに出ていくボールはありますが、右サイドから戻ってくるボールはほぼありません。左サイドを中心とした攻撃であったため、そこから右サイドに展開すると、磐田の守備ブロックで阻害されることなく(ボール保持のために左サイドに戻す事なく)前進できていたことが分かります。(本編でも、磐田フォワードのスライドとアダイウトンの守備について触れています)

右サイドは、原から松岡へのパスはありません。原と松岡の連携による右サイドの崩しはできていませんでした。実際の試合でもそうだったのですが、原がボール保持したタイミングで松岡が動き出して相手サイドバックを引き連れていき、原が余裕を持って前を向けたために早めに長いボールをゴール前に入れていました。右からは早めに入れろという監督の指示だったのかもしれません。

鳥栖が左サイドから攻めていたのは、左サイドでボールを奪われたとしても、アダイウトンから遠いサイドのために、カウンター攻撃を受ける可能性が低かったからこその選択であった可能性も伺えます。松岡のタスクとしては、攻撃に寄与するよりは、アダイウトンを自由にさせないためのキープレイヤーハンターであった可能性もあります。

(3)両試合の比較
相手チームの守備の強度は頭にいれておかなければならないので、一概には言えないのかもしれませんが、ジュビロ磐田戦の方が、攻撃に関する特徴がしっかりと出ていて、自分たちが思い描く攻撃がある程度実現できていたのかなと思いました。

金崎に関しては、あらゆるところに顔をだしてボールを引き出す動きを見せてくれるため、サイドハーフで動きを制限させるよりは、中央に配置して左右のどちらのスペースででもパスコースを作る役割を果たしてくれる方が、チームとして機能していました。

松岡はどちらの試合ともにボールタッチ回数が少なくなっています。味方のスペースを作るためのランニングや、相手ボール保持時・ネガトラ時のプレッシングのタスクが与えられているのではないかと思われます。ただ、ジュビロ戦では金崎から彼に多くのボールが入ってきていますし、良い位置に飛び込めば、周りが見える金崎からはボールがしっかりと出てきます。アシストやゴールに繋がるプレイもそろそろみられるかもしれません。

■ パスネットワーク図を作った感想
このパスネットワーク図はExcelを用いて作図しました。その上での感想です。

・ パスをカウントするのはそこまで苦じゃありませんでした。試合は何度も見直すので、その中でカウントしていくのは特に大変な作業ではありませんでした。ただ、解像度が悪いと、サガン鳥栖の選手は分かるのですが、相手チームは誰が触っているのかわからないので、相手チームの分析は困難だなと思いました。

・ 時間、選手交代(退場)、システム変更などの戦況の変化のどこのタイミングで集計を区切ったらよいのかが迷いました。最初は15分おきなどで集計していましたが、ある程度の時間を重ねないと傾向が分からなかったです。

・ 最初にテンプレートを作ることが苦労しました。グラデーションの色をどのようにしたら見やすくなるかというところに気を使いました。他の方の作図みたいに色で分けようとしましたが、どの色が回数が多いパスなのか覚えるのが大変だったので、私は同一系列の色(青色)で表現することにしました。

・ 他の方が作られる図は、パス出しの数量が多いと選手オブジェクトを大きくしたりされていましたが、セルの結合で大きさを変える事に限界があったので、枠線の色で表現するようにしました。それなりには見やすいかと(笑)

・ パス出し数、受け数をネットワーク図の中で記載した方が、どの選手がどういった活躍度合いなのかが参考になるかと思ったのでアレンジしてみました。

・ 矢印を書いていく中で、油断すると(コーヒー飲んだりすると)、ふと図に戻った時に、どこまで書いたのかあっというまに分からなくなるというリスクがあります(笑) カウント表をチェックシートとして用いながら作図しました。

・ データとして見ると、やはり頭の中でイメージしていたことと現実は異なるなということを感じました。インパクトのあるプレイが一回あると、そのプレイが頭の中によぎるので、再現性を認識するにあたっての阻害要因になっていることがわかりました。正確なデータと正確なデータ解釈はやはり大事です。

・ 思ったよりも大した手間ではないですし、今後も分析のひとつの情報源として、できればパスネットワーク図は作っていきたいかなと思いました。

・ Excel大好きなので、単純に楽しかったです(笑)
  

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2019年03月21日

2019 第4節 : サガン鳥栖 VS ジュビロ磐田

2019シーズン第4節、ジュビロ磐田戦のレビューです。

シーズン7連敗しても、開幕3連敗しても、どれだけつらい時期が続いても、一つのゴールの歓喜、一つの勝利の感動を味わうために我々はサッカーを見続けていることを思い出させてくれました。クエンカのゴールが決まった瞬間、駅前スタジアムがつんざくばかりの歓声で大きく揺れました。苦しい思いで我慢してきたからこそ、その反動で感情が爆発したのでしょう。

サガン鳥栖の2019シーズンがようやく開幕しました。

今シーズンに入って毎節変わるサガン鳥栖のスタメンは、秀人の出場停止もありまして今節も変更。福田は今季初スタメン、原川が久しぶりのスタメン復帰、スタメン落ちしたチョドンゴンに替わって金崎がトップの位置に入ります。システム的にはFC東京戦と同じく4-4-2でのセットアップです。

対する磐田もなかなかスタメンがはまらない模様。前節の大分戦での大南の退場による出場停止もありまして、4名を入れ替えての試合となりました。セットアップは4-2-3-1(4-2-2-1-1)での試合です。

■ サガン鳥栖のボール保持(磐田の守備の問題点)
序盤の激しいプレッシングの中のトランジション合戦が続き、鳥栖はトーレスへの長いボールのこぼれ球から、磐田は川又の落としからいくつかチャンスを作りましたが、決定的なチャンスを作るまでには至らず。互いの守備組織が整い、トランジション合戦も落ち着いて来た頃、ようやくサガン鳥栖がじっくりとボールを保持できる時間がやってきました。藤田、祐治へ川又、大久保をぶつけてくる磐田に対して、福田が最終ラインへポジションチェンジしてパスを引き出します。ボールの配給はそこからスタートしました。

鳥栖が主に用いたボール前進の仕組みは下の3つのパターンでした。

<鳥栖の攻撃>
① サイド大外(サイドバック)、ハーフスペース(サイドハーフ)、中央(ボランチ)のコンビネーション(トライアングルでのパス回し)でスペースを作り、そのスペースに金崎を飛び込ませる。

② サイドチェンジによって遅れる磐田のスライド守備のスペースを使い、サイドハーフ、サイドバックが前進する。

③ トーレスへのロングボールによるボールキープ及びセカンドボールの奪取

攻撃としては、原則的には両サイドの幅を取りながら、サイドチェンジを多用して空いたスペースを狙っていくという、今シーズンのサガン鳥栖の狙いに沿ったものでした。これに対して、磐田は前線から積極的にプレッシング守備を行うのですが、鳥栖の攻撃の自由を奪うことがままならず、いくつかの問題が発生しておりました。

<磐田の守備の問題点>
問題A 前線の守備パターンが確立されていないため、2列目のプレッシングの連動が難しく、スペースを与えてしまう


鳥栖のビルドアップは、最終ラインでのプレッシングを回避するために福田を下げるのですが、磐田は鳥栖の福田を使ったボール保持に対して積極的なプレッシングを選択します。しかしながら、守備のトリガーとなる川又、大久保のプレッシングのターゲットが明確に定まっておらず、ボールを保持される状況に対して、前線2人の動きがボールの行方に任せた動きとなってしまい、彼らが制限するべきエリアがどこなのかというところが曖昧なままのプレッシングが敢行されていました。

磐田の2列目にとっては、自分の目の前の誰が空くかが分からないという難しい状況の中ではありましたが、前からプレッシャーを与えるという哲学は有効であるため、サイドハーフが列をあげたり、ボランチが列を上げたりと工夫を繰り返しながらビルドアップ阻止に向かいますが、なかなか全体が連動せず。

特に、上原は積極的に上下動を繰り返していたのですが、コンビを組む田口は中央のスペースを守るロールを与えられていたのか、全体を圧縮するべきタイミングでも思いきった動きができず、ボランチ周りのスペースに対するケアがチームとして手薄になるケースが散見されていました。

問題B サイドチェンジされるとフィルターがかからずにフリーで前進されてしまう


前線のプレッシングはもうひとつ問題があって、川又、大久保がプレスをかわされたときの次のアクションに対する動きが遅れ、即座にプレッシングの2度追い(もしくはボール方向へのスライド)に繋がっていない状況が発生していました。よって、左サイド(藤田のサイド)でボールを保持しておき、そこに磐田の前線を集中させて、ボールを右サイド(祐治のサイド)に展開する事により、祐治がフリーで前を向いてパスコースを探すケースが増えました。

鳥栖の右サイドのボール保持に対して、アダイウトンもプレッシングを行おうとするのですが、大外に控える原と松岡に流せば、容易に前進できる状況を作り出すことが出来ますし、アダイウトンがそのパスコースを消そうとステイしたならば、祐治は逆サイドの三丸へのサイドチェンジを送り込む事ができました。アダイウトンの動き方を見るに、4-3-3プレッシングのように見えなくもなかったのですが、アダイウトンの背後の守備が整理されていなかったので、アダイウトンの個人の判断なのかなと。

磐田としては、A、Bの問題によって、人数がしっかりと揃わないまま、統率されていないプレッシングを敢行することにより、サイドバックの裏やボランチ回りのスペースを空けてしまうケースが発生してしまいました。鳥栖は特に左サイドでのボール保持が優勢で、原川、義希、三丸のトライアングルのパス回しに、金崎、トーレス、福田が参画してパスコースを作り、磐田がうまくかみあわせきれない状況を利用して、アウトサイドが空くという状況を作り出して、序盤から原川のシュート、三丸のクロスというチャンスを作り出していました。ひとつでもハマれば先制出来ていたのですが、最後はカミンスキーの好セーブなどありまして、磐田としては中盤(サイド)を崩されながらも最終ラインでなんとか耐えながら前半を凌ぎきった形です。

後半になって体力が落ちてくると、連携がとれないながらもなんとか体力勝負で耐えていた磐田のプレッシング強度も徐々に影を潜めてきます。少しずつオープンな展開になってきたところで、新たな問題が発生します。

問題C サイドにボールを追いやるものの、そこから中央に誘導できずに縦のパスを入れられてしまう

サイドにボールが入った時に、サイドハーフ、サイドバックが寄せては行くのですが、その強度が徐々に落ちてきて、縦へのパスコースを消せなくなってきました。磐田はいったんサイドバック(もしくはサイドハーフ)にボールを誘導し、そこで圧迫を受けることによって中央に戻したところを上原や田口がボールを刈るという形を取りたかったでしょうが、サイドの縦を切る守備が甘く、そのまま縦にボールをつながれてしまう状況が増えてきました。

縦に対するボールが入るようになると、前述のA、Bの問題によって空けたサイドバックの裏のスペースに入ってきた金崎にボールが入るようになってきます。当然、ボールを保持する金崎に対するケアが必要となり、磐田のセンターバックが持場を離れてサイドに出ていかなければなりません。これにより、金崎がサイドの深い位置でセンターバックと対峙するという仕組みを作り出すことができました。前節までの「サイドの低い位置でスピード勝負」から「サイドの高い位置でレスポンス勝負」へと、金崎にとってはデュエル勝利の確率があがる土台に持っていく事ができました。

