サガン鳥栖の観戦記。戦術を分析して分かりやすく説明できるように心がけています。

2014年08月15日

尹晶煥監督の契約解除について考える

サガン鳥栖の尹晶煥監督が契約解除となった。この時期にこの順位にいる状態での監督交代は異例中の異例であり、何が起こったのかわからなかったサポーターも多かったであろう。この監督交代の意図しているところは何なのか、少し考えたい。

さて、サガン鳥栖のサッカーといえば、激しいプレッシングによるボール奪取と、時には5バックにしてまでも徹底して引いて守る堅固な守備組織。攻撃では、豊田を中心にロングボールを利用したサイドからの素早い攻撃。そして、そのサッカーの源となっているハードワーク。ぱっと考えると、だいたい、これらのキーワードが思い浮かべられるのではないだろうか。

では、過去のサガン鳥栖の戦い方の歴史はどうであったかというと、華々しいダイレクトパス、華麗なスルーパス、圧倒的なスピードによる切り裂き…という攻撃は、あまりサガン鳥栖の得意とするべきところではない。豊田とは比べ物にならないくらいの質の違いはあるのだろうが、上村であったり、片渕であったり、竹元であったり、森田であったり、ジェフェルソンであったり、藤田であったりと、軸となるフォワードにゴールはもちろん、高さ・強さ・アシスト力を求め、彼らを生かすために、全員でハードワークで守りきるという、やはり今のサガン鳥栖のサッカーと根底は変わらず、ずっと同じコンセプトのサッカーを我々に見せてくれているのである。

ただし、このサガン鳥栖のサッカーが、ある特定の瞬間だけ、まるで違うチームであるかのようなプレイを見せてくれたときがあった。その瞬間を演出してくれたプレイヤーこそが、選手としての尹晶煥である。(ビスコンティも同様に違うチームであるかのようなプレイをみせてくれた。この2人だけが、サガン鳥栖の歴史上、異様なパスセンスを誇っていたと思う。)

尹晶煥は、サガン鳥栖でもプレイヤーとして活躍していたため、サガン鳥栖のサッカーがどんなサッカーなのかというのは、理解してくれているはずである。そして、サポーターが求めているのはどんなサッカーなのかというのも、スタジアムでプレーしている中、肌で感じ取っていたのかもしれない。そのプレイっぷりは、サガン鳥栖のハードワークというサッカーを尊重した上で、どのようにして自分の技術を生かそうかという動きだったのを、観覧席から感じていた記憶がある。守備に参画しつつも、ボールを受け取った瞬間に、新居に矢のようなスルーパスを送り続けていたプレイは記憶に鮮烈に残っている。

その尹晶煥が引退しても鳥栖の街に残ってくれ、そして監督に就任した。鳥栖のサッカーを知っている天才プレイヤーが、鳥栖のサッカーの基盤を覆すことなく、そこに彼のセンスというエッセンスを加え、J1に昇格するばかりか、J1で優勝争いをするまでのチームに仕立てあげた。

サポーターの多くはチームに対して「勝利」を求めている。試合展開や選手起用によっては、将来の勝利のために、その試合の敗北を良しとする試合もあるかもしれないが、大方はチームの「勝利」こそがサポーターの喜びである。勝利を続け、優勝をするということは、そのサポーターが求めている最たる結果であり、チームの優勝を夢見てサポーターは応援を続けている。

そしてその期待通り、尹晶煥は結果を出していた。J1の首位に立ち、これからもっとも面白くなる優勝争いに立ち向かおうとしていた。サガン鳥栖の歴史上、シーズンの後半の方が良い結果が出ることが多い。他のチームがバテてくるころに、無尽蔵のスタミナでリーグをあらしまくるのが痛快であった。当時のJ2の評価が第3クォーターだけで行われるのであれば、とっくの昔にJ1昇格をしていたような、夏から秋口にかけて強いチームなのである。ましてや、ジャイアントキリングと言われていた頃のように下位に甘んじているのではない。これから得意の季節が始まる状態に当たり、J1の首位に立っているのだ。だからこそ、この時期からの優勝争いに非常に期待が持てる展開であった。

…と思いきや、突然の尹晶煥監督の契約解除発表。サポーター視線から見ると、何の問題もない監督である。契約解除の理由など、どこにも見当たらない。

契約解除が発表されてからは、選手の固定化によりチームの雰囲気が悪くなっていることが問題であるとか、激しい練習の意図も伝えないまま実行していることが問題であるとか、記者会見の内容を基にいろいろな記事が耳に入ってくる。

どれも、これも些末な理由である。

指揮命令系統で言うと、まず、絶対的に監督・コーチの指示には、従わないといけない。その理由や意図について説明を求めたり、相談することはもちろん自由だと思う。ただし、その理由が納得いかないからと言って練習を放棄したり、雰囲気が悪くなるような言動を繰り返すのならば、完全な職務放棄である。

もし、そのことが本当なのであれば、理由を聞けば聞くほど、契約解除するべきは、監督ではなく、むしろ選手側なのではないかとさえ思ってしまう。

だから、記者会見から想像できる契約解除の理由は、どれもこれも本当の理由ではないのだ。契約解除の理由は、サポーター視線からは、計り知れない問題があったことの他に何もないであろう。それは、経営の問題かもしれないし、金銭の問題かもしれないし、もしかしたら、監督とフロントとの人間関係かもしれない。

サポーターが求めている勝利という結果を残している監督が退かざるをえない理由は、サポーターにとって決して耳触りの良い理由ではないはずだ。だから、その理由を馬鹿正直に世間に発表してしまうと、「勝つ」ということが目的であり、結果を出していると評価しているサポーターとの気持ちのずれが生じてしまう。これは決してチームにとってもサポーターにとってもスポンサーにとってもよくない。だからこそ、明確な理由を語ることができず、有耶無耶な状態に意図的にしているのだと思う。

理由を明確に公表しないことは、チームとしては賢明な選択なのだ。サポーターとしては決して納得のいくものではないが。だから、これ以上の詮索はしないことが、チームのためでもあり、自分の気持ちのためでもあると思うようにした。

前述の通り、サガン鳥栖のサッカーは、全員が守備に奔走し、前線の一人のプレイヤーを軸とした素早い攻撃が身上である。吉田監督もサガン鳥栖で選手として活躍してくれた人物であり、サガン鳥栖の戦術風土は十分に理解しているはずだ。少なくとも彼にはフロントが求めていることも話されているであろうし、いろいろな制約がある中かもしれないが、すぐに結果がでなかったとしても筆者は応援し続けるので、これからの吉田監督の成長と活躍に期待したい。

余談ではあるが、筆者は、吉田恵監督にプレイヤー時代に書いて頂いた直筆サイン入りのユニフォームを所持している。直筆サイン入りのユニフォームを持っているのは、松本さん、岸野さん、吉田さんだけであり、吉田さんは、プレイヤーとして唯一「サインが欲しい!」と思ってしまう存在であった。吉田さんが監督になったのは何かの縁と思って、全力で応援したい。



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Posted by オオタニ at 16:00 │SAgAN Diary