■ 鳥栖の守備
(1)原と松岡のプレッシング
磐田のボール保持も田口(もしくは上原)を利用して循環させる形でした。鳥栖と異なったのは、磐田のボランチは、最終ラインになるべく落ちずに角度を作って鳥栖の1列目の前でボールを受けたいという狙い。1列目の前で受けてサイドバックを経由してアダイウトンという磐田のストロングポイントへのパスコースを作り、サイドから仕掛けていこうという形でした。

鳥栖の守備は、アダイウトンに対して松岡をマッチアップでぶつけます。磐田のサイドバックに鳥栖のフォワードが着いた場合は、松岡がアダイウトンの所で待ち受け、フォワードのプレスが間に合わない場合は、松岡がボランチへのパスコースを消しながらサイドバックを追い立て、縦にボールがでたところで二度追いとなるプレスバックで原と共にアダイウトンを囲み込みます。

彼のストロングポイントはアジリティを生かしたプレッシングの速さ。テクニックを持つプレイヤーがそのテクニックを披露する時間もない程に素早いプレッシングで攻撃を阻害することによって、自由を制限しました。アダイウトンに当たり負けないプレッシングは、17歳のそれとは思えないほどの力強さを感じました。彼の、例え相手がイニエスタであっても物おじせずに激しくぶつかっていくメンタルの強さは、サガン鳥栖の魂のハードワークの後継者として素晴らしい素質を兼ね備えていますよね。

原と松岡がアダイウトンを意識している守備をしていることによって空く、彼らの裏のスペースを狙う選手がいなかったので、鳥栖としては楽だったかなと思います。川又や大久保が執拗にアダイウトンの作る縦のスペースに入ってくるようになると、鳥栖が守備の基準を変えなければならない事態が訪れていたかもしれません。

(2)ネガトラ対応の速さ
福田と義希との役割分担は、攻撃でスペースに飛び出していくのは主に義希で、ビルドアップで最終ラインのケアをするのは主に福田が担っていました。これによって、鳥栖の攻撃時に、福田が最終ライン(もしくはその1列前)で磐田がカウンターの起点を作ろうとするところで、福田がすぐにプレッシングに入る状況を作り出していました。鳥栖がサイドバックを高く上げる攻撃で最終ラインが薄くなるというリスクはあったのですが、そのリスク管理は、センターバック2人の前にカウンターのフィルターとして福田をおくという形でマネジメントされていました。福田のスピードによって素早くプレッシングをかけ、攻撃の芽をつぶすことに成功したシーンは何度となく訪れていたかと思います。

また、松岡のプレッシングの速さも、磐田のカウンター防止にも大きく貢献しておりまして、松岡もボールロストと共に高い位置から磐田にプレッシャーをかけ、カウンター攻撃の芽をつぶすことに成功していました。彼らのアジリティという個人の質があってこその守備組織ではありますが、山田、アダイウトンにボールが入る前に、ボールの出所をつぶす守備によって、守備組織を整える時間を作ることに成功していました。

(3)フォワードのプレスバック

鳥栖のプレッシングは前線から追い回す形ではなく、ミドルサードのやや高い位置でブロックを構えながら、無理せずにプレッシングに入る守備で対応していました。フォワードは、どちらかと言うと、ビルドアップのパスの出先をしっかりと押さえるという形でありまして、トーレス、金崎は磐田のセンターバックから直接川又や大久保にくさびが入らないように注意しながら見張ると言う役割を果たしていました。

センターバックは比較的難しくない状況で、田口、上原にパスをつける事は出来るのですが、鳥栖は、ブロック守備の中で、ボランチからのパスコースを制限し、そこから先の展開に少しでも迷いが生じた場合は、フォワードのプレスバックで狭い網の中でパスを出させ、そして少しでも甘いコースに来たならば出足鋭くボールを回収するという仕組みの守備をしておりました。磐田は、田口と上原がボランチ二人のコンビネーションで崩すという形がなかなか見えず、上原が上下動を繰り返す運動量豊富な動きを見せていたのですが、中盤で人数不足が発生するという、若干逆の弊害がでてしまったシーンもありました。

(4)磐田の単調な攻撃パターン
磐田としては、サイド攻撃でアダイウトンや山田がペナルティエリア付近までボールを運んだ際に、選択肢がカットインしてシュートというパターンしかなかったのが、決定的チャンスにつながりづらかったところでした。サイドバックがインナーラップしてくるので、大外を使うという形を作れず、アダイウトンの仕掛けに対して鳥栖の守備が中央に密集してくる状況を作り出し、自らシュートコースを狭めていく中で、強引なシュートに持って行かざるをえませんでした。それは、川又や山田、大久保がボールを持っても同様で、ゴール前でボールを受けてからの変化を付ける事が、なかなかできなかったですね。

磐田には外からクロスをあげると川又と言う武器もありますし、スペースにしっかりと飛び込むことができる大久保という武器もあります。川又は中央からディフェンスラインの裏に抜ける動きを何度も見せていました。ただし、磐田は川又を上手く使えずに、ゴール前に進むにつれて、攻撃が中央、中央と寄ってきて、最後は選択肢がシュートしかなくなってくれたことは、鳥栖にとっては助かった所です。アダイウトンがサイドでボールを受けて、カットインしてから、もう一回サイドのスペースを使うなどの崩しが洗練されれば、もっともっと鳥栖の守備陣を脅かすことができたのかなと思います。

81分には、中村、山田、川又とパスを繋いで中央に起点をつくって逆サイドのエレンにフリーで流し込むことができ、チャンスを作りました。前半と異なり、外、中、そしてもう一度外という意識が出来たからこそのチャンスメイクでした。
ここでちょっと感じた事があったのですが、磐田は前半から左サイドで侵入してきても、アダイウトンのカットインからのシュートしかチャンスを作れず、右足でのシュートの精度が上がらずに苦労していました。とはいっても、左サイドの確度のあるところでボールを持てる状況は作り出せていたので、この状況で作れるならば、左サイドに右利きでシュートを打てる選手を置いた方がラストの精度が高まるのではないかと思いました。81分のチャンスではフリーで受けたのが左利きのエレンであったため、シュートではなくてクロスという選択になってしまいましたが、右足でファーサイドから巻けるシュートを打てる選手がこのポジションにいたらどうなっていたのかなという事を考えます。この選手交代と配置の所は、ほんのちょっとしたところですが、もしかしたら、明暗を分けるポイントだったかもしれないなと。

■ 祐治退場後(10人での戦い)
FC東京戦で4-3-2の練習ができていたというのはうれしくともなんともなく、なかなか皮肉ではあります(笑)
鳥栖は、当然の事ながら11人の頃よりも更にブロックの位置を下げて、ミドルサードのやや低い位置で4-3-2で構え、磐田がサイドチェンジで鳥栖の陣地の奥深くまで入り込むと、フォワードが逆サイドのスペースをカバーするべく列を下げて、磐田の押し込みが激しくなるにつれて、4-4-1 ⇒ 4-5-0 ⇒ 520という守備組織を見せていました。

この数的不利の状況下における守備に貢献したのは、ある意味当然とも言えますが豊田でした。前線でプレッシングで追いまわし、ボールの前進を許すと、鳥栖の中央の脇のスペースをカバーするべくポジションを1列さげて、磐田のサイドバックが上がってくるスペースをケアしていました。

攻撃は、時間を作るべく、なるべくボール保持を試みたいのですが、数的不利であるのでプレッシャーに負けてどうしてもボールを手放さないといけない場合はロングボールを蹴らざるを得ません。10人になってのロングボールですが、豊田が最終ライン(もしくは2列目)で守備をするケースが多くなったことで、前線に人数が不在となった場合は、福田がスプリントによって前進して、ロングボールのターゲットという役割をこなしました。11人の時は最終ラインでボール保持をヘルプし、10人になった場合は前線でボールキープと前進に貢献するという、今節は彼がいなければ、このクエンカの劇的ゴールでの勝利はなかったかと思います。

※ ちなみに、開幕戦でのインタビューで、今シーズンのキープレイヤーはという質問に私は「福田」と回答しているので、彼の復帰と活躍はうれしい限りです。

クエンカ投入後は、クエンカを左ウイングの位置に置いて、4-3-1-1のような形を作り、豊田との位置関係を近づけてセカンドボールをより拾いやすいフォーメーションと変更します。大久保からのロングフィードは左サイドに選手を集め、数的不利な状況で選手が分散して更に悪化しないような配置と変えました。この選手配置が功を奏することになり、クエンカのゴールはその左サイドでの原川のクリアを豊田が落としたところから始まります。

■ クエンカゴール徹底分析
今回、冒頭で鳥栖の攻撃パターンと(磐田の守備の問題点)を記載しましたが、このクエンカのゴールでも根本的な要因は同じところにあり、この試合で鳥栖が粘り強く継続した攻撃の形が、ついに実を結ぶことになりました。















■ 終わりに
劇的な勝利でしたが、この試合の観客は14,624人。
最近、試合が不調であったために、昨シーズンからの観客数を考えると、思いのほか空席があったのかなという感じです。
トーレスに替わって豊田が入った際のスタジアムの雰囲気は一種異様なものを感じました。
その雰囲気に圧倒されて、磐田の守備陣も押し込まれていったのかなと、鳥栖が優勢となるスタジアムの雰囲気を作り出せたのかなと思います。もっと観客が増えれば、もっとスタジアムが揺れますし、こういった劇的ゴールによって、更に大人数の観客で揺れるスタジアムは、いつまでも思い出となるものです。
更に多くの観客が入ってくれるように、是非ともこういった良いサッカー、良いゲームによる勝利を継続してほしいものです。

■ Appendix
< ざっくり用語解説 >
ビルドアップ ・・・ ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)
トランジション ・・・ 攻守の切り替え、
ネガトラ ・・・ ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。
ハーフスペース ・・・ 4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置
デュエル ・・・ 相手との1対1のマッチアップ

<画像引用元:DAZN>
  

Posted by オオタニ at 16:20Match Impression (2019)

2019年03月12日

2019 第3節 : FC東京 VS サガン鳥栖

2019シーズン 第3節、FC東京戦のレビューです。

システムもメンバーも模索中の我らがサガン鳥栖。プロ野球では良く聞く「猫の目打線」をサッカーに取り込もうとしているわけではないでしょうが、今回もスタメンを入れ替えました。サイドバックはブルシッチに替えて三丸、原を1列下げてサイドバックにして前線にチョドンゴンを起用。神戸戦に続いてサガン鳥栖の新たな希望の星である松岡もスタメンで起用し、4-4-2による戦いとなりました。

サガン鳥栖とはうって変わり、長谷川監督継続、主力選手のほぼすべてが残留という事で盤石の態勢で開幕を迎えたFC東京。スタメンもシステムも開幕から一貫して変わらず、こちらも4-4-2での戦いで臨みます。去年までのサガン鳥栖の希望の星の田川もベンチ入りです。

■ 序盤の展開
システム的にはミラーゲームとなった両チームの戦い。ただし、当然の事ながらミラーのままで硬直した展開を望むわけはなく、守備ブロックの穴を作るためにどのような工夫をするかというところがこの試合の焦点でした。

序盤の激しい蹴り合いの中で先制パンチに成功したのはFC東京。ロングボールの蹴り合いで始まった中盤の競り合いを制し、プレッシングに出ていた原の裏に抜ける永井に上手くパスがでて、スピードに乗ったドリブルでシュートまで持って行きました。

この永井の先制パンチによって、サガン鳥栖の最終ラインが裏のスペースに対するケアにウェイトを置くことになります。裏への意識が強くなる最終ラインと、序盤の体力のあるうちに前からプレッシャーをかけたい2列目のせめぎ合いによって生まれるのは2列目と3列目の間のギャップ。永井が賢かったのは裏一辺倒ではなく、そのライン間を狙ってボールを受ける役割を果たしたことでした。

作戦永井と聞くと、どうしても裏に抜ける動きばかりに焦点が行きますが、今回の彼の貢献は、鳥栖のディフェンスラインの前でボールを受ける動き。ハーフスペースでターゲットとなる役割を果たします。FC東京の最終ラインも永井に対する信頼があるのか、迷わずに縦にいる彼にボールを送るシーンが増えてきました。永井がボールを受ける事によって鳥栖の守備陣が密集し、そこから落としを受けた高萩、東がスペースへ展開するという形でFC東京が徐々にボールを握る展開となります。

ところが、FC東京の攻守に活性化をもたらせた永井は不運にも負傷で田川と交替してしまいます。田川は裏抜けやサイドでボールを受ける動きは見せますが、自分が良い形でボールを受けるための動きの側面が強く、ハーフスペースでつぶれるという永井が担っていたタスクはなかなか遂行できませんでした。

田川のプレースタイルである裏に抜けるスピードを回りに生かしてもらえれば良いのですが、相手もケアしてきますので、そのプレイをさせてもらえない時にどう振る舞うか。サガン鳥栖時代には、それでもオレは裏に抜けたいんだというプレイを全うしたものの、味方からの援護も希薄で期待以上の数値は残せなかったのが思い出されます。ひとつ上のレベルに上がるためには、永井のプレイと言うのはよいお手本になるのではないでしょうか。スピードがあるからこそ、裏へ抜ける動きをフェイクにし、ビルドアップ時に縦で顔をのぞかせる事ができればチームへの貢献も増えていくでしょう。さて、前線での収まりという武器がひとつなくなったFC東京は、思いがけず鳥栖と硬直状態を作られてしまいます。

■ サガン鳥栖の攻撃


ビルドアップ時は、両センターバックに対して、田川、ディエゴが襲い掛かるという、システム的には数的同数であったのですが、それを打開したのは秀人。秀人が最終ラインに下がって最終ラインのフォローを行い、ボール保持の立役者となりました。秀人が下がることによって、中盤が3枚になるのですが、FC東京の両センターバックの間で義希が顔をのぞかせて、縦へのボールを引き出します。ドイスボランチの2人の関係性はオートマチックに動けており、あとは精度ですよね。秀人が下がった時のFC東京の出方としては、ボランチやサイドハーフを前に出すことはせずに原則として4-4-2ブロックを保持。ディエゴ、田川頑張ってくれという事で二度追いさせつつ、サイドに追い出す動きを見せます。

さて、そこからどうやって前進するかという形ですが、鳥栖が準備したのは3つの動き。

① サイドバックが大きく開いて4-4ブロックの外側でボールを受ける
② サイドハーフがボランチの位置まで引いてボールを受ける
③ フォワードがハーフスペースに開いてボールを受ける

①、②に関してはFC東京もボールの狩場でもあり、ブロックの中に入ってくると守備側の皆様が密集して狩りにやってくるのでなかなか自由が利かず。あとはワンツーで抜けるかドリブルで交わすかというところだったのですが、金崎の単騎突破も原のダイレクトパスもFC東京の網にかかり、なかなか思うような前進は図れませんでした。

鳥栖としては、今回良かったのは、③のフォワードに対してのボールという選択肢があったことで、ツートップの一角を担うチョドンゴンが右に左にハーフスペースに顔をだして、FC東京の最終ラインを揺さぶる動きを見せていました。チョドンゴンがボールを落としてサイドハーフやボランチが、新たな展開(逆サイドへの大きな展開)という形もあり、FC東京の堅いブロックの中でボールを保持しつつ、何とかボールを巡回させようという動きは見せていました。

ハーフスペースでボールを受けるチョドンゴンに対してFC東京の選手が寄せくるのですが、次はそのスペースを狙う連動の精度向上ですよね。チョドンゴンが受けた周辺のエリアをどう生かすか。そのあたりは、FC東京の方が永井やディエゴが受けた時に高萩、東、久保のフォローによって次の展開がスムーズに行っていました。見習うべきところはありそうです。

鳥栖としては、前を向けなかったらボールを下げざるを得なくなるわけで、そうなるとFC東京も一旦ボールを下げると牙をむいて一気呵成に襲い掛かる様相。プレッシャーを受けた最終ラインが大久保に戻してもそこからビルドアップのやり直しという形はとれずに結局は蹴っ飛ばす形になりました。蹴っ飛ばした先がトーレスと言うのは鳥栖の強みでもあるのですが。

さて、鳥栖としては、相手が狩場に密集してくるならば、それを利用すればいいじゃないという事で、一旦サイドにボールを預けて、FC東京の守備側を密集させてから逆サイドへ長いボールを使いだす動きも見せます。秀人が後ろに構えているので、カウンターを受けても3人いれば守りきるだろうという算段の中、左サイドの三丸を少しずつ高い位置に上げていきました。鳥栖のサイドチェンジが有効だったのは、三丸が孤立せずに、松岡、義希が運動量豊富であるためにしっかりとフォローに入れたこと。サイドチェンジを行った後は、密集していたエリアと異なり、FC東京がスライドしてくるまでは数的不利を生み出さなかったため、悪くともコーナーキックやスローインを得るまでの前進は果たせました。

■ FC東京の攻撃


ツーセンターバックに対してツートップがプレッシングに来るという構図はこちらも変わらずということで、ボール保持のために工夫が必要なのはFC東京も同じ。FC東京は、橋本を下げて3人でビルドアップと言う形をベースとしつつも、高萩のエリアでの数的不利を良しとしない場合は橋本を下げず、サイドバックのどちらかだけを高い位置に置き、逆サイドのサイドバックはボールの逃がし所として残しておくという選択肢も準備しました。

FC東京としては、高い位置にあげたサイドバックに対して、鳥栖のサイドバックが出てきたときには、高萩、久保、東がそのエリアを狙って飛びこもうとしていました。ただし、鳥栖もボールの出所に対するプレッシングが早く、ボールがサイドに出てくる前につぶせる傾向にありまして、FC東京としては思うようにはサイドの裏のスペースを使えずというところ。鳥栖のボールの出所に対する守備は、名古屋戦、神戸戦よりもだいぶん改善されたなという感じです。

鳥栖はトーレスを中心にチョドンゴンが衛星的な役割を果たしましたが、FC東京はツートップが双方ともにハーフスペースを拠点としつつ、積極的に中盤まで引いたりサイドに逃げたりしてボールを引きだし、鳥栖のフォワードとのゲームメイクに関与する違いを見せていました。ただし、当然の事ながら、ゲームメイクに関与しすぎると、崩してもフィニッシュの場面で肝心のゴール前にいないという状況が発生するわけで、そこは痛しかゆしという所。

中盤は久保、高萩、東が受け持ったレーンでボールをさばく役割。サイドバックと縦の関係を築く鳥栖に対して、FC東京は横の関係を大事にしているように見えました。サイドチェンジを行える土台(選手間の距離感)があるという点では鳥栖の攻撃との違いを見せ、不用意なボールロストは少なかったです。

鳥栖のプレッシングはサイドバックに対してはサイドハーフが積極的に前に行く形を見せていましたが、やはりこちらも引いてくる橋本に対してはボランチが出ていくような形はとらず。前線で積極的に追いまわすというよりは、最終ラインでボールを持たれるのは仕方なしとして、サイドバックにボールが流れた時や、中盤に入ってくるボールに対してどれだけスライドして密集できるかという守備陣形でした。

今節はサイドハーフで起用された松岡、金崎におけるターゲットが明確であったため、数的不利な中でどのようにふるまうかという難しい事をせずとも、目の前にきた選手たちにプレッシングをかけて追い出すことに専念できておりました。ひとたびプレッシングがハマるとなると、トーレス、チョドンゴン、金崎、松岡という4人のプレッシング強度があがり、FC東京の最終ラインが窒息しそうになって蹴っ飛ばした先は田川、ディエゴと言う状況。ロングボールを納めるプレイがあまり得意でないのは鳥栖のプレイヤーは承知済みということで、長いボールを蹴らせた後のマッチアップは、藤田、祐治に軍配が上がり、蹴っ飛ばされた後のセカンドボールの回収に関しては鳥栖の方が上回っていました。

■ 攻撃の時間を作るということ
後半開始直後に、FC東京の攻撃とサガン鳥栖の攻撃の違いが出たのは、時間の作り方。味方が上がりきるまで我慢してボールをキープするディエゴ、サイドからカットインしてドリブルしながら時間を作ることができた久保、この二人の動きによってFC東京の攻撃が活性化します。ディエゴの起点を作る動きによって味方を押し上げる仕組みが整うと、各レーンに選手が散らばっているということで、鳥栖のディフェンスラインを押し下げた後で、横展開のパスを見せつつ、クロスを受けるためにゴール前に選手たちが上がっていきます。

FC東京のボールキープの時間帯が続くと、疲れの見え始めた鳥栖のアジリティが衰えたこともあって、ファールによって防御するケースが徐々に増えてきました(これが秀人の退場にも繋がるわけですが)自陣の位置でファールをしてしまうと、一旦全体が引かなければなりません。トーレスまで戻してしまうとボールを奪ってからの預けどころがなくなり、クリアしても再びFC東京ボールになり、そこから繋がれてまたファールをしてしまうという鳥栖にとっては良くないサイクルになっていました。

攻撃の時間作りに関しては、鳥栖はサイドでボールを受けたら、前にでるか、後ろに戻すかという選択肢しかなく、そこでボールをキープしつつ横展開で次のスペースを狙うということが出来ていませんでした。FC東京との大きな違いはその部分でしょうか。攻撃が、縦に、縦にと進んでしまうので、味方の押し上げが間に合わないまま単騎突破でつぶされることが多く、二次攻撃になかなか繋がりません。早い攻撃を志向しているわけではなく、カウンターに備えて前線に人数が揃っているわけではないので、単発勝負のイチかバチかで終わってしまう状況が多く見られました。金崎のドリブルで「そこが抜ければ」というチャンスは多くあるのですが、ほぼすべての機会で「そこが抜けない」で終わっています。

鳥栖の場合は、トーレスに預けるとボールキープして時間を作ってくれますが、トーレスが時間を作る役割を果たすと、ではフィニッシャーは誰が果たすのかという問題があり、1節、2節はそのあたりのジレンマはありましたが、今節はツートップであったのでチョドンゴンがその役割を担いました。ただ、ゴールを奪うまでには至らず。

後半にやや劣勢に立たされましたが、攻撃の時間の作り方を試行錯誤するよりは、選手の質で解消しましょうということで、満を持してクエンカが入ります。この「時間を作る」選手がトーレス、クエンカの二人になったことにより、鳥栖の攻撃が活性化しました。「時間を作る」というのは、単純に味方を押し上げるだけでなく、その時間を作る間に相手選手が密集してきます。密集してもそれをかわすパスを出せるといことは、パスが出された先にはスペースがあるという事です。

クエンカ投入後は、カウンターの単騎突破が失敗に終わって、また守備に戻らなければならないというストレスから解放され、ボールを保持しつつ自分たちの形で攻撃を仕掛けるという形に少しずつ変化していきました。時間を作れると、サイドバックが上がってくる余裕もでてくるということで、早速原のオーバーラップからのクロスも見られました。トーレス、クエンカがボールキープして攻撃の時間を作ったことにより、サイドにおけるグループでの攻撃の質を高める事に成功した場面でした。原がオーバーラップしてクロスをあげ、そのこぼれ球を三丸が拾って再びクロスを上げるという形は、クエンカ投入によって見られた全体の押し上げの成果ですよね。



金崎をサイドハーフで起用することに異を唱えるわけではありませんが、彼は中央の位置でセンターバックと勝負させたいですよね。純粋にスピードでぶっちぎるプレイヤーではなく、馬力で縦に入るのが上手いので、スピード勝負になると対戦相手がサイドバックというのはやや分が悪く、分が悪い勝負を繰り返させているような形に見えます。カレーラスさんのサイドハーフでの起用は今後も続くのかは分かりませんが、彼の持ち味はもっとゴールに、もっと中央に近い所で輝けるような気がします。

■ 秀人退場後
秀人退場後は、松岡をボランチの位置に、チョドンゴンをサイドハーフの位置に下げて4-4-1のブロックを組みますが、やはり守備面の連係がうまく行かず、福田を投入して4-3-2ブロックを組む形に変更します。セントラルハーフ3人に走力のある選手を入れてスライド守備を確実に行う事によって、秀人の退場によって生まれるスペースのカバーを狙いました。

4-3-2にして前線にトーレス、クエンカの2人を残すことにより、FC東京のセンターバックの攻撃参加を抑制できた点がこの配置の成果だったでしょうか。また、中央のパスコースを消すことによって、FC東京のボールの循環をサイドに誘導し、クロスがあがっても中央で跳ね返すという守備の仕組みづくりを行う事ができました。

ただ、いかんせん、人数不足であることには変わらず、セカンドボールの奪取は徐々にFC東京の方に分があるようになっていきます。

時間かたつに連れて鳥栖の出足が止まってパスの出所を抑えきれなくなり、オウンゴールのきっかけとなるコーナーキックも、ハーフスペースで待ち構えるディエゴがセンターバックを背負ってボールをキープし、高い位置を保つ室屋の上りを狙ってパスを送り込んだプレイで取得したものでした。セットプレイになると、鳥栖の選手も全員が戻らざるをえず、何度となくクロスを跳ね返しましたが、セカンドボールをことごとく拾われ、サンドバックのようにクロスの雨を受けた後、オウンゴールではありましたが、ついにゴールに流し込まれてしまいました。

■ カレーラス監督のサッカーとは(過去との違い)
名古屋戦、神戸戦と異なり、仙台戦、FC東京戦はこのように攻撃したいという形が徐々に現れてきました。今節のように、トーレスの相棒役がゴールから遠い位置でゲームメイクをこなし、ゴールに近い位置に侵入出来たらトーレスを生かすという役割分担が出来たのは今後の光明ではないでしょうか。

先ほどの「攻撃の時間を作る」という観点で言うと、トーレスの相棒に小野が入ると面白いなとは思いますけどね。ボールを受けて前を向く技術もあり、サイドに流れて基点づくりもでき、意外とヘディングも強いので、前述の「時間作り」というタスクは遂行してくれるはずです。もしくはクエンカをトップで起用するかどうか。イバルボも攻撃の時間を作ることはできますが、彼の場合は亜空間なので周りがついて来れるかどうか(笑)

以前のサガン鳥栖は、豊田の個を最大限生かすために、ロングボールを活用してセカンドボールを収集する仕組みを作っていました。また、多少守備にリスクを負ってでも最終ラインの人数を相手の人数に合わせることなく、少ない人数で守り切り、カウンターの起点となるべくキムミヌや水沼を可能な限り高い位置に置いて、ボールを奪うとともに飛び出していくという仕組みも作っていました。
「セカンドボールを前提としたロングボール」と「リスクを背負ったカウンター作り」がセットの攻撃で、そして、先に1点取ってしまったら早い時間に小林を入れて5バックで守りきるという、メリハリのある攻守でしたね。

現在のサガン鳥栖は、ロングボールありきではなく、あくまでも味方を押し上げる時間を作るためにトーレスを使います。ビルドアップで詰められたり、スペースがなくて長いボールを活用するべく蹴っ飛ばすシーンはありますが、あくまでもそれは展開の中での攻撃のチョイスの話。ロングボール大作戦ならば、秀人が最終ラインで数的優位を作って義希がビルドアップの逃げ道を作るという形作りに拘らずに、彼らもセカンドボール奪取隊として中盤前目に配置した方が効率良いですし、幅を取るサイドバックのポジショニングも、ロングボールの落下点からわざわざ遠い位置に置かずに、もう少しトーレスに近寄るポジションを取るでしょう。

また、ここ数試合、カレーラス監督が現実的だなと思うのは、相手の個の質などを考えて最終ラインで数的不利のないように人数をセットしていることです。守備面でリスクをかけず、ボールを奪ってからの展開を見据えるよりは、まずはしっかりとボールを奪う事を主眼にしています。ボールを奪ってからのカウンター攻撃が金崎一辺倒になりつつあり、なかなか効率よいカウンター攻撃にならない点の良し悪しはさておき、カウンターのために最終ラインの守備にリスクを負うような事はしていません。このあたりも以前の豊田フォーメーションと異なるところですよね。

現在のカレーラス監督のサッカーは、ブロックを組んでしっかりと守ってボールを奪い、奪ったボールは保持しながらボールを循環させて相手のスペースを狙うという至ってシンプルなものであり、その根本はマッシモ監督のサッカーと相違ありません。マッシモと異なるのは、そのサッカーの中心にトーレスがいるという事。トーレスのフィニッシュの能力やボールキープの能力を最大限活用しようとするスタイルには異論はありませんし、むしろこの形を完成してほしいと思っています。

■ 終わりに
互いに、4-4-2ミラーゲームと言いつつも、ビルドアップに関してはそれぞれの特徴を出しつつなんとか打開を図ろうとする面白い展開ではありました。ただ、なんとか模索はするものの決定的に優位性を作るまでには至らずという事で、結局は、硬直した状態で活路を見出すのは、困った時の「セットプレイ」そして思いがけない「相手のミス」。

サガン鳥栖は原のロングスローから金崎、チョドンゴンのシュートを生み出し、FC東京は秀人のビルドアップミスからディエゴがチャンスを迎えるというシーンもありました。そして最大のミスは秀人の退場。得てして退場者を出した側が得点することもあったりするのですが、試合巧者のFC東京はさすがに許してはくれませんでしたね。

名古屋、神戸と、相手にスーパーな選手がいた場合には、それを意識するような守備戦術となってしまって思うような形はつくれませんでしたが、相手の個の質に囚われないシンプルな4-4-2スタイルで臨むとある程度の形を作る事はできました。クエンカ、福田、三丸の復帰はかなりの活性化を生みだしましたし、次節の磐田戦はいよいよ本領発揮という戦いを見せて欲しい所ではあります。
  

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2019年03月08日

2019 ルヴァン第1節 : サガン鳥栖 VS ベガルタ仙台

2019シーズン YBCルヴァンカップ1節、ベガルタ仙台戦のレビューです。

スカパー入っていないので、試合映像を見れず、ハイライトを見て思い出しながらの簡易レビューです。

鳥栖のセットアップは、ボール保持時4-3-3でした。安在と島屋がサイドの高いところにポジションを取り、仙台のウイングバックを自分たちでコントロールしようという構えです。義希が中央で展開役を行い、松岡が右サイド、樋口が左サイドのやや前目でゲームメイクを行います。ボール非保持時はプレッシング4-3-3から、展開を許すと4-4-2に変え、押し込まれると撤退して5-4-1と変化していく陣形でした。

■鳥栖の守備
名古屋戦、神戸戦に比べると、この仙台戦は、ブロック一辺倒ではなく、 相手が保持している時は自由を許さないように積極的にプレッシングをしかけ、プレッシングの網を抜けられた時には、素早くリトリートしてブロックによるスペース圧縮を行うという、ボールポジションに応じてシステムも対応も変えるというコンセプトでした。

(1)プレッシング
仙台ストッパーに対して安在と島屋がでていきプレッシングをかけます。この時、外側から追い込むことによって、仙台のウイングへのパスコースを消しながらのプレッシングをしかけます。仙台ボランチに対しては、松岡と樋口がついており、このエリアでボールを奪おうとする動きが見えました。アウトサイドのケアに対しては、原とブルシッチを押し上げてウイングまでプレッシングにいく形もありましたが、後ろを空けたくないときはあえてそのプレッシャーは捨てて、ボールが回ると島屋と安在の二度追いに頼る形もありました。

全体が、島屋と安在の動きに合わせて、松岡、義希、樋口がポジションをコントロールしていて、ストッパー、ボランチ、ウイングに対するプレッシングで穴が出来ないように対応していました。そこの連動はある程度形になっていたのかなと。仙台が窒息してたまらなくなってロングボールを蹴ることも多かったですし、ハマった時には、概ね狙った守備の形はできていたように思えます。

(2)ブロッキング
ブロックで構えた時には、プレッシングの時と変わってウイングを意識した守りとなります。ベースは4-4-2で守りたかったのでしょうが、押し込まれたときには、安在、島屋がウイングのスペースを消すようにリトリートして最終ラインまで下がり、そのときはサイドバックがやや絞ってストッパーのような役割を果たします。島屋と安在はボールがある側の選手が最終ラインまでさがり、逆サイドの選手は中央にスライドしてスペース圧縮の役割。形的には6-3-1にはならないように気を付けながら、中盤の脇を使われないように、5-4-1を保とうとし、相手がラインを下げた場合には島屋と安在が出て行って、4-4-2 ⇒ 4-3-3と形を変えていく守備を見せていました。島屋と安在に対する要求が多く、彼らのポジションの取り方はすごく難しかったかなと思います。

(3)問題点
ブロック守備時にスライドが発生した際の選手と選手の距離が最大の問題でした。相手が使えるスペースを与えてしまっていたという事ですね。サイドチェンジやドリブルによるしかけを受けた場合、スペースをケアするならば、全体が距離を保って動かなければなりません。そこの連動が、誰がどこを絞る、どちらの方向へ絞る、というところの連係が崩れた時にピンチを迎えていました。どのようにしてポジションを変化させてプレッシングにいくのか、(良い悪いは別として)どこのエリアを捨て、どこに向かって圧迫をかけていくのかという、具体的に誰がどう動くかというところがまだまだ確立されていませんでしたね。

もうひとつ気になるのは、おそらくゾーンとマンツーマンの併用かとは思いますが、そのバランスです。開幕戦におけるカレーラス監督の「最終ラインでの数的優位を意識」というのが、ジョーに対するケアの意味だったのかという気がしないでもないですが、それにしては、この試合でも、人に付きすぎてスペースを空けることが多く発生しています。そして、個人の質で負けてゴールを決められるというシーンもありました。

仙台が活路を見出したのは、レーンを飛ばしたパス。ボランチには人がついているので、トップやセカンドトップに対する直接のパスや、ストッパーから逆サイドのウイングに目がけて中距離のパスを蹴らせてもらえた時は、鳥栖のプレッシングをほどくことに成功し、よいチャンスになっていました。

確か、鳥栖の最初の失点も、プレッシングを仕掛けたものの左サイドから右サイドのウイングへ、レーンを飛ばすパスでプレスの網を掻い潜られた事によって、ボールの前進を許したのではなかったかなと。3失点目も、楔を入れるパスかと思いきや、そこを飛ばして(スルーされて)裏に飛び出す阿部が受け取りました。

◼️1失点目の問題点
仙台のセカンドトップが左サイドから中央へドリブルを開始した時に、鳥栖の3センターが密集してきます。ここから、谷口とブルシッチの間を突かれて失点するのですが、問題点としては3つあります。



<問題①> 安在のポジショニング
単純なのですが、鳥栖の守備ブロックが4-3ブロックになっています。中盤3枚ということは、中盤が動かされたときにはスペースが空きやすいということです。安在が攻撃に出て行ったあとだったからかもしれせんが、ポジションを高い位置にとったまま、4-3ブロックになってしまったことが、インサイドハーフの脇のエリアにいる選手をフリーにして更に縦パスのコースを作ってしまう要因となりました。安在は戻るそぶりがなかったので、彼が高い位置を取っておくことがもしかしたら監督の指示だったかもしれませんし、ミドルサードを超えると基本は撤退守備だったので、単なる安在のサボり(攻撃にでてたのでスタミナ切れ)だったのかもしれません。

全体的に、島屋に比べると、安在のポジションがやや不安定だった感は否めませんでした。島屋は積極的に前後の動きを果たしていたのですが、安在は前残りで浮遊しているシーンがあり。監督のオーダーなのか個人の判断なのかが気になるところです。

<問題②> 最終ラインのスライド
石原が左サイドから中央にドリブルで入り、ボールの位置が(鳥栖から見て)右サイドから左サイドに動いているのですが、谷口がジャーメインのマークについたまま動かずに、ブルシッチとの間に大きなスペースを空けています。仙台はこのスペースを見逃さずに縦パスでスペースに侵入してシュートまで繋げました。縦パスが入るまで、秀人と谷口がジャーメインを挟むようにしてマークしていたのですが、果たしてスペースを与えてまで2人がジャーメインにマークにつく必要があったのか。

トップの選手に対する数的優位(マーキング)を作ることが監督のオーダーかもしれないので、単純に谷口のミスとは言えないのですが、スライドできなかった事によってこのスペースを使われたのは事実です。今年の傾向として、ボールが動いても、人が動かなかったら守備が動かないんですよね。パスを出されてから動いているので、間に合わなかったらシュートまで持って行かれます。

<問題③> セントラルハーフ3人の寄せ
中央に3人が寄っていますが、3人行ってしまった割にはボールを刈り取ることも出来ずに、展開のパスを許しています。このあたりのグループ守備ですよね。3人寄せたならば、ボールを刈り取るか、後ろを向かせるかしないと、普通に展開を許してしまったら人数をかけた意味がなくなってしまいます。

意識的には、中央をしぼって外に追い出すことでヨシだったのかもしれませんが、外に追い出しても安在がいないので、インサイドハーフの脇を仙台に上手く使われました。もしかしたら、樋口は、外に追い出したらそこにいるはずの安在がいなくて、思てたんと違う状態だったかもしれません。

そして、パスを出したあとに石原が裏に抜けていくのですが、この3人のうち、誰一人としてついていくことができていません。3失点目の問題でも現れるのですが、バイタルエリアで捕まえていた選手が裏に抜ける時にどうするかというのが固まっていないのかなと思います。

◼️3失点目の問題点
この頃には、選手交代もあって、前半のようなコンセプトの元による守備ができていなかった時間帯です。トーレス、金崎が投入され、攻めたい気持ちが先走って、チームとしての動きの統一性に欠けていました。そう考えると、前半の選手たちの方が、同じ方向を向いて攻守できていたような気がします。カレーラス監督の問題点は、選手交代によってチームを改善させることができていない所ですね。戦術が浸透していないというところは多分にあるでしょうが、今は、個の強い選手たちが入ることによって、その個を生かそうとしてチームが停滞しまっているような状態です。

3失点目ですが、失点のメカニズムとしては同じです。スペースケアのミス、立ち位置のミス、連携のミス。



縦パスのシーンですが、原がウイングをマークするために外に開いています。ゾーンで守るのであれば、谷口がそれに連鎖して横にスライドしなければなりません。それと同時に、秀人、ブルシッチ、安在も中央へスライドが必要。マンマークならばスライドは不要ですが。

個人的には、原がウイングを気にしすぎてワイドに開きすぎたことがミスだと思っています。相手にひきづられて中央を空けてしまった事(門を空けてしまった事)によって、縦パスを通されました。このあたりは、小林がポジション取りが上手で、ワイドの選手に対する取捨選択をコントロールし、門を開けないようにポジショニングする選手です。原と小林との経験の差なのか、戦術的ポジショニングの差なのか。

縦パスが入るときのマーカーの縦位置も、サイドへの展開を気にしすぎていて中央のパスコースを空けてしまっています。原がマーキングにあがっているので、むしろサイドに追いやった方がよかったのですが。

中盤も、マンマークのようにアンカーの選手が阿部についていますが、阿部が飛び出していくとマークを放します。1失点目とまったく同じですよね。どこまでがマンマークで、どこからが受け渡しなのか、4-1-4-1でアンカーがマンマークに付くことはあるのですが、そういう戦術だった場合は最後までマークにつくべきでしょう。このシーンではあっさりと放してしまっています。

問題の本質は、人に対しての意識が強すぎて守るべきスペースを空けてしまうこと。そのあたりは、昨年はオマリを筆頭に、小林、三丸とポジションを上手にコントロールできる選手たちでしたので、スペースの管理が徹底されていました。今年は最終ラインが様変わりしてしまって、そのあたりのバランスを保てる選手がいないのでしょう。

ただし、すべてはゾーン守備での前提です。カレーラス監督がマンマーク志向であれば、原の動きは監督の指示を忠実に守ったという事になりますし、監督のインタビューで口から出てくる「それぞれが責任を果たす」という意味合いの言葉も分かるような気がします。個人がついた選手をうまく抑えきれていないということですよね。そうなってくると選手の質に頼る割合が大きくなりますが、はたしてサガン鳥栖の最終ラインにそのようなメンバーがそろっているのか。

■鳥栖の攻撃
前半は、攻撃面では非常に面白い連携を見せていました。4-3-3ビルドアップだったので、もしかしたらキャンプで練習した形なのかもしれません。

最終ラインからのビルドアップも、ガロヴィッチ、祐治と違って、秀人、谷口はボールを持ててある程度前進してからパスを出すことが出来ていたので、原が前を向いてパスを受け取ることができていました。また、谷口は左サイドに追いやられても左足で強いボールを前線に送り込むことができるので、窮屈な状態からのパスミスがガロヴィッチ、祐治よりは減っていました。そのあたりは、最終ラインが変わったことによる効果が少し見えていましたね。

さて、鳥栖の崩しですが、右サイドの方が面白かったので、そちらを紹介します。立ち位置としては、島屋が相手のウイングバックの位置にたって、仙台のディフェンスを押し込めます。その状態から、島屋が動き出してから、鳥栖の崩しが始まります。島屋、松岡は、相手の守備を動かそうとする動きで守備側に対して選択を迫る動きを見せます。その動きに呼応する仙台ディフェンス、そしてその動きを把握してスペースを狙うチョドンゴン、松岡の動きも見どころありました。

① 原のボール保持時
動き出した島屋に対してウイングバックがついてきたならば、セカンドトップにいる松岡がそのスペースに入っていき、原が縦パスを送ります。島屋にマークがつかなかったら、ハーフスペースで島屋が受け取り、次の展開を狙います。また、飛び出していく松岡に対して仙台のボランチがついて行ったならば、中央のスペースを狙ってチョドンゴンが楔のパスを受け取ります。楔を受けたチョドンゴンがダイレクトで島屋や松岡に落とす(レイオフ)プレイも面白かったですね。



② 松岡のボール保持時
動き出した島屋に対してウイングバックがついてきたならば、サイドバックの原がそのスペースに入っていき、松岡がパスを送り込みます。島屋にマークがつかなかったら、ハーフスペースで島屋が受け取り、次の展開を狙います。



前半の右サイドは、ポジションチェンジを繰り返して結構いい形を作れていたのですが、惜しむらくはフリーでスペースに入ってくる選手に、なかなかボールが出てこなかった事。特に、松岡は、島屋の動きに合わせて良い状態でスペースに入り込んでいたのですが、秀人、義希、原からなかなかパスが出てきませんでした。ボールの預け先のファーストチョイスが島屋というルールがあったのかどうかは分かりませんが、ここで縦に付ける事ができていたら、もっともっとチャンスメイクができていたでしょう。

■おわりに
前半は良いサッカーをしていたと思います。プレッシングの所、ブロックの所、攻撃では前線のコンビネーションを表現しようとしていました。島屋のラストパスが捕まってしまうシーンが多かったのですが、ラストパスを企画しようとするところまで攻撃はしかけられていました。

ところが、これまでも失点、選手交代と、試合が進むにつれてポジションがバラバラになっていってしまう傾向にありましたが、仙台戦でも結局はそうなってしまいました。トーレス、金崎が入って個の強さが増しても、彼らに至るまでのプロセスが改善されないために、結局は個人頼みの攻撃になってしまいました。

何はともかく先制点ですよね。ラッキーパンチでも何でもいいので、ひとつゴールが入って先制点を取ったときにどのようなサッカーを見せる事ができるのか。ここまで3試合はすべて先に失点してしまったので、FC東京戦はなんとか先制点が欲しいですね。
  

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2019年03月05日

2019 第2節 : ヴィッセル神戸 VS サガン鳥栖

2019シーズン第2節、ヴィッセル神戸戦のレビューです。

鳥栖は原川に代わって松岡を抜擢してスタメン起用。4-4-1-1システムでのセットアップで松岡はトップ下での起用となりました。神戸は、センターバックに入団したばかりのダンクレーを起用。また、前節中盤を務めた三原に代わって古橋が左サイドハーフとして起用されました。システムは4-2-3-1です。

■ 鳥栖の守備の問題点
試合開始当初から、早速鳥栖は前線の守備における解決を求められます。神戸2センターバックに対して、鳥栖はトーレス一人でのケア、ドイスボランチに対して、松岡一人でのケア。神戸がビルドアップ局面のボールを保持する段階で、数的不利な状況が生まれていました。数的不利である局面が生まれているという事は、数的有利な局面も生まれているということでありまして、システム的には、ビジャに対してセンターバック2人が見る形、イニエスタに対して鳥栖はドイスボランチが見る形という組み合わせになっていました。質の高い選手に対するマークを厚くするという、コンセプト的には名古屋戦と同じだったのかもしれません。



この神戸のビルドアップ局面での数的不利な状況に対し、トーレスひとりによるパスコース封鎖という形をとりました。数的不利の解消は求めず、少し構えた形で神戸の攻撃を受け入れることになります。

時折は、前線からビルドアップを阻害するべくプレッシングに出かける仕掛けがあったものの、チーム全体を押し上げてひとをしっかりと捕まえたプレッシングを見せることもできず、名古屋戦のようにボールを持たれることは仕方なしと割り切ってブロックを組むという事も出来ず、組織の守備対応としてはやや中途半端であった印象です。数的不利を解消できないまま義希と松岡の頑張り(二度追い)に頼る局面が多くなり、確実にボールを奪うことができる仕組み作りは構築できておりませんでした。

今回の鳥栖の守備組織の最大の問題点は、パスの出先に対するケア(マーク)が入っても、パスの出所に対するプレッシャーが甘かった事です。

ビルドアップの出口(パスの出先)に関しては、神戸のサイドハーフ、サイドバックに対して対峙している鳥栖のサイドハーフ、サイドバックがマークに着くことができるので、見なければならない範囲は明確となりビルドアップの出口を封鎖する事はできています。

しかしながら、パスの出所であるセンターバックとボランチの所にプレッシャーがかからず、彼らが自由にボールを保持して前を向ける機会を多く作り出されてしまいました。ボールを奪いにいかずとも、刈り取れるエリアに誘導するなり、パスコースを限定するなり、そういう動きが取れずに考える余裕を与えてしまっていました。

ダンクレーにフリーでボールを運ばれてビジャへの縦パスを供給されるという形を何度も許してしまったのは、組織としての修正力の乏しさを露呈してしまいました。



ブロック守備でなく、ボールを前から奪うためには、数的不利を解消するべく誰かが列を上げて対応しなければならないのですが、主にポジションをコントロールしていたのは義希でした。ただし、義希一人がポジションを上げても局面による数的不利である状況は変わらず、プレッシャーをかけるのも、スペースを守るのも中途半端な状態が生まれ、誘導したいのか、奪いたいのか、パスコースを制限したいのかという所の選択がチームの中で曖昧な形となりました。松岡と義希のプレッシングで仕留めようとしても、簡単にドイスボランチの所が逃げ道になったり、ゴールキーパーを経由したサイドチェンジで簡単にフリーになったりと、思うように高い位置でボールを奪う事ができません。松岡は指示だったのかは分かりませんが、山口を意識していたようで、これによって三田がフリーでボールを扱える機会が多く、彼がボールをさばく場面が見られました。

後半になると、より積極的にボールを奪う形を見せようとして、松岡が相手のセンターバックに対するプレッシングをかけるようになります。それに合わせて、義希、秀人と出てくるシーンも生まれるのですが、そうなってくると当初想定であったイニエスタに対する数的優位を作るという形が薄れ、また、イニエスタも空いたスペースに入り込む動きが非常に上手ですので、捕まえきれずにボールキープされてしまう場面が増えました。リードするまでは鳥栖の最終ラインとボランチの間のスペースを伺い、リードしてからは、鳥栖が少しプレッシングをかけて来たので、2列目とトップの間でうまくボールを受け取るという役割を果たし、神戸のボールの循環に多大なる貢献を見せておりました。

イニエスタの質の高さも際立っておりまして、イニエスタがボールを持っている状態で、複数人で囲んでもなかなかボールを奪えず。鳥栖としては、通常の相手であれば良い形でボールを奪える状態を作りながら、奪えずに逆にマークをひきつけられて空いたスペースを狙われるという、中盤でのボールを支配する争いは非常に厳しいものでした。



■ 鳥栖の攻撃の問題点
神戸は常に強いプレッシング強度を保っていたわけではありませんでしたが、ボールを誘導して刈り取るメソッドはありました。ビルドアップ局面で、秀人が中央でボールを受けるべく最終ラインに寄って行くのですが、神戸の場合は数的不利な状況を認めず、イニエスタが1列上がって秀人へのコースをつぶしに出ました。そのイニエスタの動きに呼応するようにビジャがセンターバックをサイドに追いやったときがボールを刈り取る合図でありまして、前述のとおり、サイドバック、サイドハーフは互いにマークが明確であるがゆえに、鳥栖がサイドにボールを回しても神戸の選手が待ち構えておりまして、相手のプレッシングでボールロストしてしまうシーンが多く見られました。

鳥栖としては、イニエスタがプレッシングに来て空けたスペースを狙いたかったところでしょうが、金崎、義希、松岡がサイドに開くケースが多く、トーレスもトップに張って降りてきてボールを裁く動きはあまり見せず。ビルドアップの出口をサイドに求めていたために、せっかくの中央のスペースがつかえないという状況を生んでいました。

サイドに回すと神戸のプレッシングが寄ってくるので、次の回避策とばかりにトーレスに向かって蹴っ飛ばしても、金崎と松岡は両サイドに開いているケースが多く、セカンドボールを拾える形ではありませんでしたので、トーレスの孤軍奮闘に頼るしかなくなってしまいました。名古屋戦に比べると、蹴っ飛ばすケースは少なかったのは、そもそもセカンドボールを拾うメカニズムを作らなかったからかもしれません。



プレッシング強度が強くないと書きましたが、ビジャもイニエスタもポドルスキもタイミングを見計らっていたのか、案外すんなりと鳥栖にボールを持たせてくれるシーンもありました。そうなると、センターバックがフリーでボールを運べる場面もでてきます。ただ、名古屋戦でも書きましたが、センターバックやボランチがひとりはがして神戸のマーキングをずらして縦パスを送るという事ができないため、神戸が組んでいるブロック(捕まえられたマーキング)に正面から突っ込んでいくというケースが多く、個の質に頼った攻撃となってしまいました。言わば金崎が相手にドリブルで勝てるかどうかという事が鳥栖の攻撃の成否につながるという。(攻撃に関しては後述の課題にも)

■ 失点シーン
前半の途中頃から、松岡が山口を放して大崎へプレッシングをかけるシーンが出てきます。

松岡に関しては、ボールを持ってから臆せずにドリブルでつっかけたり、素早いチェックでボールをかっさらったり、また、遠い位置ではありましたが積極的なミドルシュートも見せ、とても二種登録の選手とは思えないほどのアグレッシブさを見せてくれました。大崎へのプレッシングシーンでも、ボランチへのパスコースを切りながら、じわりじわりと大崎をサイドに追い込んでいく動きで、彼のポジショニングのセンスを感じました。

さて、松岡からの拘束から解放された山口は、後半から前を向いてボールを持てる機会が増えてきます。センターバック+ドイスボランチに対する数的不利を解消できないままであった鳥栖は、どうしても、全員を捕まえることができず、三田、山口が簡単に前を向いてボールを裁くシーンも増えてきました。失点のシーンは、その山口がボールを持って右サイドを進んでいたのですが、ノンプレッシャーで前を向いている状況でしたので、ビジャの飛び出しに呼応するように、縦パスを送り込むことに成功します。失点自体は、高橋のクリアが谷口のコントロール下におけない状況となり、こぼれ球がビジャの前に転がってきて決められてしまいまいした。

決まったゴールだけを見るとたまたまディフレクションが不運だったように見えますが、前半から、ダンクレー、三田、山口と、ビジャに対する縦パスを企画される回数が多く、しかも良い形でつながって決定的なシュートを放たれていました。このパスを送り込まれた事自体が守備組織の脆さであり、それを修正することができなかったことによって、ミスがゴールにつながってしまったことになります。

名古屋戦でもそうでしたが、同じ形で、同じピンチの形を何度か繰り返されていくうちに、いつかはミスが発生してゴールを許してしまうという状況ですよね。そういう意味では、失点に至るまでのボールの動きは違えど、失点を喫してしまうメカニズムは名古屋戦となんら変わらなかったということになります。


■ 開幕2試合で見えた課題
(1)守備におけるイニシアチブの取り方
名古屋戦は5-4-1ブロック、神戸戦は4-4-1-1ブロック、神戸戦の方がやや高い位置からのアクションは見えたものの、積極的に相手センターバック、ボランチにおける数的不利を解消しようとする動きは見えませんでした。これによって、相手は前を向いてボールを持ち、パスコースを探すことができました。名古屋ではシミッチ、神戸ではダンクレー、三田、山口という、スペースを探してパスを出せるセンスのあるプレイヤーに対するプレッシャーが希薄になってしまい、決定的ピンチとなるパスをだされてしまう事になりました。

前からボールを奪えないにしても、自分たちの守備のストロングポイントはどこなのか、どこのエリアに追い込んでいけばボールを刈り取る可能性が上がるのかを頭に入れ、組織としてそのエリアに追い出すような動きを見せないと、相手のミスが発生する確率は上がってきません。金崎にボールを刈り取らせるよりは、義希に刈り取らせる方がボール奪取の確率はぐんとあがります。

更に、ボールを奪う所がバラバラであればあるほど、ポジティブトランジションでの攻撃デザインにはまりづらくなります。例えば、奪ってすぐにトーレスにあててボールをキープしたいならば、中央で奪った方がトーレスの位置は近いですし、金崎のドリブル突破を使いたいならば、右サイドでボールを奪うよりは、左サイドでボールを奪った方が金崎への位置も近くなります。ボールを奪ってからターゲットとなる選手が遠いが上に、一旦センターバックまでボールを戻してしまうと、途端に相手は守備組織を作ってくるので、効率の良い攻撃にはつながりません。いかにして早く攻撃に繋げることのできる守備をするのかというのは喫緊の課題でしょう。

(2)攻撃における個の質の使い方
端的に言うと、現在のサガン鳥栖は、相手チームに「守備の選択」という問題をなかなか突きつけられていません。トーレス、金崎さえ気を付けていれば、当たり前に抑えられるという状況であり、また、当たり前に人数揃えてセンターバックに対してプレッシングをかければ、相手がミスしてくれるという状況ですので、守備側も楽に対応出来ている事でしょう。

個の質に頼る攻撃は決して間違えではありません。個の質というのは、そのチームが投資をして手に入れた武器ですから、これを最大限利用して投資効果を最大に上げる事こそがチームの勝利に繋がります。現在のサガン鳥栖の攻撃は、トーレス、金崎という質に頼る攻撃となっていますが、これはサガン鳥栖が手に入れた武器なので、大いに使いたいところです。

しかしながら、個の質と言っても限界があります。トーレスが3人のマークを抱えてシュートを打てるか、金崎が3人のマークを抱えてドリブル突破ができるかというと、それはさすがに成功する確率的には厳しいでしょう。この状況は、イバルボが帰ってきても、クエンカが帰ってきても、(突破できる確率は多少変わるかもしれませんが)同じ問題を抱える事になります。現在のサガン鳥栖は、マッシモ時代と同じ悩みを抱えておりまして、個の質を最大限生かすための周りのフォローが希薄となっている状態です。

個の質を最大限生かすためには、数的不利を生まない状況を作り出すことが必要です。金崎がサイドで1VS1の局面を作ることができれば、縦に入ってクロスを上げたり、カットインしてシュートを放ったり、相手に質で勝てる確率はぐんと上がります。トーレスも同じです。相手のマークが1人だけであれば、例え背中に背負ったとしてもマークを外して(ターンして)シュートを打つ力が十分にあることはここで書くまでもありません。

彼らをフリーにせずとも、せめて1VS1で相手と戦える状態にすることができれば、十分に仕事をしてくれるのですが、現在は、彼らにボールが渡ってしまうと、そのまま任せてしまって無理な突破を強いられることになっています。密集してくるのは相手のプレイヤーのみであり、こうなると、せっかくの個の強さがありながら、チャンスメイクの確率はかなり低くなります。

ただ、彼らに2人、3人とマークがつくという事は、別のエリアで鳥栖にとって数的優位なエリアが生まれているという事でもあります。そのエリアを使わない手はありません。ある程度のリスクを負っても、トーレス、金崎の居ないエリアに人数をかけることによって、新たなチャンスが生まれる可能性は十分にあり、そうやって、新たな問題を守備側につきつけることによって、守備組織に綻びが生まれてくるのです。しかしながら、現在のサガン鳥栖は、トーレス、金崎と言う、少数精鋭の完全なる正面突破で打開を図ろうとするので、相手にとっては組み易い状況に陥っています。

(3)シチュエーションにおけるゲームモデルのつくり方
チームとしては、当然、どのようなゲームモデル(戦い方、方針)でこの戦いに挑むかというのは確立した上で試合に臨みます。そして、当然の事ながら、想定したシチュエーションと異なる状況は訪れるので、その時にどのような修正を見せるのかというのがチームの総合力となります。

現在のサガン鳥栖は、スコアレスの状態であればそれなりの動きは見せるのですが、失点してからのゲームプランに乏しく、少なくとも名古屋戦、神戸戦では、戦局を変えるような対応が出来ていない状態です。

怪我などで選手の駒が少なかったり、そもそもカレーラス監督が選手の特徴を把握しきれていないというのもあるかもしれませんし、監督の意思や指示を選手が実現できていないだけかもしれませんのでまだ何とも言えませんが、うまくいっていない事だけは確かです。

事実、神戸は一切の選手交代を行いませんでした。鳥栖側が選手交代によって打開を図ろうとしても、神戸側が選手交代によって対応しなければならない程、脅威を与えていなかったという事です。

時間帯、得点差、戦力差、試合の重み等々、戦い方を最適な形に変化しなければならないシチュエーションは様々考えられるのですが、それらの状況に応じた対応がまだうまくかみ合っていません。

名古屋戦のレビューでも書きましたが、藤田に替わって豊田を入れたシーンは、3点差がついている状況で、失点するリスクを増してでもしなければならない交替だったのか、セカンドボールが拾えないという問題を抱えている状況で投入する選手が果たして豊田で正解だったのか、というのはチーム内で分析してほしい所です。長いシーズンですので、得失点差のために、前から行かずにブロック守備を続けると言う考え方もあり得るわけですから。

カレーラス監督は、松岡や樋口の起用などにあったように、選手たちをフラットな目で見てくれることによって、思いもよらない抜擢をしてくれそうな雰囲気を感じます。松岡の躍動はサガン鳥栖サポーターに希望を見せてくれることになりました。もしかしたら、カレーラス監督の采配によって、サガン鳥栖からニュースターが登場するかもしれません。早く、選手たちの実力を把握し、このチームでやりたいこと、やれること、やれないこと、そのあたりを整理した上で、一刻も早くチームのゲームモデルを確立して欲しい所です。

■ 終わりに
松岡は躍動感あふれるプレーでこの後もよい活躍を見せてくれそうなポテンシャルを見せてくれました。彼が一人でボールを追い込んでボールを奪う事もありましたので、組織守備の未熟さを個人の守備能力でカバーしてくれるという意味では非常にありがたい存在でした。

名古屋、神戸に関しては、組織のコンセプトのみならず、質の高さで勝負することができるチームであるので、開幕2連戦で当たるには非常に難しい相手でした。肝心なのは、質の高さで鳥栖が優位に上回ることができる相手にどのような戦いを演じる事ができるのか。鳥栖の個人の質を相手の組織で消されてしまわないように戦うことができれば良いのですが。
  

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2019年02月26日

2019 第1節 : サガン鳥栖 VS 名古屋グランパス

2019シーズン開幕戦。名古屋グランパス戦のレビューです。

アビスパとのトレーニングマッチにおいて、今期のメインセットアップだと思われた4-3-3システムにおけるプレッシングがうまくはまらなかった我らがサガン鳥栖。この開幕戦のセットアップは3-5-2システムを採用してきました。トレマに出場していたクエンカ、三丸、福田の名前がスタメンはおろかベンチにもなく、イバルボや小野も欠くという開幕からベストメンバーを組めない状態下での選択だったかもしれません。名古屋もネットの怪我などもありましたが、新戦力のシミッチ、米本を中盤の底においた4-4-2システムで臨みます。

◼️鳥栖の守備
この試合の入り方として鳥栖が選択したのはスペースを圧縮し、ミドルサードを守備の基準としたブロック守備。ウイングバックを最終ラインに下げ、3センターの脇を使われるのを阻止するべく金崎が中盤のスペースを埋めて5-4-1のブロックを組み、攻撃はカウンターが中心となるものでした。

名古屋にプレッシングをしかけて高い位置でボールを奪いに行く選択をした場合、数的同数を前線で作らなければならないため、最終ラインでジョーに対する守備が手薄(数的同数)になります。名古屋の攻撃として、ジョーに対して直接ボールを送りこむプレイもいとわない(そのようなパスが出せる選手がいる)ため、前から出ていく事を得策とせず、ブロックを組んでゴール前やサイドの局面で数的不利を作らないという選択をしました。名古屋のビルドアップ技術が非常に高いレベルにあるため、プレッシングに行ってもはがされてしまうというリスクを考慮したのかもしれません。

また、鳥栖は、トーレスに対する守備タスクも最小限に抑えていました。彼のタスクは、センターバックから縦パスが直接フォワードに入るコースを防ぐことと機を見たプレスバックによるボール奪取のみ。攻撃に対する体力を残すことが最優先になった模様です。

◼️名古屋の攻撃
これによって、最終ラインで苦労せずにボールを握ることができた名古屋は、シミッチを中心としてミドルサードまでは難なくボールを運ぶこととなります。そこからゴール前に向けてボールを前進させる攻撃のパターンとしては大きく3つ。

① 中盤にひいてくるフォワードに対するポストプレイ
② ハーフスペースに入り込むサイドハーフに対する縦パス
③ 裏抜けするサイドバック(サイドハーフ)に対する浮き球のパス

狙いはこの3点で、シミッチがこれらの展開を担うことになります。



鳥栖として誤算だったのは、シミッチという強烈な司令塔が存在していた事。
シミッチは視野が広く、ボールを保持しながら自らパスコースを作ることが可能で、ドリブルで鳥栖の選手を引き寄せて数的不利を解消しながら、縦にパスを送り込んでいました。分かり易いのは8:25のシーンで、中央の低い位置でボールを受けたシミッチは、左サイドにボールを運びながらセントラルハーフ2人を引き付けて、角度をつけた上でサイドハーフへパスを送り込みます。23:36も、左サイドでボールを受けて保持しつつ、中央のスペースに引いてくるフォワードへ早い楔のパス。無論、1失点目、2失点目、3失点目の起点となるパスは言わずもがな。彼が斜めにボールを運んで角度をつけ、ボールを前線に送り込むプレイを見た時は、世界にはホント素晴らしいプレイヤーがいるのだなと感心させられました。

鳥栖としては、5-4ブロックで横のスライドに苦労しない陣形であったため、前半の体力があるうちは、縦パスがはいってもすぐに密集することができ、シミッチから縦のボールが入っては来るものの、そこに対する迎撃態勢は整っていました。ただし、①、②、③のパスの成否に関わらず、このパスを何度も企画されること自体で鳥栖が守備アクションを取らざるを得ず、じわりじわりと体力を奪われることになります。

◼️鳥栖の攻撃
さて、鳥栖の攻撃ですが、守備に人数を割いたブロック守備であったために、ボールを奪う位置が低く、カウンター攻撃の手数としては、

① トーレスに預けてキープからの展開
② サイドのスペースに流れる金崎の単騎突破

の2点にほぼ集約しており、トーレス、金崎の個人の質に頼る偶発的なチャンスでしかシュートまで結びつけることはできませんでした。ただ、偶発的とは言えども、能力の高い2人ですので、金崎の単騎突破やトーレスにボールを預けてからのシュートは非常に心強く、原のロングスローや原川の一発のパスからのトーレスのシュート、ガロヴィッチのオーバーラップを活用した金崎の左サイド突破からのクロスは可能性を感じました。

ボールを保持しているときの鳥栖は、ウイングバック(原、ブルシッチ)が横幅を作り、3センターがライン間にポジションを取り、3バックがボールを保持しつつビルドアップの出口を探る展開でした。この3バックに対して名古屋は、横幅を作るウイングバックにはサイドバックを当てて、3バックに対してサイドハーフを高く上げることによって、およそ4-2-4の形でプレッシャーをかける守備を行います。



鳥栖にとってはこの名古屋の配置に非常に手を焼いておりまして、3センターに対する出口を封鎖されたことによってじわりじわりと追い込まれてビルドアップの出口を見失います。3バックがプレッシングをはがせるドリブルもなく、3センターがパスコースを作ることもできずという状況。セントラルハーフが中央で縦に受けるパスを受けても前を向くことができず、最終ラインにさがってボールを受けてもパスコースが一つ減ってしまって出口を見つける事ができずというジリ貧状態。個人の質で打開できないならば、選手の配置を変えてポジショニングで優位をつくれたら良いのですが、なかなかその形を作れずに、最終的に逆サイドを中心とした長いボールに頼らざるを得ない攻撃となってしまいました。

◼️鳥栖のチャンスメイク
そのような中でも、鳥栖が配置を替えたことによってチャンスを作り出した展開もありまして、それがトーレスのシュートがポストを叩いたシーンです。原川が名古屋の4-2プレッシングのサイドのスペースにポジションを移して前を向くことに成功します。また、原がよいランニングで吉田を引き連れて後ろに引き下げ、原川がボールを運ぶスペースを作ることに成功します。(※)
原川が前を向いてボールを握ったことによって、トーレスのセンターバックとの駆け引きが始まり、これまで幾度も世界の大舞台で見ることのできた、スピードに乗った裏ぬけからの強烈なシュートというシーンを見ることができました。サイドバック(ウイングバック)を押し上げて、セントラルハーフがセンターバック脇に下がり、サイドのスペースからビルドアップを試みるという、皮肉にもマッシモの遺産によるビルドアップ手法が成果を上げた形でした。

※ 実は、この原のランニングが良くて、吉田を押し下げる事によって原川が前に運ぶスペースと原川に最適な選択をさせる時間を作りました。前半に原川と原のポジションが逆のパターンがあったのですが、原川が止まって足元でボールを欲しがったことによって、名古屋の守備陣形が整い、数的優位をチャラにしてしまうシーンがありました。原川がシミッチのように足元で受けてボールロストせずに自らパスコースを作れる選手を目指すのか、相手を動かして味方のスペースを作るという動きを身に着けるのか。彼がどのようなプレイヤーになりたいのか、成長のターニングポイントではないでしょうか。



ただし、鳥栖は、この4-2ブロックのアウトサイドエリアをビルドアップの出口とするという成功体験をなかなか再現することのできないまま、再びロングボールによる攻撃が中心となります。特にシャビエルの単騎プレッシングの裏はけっこうおいしいスペースではあったのですが、時折金崎や秀人がそのスペースに入り込んでも、ガロヴィッチやブルシッチの選択がセーフティなつなぎしかないために、ボールの前進そのものが停滞していました。特にブルシッチに至っては、サイドの高い位置で単騎突破のチャンスがありながらもなかなかチャレンジに挑まず、攻撃に関してはまだ疑問符が付く状態です。ビルドアップ不全に陥った状態での頼みのロングボールの攻撃は、不運にも後半は風下にたったことによって、思うようにロングキックによる飛距離を稼ぐことができず、セカンドボールが発生する地点が鳥栖の陣地内という事で、じわりじわりと名古屋の押し込みを受けることになります。

◼️ターニングポイント
鳥栖にとってのターニングポイントは、金崎の体力が奪われていって運動量が減った時間帯でした。攻撃では相手のサイドのスペースに入り込んでの単騎突破。守備では5-4ブロックを担うピースとして中盤のスペースをケア。彼の貢献は非常に大きいものでしたが、体力の低下からか、はたまたスコアレスを打開するべく攻撃に少しシフトして高い位置をキープする指示がでたのか、徐々に守備に戻らない時間帯が増えてきていました。金崎が担っていたエリアを秀人、義希がケアしなければならず、(気持ちの問題ですが)彼らが0.2列前に出る事によって、徐々にセントラルハーフも最終ラインのスペースケアというタスクを務める事ができなくなってきました。

◼️名古屋の選手交替
そうするうちに、名古屋が選手交代によって、攻撃のベクトルに変化をつけてきます。高い位置を取るアウトサイドの選手に対して鳥栖のウイングバックが横幅のケアに出てきたセンターバックとの間のスペースを、交代した杉森、相馬、和泉に狙わせる攻撃へとシフトしてきました。ここで、前半になかった

④ センターバックとウイングバックの間の(裏の)スペースに対する飛び込み

という名古屋に新たな攻撃ベクトルが発生します。このスペースを作るために、サイドバック、サイドハーフ、セカンドトップの誰かがウイングをピン止めするポジションをとり、残りのメンバーでスペースを狙うという形も出来てきました。前述の通り、前半の鳥栖は、このスペースをセントラルハーフのカバーリングによって埋めることができていましたが、セントラルハーフの体力の低下、そして、選手の意思が攻撃に向いてしまったこともあり、見事にこのスペースを蹂躙されてしまうことになりました。



◼️失点シーン
ジョーの先制点に関しては、彼のトラップからのゴールも秀逸でしたが、前半は密集して消す事の出来ていたゴール前正面の位置で、横パスを展開されるくらいにプレッシングが追いつかなくなったことが要因でしょう。あのポジションでシミッチから丸山への横展開という、センターバックとボランチにバイタルエリアという高いポジションを与えてしまったのは完全に押し込まれている証ですよね。

2失点目に関しても、上図のように、前半から散々シミッチからサイドの裏のスペースへのパスを企画されていましたが、シミッチというパスの出所をつぶすことのできないまま、ついに吉田への好パスを通されてしまいました。ゴール前の祐治のポジショニングも問題提起の部分でありまして、マイナスにポジションを取っていた相馬にひきつけられて、ゴール前のスペースを埋める選択を放棄してしまいました。そのスペースに対して見事にジョーが飛び込んできたというわけですが、果たしてこのポジショニングが適切だったのか。

3失点目は、交代選手のねらい目であるセンターバックとウイングバックの間のスペースを突いたスルーパス。これも角度をつけて縦パスを送り込む事の出来るシミッチに対するプレッシャーの甘さと、前半はこのスペースを埋めることのできていたセントラルハーフ(絞る事のできていたウイングバック)のポジショニングが起因します。

4失点目は、攻撃にでていた右サイドの遅れも要因の一つで、ゴールを決めた和泉よりも原、島屋の方がカウンター開始時点のポジションは後ろでした。あのスペースを消さなければならないという意識があったかはともかく、体力の低下によって戻れなかったという所はあると思います。また、ジョーと和泉のダイアゴナルランに対して、最終ラインが完全に翻弄されてしまい、右サイドを空けてしまったことによって原と島屋が戻れなかったスペースを上手に和泉に使われてしまいました。

◼️鳥栖の選手交替
2失点目以降の戦い方に関しては、メンタルの問題というよりは、体力、技術、戦術の問題でしょう。特に戦術面の問題を感じたのは、交代選手の選択。金崎に代えてチョドンゴンをピッチに送り込んだのですが、彼に与えたタスクは金崎が担っていたものとほぼ変わらず、左アウトサイドの5-4ブロックにも入りましたし、左サイドにおいて単騎でボールを受けてのキープ(ドリブル突破)の役割を務めていました。これは彼の得意とするプレイではないですよね。攻撃のアクセントを加えなければならないのに、チョドンゴンの長所を生かす使い方ではなく、体力の切れた金崎の代替でしかなく、しかも金崎よりもプレイの質が劣るという発展性のない交替。サイドのスペースケアからの飛び出し、そしてドリブルでの単騎突破を担わせるのならば安在の一択だったのではないでしょうか。

また、藤田に代えて豊田を入れたのも悪手。ロングボールで発生するセカンドボールを拾う事ができずに攻撃の組み立てに苦労していた状態で、さらにロングボールの受け手を作ったところで2列目より後ろの層が薄くなるだけで解決策にはつながりませんでした。豊田にボールを当てて、トーレスとチョドンゴンが回収するという攻撃が一体どのような効果を生むのか。3点、4点と大量リードされることのゲームプランがなかったのかもしれませんが、センターバックを減らして長身のフォワードを入れるというのが最善の策だったのかというのはぜひチームとして検証して欲しい所です。結果的に、豊田のボールロストによって名古屋のカウンターを生み出し、3人で守っていた中央が藤田の交替で2人に減ってしまったことにより、4失点目のきっかけを作ってしまいました。果たして失点のリスクを負ってでも発動しなければならない交替だったのかという所ですよね。

◼️終わりに
失点するまでの戦いをチャンスメイクもできて良かったと見るべきなのか、失点後のゲームプランの稚拙さを危惧するべきなのか、それはチームの中で検証してもらうとして、少なくとも間違いなく厳しい船出となった開幕戦でした。ただ、クエンカ、イバルボ、小野、福田、三丸、小林、安在、アンヨンウなどなど才能のある選手は山ほど控えています。彼らの登場によって戦術にハマり、チームががらりと変わる要素は十分に秘めています。まだ開幕戦であるので、これから数試合かかるかもしれませんが、是非とも戦術と選手をマッチングさせて、より良いチーム作りをしていただきたいと思います。
  

Posted by オオタニ at 15:13Match Impression (2019)

2019年02月19日

トレーニングマッチ サガン鳥栖 VS アビスパ福岡

16日に行われた、サガン鳥栖とアビスパ福岡のトレーニングマッチの感想です。
NHK佐賀、佐賀新聞、夢空間スポーツ、オフィシャルブログなど、メディアでもゴールシーンや出場選手、システム、監督のインタビューなど情報発信されましたので、その範囲内で、そしてある程度オブラートに包みつつ書きます。

カレーラス監督が佐賀新聞のWeb版のインタビューで語っていたのはこちらです。

「前半に関してはアビスパ福岡の方が良いプレイをしていたという感想です」
「後半は打って変わってポジションを修正して攻撃をしかけました」
「守備をするにおいても攻撃をするにおいてもシステムは関係ないと私は考えています。」
「守備におけるポジショニング、攻撃におけるポジショニングという所が非常に大事だと考えています。」
「サッカーは人生と同じで、状況に適応する、そこが非常に大事です。」
「それは相手によって、状況によって、変わるものです。私たちが彼らのプレイを変える事はできません。」
「後半、ハーフタイムに修正を加える事でうまく行きました。」

そう語っていましたが、まさにその通りの内容でした(笑)

システムは関係ない、状況に対応するポジショニングが大事だと話されていたのは、まさに前半を指摘しているのでしょう。試合が始まってシステムのミスマッチが発覚した際に、選手たちがどのようにしてポジションを動かして解決するかという部分ですよね。そういう面では、鳥栖が問題解決しようとして連動性が足りずに不完全であった部分を、福岡の方が巧みにチーム全体として攻略し、また更に新しい問題を鳥栖に突きつけるという形を作ることができていました。余談ですが、トーレスが死なばもろともプレッシングを慣行していた時は、これならば豊田も十分にスタメン候補なんじゃないかと思いました(笑)

逆に、福岡は攻守でポジショニングをうまく切り替えており、問題解決に向けたチームの連動に優れていました。
選手の意思疎通がはっきりしていることによって、迷いなく選手たちがスピーディにポジションを決め、攻撃面ではビルドアップの出口作り、守備面では鳥栖のビルドアップ封殺に成功していました。高い位置でボールを奪えた時にゴールが奪えていればベストだったのでしょうが、得点はPKの1点だけで得点を重ねる事は出来なかったですね。
プレッシング強度が強いばかりに、ビルドアップを諦めた鳥栖が直接前線に放り込むボールで思わぬピンチを迎えてしまった面はありましたが、イニシアチブは福岡が完全に握っていたかと思います。

「前半に関してはアビスパ福岡の方が良いプレイをしていたという感想です」
と言うのは、御世辞でも何でもなく、福岡がよい方向性でチーム作りできているなというのは感じました。

また、後半は修正してうまく行ったと話されていましたが、問題が発生していた部分に対してカレーラス監督が選手の配置を変える事によって選手たちに解決策を提示しました。それによって、福岡の位置的優位が影を潜め、鳥栖が個の質での勝負という形に持ち込むことができました。選手の質の勝負になると鳥栖の方にやや分があったという所でしょう。

トーレスのゴールのシーンは単なるバックパスのミスに見えますが、後半からは鳥栖のプレッシングが機能して福岡も蹴って逃げるので精いっぱいというシーンもありましたので、前半に比べると後半の方が福岡に対してミスの発生確率を高めさせる事に成功したのかなという感じです。

率直に言って、福岡は良い監督を連れて来たなと思いました。昨年の福岡は、ネガトラ時の対応が遅れて相手にスペースを使われて簡単にボールを前進させられてしまうというケースが多く見られたのですが、今年はポジトラ、ネガトラ、どちらの局面にしてもチームとしての動きが確立され、役割分担がしっかりと出来ていて選手個々がポジションを取るスピードが増している印象を受けました。全体もコンパクトに洗練されていて、今年のJ2リーグの上位に名を連ねそうな印象を受けました。選手個人としては、石津ですかね。PK獲得のシーンでも見られたように、昨年と違って、ハーフスペースをうまく使えるポジションを取れており、ボールの引き出しがうまくなりました。監督の影響は多分にあるかと思います。

鳥栖は後半から修正したカレーラス監督は流石なのかなと思いましたが、前半は選手たちに任せてどうやったらよいのか考えなさいという事だったのでしょうか。ただし、どうしてもプレッシングやビルドアップでなかなか解決策を見出せず、対応に時間がかかりました。問題解決できない状態が続くと、J1ならばあっさりとやられるシーンが出てくるでしょう。早く現在のセットアップとその応用編に慣れていくしかないですね。相手の出方に合わせた対応のスピードをいかに早くするかという、まさに、戦術メモリーの蓄積と言う所でしょうか。選手個人としてはやはりクエンカですかね。ボールの受け方、さばき方、あー、一流の選手だなと思って見ていました(笑)

両チームともポゼションはしっかりと取りたいという意図は感じました。最終ラインでプレッシャーを受けた際には、両チームともにゴールキーパーをビルドアップ要員に組み込んでいましたが、ここでミスが発生してピンチを迎える事がありました(福岡は失点に繋がりました。)
ボールを保持して展開を試みる所、セーフティに行く所、もしくは割り切ってストロングなポイントに向けてボールを蹴っ飛ばす所、ゴールキーパーがどのように攻撃面で寄与するのかという所は今シーズンの両チームのポイントになるかもしれません。

いよいよ今週末が開幕ですね。長いシーズンなので焦らずに。昨年、我々は、7連敗しても残留できるという強い経験を積むことができました(笑) 焦らず、動じず、時には覚悟を決めて、今年もチームをサポートしていけたら良いなと思っています。
  

Posted by オオタニ at 12:38SAgAN Diary